7
公爵家へと嫁いで、早一週間。
「な・・・・なんなの・・・・なんで皆私に構いたがるの・・・・」
ベットへと倒れ込みファラトゥールは唸った。
確かにセレムはあれから一度も帰ってこない。それはいい。それは大いに、良い!
だが、まるで獲物を見つけた使用人という名の狼たちが我先にと群がり、ファラトゥールの世話を焼きまくってくるのだ。
やれ、食事は口に合うか。好きな菓子はあるか。好きな紅茶の銘柄は何か。好きな花はあるか・・・・花に関しては、庭を作り替えそうな勢いで、あわてて止めた事は言うまでもない。
そういった類の事を延々と。エンドレスで攻撃してくる。
皆、己の使命と好意からそうなのだとわかるが、ついセレムに恨み言を言いたくなる。
どんだけ留守にしてんのさ・・・お前ここの主だろ?と。
キラキラした眼差しで迫ってくるものだから、無下にもできず、皆が落ち着くまで我慢する事にしたのだが。
一週間経ってもあまり変わらない。よって、ファラトゥールの自由な時間は夜の僅かな間しかない。
その貴重な時間ですら、日中に体力気力をゴリゴリ削られ、疲労困憊の有様。
私がこれに慣れないといけないのか?
なんだか理不尽にも感じるが、本気で嫌でもないから対処に困ってしまうのだ。
取り敢えず自分自身に回復魔法をかけ、立ち上がると室内にも結界魔法をかける。
ガルーラ国の件はあまり時間はかけたくないが、既に国として成り立ってしまっているのだ。追い出して終わりというわけにもいかない。
まずは魔法の精度の確認と、新たな魔法をどこまで使えるかね。
そして、ガルーラ国の内情視察に行かないと。
前世の記憶から生まれた空間収納。
これは魔力の多さに比例して空間の広さが決まる事が分かった。
ファーラの工房はガルーラ国の地下にある。
そこは保存魔法をかけているので、簡単に言えば五百年前のまま。時間が止まっていると思ってくれればいい。
空間収納魔法があれば、あの場にある貴重な研究材料を持ち出せると考えていた。
空間収納に入れれば、保存魔法同様朽ちることは無い。
鮮度が一日で落ちる為、ほぼ市場に出る事がない果実で実験した結果だ。
そして当然ながら、温かいものは温かいまま、冷たいものは冷たいままで保存できた。この一週間の成果だ。
今は、その空間で生活できないかを研究している。無理であれば別空間を作ってもいい。
今ある空間を広げる事はできるが、一から空間を作り出す事はなかなかに面白い発想で、研究魂に火が付いたことは言うまでもない。
イメージ的には前世で有名だった、耳のない大きな青い猫が机の引き出しを出入口にしていたものと、ピンクのドアで行きたい所へ自由に行けるのを足しまくった感じだ。
つまりは「ドアの向こうは異空間」を目指している。
最高だわ!私の魔力無限大に近いのが分かったし!
あの地下施設そのものを収納できそうだもの。工房をそっくり空間に移し研究三昧・・・・あぁ・・いいわ・・・
その前に、まずは飛行魔法よね。
この一週間、空間魔法で実験しつつ飛行魔法にも手をかけていた。
手を前に突き出すと、長い銀の杖がその手に収まる。
ファラトゥールの身長より頭一つ分長い杖。
先端に大きな三日月が。三日月の中には星が瞬き、星の真ん中にはファーラと同じパパラチアサファイアの太陽が填っている。
魔女と言ったら、杖よね。
私の憧れは、某映画のように小さなモノじゃなくて・・・こんな感じなのよ!
パチンと指を鳴らせば、黒いローブに衣装が変わる。
このローブは、五百年前にファーラが作ったものと同じで、色々な魔法が付与されていた。
空を飛ぶんだから、当然、防風や防寒は必須。防衛も完璧だし。
地下施設には転移魔法で行く事は可能だけど、ガルーラ国をじかに見てみたいんだよね。
テラスへと出て窓を開け、杖を浮かし横座りした。
杖はゆっくりと上昇し、あっという間に屋敷の屋根が小さくなる。
一応、本日が初飛行。
ワクワクする気持ちを抑えながら、ガルーラ国を目指し空をゆっくりと飛んでいくのだった。