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第2章-3

 冷たい風の吹く中、アルスは足早にポルテニエの療養所へ駆け込んだ。ロビーへ向かうと、ヘイレンとシェラがソファでまったりしているように見えた。


「あ、おはよう、アルス」


 ヘイレンの挨拶で、シェラがアルスの存在に気がつく。顔色が悪い。昨日は眠れなかったのだろうか。かく言う俺も結局はあのまま眠れず朝を迎えてしまったのだが。


「なんかあったか、シェラ?顔色良くねえぞ」

「……ヴァルゴス様の容態が良くないらしくて……」

「ヴァルゴス……ってお前の上司か」


 まあそんなところだね、と話すシェラの声に覇気がない。不安の(もや)が濃くまとわりついている。


 闇の種族の召喚士は、アルスの知るところではヴァルゴスしかいない。そもそもこの種は魔物と同じ様な扱いを受けてきているので、周りに頼られるジンブツはごく稀である。アルスもまた、ポルテニエでは一応受け入れられてはいるが、全員ではないとは感じている。


 それはさておき、ヴァルゴスに何があったのか尋ねると、ヘイレンが代わりにざっくりと説明した。


「……瀕死、か。怪我の程度がわからんから何とも言えねぇが……今から向かうか?ヒールガーデンに」


 シェラがえっ、と顔を上げたが、すぐに首を横に振った。昏睡状態で、面会すらままならないという。アルスはそうか、とため息をついた。


 不意にシェラは立ち上がると、自分の顔を両手で挟むようにぱしんと叩いた。一息つくと、空色の眼がアルスに向けられた。思わず「おぅ」と変な声が出た。


「いつまでもどんよりしてたら怒られそうだから、切り替えるよ。で……その、『記憶』について教えてくれる?」


 アルスはやや戸惑いながらも、向かい合うように置かれたひとり用ソファに腰掛けた。シェラももう一度ソファに座る。ヘイレンも姿勢を正した。


 昨日拾えた『記憶』だが、とアルスはエルビーナが持っていた果実と『ヒトバシラ』という言葉を伝えた。当然ながらヘイレンは何それ?と首を傾げていたが、シェラは何度か小さく頷きながら言葉を咀嚼している様子だった。


「まず、果実だけど、たぶんそれは『デザートアップル』っていう、砂漠地帯でしか育たないやつだね。各国の市場でもたまに売られているよ。瑞々しくて甘くて美味しいけど、熟れる前はちょっと硬めなんだって」


 あえて硬い状態で収穫して数日寝かせて熟れさせてから市場に出すらしい。食べてみたいなぁとヘイレンが呑気に呟く。


「砂漠地帯ってことは、火の国か?」

「火の国と地の国との国境に『テラ・クレベス』っていう深い渓谷があって、その果実の木がたくさん生えてる場所があるから、たぶんそこじゃないかな」


 我ながら良いものを記憶したなと悦に浸りたくなったが、『ヒトバシラ』の意味を聞いて血の気が引いた。


「ヒトバシラは……いわゆる生け贄ってやつ。生きたまま神様にその身を捧げる。古代の生け贄はいろいろあって、焼かれたり池や海に沈められたり、魔物に喰わせたり……。そうすることで厄を払ったり、無病息災を願ったりしてきたらしいよ」

「生きたままって……むごい」


 ヘイレンは自分の両肩を掴んで震えていた。


「今でも生け贄を捧げる儀が残っている集落があるのかはわからないけど……。エルビーナ様は死にたいと願っているヒトだ、自らが生け贄になることは光栄なんだろうね……」


 シェラはそこまで言って落胆する。ため息が深い。


「ヒトバシラになる為に闇毒を喰らったのか……?ついでに火も毒にしてヒトビトを道連れにしようってか?随分と自分勝手だな」


 アルスは吐き捨てるように言った。シェラはうーんと唸る。


「エルビーナ様は行く先々で虐げられていた、とラウルが言ってたけど、彼女を虐げたヒトビトへの復讐として、火を毒してゆっくり殺していこうとしているのかな……。僕の憶測だけど」

「ああそれなら、『燃えろ。瘴気に塗れろ。毒されて皆死んでいけばいい。ワタシを死の淵へ追いやった報いだ』って言ってたらしい。ラウルが闇毒を受けた直後に、何を喋ってたのか聞き出してやった」


 あの時シェラはその場にいなかった。シェラは「本当に復讐だな」と嫌そうな顔をした。そして、なぜエルビーナが虐げられる立場に陥ってしまったのかを探る必要があるのかもしれないな、と召喚士はヘイレンを見た。この金髪の青年は、エルビーナの事を知りたがっているらしい。賢者候補を差し置いてなぜ精霊は彼女を賢者に選んだのか。そこから悲劇が始まっているはずだと、彼は思っている。


 知ったところでどうやってこの状況を打破するのか、アルスは思いつかなかった。


「テラ・クレベスに行けば何か手がかりが残っているかもしれない。けどその前に、ひとつ行かなきゃいけない場所があるんだ」


 シェラが少し申し訳なさそうに言う。はて、とアルスは彼を見つめていると、空色の双眸が憂いを帯びた様子で見返してきた。


「ウィンシス城に、ロキア……赤毛のオッドアイのヒトが拘束されてるんだ。これから彼女に会いに行こうと思ってて。非常事態なのはわかってるけど、処刑されるのはまずいから」

「……ヘイレンの『ご主人様』だもんな。てか、捕まってたんだな、そいつ」


 ロキアという名は昨日ヘイレンが話していたので知っていたが、捕まった話は出てこなかった。ついて行く必要が無い気がしたので、アルスは切り出した。


「俺はテラ・クレベスに行って、手がかりを見つけてくる。俺までウィンシス城へ行く必要はないだろ?」

「それは……そうだね……。でも、バルドがいたら」

「あいつの力はバカほど強いのはわかってる。だからひとりでは行かねえ」


 シェラもヘイレンもきょとんとした。構わずアルスはテラ・クレベスの明確な場所をシェラに聞いた。召喚士は圧倒されながらもここからの道のりや現地の特徴を丁寧に教えてくれた。


「バルドがいたら逃げたほうがいい。魔力と生命力を一気に持っていかれる。赤い閃光は身体を麻痺させるから、目は合わせないほうが……」


 そこまで言って、シェラは口を噤んだ。アルスはソファから立ち、シェラの横を通り過ぎようとしていた。バルドの戦略は……俺もやる。


「……言われなくてもわかってるか」


 シェラはふっ、と苦笑した。アルスは小声で「用心しておく」と言ってロビーを後にした。








 風の国ヴェントルの首都エクセレビス。その街に寄り添うように聳え立つウィンシス城の一室。切り立つ山肌をぼんやりと眺めていると、扉の開く音がした。


 振り返ると、3にんの半獣騎士が入ってきていた。手には鎖のついた(かせ)が握られている。


「両手を差し出しなさい」


 言われるままに素直に差し出すと、素早く枷を付けられた。一瞬ビリッと痺れが走った。嵌められた枷を見ると、魔封じの紋様が彫られていた。


「抵抗などする気はない」


 ロキアは静かに言いながら騎士を睨む。睨まれた騎士は顔色を変えず、淡々と自分の仕事をこなそうとする。


「気はなくとも拘束は必須だと決められている。あなたはほかの罪ニンとは違う扱いだが、裁かれる身であることには違いない。立ちなさい。これから面会室へ向かう」


 ロキアは黙って座っていた椅子から離れた。ふたりの大柄な半獣騎士に挟まれる形で連行される。先頭に立つ半獣は、立派な蹄の音を城内に響かせながら二足で歩いている。両側の騎士は腰から下が馬の身体で、かれらの足音は先頭の騎士の倍、音数がある。


 蹄が出す音は心地よい。同時に、懐かしい響きだと思い耽る。毎日この音を、(きななき)を聞いていた。


 元いた部屋の場所はもう忘れた。それくらい城内を歩き回った末に、重厚な扉の前で先頭を歩いていた騎士が止まった。施錠を解き、ゆっくり扉を開ける。中に入ると、両端にいた騎士たちは外に残って扉を閉めた。


「前へ。ジュートのカーテンの先で面会者が待っている。格子の手前に置いてある椅子に座って話をしなさい。決して立ってはなりません。いいですね?」


 座ったら動くことを許さないそうだ。ロキアはひとつ頷き、ゆっくり進んだ。ジュートの手前で足を止める。気配はふたり分か……。一息ついて、ジュートを越えた。






 シェラは息を呑んだ。格子の向こう、ジュートのカーテンから現れた赤毛のオッドアイ……ロキアーシュカ。『黒の一族』は男女問わず大柄なのだろう。背丈はアルスと同じくらいだが、しなやかなでいかにも女性だとわかる立ち姿だった。


 ロキアは黙って椅子に座った。シェラとヘイレンも、彼女と向かい合うように置かれたソファに座る。シェラはチラッとヘイレンを見て、もう一度ロキアを見る。ふたりは互いに見つめ合っているが、ヘイレンはかなり緊張していそうだ。シェラは伏目になって視線を逸らしておいた。


「……きみの命を脅かすような事をしてしまってすまなかった」


 その声は美しく、けれども憂いを帯びていた。ヘイレンはあっ、と小さく声を漏らした。容姿は少しだけ変わっている(髪が伸びた程度だが)が、夢で聞いた声だった。


「我は……きみを元の時代へ返さねばならない。我の前に時空の裂け目が現れた時、そう告げられたのだ。『連れ戻せ。テンバの未来のために。世界の未来のために』と」


 ヘイレンはじっと聞いていた。全部、ぜんぶ話して。ボクが話すのはその後だ。


 ロキアはヘイレンの心を読み取ったのか、少しだけ目を閉じて、それからヘイレンを見つめ直した。


「我が起こしたあの街での出来事は、到底許されるものではないと理解している。おそらくは極刑であろう。我は……きみを元の時代へ返せたらそれで良いと思っている。返すことができたら、我はここで死んでも構わない」


 結構な覚悟をしているようだった。ヘイレンの目が見開くも、それは、とようやく声を発した。


「ボクだけ過去に戻っても、テンバを世話していたあなたがいないと、結局は滅びてしまうんじゃないですか?」


 今度はロキアが目を見開いた。


「ふたりで元いた時代に戻って、ボクはテンバとして、あなたはテンバのご主人様として生き、テンバを生き残らせる。『テンバの生きる世界』に未来を変えるには、ボクもあなたも欠けちゃいけない。だから」


 ヘイレンは少し落ち着こうと言葉を切って、ひとつ深呼吸を入れた。


「ボクは、ウォレス王やあなたを裁くであろう審判に、極刑をやめるように申し出るつもりです」


 はっきりと言い切った。「なんと」とジュートの奥から驚く声がした。見張りの騎士がいたことに、シェラはようやく気がついた。ヘイレンは物怖じせず、ロキアに思いの丈をぶつけた。


「どうやって過去へ戻るのかはこれから探っていかないといけない。それをあなたがやってくれたら。ボクに対して申し訳ないと思っているのなら、術を見つけて欲しい。ボクはその術が見つかるまで、死なないようにするから」


 少しの間、沈黙が降りた。シェラはふたりを交互に見た。ヘイレンの眼差しは鋭く、緊張はどこかへ吹っ飛ばした様子。一方のロキアは、口元を震わせ、目を瞬かせている。


「……わ」


 ロキアは何か言おうとしているが、震えて言葉が出てこない。ヘイレンはずっとずっと辛抱強く彼女の言葉を待った。その沈黙は、四半刻(約15分)程続いた。


「……確かに……我も……一緒に戻らねば……よな……。しかし、獄中で(すべ)を探すには……どうすれば……いいのだろうか……」


 ヘイレンの言葉をやっと受け入れられたのだろう。死ぬ覚悟でいた彼女の眼が、少しばかり希望を帯びたそれになった。


「ウィンシス城には書庫があったはず。そこは手続きすれば囚ジンも利用できる。見張りの騎士が必ず付いてくるけど、そこで調べてみたらどうだろう?」


 シェラが助け舟を出すと、ロキアは目を見開き、そして一筋涙を流した。それを見てシェラは、彼女はもう、罪を重ねるようなことはしないような気がした。……ヘイレンを連れ戻さねばという使命感に支配され、周りが見えなくなっていたのだろう。そう思っておこう。


「ああ……ありがとう……あなたは……あの召喚士か……。あなたにも我は……刃を向けてしまった。本当に……ご……め……」


 ロキアは俯いた。身体が震えている。鼻を啜る音がした。シェラはため息をついた。


「正気に戻っているのなら、僕は森での一戦は咎めるつもりはない。どう見ても命を狙ってたような行為だったけど……。強引な手を使ってでも、ヘイレンを手元に置きたかったのかな」


 シェラは立ち上がり、格子のそばまで寄ってしゃがんだ。ロキアは顔を少し上げた。シェラを見下ろす形になっていると気づく彼女だが、シェラは彼女が立つことを許されていないことは知っていた。空色の眼は、オッドアイをじっと見つめた。


「あなたがここから出て、元いた世界へヘイレンと帰るまで、彼は僕が守る。術を見つけたら、ウォレス王に伝えてください」


 シェラは表情を少し緩め、優しく話した。ロキアは顔を手で覆って無言で頷いた。嵌められた枷がカチャリと小さく音を立てた。






「もう少し、ロキアと話をしてもいいですか?」


 シェラはしゃがんだまま、ジュートの奥にいるであろう見張りの騎士に問いかけた。ややあって、時間に制限はない、と返ってきたので、シェラはお礼を短く述べた。ロキアの両手が顔から離れたのを見て、シェラは彼女に問うた。


「バルド、というジンブツを知っていますか?」


 シェラはロキアと同じオッドアイの魔導士について、何か情報が得られないかと考えていた。ロキアは「バルド」と復唱する。


「そいつこそ、ヘイレンを殺そうとしているんだ。テンバを滅ぼした罪だ、と彼に言い放ったらしい」


 背後で服が擦れる音がした。足音が近づいてきて、ヘイレンはシェラの隣にしゃがみ込んだ。ロキアの視線は下を向いたまま。「バルド」と何度か呟く。


「……バルドは、生きているのか?」


 ようやくの返事がこれだった。


「……どういうこと?」


 ヘイレンもシェラも首を捻る。ロキアはバルドを知っているようだが、どこかしら言いづらそうにしている。


「バルドは……バルドラーシュ。我の……父だ」


 衝撃が走った。ヘイレンは口をあんぐりと開けている。ロキアの父親であることもそうだが、まずあいつは何年生きているのか想像がつかなかった。


「あらゆる生きものの闇と生命力を喰らい尽くしてきて、今日(こんにち)まで生きながらえてきたということか……。なぜそこまでして生きてきているのだ……」


 ロキア自身も驚きと困惑で視線があちこちと動いている。落ち着こうとして椅子にもたれると、天を仰いでため息をついた。


「父が……生きていて……ヘイレンを……。それは……最悪の事態だ……」


 そもそも目の前にいるジンブツたちは何年、いや、何百年も前に生きていたはずのヒトたちだ(ヘイレンはテンバだが)。シェラは自分で質問しておいて話を終えたくなった。頭がくらくらする。


「……召喚士よ、我もひとつ聞いていいか?」


 落ち着きを取り戻したロキアが口を開く。シェラはハッとして彼女の目を見た。


「今……何年だ?」

「年……えっと……AL1064年……だったかな」


 古代のヒトビトは、『リヒトガイア』という世界が創造された時を紀元……1年として、紀元後を『ハンサヒリト』と定めた。ALはハンサとリヒトの頭文字を合わせた略称だ。……紀元前があるのかは知らない。


 ヘイレンは目を回していたが、ロキアはううむと唸った。険しい表情へと変わっていく。


「我が生きていた時代は、AL600年代だ。今から400年以上前か……。テンバが滅びたのはAL620年。我が最期を看取ったからよく覚えている。我が時空の裂け目に飛び込んだのは、それから少ししてからだ」


 となると、バルドは大方500年は生きていることになる。いくら魔導士でも生き過ぎている。因みに魔導士の寿命は130年前後だ。


 化け物だ、と娘の前でこぼしそうになった。すると、ロキアはふっと口角を上げた。


「化け物以上に化け物だな。アーデルの血は闇を取り込む魔術を駆使して生命力を維持してきた一族だ。それでもせいぜい300年が限界なんだがな……」


 心を読まれてしまった。シェラは咄嗟に「ごめん」と言ってしまったが、ロキアは気にするなと笑った。その笑顔に、シェラは少し心の臓がキュッとしまった。


「父がなんのために今まで生き延びてきたのか知る由もないが……ヘイレンを狙っているのなら……ひいては世界を恐怖に陥れるようなことをしているのなら……バルドを屠るべきだ」

「え……でも」


 シェラは戸惑った。親を屠る、なんて言葉を吐かせてしまったことに罪悪感を覚えるも、ロキアはそれを一蹴した。


「……あれはもう、魔物だ。親でもなんでもない。……まあ、昔から我はあいつを嫌っていたからな。無駄に殺生し、テンバを嫌い、己の生命力さえ強ければそれでいい。そんな自分勝手なジンブツだった。……そう、バルドはヘイレンを嫌っていたのだよ。闇の種を絶やす恐れのある幻獣だから、と」


 ヘイレンは聖属性の力を宿している。聖なる力は闇の種族にとって脅威そのものだ。その光を浴びるだけで身体は焼失する。しかし、テンバのそれは質が違うようで、焼失させられることはない。


「幻獣が宿す聖なる力は、闇の種を焼失させぬ。魔力のタネが無属性であるからな。タネも聖属性であれば、我はとっくにあの世へ逝っている」


 ヘイレンの癒しの力は、聖属性ではなく無属性。だから、負傷したアルスを癒すことができた。


「テンバは余程のことでない限り我らを屠るようなことはしないと、何度も説得した。しかし父は……バルドは聞く耳を持たなかった。……テンバを絶滅寸前に追い込んだのは、あいつだ」


 ずっと黙って聞いていたヘイレンが「なんだって!」と大声で叫んだ。突然の声にシェラは身体が跳ね上がり、その拍子ですっ転んだ。対してヘイレンは立ち上がって格子に手をかけていた。ロキアは椅子ごと少し後ろに下がっていた。


「あいつ……テンバを滅ぼしたのはボクのせいだと言って……」

「うむ、そう先程召喚士が申しておったな」

「ボクは……確かにボクは、時空の裂け目に飛び込んだばっかりに、滅ぼしてしまった。だけど……!たくさんいたはずの仲間をみんな、あいつは殺してきたのか!?」


 格子をガンガン音を立たせながら、ヘイレンは怒りに満ちていった。この音でジュートの裏から半獣の騎士が姿を現すと、ロキアの横に立ち、だん!と持っていた槍を地に突き立てた。ビクッとヘイレンの身体が跳ねる。


「落ち着きなさい。ロキアに牙を向けても何もなりませんよ、ヘイレン殿」


 諭すように騎士が話すと、ヘイレンはへなへなと格子に寄りかかるようにしてくずおれた。シェラは体勢を立て直すと、ヘイレンの肩にそっと手を添えた。


 一旦帰ろう。今の状態で話をすると収集つかなくなりそうだ。シェラは俯いて悔し涙を流すヘイレンを抱き寄せた。


「……ロキア、バルドは明らかにこの世界の脅威となる。もうなり始めているかもしれない。いずれ、あいつと何度か戦う羽目になる。ヘイレンを狙っている限り……」


「殺せ。さっきも言ったが、もうあれは魔物だ。躊躇なく()ればいい。我がここを出ることを許される日が来たならば、我もバルドを葬りにゆく」


 ロキアの声色が変わり、シェラは彼女の双眸を覗いた。僅かに左眼が赤く光っていた。

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