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幕間

 燃えろ。


 瘴気に塗れろ。


 毒されて皆死んでいけばいい。


 ワタシを死の淵へ追いやった報いだ。





 

 瑠璃(ラピスラズリ)がワタシに共鳴してきた。


 この力で闇毒をも共有してしまうのを知ってか知らずか。しかし、彼を毒してしまえば世界の崩壊もあっという間だろう。……好都合だ。


 ワタシが取り込んだ闇毒を、お前に注ぎ込んでやろう。


 大地は枯れ、作物は育たなくなり、水源も干上がる。魔物は凶暴となり、ヒトビトを食い荒らすだろう。


 みな、苦しめ。ワタシだけが苦しむのは理不尽だ。


 蒼き沼を離れ、ワタシは深い渓谷にいた。火の国と地の国の境目にある、巨大な渓谷だ。年中冷たい風が吹き、時々砂漠地帯で取れる果実の木が佇んでいる。


 その木から果実をひとつ拝借した。表面を覆う砂埃を袖で払いながら歩く。当然ヒトはおらず、なんなら魔物もいない。ワタシひとりだった。


 小さな洞穴を見つけ、そこに身を収める。艶やかな果実にかぶりつくと、みずみずしく甘い果汁が喉を潤した。実はやや硬めだが、悪くない。


 ふと足音がした。息を殺していたが、あっけなく見つかった。まあ、隠れていたわけでもないが。


『地界が瘴気に覆われ始めた。死滅する日もそう遠くなさそうだが、いつまで待てばいい?』


 ワタシは洞穴から這い出た。そんなに急いでいるのかと問いたくなったが、面倒くさくてやめた。


「最期ぐらいワタシのペースでやらせてよ。ヒトのペースに散々合わせてきて、それなのに()たれたり酷いことを言われたりしてきたのに……」


 なぜ、行く先々で傷や痣をこしらえなければならないのか。大抵は精霊の力で治っているのだが、心の傷は一生消えない。


「それに、このまま地界が滅びてしまえば、都合が良いでしょう?全てを無にして新たな世界を作ることを目的としているのなら」


 ニヤリと笑みを浮かべると、男はううむと唸った。何百年と生きていそうな風貌だが、身体は衰え知らずで筋骨隆々。凄まじい魔力を秘めていると、精霊が恐れていたっけ。


「ワタシが取り込んだ闇毒、ほかのコア族にも注いでいるの。そうすることで、地界は再起不能になるわ。あなたの手で世界を作り直すまでは、ね」


 相手は踵を返した。2、3歩進み、立ち止まる。冷たい風が吹いた。砂埃が舞い、相手の背中が霞んだその刹那。


 男は突如振り返ると、赤い閃光を放った。ワタシの身体は感電したようにビクッと痙攣し、硬直した。


 何が起きたの?動けない……呼吸もできない!


 今度はワタシに近づいてきた。強い魔力で内臓が押し潰された。直立不動のまま、口から血を吐いた。


『お前はヒトバシラだ』


 勝手にワタシの身体が浮き上がる。


『時間がないのだよ、私には。お前の全てを吸収し、そして霊体を召喚させてみせよう』








 突然、ラウルが悲鳴を上げた。


 頭を抱えてのたうち回る。即座にアルスがラウルを抱えるも、激痛が走っているのかアルスから逃れようともがいた。ヘイレンもミスティアもなす術がなく、唖然としているしかなった。


「しっかりしろ!」


 アルスの声でラウルは見開いた。その眼は赤く染まっていた。獣の如く唸るラウルを、アルスは容赦なく地に叩きつけた。


 かなり手荒だが、こうなったら魔物も同然だ。


「ヘイレン、ミスティアと外へ!」

「わ、わかった!」


 部屋から出て行ったかどうかわからなかったが、そうアルスが叫んだ直後、ラウルがアルスの右腕を掴むと、魔力でできた石の刃が彼の右腕を貫いた。


「くっ……!」


 一瞬の怯みでラウルが逆襲した。起き上がり、アルスの首を掴むと、大柄な体格に屈する事なく薙ぎ倒した。首が熱い。魔法を放たれたら終わる……!


 アルスは勢いよく膝蹴りをした。鳩尾(みぞおち)に当たって、今度はラウルが怯む。手が離れたところで、アルスは左手をかざして火の魔法を放った。その火は禍々しい色ではなく、本来の色である橙色だった。


 ラウルをうつ伏せに倒す。後ろ手にして左手でしっかりと手首を掴み、身体で押さえつけた。痛む右腕に鞭を打ちながら、吠えるラウルの頭を取り押さえる。そして、集中した。


 右眼が光ると、ラウルの咆哮がぴたっと止まった。彼が注ぎ込まれた闇毒を、残さず綺麗に吸い上げる。貫かれた右腕が、みるみるうちに癒えていく。ラウルの力が抜けていく。眼の色が徐々に瑠璃色に戻っていく。


 全て吸い取った時には、ラウルは目を閉じて意識を失っていた。そっと身体を離し、手も解放する。ひっくり返して抱えると、ベッドに横たわらせた。何気なく鳩尾に手を当てる。吐血はなかったが、加減なく蹴り上げたので、内臓と近くの肋骨にダメージがいっていないか少々不安になった。


 ふう、とアルスは大きく息を吐いた。それから、部屋の扉を開けて、外にいたふたりを呼び戻した。


 ふたりとも不安が過ぎてかかる(もや)が濃かったが、アルスが淡々と状況を説明すると、ミスティアは恐るおそるラウルを診ていった。いつもはこの時点で激痛に見舞われ自身も突っ伏してしまうのだが、そんな兆候は無かった。


「アルス……大丈夫?」


 ヘイレンが心配そうに様子を窺う。


「……初めてだな、吸い取った後に苦痛が来ねえのは。腕を治したからだろうか」


 己の右腕を眺める。ヘイレンも視線をそこに向ける。袖に穴が空いているが、傷ひとつなかった。


「……ボクの力、いらないんじゃない?」

「……かもな」


 ただ、毎回取り込むのも疲れるんだが。アルスは内心苦笑した。

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