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先程までは木々から漏れる月明かりを頼りに森を散策していたが、少し空が白んできた。
父から聞いた、父と母との思い出に浸っていたがそれもそろそろ難しいようだ。遠くに獣の気配がする。
基本的に村に近い森には魔除けの施しがされているので森の深くに入らなければ危険はない。
でも今僕は村の人たちと採取が被らないようにと少し森の深くに来ていた。
母の才能を継いだのか日々を生きるために森に入っている内に気配の察知には随分慣れたように思う。
音、匂い、風の向き、そして嫌な感じがするかどうか。様々な情報を取り入れることが大事だ。
今回のは獣……それも草食か?向こうもこちらの気配に過敏だ。そわそわしている様子が伝わってくる。
この世界には魔物もいる。
見分けが難しいこともあるそうだけど、区別としては極めて簡単だ。
『魔力』を持っているか、どうか。
魔物は魔力を持ち、使えるので動物系とは根本的な強さが違う。
まぁ、動物でも肉食だったり、縄張りを荒らせば襲ってくることもあるから危険な種もあるけど、決定的な違いはやっぱり『魔力』があるか、どうか。
なので魔物は頻繁にギルドで討伐依頼が出されているらしい。
基本的に僕の知っていることは父から聞いたことしかわからない。村人とは全く関わっていない。父がいた頃は、父がなんとか交流をしていたけど。
父が死んで数年、こうやって細々と過ごしてきたけど、この村に居させてもらうのもそろそろ無理かもしれないと思い始めてる。
そんなことを考えながら森の奥の気配を刺激しないようにそろり、そろりと帰路につく。
最近、朝のこの仕事を終えて家に帰ると家の前に鳥の死骸が置かれていたり、家畜の糞が置かれていたりする。
動物系の死骸の時は、村の人が恵んでくれたのかと勘違いした日もあった。
だが、日が経つと家畜かなにかの糞やら、頭が真っ二つに割れた木の人形やら、そういうのが置かれ始めた日にはさすがにわかった。
嫌がらせだと。
だれがやっているかわからない。村の子供たちは前から僕の家をお化け屋敷のような扱いで冷やかしに来ることもあったから、それがエスカレートしたのかもしれない。
村の、総意かもしれない。
あまり深く考えても意味はない。
耐えて残るか、去るか。この2つしかないから。
太陽がちょうど顔を出そうかという頃、ようやく自分の家が見える。
今更だが村の家と比べればむしろ小屋以下かもしれないが。
家が見えた安心感にほっとひと息つこうとしたところ、嫌な香り乗せた風が鼻をくすぐる。
ーーー血の、匂い。
今日は何の死骸か……
鬱蒼な気持ちと今日の収穫物を両手に持ち
重い、ひどく重い足を自分の家へと踏み出す。