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バラン公爵は、何故此処に自分が呼ばれたのかが分からなかった。


目の前には、数段高い位置にある玉座に座るガルーラ国王サイモン。

国王を挟むように立つのは、最側近でもあったジェイデン・コナーと、騎士でもありジェイデンの息子でもあるウィリアム。

グレイソン・フォークナーとケイレブ・ファウラーもジェイデンの後ろに立っていた。


本来であれば、国王の隣に立っているのは宰相でもある自分だ。

その為に、彼等をその場所から排除した(・・・・)はずだった。

だからこそ、何故?と困惑と苛立ちが沸き上がる。


何やら騒がしく振り返れば、騎士に付き添われ続々と入ってくる見知った貴族達。

ぞくりと、全身に悪寒が走る。


なぜなら、彼等は自分に(おもね)る者ばかりだったから。

そのなかには、宮廷医長ゼノンの姿もある。

騎士に連れてこられた貴族達も不安そうで落ち着きがない。

そしてバラン公爵に気付くと小声で口々に何があったのかと問うてくるが、バラン自身もわからない事には答えられない。

だが皆が感じている事は同じようで、その顔ぶれに最悪の予想が頭をよぎった。



「皆、揃ったようだな」

ガルーラ国王サイモンの声に、皆が一斉に頭を下げた。

広い謁見の間には、国王達とバラン達だけ。他の貴族達はいない。

そして騎士達がこの空間を囲むように立っている。


「さて、昨日アトラス国王より親書が届いた」

バランの体がびくりと揺れる。

「その内容なのだが、アトラス国で人身売買の摘発があったそうだ。その捕まった貴族はアトラス国の者だが、商品とされた人達はこのガルーラ国の民だったそうだ」

静まり返る空間に、さほど大きくもない国王の声が響く。

「アトラス国ではかなり厳しい尋問がおこなわれた様で、その貴族は結構あっさり吐いたらしい」


・・・・ジャーク侯爵・・・!


「人身売買の総元締めは、グリード・バラン公爵だと」


おのれ、おのれおのれおのれ!なんて役立たず!!


声に出さなくとも、その表情だけで何を考えているのかわかるほど、バラン公爵の表情は醜悪に歪む。

そんな彼を静かに睥睨し「申し開きはあるか?」と、問いかけた。


バランは感情を鎮める様に大きく息を吐き、何事もないような顔で国王を見た。

「その者の話に信憑性はあるのですか?私には人身売買など・・・身に覚えがありませんね」


どの口が・・・と、国王達が心の中で顔を顰める。

無言の国王に、さらに言い募るバラン。

「第一、アトラス国のその貴族と私は面識があるのでしょうか?何故、私の名前が出てきたのか皆目見当もつきませんよ。

証拠はあるのですか?まさか、その貴族の証言だけで私を罪人にしようとしているわけではないですよね?」


他国での証言など当てにはならない。証拠もないだろ?と、其れと無しに国王に圧をかける。

そうすればいつも国王は折れていた。


だが、今はそれが通じない事をバランは気付いていない。

威圧できていたのも、バランの子飼いで周りを固めていたから。今は亡き王妃やアシアス。サイモンの周りの大切な人達の命を盾に取っていたから。だが、今は?


愛する王妃は亡くしてしまったが、今を生きる大事な人達は、何よりも何処よりも安全が保障されている。そしてそれは、国王でもある自分達も。

だからこそサイモンは国王としての最後の仕事を全うしようとする。


サイモン達の態度がいつもと違う事にすら気付かぬほど、バラン公爵は動揺していた。

たかが他国の貴族の証言だけで、自分を捕まえる事など出来ない。出来るはずがない。と、自分に言い聞かせる。

これまでの証拠である書類は、隠し金庫に保管している。自分しか知らない、簡単には見つける事ができない場所に。

ジャーク侯爵が持っている証拠となる書類も、不測の事態が起きた場合にバラン公爵の手の者が処分する手はずになっている。


証拠がなければ、罪には問えないはずだ。

だから、大丈夫だ。

これまでも、様々な疑惑の目を自分に向けられてきたが、確かな証拠が見つからず捕まえる事すらできなかった。

だから、大丈夫だ。


絶対に・・・・・



「では、証拠があればいいのだな?」


凛としたその声に「え?」と驚きにサイモンを見れば、いつの間にか玉座の前に白いローブを羽織り美しい宝石が煌めく月と太陽を模した杖を持つ、見た事もない人が立っていた。

「何者だ!」と叫ぼうとしたバラン公爵は、その光景に言葉を飲み込んだ。


サイモンは玉座から離れ、側近達と共に右手を心臓の上に置き、上体を深く落とした。

それは、相手に対する敬意と忠義を示す、最上級の礼だった。

バランは驚き周りを見れば、室内を囲む騎士達も剣を掲げそれを示している。


言葉を失くす貴族達をよそに、その人は玉座に座る。

そして、まるで尊大さを見せつける様に足を組みひじ掛けに右ひじをつき、頬杖つく。

深くフードを被っている為に顔は見えないが、自分達を睥睨している事だけはわかった。


何故、玉座に座っている?

何故、彼等は臣下の様に礼をする?

何故、何故、なぜ・・・・


ざわつき始める貴族達に「静粛に!」と、国王である威厳そのままにサイモンが声を上げる。

そして、玉座に座るその人に一礼すると一歩前に出る。


「本日、今この時をもってこの国はガルーラ国改め、レグルス国となる事を宣言する」


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