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婚約破棄から始まる私と義弟との戦い  作者: ミカン♬


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⑰ 義弟の秘密

 公爵夫妻とヒューイ様の親子鑑定。

 そして、公爵自身が王家の血筋かどうかも調べられる手段がある。

 けれど、公爵は、すべて――すべてを、拒否した。


 もし公爵が“青い血”じゃなかったとしたら。

 つまり王家の血を引いていないとしたら、それは……

 ヒューイ様の祖母が、不倫をしたという話に繋がってしまう。


 結論として、今のアンダーソン公爵家は、血筋の正統性に欠けているってこと。

 でも、それだって一概には言えない。

 曾祖母にあたる王女が、“白い血”だった可能性もある。

 だがその可能性を、決して王家は認めないだろう。


「父上!」

「黙れ!」


 部屋の空気が、凍った。

 公爵のその一言で、会話も、意図も、まるごと閉じられてしまった。


「これで、公爵令息にリゼッタを嫁がせても、問題はなさそうだな」


 王太子殿下の声が響いた。

 殿下の視線の先には、妹姫――リゼッタ王女。


「青い血が、公爵家に戻るというわけだ」


 公爵は小さく息を呑んだ。



「し、しかし……王女は元々、ユーリィの婚約者候補ではないですか」


 ヒューイ様が、まるで逃げ場を探すように、私たちの方を見た。


「その件についても、結果が出ています」


 宰相が淡々と、紙を見ながら言った。


「ガートナー侯爵令息には、王家の血が流れています。青色でした」


「……うそ」

 思わず、そう声に出て、義弟の顔を見つめた。


「本当に、亡くなった王弟に似ておられるわ……」

 そう言って、王妃が微笑んだ。

 眼を細め、冷ややかに。


「陛下がご覧になったら、むせび泣くかもしれませんわね」


 そして、まるで服の色を選ぶような調子で言った。

「銀色の髪は……金より、黒に染めた方がよろしいかと」


「考えておきます」とユーリィ。


 ええええ⁉ 

 銀髪⁉


 義弟、銀髪だったの⁉

 いや、王弟に似てるって……それってつまり……


 そのとき。

 父の後ろで気配を殺していた義母が宰相に名を呼ばれ、前に出された。


「あなたは、王弟殿下のメイドだった男爵令嬢ですね?」


「……その通りでございます」


 宰相の質問に義母は答えていく。


 驚いたことに、義母の出自、男爵家は王家の遠い血筋だった。

 それで王弟殿下のメイドに、抜擢されたそうだ。


 彼女――義母は、王弟と恋仲になった。

 でも、王弟が亡くなって、お腹に子どもが残された。

 その子を――ユーリィを――父が引き取った。

 それがすべての始まりだった。


 父は語る。


「側近だった私は、王弟殿下に彼女の世話を頼まれました。妻が亡くなったあと、後妻として迎え、親子を守ってまいりました」


 ……じゃあ。

 ユーリィと王女様の婚約の話に、父が困っていたのは……そういうわけ、だったんだ。


「いずれは話さねば、と思っていたのですが……」


 父はうなだれ、義母は静かに頭を下げた。


「申し訳ございません……」


 しん……とした空気のなかで、王太子殿下が父に投げた言葉に、私は身を固くした。


「ユーリィは王族であった。それを隠していた。ガートナー侯爵。貴殿は、この事態をどう収拾するつもりだったのだ?」


 でも、父の代わりに答えたのは――ユーリィだった。


「真実を隠していたのは、私の意思です。すべての責任は、私にあります」


「侯爵を庇うつもりか?」


「私が義母に連れられてガートナー家に入ったのは、五歳のときです」


 ユーリィは少しも躊躇わず、言葉を繋げていった。


「ですが、既に父が誰なのかは知っていました」


「誰かに教えられたのか?」


「いいえ。侯爵と母が話していたのを、聞いたのです」


 幼子だから、わからないと思っていたのだろう。

 けれどユーリィは――知っていた。

 

「その中で、父の名が何度か出てきました。『アドニス様』と」


 アドニス様。

 亡くなった王弟の真名。


 追い詰めようとする王太子殿下。

 空気が張りつめていく。

 

 今、我が家の命運は義弟の肩にかかっている。


 ユーリィ──血筋だけじゃない。

 王太子殿下に立ち向かう姿も、堂々と品格があって美しい。


 存在が、違う。

 ヒューイ様なんか、足元にも及ばない。



「私が、侯爵と母に命じました。私が話すまで、誰にも秘密を洩らしてはいけないと。たとえそれが、王家であっても」


 ──ああ、これはきっと嘘だわ。父と義母を庇う為の、優しい嘘。


「それを信じろというのか?」


「はい。さもなければ、私の存在を知った陛下のご病状が、悪化する恐れがあると考えました」


 パチン。


 王妃の扇子が、音を立てて閉じられた。


 そして――。


「もうよい」

 王妃が、そう言って。


「それで、お前が秘密を打ち明ける気になったのは、ナタリア侯爵令嬢のため、なのですね」


 ……私の、名前が出た。


「はい。私はナタリアを伴侶にしたいと思っています」


 はっきりとした義弟の声に、私の心臓がドクンと音を立てた。


「アンダーソン令息との婚約を綺麗に解決できれば、受け入れてもらえる約束です」


 ――……約束、ですって?


 頭の中で言葉が跳ね返って、私の思考が全然追いついてこなかった。


 伴侶?

 ユーリィが、私を……?

 そんな約束、私、してた……かしら……?


 心臓がドクドクと、ずっと、鳴りっぱなしだった。



読んで頂いて有難うございました。

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