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第1章-1

 まだ、身体が重い。


 初めて舞う側に立った精霊祭からもう10日も経っているというのに。筋肉痛は先日やっと無くなったのだが、魔力の回復がいつも以上に遅い。ただ舞うだけでなく、御魂に呼びかけ霊界へ誘うのに莫大な集中力と魔力、生命力を要したからだろう。


 ベッドに仰向けで寝転び天井を見つめる。初回はこういうものなのだろうか。いや、単純に僕に体力が無いだけだろう。それでいて、なぜ合格したのだろう……?


 最上位召喚士のヴァロア様は、僕を上位にしたかったらしい、と以前聞いたけど、だからって贔屓されてたとしたら……ちょっと嫌だな。


 シェラはため息をついた。顔を横に向けると、コートラックには紺色のローブがかけられている。普通召喚士は白だったが、上位に昇格すると紺を纏えるようになる。普通召喚士に命令することが可能になり、召喚獣を2頭宿すことが許される。そして、王族の御魂送りを担うことになる。




          * * *




 ーーシェラと初めて見た精霊祭のあと、彼は周りのおとなたちにしつこいくらいに上位召喚士になることを勧められていた。魔力も生命力も、ついでに信頼感も申し分ないのに、普通の召喚士でいるだなんて勿体無い。そんな言葉をヘイレンは横で聞いていた。


 そんなある日、彼のことを気にかけていたヴァルゴスの『代理』を突然務めることになった、という出来事があった。


 当時、シェラとヘイレンは地の国アーステラの首都ダーラムにいた。そこで聞いた、火の国ファイストの王族のひとりが急逝したという訃報。御魂送りの儀を行なってほしいと依頼があった。


 本来ならヴァルゴスが受けるはずだったのだが、全く連絡がつかず、火の国も召喚士の機関も混乱していた。仕方なくほかの上位召喚士たちに連絡を取るも、現地へ向かえるヒトは誰もいなかった。


「緊急事態でやむを得ん。私が行けたらよかったのだが、この場を離れられない事情があってね。上位のレベルに相当だと私が思うゆえに……向かってくれないか、シェラ。国王には私から連絡しておく。ローブはこの後わたすから、外で待っていてくれ」


 最上位のヴァロアに有無を言わさずそう告げられて、シェラはローブを受け取り、ヘイレンを連れて火の国へ向かった。謁見前まで緊張で震えていたが、紺のローブに袖を通すと気持ちが切り替わり、堂々たる出立ちで御魂送りの儀に臨んでいた。儀はつつがなく終わり、国王も舞に絶賛していた。


「しかしながら、ヴァルゴス様はどうなさったのでしょうね。何か良からぬ事に遭っていなければよいですが……」


 その国王の一言に、シェラもヘイレンも同意した。今まで音信不通になったことが無いと、余計に不安になる。


「もしヴァルゴス様が無事に帰還なさったら、一報いただけるかな?やはり心配なのでね」

「承知しました。機関を通じてご連絡致します」

「……もう一つ、私のわがままを聞いてはくれぬか?」

「……何でしょうか?」


 国王は2、3呼吸おいて、シェラを見据えてこう願った。いつかの精霊祭で、首都モントレアにある焔大社で舞ってくれ、とーー。






「……国王様にあんなことお願いされたら、もう受けるしかないよね」


 機関に報告後、シェラはそう呟いた。


 そして、腹を括ってヴァロアに上位試験を受けることを伝え、いざ挑んだのだが、それは想像を絶するものだった。


 氷狐エールを己の身に宿した時も相当な魔力を要したが、2頭目は本当に身体が木っ端微塵になるかと思った。耐えている途中で意識を失った。


 気がついたらヘイレンに抱えられていた。試験中は付きビトをひとり必ずつけなければならない。何かあった時に付きビトは召喚士を助けなければならないからだ。しかし、助けるといっても、倒れた召喚士を運ぶだけ。治癒の魔法は禁止されている。うっかり発動しないように封印の腕輪を付けられていた。


「……上位なんか、到底なれっこないよ」


 つい弱音を吐くシェラに、ヘイレンも不安が募っていた。袖なしチュニックとズボン姿の召喚士の身体は、ぶつけてもいないのに痣だらけで、切り傷もたくさんあって痛々しい。癒しの力であっという間に綺麗にしたいと思うが、それも叶わない。


「……一旦出直す?シェラがこれで死んじゃったら……ボク絶対嫌だよ」

「さすがに死ぬ前に止められると思うよ。そこまで残酷な機関じゃないだろうし。でもなぁ……出直すってことは、不合格ってことだから、ずっと推薦してくれていたヴァルゴス様の顔に泥を塗る行為なんだよね。それも嫌だな」


 もっと鍛えてから臨むべきだったと後悔しかない。後戻りできない状況に、シェラはついに考えることをやめた。ただただ、身体の内側からじわじわくる痛みに耐え続けた。


 弱音を吐いてからどのくらい経ったのか、シェラはついに2頭目の召喚獣を宿すことに成功した。光りながら現れたそれは、美しく大きな翼を広げた鷲だった。羽ばたく音が意外にも軽い。しかし、生み出す風は強かった。


 その神々しい姿にヘイレンは瞬きを忘れて見入っていた。シェラの髪と同じ亜麻色の羽毛で覆われていて、長い尾羽には水色の飾り羽が混じっている。鶏冠にも同じような飾り羽がある。新たに宿した召喚獣(鳥だけど)はフィリアといい、光属性だという。


 フィリアがシェラの中に収められた直後、彼は気を失った。そうなるだろうと予測していたヘイレンは、倒れる前に支え、背負って試験場を後にした。


 召喚獣を宿した翌日、シェラは一次試験合格の通知を得た。一次ということは、まだ試験は終わっていないということだ、とヘイレンに伝えると、彼はげっそりした。


「とは言っても二次試験で最後だけど、7日後に実施か……。鍛えておかないと」

「ニジシケンは何するの?」


 シェラは少しの間黙って通知書に視線を落としていた。その表情は冴えない。もしや、とヘイレンは勘づいてしまった。


「三日三晩、不眠不休のやつ?」

「……そう……ね」


 血の気が引いていくシェラを、ヘイレンは自然と抱きしめた。腕輪を外すことをまだ許されていないので、これで身体のケアができないのがもどかしかった。


「ヘイレン、身体大丈夫?」

「へ?ボク?なんで?」


 何もしてないのになぜ突然心配されたのか。抱擁を解くと、シェラは通知書を(わき)に置いてヘイレンと向き合い、両手を握った。空色の眼が憂いを帯びていて、ヘイレンの鼓動が急に速くなった。


「な、なに……?」

「力を封じられていると、どんどん蓄積していって魔漏症になっちゃうから……心配で」


 魔漏症とは、宿している魔力が増えすぎて身体を傷つけてしまうもので、度を超えると身体が爆発してしまうという。当然、即死だ。


 癒しの力に加え攻撃魔法も宿しているヘイレンは、溜まりやすい傾向にある……と思われる。ヴァルゴスが危惧していたので、きっとそうなのだろう。


「まだ大丈夫。痒くなってないから」

「そっか、それならよかった。試験前に機関には一応伝えてはいるけど、前兆を感じたらすぐに教えて。僕が試験中の時だったら、部屋から出て近くのヒトに伝えてね」


 わかった、とヘイレンは頷くと、シェラは微笑んでそっと手を離した。シェラの笑顔を見て、なぜか凄く寂しくなった。通知書を手に取って立ち上がろうとしたシェラをもう一度抱きしめた。おっ、と彼は声を漏らす。


「どうしたの?」と少し戸惑う様子のシェラだったが、ヘイレンの気が済むまでじっとしていた。







 そして二次試験にして最終試験の『模擬精霊祭』を受けたのだが、最後まできちんと舞えていたのか覚えていない。いつからか無心で舞っていて、エールの思念が無ければ永遠に続けていたかもしれない。いや、泡でも吹いて倒れていただろうか?次に気がついた時には、ヘイレンが替わりに通知書を受け取っていて、『合格』の文字を見て変な声を出した記憶はある。


「ダメだったの?」

「……逆。上位召喚士になっちゃったの」

「え!ほんと!?わぁ!おめでとう!!」


 ヘイレンの弾けるような笑顔にシェラは苦笑していた。……この年の精霊祭から舞う側に立つ。先輩は皆倒れた経験は無いはず。もし僕が途中で倒れたりなんかしたら……自分が恥をかくのはどうでもいいが、先輩たちに揶揄されるかもしれない。




          * * *




 ……そんなことをローブを眺めながら思い出し、シェラはまた大きくため息をついた。


 そういえば、自分のことで頭が一杯で、機関がその後ヴァルゴスと連絡がついたのかどうか全く気にかけていなかった。上位になれたことを報告もせず、精霊祭に臨んでしまったなと耽っていると、扉の開く音がした。


「おはよう、シェラ。起きてたんだね」


 重い身体を無理やり起こすと、ヘイレンが瓶を手に入ってきた。彼が持っているのは魔力を回復させる薬『エーテル』だった。しかも結構高価なやつだ。思わず釘付けになる。


「これ、ミスティアから。ショウカクイワイ、だって」

「なんで僕が上位になったって知ってるの?特に話さなかった僕も僕だけど……」

「情報誌に載ってたらしいよ」

「え……もう結構前の話なのに載るんだ……」


 地界に出回る情報誌に『シェラード殿が上位召喚士に昇格後、初の精霊祭で華麗に舞う』との見出しでトップを飾っていたらしい。彼が昇格したのは、季節でいうと寒期から暖期に変わる頃だったか。それにしても、見出しの文言が小っ恥ずかしい。シェラは軽く赤面した。


「これ飲んだら元気になるかな?」

「……ちょっと、このエーテル、めちゃくちゃ高価なものだよ。後でお礼を言いに行かなきゃね」


 はい、とわたされて、シェラはありがたく受け取った。水晶の原石を模った美しい瓶の蓋をそっと開け、ゆっくりじっくり味わった。






 ミスティアからの贈り物は、シェラの身体を一気に軽くしていったが、気持ちまではスッキリ晴れなかった。

 召喚士が集う大きな家を出て、ミスティアがいるヒールガーデンへと向かう。そこは療養所や商業施設、そこで働くヒトの居住空間まである複合施設だ。


 外は冷たい風が吹き、雪がちらついていた。精霊祭を終えた翌日から新たな一年が始まるのだが、街はその日のためだけの装飾品がまだ残っていた。


 ヒトとすれ違う度に「おめでとう!」と祝福され、シェラは作り笑顔を見せていた。ヘイレンは不安を抱いていた。身体はエーテルで良くなったみたいだけど、心が疲れていそうだな……と。


 ヒールガーデンに着き、広いロビーでミスティアを待っている間も、こどもからおとなまでたくさん声をかけられていた。さすがのシェラも、苦笑いに変わっていた。ヒトがようやくいなくなると、シェラはため息をついてソファに座り込んだ。


「情報誌の力、すごすぎるね」


 ヘイレンはシェラの隣に座った。チラッと顔を窺うと、だいぶ憔悴しきってるように思えた。


「祝ってくれるのは嬉しいけどね……。でもまだ、合格したなんて実感が湧かないというか、合格したのが不思議で仕方ないというか……あれで合格ってどうなのかなって……」


 試験の時、途中から舞の様子が変わったのをヘイレンも感じていた。心ここに在らずというか、まるで機械のように舞い続けていた。しかし、とても美しい舞だったので、いつまでも見ていられた。それこそ、三日三晩。『付きビトは何かあった時に動けなかったら困る』と機関に言われて、食事や睡眠はとったけど。


 先日の精霊祭も眺めていたのは初日だけだった。2日目、3日目は、水の召喚士レムレスに付いて挨拶回りをしていた。舞が終わる頃にシェラの元へ戻ると、彼は清々しい顔で無事に御魂を送りきっていた。


「まあもう、上位になってそろそろ1年経つし、いい加減自分の立場を受け入れないとね。やることが増えただけで、基本は変わらないから。精霊祭もやりきったし」


 シェラは前を向いて、自分自身に言い聞かせるようにそう呟いた。ヘイレンは無理してないか心配が拭えない。が、少し表情が晴れたので、きっと大丈夫なのだろう。


 そんな話が終わったタイミングで、ミスティアが姿を現した。美しい銀髪を丸い形に結い、簪を指している。あの髪型を『お団子』と言うらしいが、確かに見た目は以前食べた大福っぽいなとヘイレンは思った。


 ミスティアはふたりを見つけると、手を小さく振りながら近づいてきた。自然とふたりは同時に立ち上がる。


「エーテルをありがとう、ティア。めちゃくちゃ身体が楽になったよ」

「飲んでくれたのね。昇格祝い、遅くなったしエーテル1本でごめんなさいね。精霊祭の後だし、無難かなと思って」

「いや、充分なお祝いだよ。本当にありがとう」


 シェラの頬がほんのり紅潮しているのは気のせいだろうか。ミスティアもふふっと笑っている。


「今日は夜勤だったの?」


 シェラが何気なく問う。よく見ると確かに少々疲れ気味な表情であるとヘイレンも気づいた。ミスティアはそうね、と小さく頷く。


「夜勤ではあったんだけど……ルーシェから連絡があって。なんかね、モントレアの聖なる炎が最近変なんですって。燃えてはいるんだけど、時々火が弱まって小さくなるのを繰り返してるとか。こんなの初めてだ、って住民が不安がってるそうよ」


 モントレアは、火の国ファイストの首都で、古風な家が立ち並ぶ風情ある都である。シェラと初めて巡礼に行った先がそこだった。当時ヘイレンが行ったことのなかった場所でもある。シェラはふむ、と顎に手を当てた。


「なんだろうね、なんか不穏な感じがするな。よからぬ事が起きないようにと願いたいけど」


 そうね、とミスティアは小さくため息をつく。かと思うと、それはさておきと話題を上位召喚士に変えてきた。


「上位のヒトってもう一頭召喚獣を宿せるんでしょう?大変だったんじゃない?」

「大変……どころじゃないよ。死ぬかと思ったよ」

「そんなに?!シェラでもそう言うのね……」


 弱音を吐くシェラが意外だったようだ。どんな姿なの?属性は?と、興味津々に聞いてきて、シェラはやや圧倒されていた。


「光属性の大鷲……とても美しいんでしょうねぇ……いつか会えるかしら」


 目を輝かせるミスティアに、「いつかね」とシェラは微笑んだ。






 ミスティアはシェラとヘイレンを近くのカフェに誘った。そこは、ヘイレンがこの世界に来た頃に行った、屋上のある例の場所だった。3にんとも『ブラック珈琲』を注文し、屋上のテーブル席で談笑しながら味わった。


 ふわっと風が一瞬吹いた時、ヘイレンは何かを感じとった。ほんのわずかだが焦げたような香りがした。自然と風が吹いてきた方角を見る。


「どうしたの、ヘイレン?」


 ミスティアが持っていたカップをそっと置いた。


「なんか焦げたような匂いがして何かなと思っただけ」

「……焦げた匂い?ぜんっぜんわかんなかったわ。今もする?」


 ヘイレンは匂いをもう一度確かめたが、首を捻って「わかんない」と答えた。彼が向いている方角は、火の国ファイストだ。


 聖なる炎に異変が起きている。焦げた匂い。シェラの心の奥底にあるモノが、警鐘を鳴らした。


「モントレアへ行ってみようかな。聖なる炎の様子が気になるし」


 残った珈琲をくいっと飲み干すと、シェラはさっさとカップを片付けに席を立った。ヘイレンのカップにはまだ半分近く残っていて、一気飲みは難しかった。


「グリフォリル(様々な生き物の身体の一部を合わせたような姿の獣。この世界の移動手段のひとつとして重宝されている)を手配してくるから、急がなくていいよ。厩舎の前で待ち合わせよう。ごめん、ティア。ちょっと行ってくる」

「ええ、いってらっしゃい。気をつけてね」


 シェラは足早にカフェから消えていった。ヘイレンはなるべく急いで珈琲を飲んだ。ミスティアはその様子をぼんやりと眺めていた。


「……それにしても、あなたも立派になったわね。可愛かったのにかっこよくなっちゃって」


 ヘイレンは危うく珈琲を吹きそうになった。ミスティアはふふっ、と笑っていた。








 ミスティアと別れて、ヘイレンは厩舎へと急いだ。その道中で、すれ違い様に聞こえてしまった会話が耳に残っていた。これが本当なら、モントレアは大変なことになっている気がする。シェラに伝えなきゃ。


 厩舎に着くと、緊迫した空気に覆われていた。紺のローブ姿を見つけて駆け寄ると、そばにはアルティアが待機していた。狼の頭に月色の獅子の胴、鷲の前脚を左右交互に掴んでは開きを繰り返して落ち着きがなかったが、ヘイレンを見つけると動きを止めてシェラに知らせた。何かに目を通していた召喚士は顔を上げる。


「お待たせ。こんにちは、アルティア」

「おう!……ん?お前、シェラと同じサイズになったな……」

「うん。……乗れるかな?」

「問題ないっ!お前もシェラも軽いしな!」


 鷲の翼をバサっと羽ばたかせる。心地よい風が頬を撫でた。


「ここに来る途中に聞こえちゃったんだけど、モントレアの……」

「聖なる炎のことかな?」


 シェラは手に持っていたモノをヘイレンに見せた。文字は相変わらず読めないが、でかでかと載っている画像にぎょっとした。


「な……にこれ……ホントにこんな色なの?」

「今朝の様子を撮ったものらしい。昨日までは見慣れた色だったみたいだけど。ちょっと警戒したほうがいいね」


 シェラは紙を小さく折りたたむと、腰に付けている小さなポーチに押し込んだ。


「アル、モントレアまでお願い。道中はなるべく安全なルートで行こう」

「おっけー!んじゃ乗ってちょーだい」


 アルティアは、ふたりを乗せると、ひと羽ばたきして飛び立った。何度か羽ばたいて加速し風を掴むと、一気に南下した。


 アルティアのもふもふの毛を掴みながら景色を眺める。どこか、陽の光がいつもと違うような気がした。まだ昼前なのに、夕方のように色が赤い。そして、時折生暖かい風が混じってくる。


「なんだこれ、気持ち悪りぃな」


 幻獣がぼやく。空気がだんだん重く感じてくる。と、ヘイレンの背後でシェラが淡い水色の光を出した。それはアルティアを、全体を覆った。大きな泡に閉じ込められたような感じになると、重かった空気が軽くなり、呼吸が楽になった。


「これでも濃度は薄いほうだけど、瘴気が充満しているね。これもあの炎のせいかもしれない」

「ショウキ……?」

「バルドとかが纏っていた闇の靄に似てるものなんだけど、瘴気は毒を孕んでいて、身体に取り込み過ぎると内臓が腐っていってしまうんだ」

「……それ、『ヤバイヤツ』だよね」


 うん、とシェラは小さく返す。


「因みにさっきまでに取り込んでしまった瘴気は、自己治癒力で解毒できる程度だから安心してね」


 とシェラはヘイレンたちに伝えた。


 それからしばらくして、黒と紫が混じる聖なる炎が不気味に佇む、不穏な都が姿を現した。

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