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10:獄炎の脳筋☆ 後編

 騎士団の演習場は、瞬く間に黒山の人だかりとなっていた。


「おい聞いたか? あの赤鬼が団長とやるってよ!」

「マジか、賭けようぜ!」

「俺は団長に銀貨三枚!」


 演習場の中央。殺気と熱気が渦巻く中、アレクシオンとフレイムベルグが対峙している。

 もはや練習試合の空気ではない。決闘だ。


「では、始め!」


 審判役を買って出たグラシエルが、無慈悲に合図を出した。


 瞬間、空気が破裂した。


「うおおらぁぁぁぁッ!!」

「はああぁぁぁッ!!」


 フレイムベルグの突進は、まさに砲弾だった。

 対するアレクシオンは、光の速さで迎撃する。


 金属音というよりは、爆発音に近い轟音が響き渡る。

 衝撃波が観客席の砂煙を巻き上げた。


「速い! そして重い!」


 アレクシオンが笑いながら剣を振るう。


「やるな、勇者の血筋! だが俺の剣は、山をも砕くぞぉぉ!」


 二人は、子供のように笑いながら、致命的な一撃を応酬している。

 楽しそうね。本当に。

 私は観客席の片隅で、胃薬が欲しいと思いながらそれを眺めていた。


 フレイムベルグの一撃が地面をかすめ、石畳が粉砕される。

 私は反射的に防御結界を展開しかけ――思いとどまった。

 今の私は、か弱い令嬢。悲鳴を上げて怯えるふりをしなくては。


「き、きゃあー(棒読み)」


 戦いは十分ほど続いただろうか。

 最終的に、アレクシオンの剣先がフレイムベルグの喉元に突きつけられ、同時にフレイムベルグの大剣がアレクシオンの脇腹の鎧を粉砕していた。


「……そこまで!」


 グラシエルが宣言した。


「ハーッハッハッハ! 一本取られたか! 久々に血が沸騰したぞ!」


 フレイムベルグは、負けたというのに清々しい顔で大笑いした。


「こちらこそ! 剣を通じて語り合えた気がします!」


 アレクシオンも、汗だくで握手を求める。


 二人とも、ボロボロだが、その顔は満足感に満ちていた。


「よし、これで俺の戦闘欲も満たされた! 明日から真面目に鍛冶屋修行だ!」


 フレイムベルグは、夕日に向かって拳を突き上げた。

 観客席からは、割れんばかりの拍手が巻き起こった。


 ……まあ、結果オーライ、なのだろうか。



 その夜、私たちは屋敷のリビングに集まっていた。

 アレクシオン、グラシエル、フレイムベルグ、セバスティアン、そして私。

 奇妙なメンツでの晩餐会だ。


「乾杯!」


 グラスが触れ合う音が心地よく響く。


「それにしても、我が祖先のかつての敵とこうして酒を酌み交わす日が来るとは」


 アレクシオンが感慨深げに言った。


「でしょう? 根は単純で……いえ、気のいい連中なんですよ」


「ああ、俺たちはヴェリタス様に魂を捧げた、一蓮托生の仲間だからな!」


 フレイムベルグがジョッキを片手に胸を張った。


「そういえば」


 グラシエルが、ふと思い出したように口を開いた。

 悪魔的な微笑みを浮かべて。


「チェリ様、決起集会の際、よく仰っておられましたよね。バルコニーから民衆を見下ろして、こう……右手を掲げながら」


 嫌な予感がした。背筋に冷たいものが走る。


「――我が炎は世界を浄化する福音なり。嘆くがいい、恐れるがいい、これより始まるは神々の黄昏……」


「やめてぇぇぇぇッ!!」


 私は絶叫してテーブルに突っ伏した。


「やめて! 勝手に私の言葉を記憶しないで!」


「でも、カッコよかったですよ? 詩的で」


 アレクシオンが無邪気に笑う。その純粋さが今は刃物より痛い。


「カッコよくない! ただの思春期の過ち! 若気の至りなの!」


「他にもありましたな」


 フレイムベルグがニヤニヤしながら追撃する。


「――集え、我が深淵の同胞よ。今こそ世界に我らの力を示し、理を凌駕する時……でしたっけ?」


「いやああああ」


 私はクッションを顔に押し付け、足をバタバタさせた。

 かつての部下たちの記憶力が、これほど恨めしいとは。


 その時だった。

 窓の外、遥か西の方角で、どす黒い光が走った。

 空気が一瞬で重くなり、肌が粟立つような悪寒が走る。


「……ん」

「三人目ですね」


 セバスティアンが、瞬時に執事の顔から死霊遣いの顔に戻った。


「西の古城……あの瘴気の質、間違いありません」


「ネクローゼ、ね」


 私はクッションを投げ捨て、立ち上がった。

 酔いは一瞬で冷めていた。


「四天王最後の幹部。そして、最も厄介な男」


 グラシエルとフレイムベルグも、真剣な表情で頷く。


「ネクローゼは、俺たちと違って頭が切れる。陰湿で、執念深くて、計算高い男だ」

「簡単には説得できないかもしれませんね。彼は、魔王軍の復興に、誰よりも固執していましたから」


 アレクシオンは、静かに剣を手に取った。


「なら、みんなで行きましょう。僕たちが力を合わせれば、きっと説得できます」


 私は、彼らの顔を見回した。

 かつて私を殺した勇者の末裔。

 かつて世界を恐怖に陥れた魔王軍幹部たち。

 そして、元凶である私。


 なんて歪で、なんて頼もしいパーティーだろう。


「そうね。みんなで行きましょう」


 その時、高揚した気分のせいだろうか。

 私の口が、またしても勝手に滑らかに動き出した。

 千年前の回路が繋がり、思考よりも先に言葉が紡がれる。


「――集いし戦友たちよ。悠久の時を超え、今こそ深淵の呼び声に応える時が来た。我らの行く手に、光あれ……」


 ハッとした。

 全員が、生温かい目で見ている。


「……って、感じで! ちゃちゃっと行って、平和的に解決! 分かった!?」


 私は必死に軌道修正し、顔を赤くして叫んだ。


「チェリ様、やはり中二病は不治の病のようですね」


 グラシエルが楽しそうに微笑む。


「ふふ、可愛らしい一面ですね」


 アレクシオンまでニコニコしている。


「うるさい! 行くわよ!!」


 こうして、私たちは最後の幹部、冷徹なる策士ネクローゼとの対峙に向かうのだった。

 私の黒歴史が、これ以上更新されないことを祈りながら。



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