その姿で生を得た故に、奪われ、壊された双子
彼らは幸せだった。ずっと幸せだった。何一つ不自由なく、西洋人を父に持ち東洋人を母とする双子の少年達は幸せを味わっていた。もっとも、幸せだったと気付くのは後々の事で、少年達は恵まれた立場にあるという事を認識していなかった。ある日彼らは、いつも通り二人で遊んでいた。行き交う大人達の優しい笑みをその小さな体でめいいっぱいに受け止めながら、少年達は無邪気にはしゃいでいた。だからこそ、だからこそ彼らは否応なしに巻き込まれてしまった。
駆け回る二人に、勢い良くぶつかってきた身体が二つ。それは少年達と同じくらいの年齢の少女達で、二人とも良く似通った顔つきをしていた。
――――――双子だ、僕達と同じ
たったそれだけで、相手と仲良くなりたいと願うとても無邪気な少年達。
しかし、その笑顔と反比例するように少女達の顔は強張って行った。
何かを恐れるような顔に、少年達は頭の中に疑問符を浮かべる。そして、彼らは気付く。少女達は少年達を見ていないという事に。少年達の更に背後を見て、歯の根が合わない程に怯えているという事に。
少年達は彼女達の視線を追い、振り向いて――――――少年達は抱えていた幸せを全て落としてしまった。
――――――双子を捕まえて来いと言われたが、逃げたのはどちらだ?
――――――さぁな、両方捕まえれば良い話だ。
――――――違いない、儲けも二倍だ。
少年達の背後にいたのは、街では見た事のない大人達だった。そして、その大人達の間で飛び交う会話も、少年達には全く理解できなかった。しかし、いやでも彼らは巻き込まれていった。共生的に、彼らは物事の道理を叩き込まれる。
つまり、彼らは売られた。
二組の双子を連れ去った大人達は奴隷商人ギルドで、彼らは奴隷として『売られた』のだった。しかも売られるまでの間、少年達は畜生にも劣る扱いを受け、あの無邪気さはすっかり成りを顰め、代わりに乾いた表情が瞳に浮かんでいた。
自分達の事しか考えられなくなった彼らを類を見ない高値で買ったのは、妙な語り口の男だった。男は少年達を買った直後に、鎖を解き傷の手当をしてくれた。何故、と口に出す前に、妙な男は楽しそうに言葉を紡いでいった。
――――――大切なものは失ってから気付くとは良く言ったものだのう。正に正論じゃ。しかし、それに気付いてから救われるまでが実に長い。
男は少年達の手を引いていった。それは奴隷として強引に、ではなく、村の人々から与えられていたような、とてもとても温かなものだった。