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サイモンと魔法での再契約書を交わし土地を正式に返還してもらうと、サイモン等五人はあからさまに安堵したように力が抜けた表情をしていた。
いつ死ぬかもわからない、その死を利用しようとする奴らに囲まれて、気の休まる日がなかったのだろう。
そんな中で息子を守る為に、わざと疎遠になっていたのだ。が、その気持ちは息子には一切伝わってはいない。
アシアスは父サイモンに対しては、既にどうこう思う気持ちは無くなっていた。
ただ、ルイナに対して一切手を差し伸べなかった事に対してだけは、未だに怒りの念を持っている。
ほぼ事故同然で生まれた子供とはいえ、サイモンの子供なのだ。
一度アシアスはルイナの事を訊ねた事があった。
その時の答えは無情としか言いようがなく、アシアスが父である国王から距離をとる原因の一つでもあった。
「私の子はお前だけだ」
温度のない冷たい声は何年経っても忘れることは無い。
サイモンは妻である王妃を愛していた。周りがほぼ敵だらけの中での、唯一の味方で癒しだった事は知っている。
死んでしまった妻をいまだに想い、例え事故だったとしても他の女と子を成してしまったという嫌悪感を抱いている事も。
だからアシアスはルイナを愛した。唯一の家族だと思い慈しんだ。一日でも長く生きてほしくて。
今こうして健康になり、二人笑い合えるなんて想像もできなかった事だ。
そんな距離のある親子。こうして顔を合わせてもろくな会話も無いし、続かない。
サイモンは話したそうにチラチラ見ているが、アシアスは必要最低限の塩対応。
居心地の悪い空気の中、思わず遠い目をしてしまうファラトゥール。
まぁ、私にはわからない確執とかがあるんだろうから・・・部外者の私は何も言えないけど・・・
この件が落ち着いたらゆっくり話し合って欲しいかな。仲が悪いより良好な方がいいし。
アシアスは塩対応、ルイナに至っては、自分は関係ありませんと言う顔をし静観の姿勢を崩さず、サイモンに話しかける事もない。
そんな二人を見つつ、会合を終了し地下工房へと戻ったのだった。
「はぁぁ・・・疲れたぁ・・・」
ファラトゥールはアシアスとルイナを送り届け、レインフォード公爵邸に帰りベッドへとダイブした。
今日は肉体的にというより精神的疲労が大きい。
サイモンとの交渉や打ち合わせに関しては、思い通りにできたのでさほど疲労感は無い。
ならば何がと言うと、アシアスとルイナ、そしてサイモン・・・・この三人が醸し出す空気に疲れ切ってしまったのだ。
もぉ・・・超ギッスギス!!やるんなら三人でやってよって感じよね。私を巻き込まないで欲しいわ。
マジ、この問題解決したら強制的に会談の場を設けるわ。和解はできなくてもこれ以上悪くなることは無いでしょ。
取り敢えず親子間の問題は横に置き、今日のサイモン達との会談内容を記録せねばと、このままでは眠ってしまうと気合を入れて体を起こした。
そして、あちこちに放っている式神にチャンネルを合わせ状況を確認。
アトラス国のジャーク侯爵の動きは今の所ない。
それは、商品として売られた人達が次々消えている事がまだ、ジャーク侯爵まで下りてきていないという事。
購入した人達も、大っぴらには騒げない事もいい塩梅で情報を遅らせている。
そして新たな取引が計画されていた。
七日から十日以内に動きがあると睨んでおり、今捕らわれて出荷待ちの人質はほぼ、式神に入れ替わりが完了している。
ジャーク侯爵家の至る所に監視カメラのごとく式神が隠れていのだ。
だからこそ彼等の行動が手に取るようにわかり、今後の予定も立てやすい。
それはバラン公爵家も同じで、バランは予定しているジャーク侯爵が行う人身売買取引が何の問題もなく終わるのかを静観している状態だ。
奴等の動きがあるまでは、食料問題を片付けていかないとね。
これには収穫まで最低でも七日かかる。リウム伯爵からは旧知の仲でもある隣の領に苗を譲渡したと連絡があったわね。
ジルト伯爵家は遠方の為、伯爵の了解の元、式神を連絡係として置いてきている。当主のみに使用可能と言う制限付きで。
ジルト伯爵家の面々はリウム伯爵家に比べれば協力的で信用はできる。
だが、ルイナが当主以外は信用できないと騒いだのだ。
「確かにジルト伯爵家の方々はリウム伯爵家の方達より、家族一丸となって協力はしてくれています。ですが!両家の令嬢達はお兄様を狙っています!当主以外は信用できません!」
大いにルイナの主観が入った意見だが、アシアスも「令息達がルイナを狙っていた!」と、同じように騒いでいたので、取り敢えず当主限定とした。
二人が可愛いファラトゥール。たとえそれが真実でなくても、その願いを叶えてしまうくらい、大切なのだ。
ましてやその内容が、二人にとってあまり良くない事なのであれば、無条件でそれに従うのみ。
ただ単にルイナは、将来的にファラトゥールを義姉に迎えたいという野望がある為、アシアスに余計な虫が付かないよう警戒しているだけなのだが。
そんな事とは露知らず、ファラトゥールは大切な二人をただひたすら大切に守り、甘やかすのだった。




