表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/33

⑧ 対立

 ……問題なのは、貴方とその“幼馴染”。


 そう言い切った私の声が、廊下に響く。


「わ、私の何が問題なのよ……酷いわ……」


 アニタは泣きそうな目でヒューイ様を見上げた。まるで恋人に縋るように。



「ナタリア、後は、僕に言わせて」


 横から割って入ったユーリィに、私は眉をひそめる。


「ユーリィ……あなた、ね……」


「親しいそぶりに怒らない。そう約束したよね?」


 小さな声。

 でも、義弟の低い声には、逆らえないものがあった。


「いいわ」


 ──ここは、彼に任せましょう。


「アニタ、君は子爵令嬢という立場でありながら、侯爵令嬢であるナタリアの、根も葉もない悪評を広めた。これは重い罪だよ。ちゃんと責任をとってもらう」


 アニタの顔から血の気が引いた。


「そしてヒューイ様、貴方も同じです。知っていたのに止めなかった。婚約破棄したかった、だからといって、それはあまりに卑怯です。……男としての責任、きちんと取ってください」


 その時、ヒューイ様が口を開いた。


「私は見た。侯爵家で、君が彼女に叩かれて、突き放され『義弟』だと、冷たく言われていたのを」


「ええ、義弟……他人です。血は繋がっていません。だからこそナタリアは僕と距離を置いた。貴方との婚約のために。……僕が彼女を慕いすぎたから、母が僕を別宅に移したんです」


 ──義母が? 父ではなく?

 ううん、ユーリィのこの場をしのぐ、嘘かもしれない。


「そんなこと、一言も……君は説明しなかった」

 ヒューイ様の声が、少し弱くなった。


「なぜ、ナタリアと話し合わなかったんです? ただの婚約じゃなかった。王家が関わる、大事な繋がりだった。それを、貴方自身が壊した。……ナタリアが責任を負う必要は、どこにもない」


 ──ユーリィはもう、私のことを「姉」って呼ばない。


 でも、今は――今だけは、彼の言葉に、私は救われていた。


 周囲がざわめいている。これが“姉弟の仲良しアピール”になって……いるのだろうか。


「君は、私を陥れたな」


 ヒューイ様の声が、怒りで震えていた。


「……あなたのアニタも、同じですよね。でも、ナタリアは賢かった。そんな罠にはかからなかった」


 アニタの罠──


 父が止めてくれなかったら、私はもっと早く声を上げていたと思う。私の訴えを「待て」と遮り続けた父に、今は少しだけ、感謝している。


 ……そう、少しだけ。




「ナタリアを貶める者を、僕は決して許さない。それが公爵家であっても」


 その言葉が放たれた瞬間、誰もが静かになった。

 私を守るための、凛とした声だった。


 そのとき、予鈴の鐘が鳴り出した。まるで祝福するように。

 滑稽なくらい、タイミングがよすぎた。


「ナタリア、帰りにまた迎えに来ます」


 そう言って、ユーリィは私を教室の前まで送ると、くるりと踵を返して去っていった。


 制服の背中が小さくなっていくのを、私は黙って見送る。


 すると、シャロンが急いで駆け寄ってきた。


「ユーリィ、素敵だったわ! だから、最初から仲良くすれば良かったのよ。貴女って意地っ張りだから」


「ヒューイ様との婚約が破棄されたから、義弟も強く言えたのよ」


「でもユーリィは、アニタやヒューイ様と親しかったんじゃないの?」


「さぁ、どうかしら」

 シャロンは友人だけどお喋りだ。余計な事は言えない。


 確かに、ヒューイ様はユーリィを目に掛けていた。

 それが“愛”だったなんて、絶対に言えない。



 ヒューイ様たちとクラスが別なのが、本当に救いだった。おかげで、あの顔を見ずに済む。


 それでも、耳に入ってくるのは、教室のあちこちから漏れる声。


「どう考えても、浮気したほうが悪いよね?」

「アニタって、ちょっと調子に乗りすぎてた」

「侯爵令嬢が虐めてたって話、誰も現場見てないって」

「ユーリィ様のナタリア様への愛情って、本物だわ」


 生徒たちの中にも、何かが変わったのを感じた。


 義弟は、あの場でアニタのことを「貴方のアニタ」と言った。あくまでも、ヒューイ様のものだと。そして私のことは「ナタリア」と、名指しで呼んで、「他人」だとはっきり告げた。


 ──でも、でも、ちょっと待って。


 “姉弟の仲良しアピール”はどうなったのよ?


 「他人」なんて、そんな言い方……私、ユーリィのことを家族だと認めてないみたいじゃないの。


 あの小悪魔、やっぱり最後には、私の心をかき乱して、困らせてくれる。


 

読んで頂いて有難うございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ