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“Variant”   作者: 犬野ミケ
Summer 二章
22/22

母親に否定された男児

 ――――――あなたが女の子だったら良かったのに。


 一体、何度その言葉を聞かされただろうか。

 そしてその度に少年は、母親から見えないところでこっそりと涙を流した。

 出来る事ならば、今すぐにでも母親の望み通り女子として生まれ変わりたい。そうすれば、母の最大級の愛をこの身に受ける事が出来る。

 しかしそれは叶わぬ願いであり、少年は、母も自身も望まぬ性別を抱え生きていかねばならなかった。

 母が少年に重ねているのは、幼い頃にバリアントに襲われて命を落とした、彼女の双子の妹。死んだ彼女の半身の面影を、少年に見ているのであった。

 もしも、自分が女の子だったら。そんな幻想を心の中に思い描いていた。

 幻想に、少しでも近づきたい。ほんの束の間でも良い、たった一人の肉親であり母の愛が欲しい。

 ただその一心で、少年は女子の『真似(ふり)』を始めた。フワフワとしたレースやリボンがあしらわれたスカート。長く伸ばした、指通りの良い金髪。女の子らしい仕草、挙動、言葉遣い。

 少年は母にとって、妹に似た人形だった。人形として可愛がられる時だけ、少年は母の愛を貰えた。


――――――何かが違う。

 少年の心はそう悲鳴を上げていた。ここまで自分を押さえつけても、少年は母の「最愛」にはなれない。

 少年の実父は、彼が幼い頃にバリアントに喰われ他界している。見目の良かった少年の母は、夫の葬儀が済んで間もなく、恋人が出来た。死別した夫の形見である少年になど、目もくれない。

 偽物の父親。汚らわしい、知らない男。母の「最愛」はその男だった。

 男は、母のいない時を見計らい、少年に暴行を加えた。服に隠れて見えないところに念入りに念入りに煙草の火を押し付ける事もあれば、無言で(ただ)ひたすらに殴り続ける時もあった。


――――――前の男の子供など要らない。女の格好をした恥知らず。


 そう罵倒(ばとう)されることも少なくなかった。


――――――あの人があたしを()つの。要らない子だって言うんだよ。


 母に訴えても、笑い飛ばされるだけで相手にもしてくれなかった。

 ここにいても、自分が愛されることはない。少年は唐突に思った。

 養父に与えられるのは痛みだけだし、母にも「我が子」として愛されていない。人形ではいたくない。心もあって意志もある。

 考えていく程に、少年には母と養父の二人が、どうしようもなく下らない存在に思えた。


――――――あなたが女の子だったら良かったのに。


 幾度目なのか、もう数える事も飽きてしまった言葉が再び()の口から放たれた時、少年は衝動の赴く(まま)に家を飛び出していた。

 必死で走る少年の背後から、(養父)の声が追いかけてくる。少年と成人男性の体力では大きく差がある。

 彼らはどうあっても、少年という人形が必要であるらしかった。その少年がこれほどまでの拒絶の意を示しているにも関わらず。

 もう無理だ。諦めようか。少年がちらりと思った時、前方に人影が見えた。

 その人物は逃げる少女(少年)と、それを追いかける男という状況にどう対処すれば良いのか分からないようで、ただ瞠目(どうもく)していた。


――――――お願い、助けて!


 少年は(わら)にもすがる様な思いで叫んだ。


――――――あたしをここから連れ出して!!


 求める声は、少年自身が思っていた以上に、案外すんなりと出た。

 黒髪金眼という出で立ちのアーバン族が広げた腕に、少年は(いささ)かの迷いもなく転がり込んだ。

 アーバン族の彼の胸は温かく、少年は今まで感じたことの無かったそれに涙を溢した。

 少年が見も知らぬ彼の腕の中に飛び込んだ理由は単純だった。彼の金眼は、少年が今まで出会ったどの大人よりも綺麗で透明で、彼ならば自分を裏表なく愛してくれるのだろうと、そう感じたから。自分は言いなりの人形ではないのだと、認識してくれるであろう初めての人だったから。

 連れ出してと願った少年の叫びを聞いてくれた彼ならば。

 少年は希望を抱きながら、優しくあやしてくれる彼の腕の中で(しばら)く泣いていた。



アホかってぐらい久しぶりの更新(汗)


諸事情あって、ネットから遠ざかっていました


まぁ、その理由に興味がある人は、私の活動報告を見てください

興味無い人は見なくてもいーけどね


停滞してた分、頑張りたいなぁ~……なんて

あくまでも願望です


とにかくひっそりと生存していたので、これからもよろしくお願いします!



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