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“Variant”   作者: 犬野ミケ
Spring 終章
17/22

二話

「実を言うと、儂は実はほんの少しだけ怖い」


 リムの口から紡がれた言葉にグラードは何事かと思い、眼球を弄る手と歩く足を止め、そちらを見やる。

 それに気付いたリムがグラードより僅かに歩を進め、やはり立ち止まる。リムの長い髪についた鈴が、彼の背中に当たって軽やかな音を奏でる。


「ルネの事についてな、少しばかり不安での」

「それは、どういう意味なのさ」


 ルネを守る為に、グラード達擬人型が存在するのだ。例え天変地異が起きようとも、天災地変が起きようとも、ルネだけは全力で守りきる自信がグラードにはあった。だというのに、何が不安なのか。それに、ルネ自身だって、並々ならぬ戦闘能力を持ち合わせている。何しろルネは、バリアント最強の種である竜と、人間との子なのだから。

 リムの言葉は、確実にグラードの琴線に触れた。


「貴方は何を言うのさ! ルーネについて心配する事なんて、何も……」

「あの子は、」


 堪えきれず声を荒げたグラードを、リムが静かに遮る。但しそれは、今にも決壊してしまいそうに弱々しく、リムらしからぬ声音だった。そして、グラードの方へ振り向く。

 振り向いたリムは、悲痛げな笑みを浮かべていた。グラードには虚勢を張っているだけにしか見えない笑顔を更に曇らせ、リムはか細い声で囁く。


「あの子は、ルネは不安定だから。竜と人間の二面性を持つ事ができるなんて、有り得ない事だ。本来ならば、存在ごとすぐに崩れ去っている筈なのに」


 泣きそうな顔をしているのに、口元には無理をした微笑がある。その組み合わせが、かえって悲愴さを滲み出させている。

 それに、いつの間にか口調も『リオネル・ギルデン』としての物に戻っていた。意識せずにそうなってしまう程、強く締め付けられているのだろう。

 グラードは出かけていた罵詈を、すんでのところで飲み込む。


「なのに、ルネは生きている。何故だと思う?」

「何故って……聞かれても」


 リムが下唇を強く噛み締める。

 仮面の奥の左目が、ちらりと見えたような気がした。


「――――――シルヴィアが、もう一つの面を与えたんだよ。擬人型としての面を、な」


 息を呑んだ、否、息を止めた、否否、止まってしまった事にも気付かなかった。

 擬人型と言えど、効率良く動くためのエネルギー源が必要だ。グラード達は、食事こそ摂らないが、人間と同じく酸素をエネルギーへと変換している。

 グラードは、自身の体の動きが鈍っている事に気付き、そしてやっと、自分が息をしていなかった事を知覚した。


「体は人間のものと竜のものとの二つ、核は擬人型として一つ――――――」


 二つと一つで吊り合わずに不安定に揺れている。

 そして、人間と竜と擬人型、心は果たしてどれを持っているのか――――――

 グラードは何となくリムの言いたい事が分かった。

 不安定であるルネは、いつ内側から崩れていくやも知れないのだ。それは流石にグラード達でもどうしようもない。

 グラードは青い空を見上げる。晴れ渡っている筈のそれが、渦巻いているように見えた。



      *      *      *



「なぁ、ユーグ。お前は、音声は絶対に必要なものだと思うか?」


 寝室がわりのベッドの上で、セインは小さな声でユーグに問いかけた。

 自ら言葉を発して他人に意思を伝える事が、出来ないユーグ。普段は筆談で会話をしたり、アデラが彼の言いたい事を汲み取って代弁したりしているが、その生活について不便だと感じた事が少なからずあるのではないだろうか。そんなユーグだからこそ、セインは自分の中の不安を遠回しに打ち明けたのだった。ストレートに聞くのも、自分の弱点を包み隠さず曝け出して何だか恥ずかしかった為、遠回しに、である。

 見ているだけでは、歯痒い。声が聞こえなければ、もどかしい。セインの『能力』は剰りにも中途半端すぎて、逆に彼の精神に強い揺さぶりをかけてきていた。

 セインのベッドの横に設置してあるテーブルの、その上にある紙とペンに、ユーグが手を伸ばす。アデラは今、渋々ながらも酒場の片付けに戻っているため、筆談でセインと会話をするつもりなのだろう。


『必要。普段はアデラがいるから良い。でも、こんな時は欲しいと思う』

「ふぅん……」


 ユーグから渡された紙に目を走らせたセインは、吐息に近い相槌を打つ。

 無駄なく、最低限の文字数で綴られた文。筆談は書き手の速度が求められる為、自然と余分な文字が淘汰された文章となる。短くなっている文は、嘘や慰めの言葉を織り混ぜる隙間がない。そのため、ユーグの心の底からの本音を聞いているようで、セインにとっては好ましかった。

 筆致が流麗なのは、ユーグが普段から文字を書き慣れているだろう。因みにセインの字は、ミミズどころかウナギがのたくったような形をしている。


『でも、やっぱり要らない』

「は?」


 続けて重ねられた紙を見て、セインは思わず腑抜けた声を上げてしまった。

 一枚目『必要』と書き、二枚目は『要らない』と書く。これでは、前後で言っている事がまるきり逆ではないか。セインはユーグの言いたい事が理解できなくて、拗ねた子供のように唇を尖らせる。

 非難の意を込めてユーグを見上げたというのに、肝心のユーグは朗らかな笑みを浮かべていた。


『聞きたい事が、本当は聞きたくない事なのかも』


 『聞く』という単語。『言う』が出来ないユーグには、悩む必要のない言葉。

 やはり、見抜かれていたらしい。結局、諭されてしまった。慰めではないからまだ良いのかもしれないが、負けた気がして少しだけ悔しい。

 このギルドのメンバーはそれぞれがそれぞれに重いものを背負っているせいか、他人の痛みを察する事に関しては人一倍、鋭い。マイナスの方向への感情の機微には、驚くほど敏感なのだ。隠し通す事など、自分が思っているよりも不器用なセインにできるはずもない。

 聞きたくない事なんて、存在するのだろうか。こちらは全てを聞きたくてうずうずしているというのに。

 ユーグはそれについて、全ての解を持っているのだろうか。


「……っ!」


 不意に、テントの入り口の布が歪む。歪みの部分の低さからすると、四足のものがテントの布を嗅ぐようにして顔を押し付けているのだろうと分かる。鼻先の大きさはそんなに大きくないから、ギルドが所有している運搬用の馬ではないだろう。あれらの顔は、想像するよりもずっと大きい。イナバにしては小さすぎるし、第一、ルネ達と共にクレタの外に出ているのだからこの場にいる訳がない。となると、残りは限られてくる。

 体を起こす事さえも辛いセインの代わりに、ユーグが入り口の布を捲って、中に招き入れる。


「何だよ、驚かせるな」


 のっそりと足を踏み入れてきたのは、ローダ騎士団が使っているバリアントだった。リムに制御されている証である、首から下げたベルヴェルグが青く発光している。恐らくは、酒場での騒動の物音に驚いたか血が滾るかして、馬小屋から飛び出して来てしまったのだろう。どちらにしろ、今は落ち着いているようなので安心である。

 ユーグがテントから顔だけを出して、他のバリアントがいないかどうかを確かめている。

 セインは自分の匂いを嗅ぎ回るバリアントの顔に両手を添え、そっと顔の前に誘導する。バリアントの大きな瞳には、セインの顔が写し込まれている。今にも泣き出しそうな顔をしていた。そして実際、泣きたい気分だった。


「なぁ……お前の主は、どう思っているんだろうな」


 当然、人の言葉など理解できないバリアントは、瞬きを繰り返すばかりで何の反応も示さない。

 セインはじっとバリアントの瞳を覗き、重い溜息を吐く。

 その瞳は、神秘的な青紫色だった。



       *      *      *



 積み重ねられていた村人達の死体は、思っていたより酷い有り様だった。腐敗が進み、元はどういう姿をしていたのか、想像もつかない。ぽっかりと空いた三つの穴のお陰で、辛うじて人間の顔だと認識できる。その穴には先程まで降っていた雪解け水が溜まり、濁った水面を揺らめかせている。

 ルネが埋葬をしていた時よりも、蝿の量が尋常ではないくらいに増えて、当たり前にそれと同調して蛆虫も増えている。蠢いている、などという表現では生ぬるい程の量だ。

 場所を弾き出され餌を求めてこちらに這って来た蛆虫を、ネジュの足が容赦無く踏みつける。プチリ、と小気味良い音がして、蛆は粘性のある中身を晒け出した。蝿も、寄って来る。蝿は水分の多い粘膜を好むらしく、目の回りで煩く飛び回ったり、あげくの果てには眼球の上に止まろうとしてくる。こちらは空中を素早く飛び回るため、払っても払っても切りがない。

 この場にいる全員が、この光景と、甘く漂ってくる腐臭に辟易していた。これを全て埋葬しようとするなど、不可能に近い。


「あー……」


 時々、ネジュの様子を窺っていたフィルが、声をあげる。

 イオリ、ストエカス、ウィンストンなどは特に疑問を発する事なく、ネジュの存在を有りの侭に受け止めていたが、フィルだけは少し納得しがたい様子だった。ルネが『ルーネ・ギルデン』だと知る前の殺気に溢れていたネジュの姿を見たフィルにとっては、ネジュが味方だという事が信じられないだろう。実質的にルネの『兄弟のような存在』という立場にあるし、ルネも文句を言わないので黙っているだけだろうが、少しでもネジュがルネの意に反するような真似をすれば、即座に殴りかかるに違いない。


「これって、一気に燃やした方が早いんじゃないのか? どうだ、ルネ」

「ん、そうだよね。これじゃあ近づけないし」


 フィルの提案に、ルネを含む全員が了解の意を見せる。

 ルネも埋葬という行為に特に拘りは無かったので、より簡単だという火葬という案を受け入れたのだった。埋葬していたのは、その方がそれらしいからというだけで、深い意味はない。


「イオリ、持ってんだろ? あるだけ出せ」

「追い剥ぎのような物言いだな。残りは三つしかないぞ」

「火起こしのベルヴェルグなら、私も幾つか持っているが?」


 ウィンストンが、矢筒の下に作られているポーチの中を探る。その中には六つのベルヴェルグが入っていて、イオリの分も合わせると、九つになる。火葬にするならば、例え火起こしのものでも十分な量となるだろう。ベルヴェルグは平らな石に刻み込まれており、ウィンストンがその縁をなぞると、すぐに発光し点滅を始めた。それを屍の山に投げ込むと、そこを中心として三、四体が燃え上がる。

 その作業をしているウィンストンの横で、頭を巡らせていたストエカスが退屈そうに溜息を吐いた。


「バリアント達がもっと集まってくるかと思ってたんだけど……周りにいるのは、小物ばかりのようだね」


 言われて、ルネは耳を澄ませる。火の爆ぜる音に混じって、バリアント達の交わす鳴き声が聞き取れた。声も小さいし、意味不明な言葉の羅列であるので、ストエカスの言うように、下位のものしか集まっていないのだろう。上位のバリアントになれば、人の言語を始め、あらゆる種族の言葉を操る。ルネは試した事はないが、その気になれば隣にいるイナバとだって、会話が成立するだろう。


「やっぱり、ルネの匂いが強いのかなぁ。脳味噌の足りてない下位バリアントは危険度の判断がつかないから近づいてくるんだろうけど、中位から上は故意に避けているようだね」


 そう言って、ストエカスがルネに視線を流す。


「え、……ごめん?」

「あっはは、謝る必要なんてないんだよ。後ろのネジュ君がキレそうだしね」


 見ると、確かにネジュが静かに手を腰だめに構えて、何時でもストエカスへ攻撃を仕掛けられる体勢を整えていた。

 ストエカスは有りの侭の状況をルネに解説していただけだというのに、それでも戦闘準備に入っていたネジュ。もしかしたら、他の擬人型達もそうなのだろうか。ルネにしてみれば、これでは少し過保護すぎるように思われる。


「というかさ、君達、そろそろ着替えてきた方が良いんじゃない? ルネの家、あるんだろう?」


 そう言われて、ルネは村に着いてから初めて自分の格好を思い出す。未だにルネは、ネジュから借りたカッターシャツ一枚だった。ネジュにしても同じで、ルネにカッターシャツを貸している為、上半身は何も纏っていない。


「……忘れてた」

「だろうね。こっちは僕達でやってるから、ちょっと行って着替えてきなよ」

「お前は何もやってないだろうが!」


 ひらひらと右手を振るストエカスに、フィルの尤もな突っ込みが入る。

 もう既にベルヴェルグは全て発動されていて、後は火が燃え広がるのを待つのみだった。ルネ達にできる事は、何もない。


「じゃあ、ちょっと行ってくるね」


 一言断りを入れ、ルネは自分の家へと向かう。その後ろを、ネジュが無言でついてきた。

 村は決して広くない。元々小さかったというのもあるが、バリアントの襲撃を理由にして、クレタを始めとする大きな町に移住する者の数が少なくなかったからだ。今、考えてみれば、強大なバリアント達はどうせルネの匂いを嗅ぎ取って村に行こうとも思わないだろうし、下位の一匹程度なら村人達全員でかかれば何とかなっていただろう。だから、本当はバリアントが襲ってくる事を恐れていたのではなく、竜とのハーフであるルネの存在を恐れて逃げていったのかもしれない。そして、例え道中バリアントに襲われる事になったとしても、ルネから逃げたい一心で町を目指していたのだろう。

 この村を出ていった者達の、その選択は正解だったのかもしれない。残った村人達がルネを下手に刺激し、結果、皆殺しとなったのだから。

 正当防衛と言えど、浮かび上がった罪はもう決して揺るがない。村人達の全員を殺したという事実だけは、決して揺るがない。かつてナハトが言ったように、罪とは必ず成算される物であり、逃れられない現実なのだ。

 ルネはらしくなく軽い溜息を吐く。後頭部に痛みを覚えていた。やはり、自分には考え事をしたり、怒りを感じたりするのは苦手なのかもしれない。怒りを感じるのが苦手、という表現は、やや違うのかもしれないが。不安定であるルネは怒りを抱いてはいけない。もし感じてしまえば、自分が自分の手に負えなくなってしまう――――――


「ここが、ルーネの家?」

「――――――え? ……あ、うん。そう、僕の家」


 ネジュの声で漸く我に返る。これ以上考えていたら、思考が低回して戻れなくなっていた。頭痛も更に酷くなっていた事だろう。

 本来は無口であると判明したネジュだが、もしかすると、ルネの苦悩に気付いて、その重い口を開いたのだろうか。ルネは口の中だけで、ありがとう、と呟く。これくらいの音量なら、耳の良いネジュには辛うじて聞き取れるだろう。


「結構、ボロボロになっちゃったかなぁ」


 家というのは、人が住まないとすぐに荒れ果ててしまうという。ほんの数日間の筈なのに、少しだけ寂れてしまった気がするのは、ルネの気のせいだろうか。扉を開けて中に入ると、埃っぽい臭いが鼻の奥に溜まった。足を進める度に埃が舞い上がって、戸口から差し込む陽光に光る。

 ルネは箪笥を開けて、中を物色する。幸いにも、箪笥の中には埃はそれ程たまっていないようだった。手早く着替えを済ませ、物珍しそうに部屋の中を見回していたネジュに、脱いだカッターシャツを返す。本当はちゃんとした着替えを渡したかったのだが、ルネのサイズがネジュに合うわけがない。

 返したカッターシャツに袖を通しながら、ネジュがぽつりと問う。


「必要な物を纏めたりとかしないの?」

「ん、忘れてた。そっか、そうしなくちゃね」


 もう帰ってこないかもしれないし、とルネは付け足す。短い期間だったが、母と住んだこの家を捨てるとなると、少し寂しい気もする。ゆっくりしていたいが、それでは騎士団のメンバーに迷惑をかけてしまう事になるだろう。急いだ方が良い。


「必要な物、かぁ……」


 思い付く限り、特には無かった。良家という訳ではないから家宝なんて無いし、ベルヴェルグだって性能の悪い火起こしの物しかない。殆ど物々交換という原始的な方法で成り立っていたこの村では、金など持っていてもあまり意味がなかったから、持っていかなければならない程、所持していない。他に、何か必要な物。

 かたん、と隣の部屋で音がした気がした。


「あぁ、一つだけ、あったよ」


 指を鳴らしてルネは隣の部屋に入り、壁一面に設置されている本棚を見上げる。その一番上の段、そしてその一番右に、目当ての物があった。取ろうとして手を伸ばそうとするが、届かない。見かねたネジュが、代わりにとってくれた。

 表面の埃を払い、ルネは大事そうにその本を抱き締める。


「それは、何?」

「母さんの日記だよ。毎日じゃないけど、何か出来事があると付けてたの」


 その本は革張りのものではあったが、背表紙にも表紙にも文字が押されていなかった。その代わり、中身は美麗な筆致でびっしりと埋まっている。これが、シルヴィアの文字。その文字の連なりが刻んでいるのは、彼女の生きた証。

 ルネはシルヴィアの日記を抱き締めて、瞳を閉じる。


「僕ね、字が読めないんだ」


 唐突な話題転換に付いてきてくれているだろうかと、ルネは目を開けてネジュを見やる。

 心配は無かったようで、ネジュは腕を組んで本棚に寄りかかり、こちらを見つめていた。

 ルネも、その瞳を見つめ返す。


「でもね、母さんのこの日記は、自分で読みたいの。文字を覚えて、読まなきゃ駄目なの」


 そう言って、ルネは蕩けるような極上の笑みを浮かべる。


「戻ろっか!」


 死体の山があったところに戻ると、火の勢いがさっきとはまるで比べ物にならないくらいの大きさまでに育っていた。火が死体の山全体を包み、黒い煙を空に吐き出し続けている。フィル、イオリ、ウィンストンの三人の働きの賜物だろう。参加しなかったと思われるストエカスは、その光景を見て手を叩いて喜んでいた。


「はははー、ここまで豪快だと、清々しいね! どうだい、ルネ?」

「何も手伝ってない奴が言うな」


 フィルの台詞からすると、やはり参加していなかったらしい。それでも誰も強く責めないのは、ストエカスがこういう作業には向いている筈がないと、理解しているからだろう。

 未練がましく周りを飛び交う蝿を手で払っていると、不意に騎士団のルネ以外の四人の左耳についている赤石のピアスが、明滅を始める。


『皆、聞こえてるあるか?』

『大事なお知らせあるよー』


 通信の相手は、ヴォットとスピキオだった。まだ数時間しか経っていないというのに、妙に懐かしく感じられる。

 全員が聞こえている、と返事をする。その中にはリムの飄々とした声も混ざっていた。リムはまだ、双子達とも別行動を取っているらしい。連れがいるのか、それともいないのか。


『全員、揃っているみたいだから、言うあるよ』

『ボスだったモーリア兄弟の背後関係が割れたある』


 そういえば、戦闘要員ではない双子はそれぞれ、拷問吏と暗殺者という役どころを持っているのだった。恐らくは残党を拷問して聞き出した情報、もしくはセインの持っている情報なのだろう。そもそもルネ達は、敵の集団のボスがモーリア兄弟で、更にその背後に誰かがいるという事自体、知らなかった。


『背後にいて援助していたのは、南のエナサンにある組織、だと』

『下っ端構成員だったから、それ以上は知らなかったようあるが』


 エナサンは南にある大きな町で、年中暑い気候と、風土にあった独特の文化が特徴である。南は大型のバリアントが多いというが、戦闘民族が数多く存在するため、バリアントによる被害は少ない。代わりに、戦闘民族による強奪が後を絶たないが。――――――と、ネジュが小声で解説してくれた。


『目的地が決まったのぅ』


 どこか安心する声が、赤石のピアスを通して聞こえてくる。


『次は南じゃ。一旦クレタに戻ってから、セインと相談するとしよう』


 ルネは自分の家の方向を見て目を細め、もう一度前に向き直る。自分がこの騎士団に身を置いている限り、二度と戻ってくる事はないだろう。

 今は村に住んでいた時とは違い、自分の事を有りの侭に受け止めてくれる人達が沢山いる。漸く見つけたこの居場所の中で少しずつ、罪を清算し罰を受けていこうと、ルネは秘かに誓う。

 黒い煙を吸い込む空は、爽やかな青空だった。


 ――――――春が、終わる。


 なんだか、書きたい事が上手く表せませんでした……ただのダラダラトークになっちゃった……。

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