星空の下で
いつものように椅子に座り、窓辺にカップを置く、白い湯気が私の頬を湿らせる。
残りの少なかった牛乳を温めた物だ。
空のよく見える窓を見上げればやっと晴れた夜空に星が飾り付けられている。
あれは一等星、あれは三等星、そうやって数えていると見慣れない星の並びを見た。
確かあれは双子座だったか、ろくに当たらない星座占いで身につけた知識を引き摺り出す。
そうだった、あれは確かに双子座だ、私の星座だ。
双子、Gemini、私にも兄弟が居たが半世紀も経てば行方も分からなくなってしまった。
家族も遂には私一人と遺されたこの山の傾斜に建てられた不安定な家だけだ。
母はいつの間にか死に、父も十数年前に死んでしまった、私もいつかは砂のようにサッと崩れるのだろう。
半世紀も経てば何もかもが朽ちる、私の耳はほとんど聞こえず、床はそっと歩かなくては抜けてしまいそうだし、割れた玄関扉の窓が世間の冷たさを連れてくる。
カップを傾けた後、駅前の古本屋のワゴンセールで買った高名なセンセイの本を手元に出す。
表紙はくたびれ、茶色くなっている。
似た者同士だ、そう同情し頁を捲ろうとすると窓に何かが光った。
流れ星だ、尾を引いて軌跡を描いている。
見たのは何十年ぶりだろうか、願掛けでもしようか。
そう思って願い事を考えたが思い浮かばない、お金だろうか、健康、それとも家族、どれも必要だが私にはとっくに不必要になってしまった。
どうしようか、一つここは世界平和とでも平たく願ってしまおうか。
それがいい、何かをするには遅すぎる、かと言って何も願わないのは勿体ないことだ。
目を閉じて「世界平和」と三回念じる。
窓の隙間風がヒューと頬を撫でた。
そして、空を見ると目を覆いたくなるほどの白い光が真っ黒な夜空に覆い被さり私を包んだ。