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バラン公爵は、ここ数日いつもと違う空気に神経を尖らせていた。
先日、他国と初取引があったはずのジャーク侯爵からの報告がまだきていないのも原因の一つだ。
国内では、宰相である自分に逆らえる貴族はいないと自負している。
事実、この国で一番の富を築いているのだから。
貧しいこの国だ。何かしらの恩恵を受けようと群がる貴族共は多い。それらを利用したおかげで、宰相という地位に就く事ができたのだ。
今では国王の周りは、自分の息のかかった貴族で固めている。
国王は短命だ。呪いではないかと言われている。
バランは呪いなど信じてはいないが、これまでの王が短命なのはやはり気になる。
国一番の権力は欲しいが、命のリスクを冒してまでは欲しいとは思わなかった。
だが、ふと思うのだ。誰もが逆らえないほどの力を持ち、表に出なくても陰で支配すればいいだけの話ではなか・・・国王を傀儡にすればいいのだから。
最終的には娘を王太子に嫁がせ、子を成しそしてその子もまた子を成し・・・自分の血を繋ぎ王家に代わりこの国を治める。いつしかバランは、夢想を現実にしようと計画するようになる。
その夢も掴めるほど、目の前に近づいてきていると思っていた。
だがここにきて、見えない何かに邪魔をされている気がしてならない。
何が?と聞かれれば答えられない。何故なら、過ごす日常に変化が無いからだ。
だから何故そう思ってしまうのか、自分でも不思議だし、気持ちが悪かった。
そして、自分の思い通りにならない人間に対し、苛立ちも募っていく。
王太子と娘の結婚を打診しても、本人だけではなく国王からも断られていた。
この件に関しては今に始まった事ではないので、何かに邪魔をされている・・・と言うのではなく、何時まで経っても思い通りにならない事への苛立ちだ。
何もかもが自分の思い通りに動くとは、流石に思ってはいない。と言うのは建前で、大概は思い通りにできると思っている。
宮廷医長ゼノンを抱き込み、王太子と王女に毒を盛らせ続けている。いくら遅効性とは言え、毒だ。
だから早く娘を嫁がせ、子を成してもらわねばならない。
現に王太子は、見るからにくたびれた様子で、しかも将来は短命と決まっている。自分の所為とは言え、国王になる前に死んでしまいそうで、気が急いてしまうのは仕方が無い。
そう思っているのに、強情な死にぞこない父子が首を縦に振らないので、ここまできたのに足踏み状態だ。
王女も、数回しか会ったことは無いが、一緒に始末してしまうには惜しいほどの美貌を持っている。
王太子を始末した後に、商品として高値で売ってしまおうかとも思ったが、場合によっては自分の妾の一人として傍に置こうかとも考えていた。
どこまでも身の程知らずで、我欲の塊で、驕り高ぶる人間。それが、バラン公爵なのだ。
この栄耀栄華が、この先も続くのだと信じて疑わない彼。だからこそ気付かないし、気付けない。
もうすぐ、狩る側から狩られる側になるという事を。
新たに連載投稿してます。現代ファンタジー系です。
「助けた彼には悪魔が憑いていました」https://ncode.syosetu.com/n2045kz/
一度引き下げた小説ですが、修正しつつ再投稿。タイトルも変更しています。
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