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婚約破棄から始まる私と義弟との戦い  作者: ミカン♬


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㉔ ヒューイ視点 破滅

 アニタに手紙を託してから、二日が経った。


 彼女なら動くだろう。多少、時間がかかっても構わない。

 噂というのは、じわじわと、気づかぬうちに広がるものだ。


 ――〈ガートナー侯爵令息ユーリィは、王族の“あの方”の隠し子だった〉


 ただ、それだけを書いた。


 「王族の、あの方」

 すぐには気づかれない。けれど、勘のいい者なら、そのうちたどり着く。

 アドニス殿下の名に。


 あの日の謁見の場には他にも複数の人がいた。

 貴族、騎士、側仕え。容疑を絞るのは難しい。


 まさか、私が密告したなどと、誰が思う?

 これ以上、家の名を汚すようなことを、アンダーソン家の令息がするはずがないと。

 誰もがそう思うだろう。


 ……私は、そこまでの悪人だろうか。

 婚約を解消しただけだ。ナタリアとは、ただ合わなかった。それだけの話。


 悪いのは、あの義弟だ。

 ユーリィ。お前がすべてを壊した。

 だから、私も、お前を壊してやる。


 


 学園の冬季試験が今日で終わる。

 私は制服の襟を整え、階下へ向かった。


 すると、エントランスに、王宮の騎士たちが並んでいた。


 「アンダーソン公爵令息。王太子殿下の命により、連行いたします」


 そう言われて、両腕を取られた。


 「やめろ……! 今日は試験があるんだ……!」


 叫んだ瞬間、口を猿ぐつわで塞がれた。息が詰まる。


 「んぐっ……むぐぅ!」


 身体が縛られて、引きずられる私を、両親は無言で見送っていた。

 目を伏せるでもなく、助ける素振りもない。


 ……まさか。

 まさか、あの手紙が。


 


 王宮。

 玉座の間で、私はひざまずかされた。


 王太子殿下が、あの小さな封筒を手に掲げた瞬間、背筋に冷たい汗が伝った。


 「中身は、確認させてもらった」


 どうして? まさか。アニタが裏切ったのか?


 「王家の秘密を知る者は、王家の監視下に置かれる」


「むぐぅ!」


 首を振る。

 そんな封筒は知らない、と必死に訴えようとした。


 「アニタ宛の手紙も回収してある。……逃れられないぞ」


 思考が、音を立てて崩れていく。


 ……まさか、アニタ。燃やさなかったのか、あれを。


 「その顔はなんだ? 君が王家を裏切ったのだろう。あれが商会に届いていれば、多数の死者が出ていた」



 死者――?


 恐怖が、のどまでせり上がる。


 口止めのために命が奪われるなんて、想像してなかった。


 “王家の罰が下る”――同意書には、そう記されていた。


 私は……処刑されるのか?



 分かっていた、つもりだった。


 ――けど、

 けど私は、ただ。


 あの義弟、ユーリィの、

 完璧な顔を、歪ませたかった。


 私の手じゃ届かないところから見下ろす、あの態度が許せなくて。


 だから私は、彼を引きずり降ろして──


 私の足元まで、堕ちてきてほしかった。


 玉座の間に、最後の声が響く。


「地下牢に収監しておけ。沙汰は追って告げる」



 * * * 



 命だけは拾った。

 でも、喉を潰され、言葉を失った。


 幽閉は終身。


 アンダーソン公爵家は終わった。

 爵位は剥奪され、父はすべてを失った。


 波紋は広がり、二人の姉の人生も狂わせた。

 長女は嫁ぎ先から離縁され、次女は婚約を白紙に戻された。


 ――処刑されていたほうが、まだよかったのかもしれない。


 陽の差さない、底冷えの石牢の中。


 少し離れた場所から、

 響くのは、アニタの声だけ。


「ヒューイ! このロクデナシ!」

「私の家族も、破滅したわ!」

「いったい、私に何をさせたの? ねぇ、あれは何だったのよ!」

「呪ってやる、永遠に、許さない……呪ってやる!」


 その声を聞きながら、私はゆっくりと壊れていく。


 でも、きっと、

 白い血のことを知った、あのときから――

 もうとっくに、狂っていたのだと思う。


 ……ユーリィ。


 今は、ただ、君に会いたい。



読んで頂いて有難うございました。

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