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婚約破棄から始まる私と義弟との戦い  作者: ミカン♬


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⑲ 敗北?

 私が義弟の――ユーリィの、伴侶になる?

 彼は当たり前みたいな顔で言った。


 だけど。

 私にだって矜持がある。


「……認められるわけがないでしょう」


 言葉が、口から滑り出すのを止められなかった。


「いつ、そんな話になったの。嘘を言わないで。貴方は、王女との婚約を嫌がって、王家と関わりたくなかっただけじゃない。男色家のヒューイ様が義兄になるのが嫌で、追い払いたかった。それで私を“伴侶にする”だなんて――私を、利用したのよ」


 そう言った瞬間、ユーリィの瞳から、熱がすっと消えた。


「……どうして、そんなふうに考えるんですか」


 私を憐れむような低い声。


「姉上の心が、ずっと傷つけられてきたから、ですね」


「っ……何、それ。私が捻くれてるって、言いたいの?」


「違います。僕は、守りたいだけです。これからは僕が、姉上を守ります。もう、誰にも傷つけさせない」


 ──ユーリィ。

 そんな顔をしないで。

 私は、そんなに弱くない。そんなふうに見ないで。


「……結構よ。私は、これまでも一人で耐えて来た。どんなに傷ついても、誰にも守ってもらえなかった。貴方はずっと知らんぷりしてきたのに。今さら、義弟に守られたいなんて思ってないわ」


「全くお前は……」

 父のいつもの口癖……。


「そうよ。可愛げがないの。貴方の娘だから、可愛くないのよ!」


 叫んでしまった。

 自分でも、驚くくらいの声で。


「姉上」

 義弟が私と父の会話を遮った。


「……僕は、知らんぷりなんてしていません」

「してたわ……学園でも、私を窮地に追い込んだわ」


「学園では、姉上を庇えば庇うほど、僕が脅されてるとか、操られてるとか、そんなふうに言われて……だから、黙るしかなかったんです。僕はいつも姉上だけを想っていました」


「ナタリア様……私が悪かったのです」


 そこへ、義母が割り込んでくる。


「ユーリィは、小さいころからずっと、ナタリア様に心を寄せていました。それが異常に思えて、私は……引き離そうとしたんです。ナタリア様が冷たいとか、あの子を叩くとか、嘘をついて、皆に……誤解を広めてしまったのです。申し訳ありません」



「……親子して、嘘をつくなんて」


 口をついて出たその言葉は、自分で思っていたよりも冷たかった。

 そのせいか、ユーリィはふいに立ち上がる。


 私の足元に膝を付いて、私の手を取った。


「……僕の気持ちに、嘘はありません」


 泣きそうな声だった。 

「姉上。……許して下さい。本当にごめんなさい」


「もういいわ」

 義弟の手を振り払った、そのとき。

 控えめなノックの音がして、皆がそっちに目をやった。


「入れ」


 父が短く命じると、扉が静かに開かれた。

 ポートマン卿だった。重苦しい空気に、眉をひそめながらも中へと足を踏み入れてくる。


「よ、よろしいでしょうか……?」


 彼はいつものように丁寧な所作で、書類を机に並べていった。


 それは――ヒューイ様との縁を完全に断ち切るための、同意書だった。

 ヒューイ様側からの署名はすでにある。あとは父と私が署名すれば、すべてが終わる。


「さすがポートマン卿だ。仕事が早いな」


 署名しながら父が褒める。


「本当に、我が家の婿に迎えたいくらいですわ」


 私がそう言うと、ポートマン卿は微笑んだ。


「それは光栄です」



「姉上、その冗談は過言です」


 すぐにユーリィが割り込み、それに対してポートマン卿は謝罪した。


「申し訳ございません。……もうナタリア様は、王家が認めた、ユーリィ様の婚約者でいらっしゃいました」


 ……そうだった。

 謁見の間で王太子殿下に認められたのだった。



「それと、こちらが、王家から出された正式な同意書。つまり誓約書です」


「王家も仕事が早いな……」


 そう言いながら署名する父。


 そこには、ユーリィが王女の婚約者候補から外されること、王家の血を引くことは極秘で、王位継承権も辞退すること。

 そして彼をガートナー侯爵家の婿養子として迎え、今後も王家を支えること――そう明記されていた。



 今日まで、義弟の秘密など、私には何一つ知らされなかった。

 今回も、私抜きでどんどん話は進んで、私の心だけ置いていかれる。


「本当に……納得いかないわ」


 ぽつりとこぼした私の言葉に、今度は強い口調でユーリィは返してきた。


「勝利すれば受け入れると、言ったではないですか」


 ……言った。


『勝てるなら、納得するわよ?』と。



「そ、それが、婚姻だなんて……一言も言ってないじゃないの!」


「そのときは、言いませんでした。でも、僕は謁見の間で、はっきり言いました」


「……だけど。貴方は隠し事が多くて、私を惑わせてばかり……本当に、信用できないわ」


 そう返すと、ユーリィはふっと笑った。まるで勝者のように。


「初めから姉上に、手の内を見せるつもりは、ありませんでしたよ?」


「はぁ? 姉弟で、仲良し同盟を結んだはずよ?」

 

「僕は、あなたと“勝負”していたんです」


「……勝負……」


 それは、今の私達の関係を表すのに、ピッタリな言葉だと思った。

 そして、ユーリィの周到な戦略に、もう私は詰んでしまっている。


「ヒューイなんて、最初から目じゃなかった」


 義弟が、知らない人のように……遠く見える。


「どんな手を使っても……僕は、あなたが欲しかった」


 その告白は、放たれた矢のように、まっすぐ私に向かって飛んできた。


 急に自分が小さなウサギになったような錯覚……


 眩暈がした……


 ああ、なんだろう。


 私、今――義弟に、敗北したの?



読んで頂いて有難うございました。

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