走る駆ける逃げる逃れる免れようと
そう、走っていたのだった。
ただひたすらに、一人の少女と二人の女が夜の道をただひたすらに走っている。
時々、後を気にしてチラリチラリと振り向いている。少女達は確かに、後から来る何かに、あるいは何か達に怯えて逃げ惑っているのだ。
「ひっ、うぅぅ、な、んでなのぅ。何でなの、よう、ふぇ」
少女の方は滂沱と涙を流していた。しゃくりあげながらも前歯で下唇を噛締め、手の甲で強く目を擦って逃げ続ける。先刻から、逃走を始めた時からずっと同じ疑問を何度も口に出している。
少女の履物は、ろくに整備されていない足場の悪い砂道には向いていないだろうと思われる、足の先に引っ掛けるだけのサンダルだった。女達に至っては、何と裸足である。しかし、こちらは何の弊害も感じていない様子で弱音一つ吐いていないし、態度にも出していない。もしかしたら、体にダメージはあるものの、それを害だと感じていないのかもしれない。
少女は一際高く積みあがった砂に案の定足を取られ、疲れも溜っていたのか派手に倒れこむ。
「いぃっつぅ、う、いた……いっいたいよぅ、何でよう、何、でぇ。えぇ」
「「姫様」」
左右の女達が同時に少女に声をかけ、傍らに膝を吐く。
転倒が今まで押し溜めていた何かの洪水のきっかけとなったのか、少女の涙が大粒のそれへと変わる。
そんな少女を支えて立ち上がらせてやりながら、女達が、来た道を強く睨みつける。微かではあるが、怒号が途切れ途切れに聞こえていた。
「姫様、急ぎましょう」
「姫様、おぶさって」
少女は震える膝を叱咤するようにペチペチと叩いてから、立ち上がる。そして、頼りない足取りでまた走り始める。両側からかけられる「負ぶさって下さい」という声に首を振り、少女は自分の足で前へと急ぐ。
少女は頬を濡らす涙を、赤くなる程、手の甲で強く擦り拭った。
「だいじょうぶ、だいじょうぶなのよぅ」
少女はうわ言のようにその言葉を繰り返し始める。
「だいじょうぶなのよ。ぜったいにだいじょうぶ。きっと、こうしてがんばっていれば、すてきなだれかが助けてくれるの。お話のお姫さまみたいに、だれかが助けてくれるの。だから、心ぱいすることない。わたしはお姫さま、わたしはお姫さま……」
「「…………」」
道の先は暗かった。
少女の言葉は昏かった。
また、人々が胸の内に抱える何かも――――――冥いのだ。
サマー編に入りました!やったー!
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これからも、よろしくお願いします。