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「・・・・やはり、呪いだったのですね」
歴代国王が短命だったことは有名で、呪いではないかと噂にはなっていた。
だが、何が原因の呪いなのかが分からない。ケイレブ程度の魔法使いには当然の事ながら見抜けるわけもない。
「単なる偶然だ」と笑っていた歴代国王達も、短命だった。
「この土地は私のものだから、他者に略奪された場合は何らかの罰が下されるのは、魔法契約では普通の事だ」
「では、この土地を正当な所有者に返せば、呪いは解けると・・・」
「そう言う事。問答無用で返してもらうがね」
ファラトゥールの強気な言葉にサイモン達は互いに顔を見合わせるも、既に答えは決めていたようで静かに頷いた。
「承知しました。この土地をお返しする事に関しては異論はありません。ただ、この国は色々問題を抱えており、恥ずかしながら私の手には負えない状態で・・・」
「あぁ、バランの事?」
あっさりと元凶を言い当てられ、それぞれの胸に沸き起こるのは、全てを見透かされているような言い知れぬ恐怖と、偉大なる力への期待。
だからこそサイモンは確かめる為に、ファラトゥールに問わずにはいられない。
「ファーラ様は、五百年前の大魔法使いであるファーラ様で間違いないのですね?」
魔法契約書にその名が記されているのだから、彼女は本物である事はわかっている。目の前で展開される、今では失われた高度な魔法が雄弁に語っているのだから。
分かってはいるが、問わずにはいられなくなったのだ。自分の胸中に渦巻き始めた希望と言う感情に納得したくて。
「そうだ。私は大魔法使いと呼ばれていたファーラの生まれ変わり。ファーラ・レグルスの魂を持つ者だ」
「レグルスと言えば、五百年前この大陸全体を治めていた帝国の名前だと理解しているが・・・」
「そう。当時のレグルス帝国の皇帝ドミナートル・レグルスの義妹が私だ」
「義妹?ファーラ様は確か平民の出だったのでは・・・」
「当時の皇帝は実力主義者だった。平民だろうが孤児だろうが、能力があれば地位を与えていたのだ。皇帝自身、彼の先祖は農民だからね」
この国の初代だって、平民魔法使いだったじゃないか、と笑う。
皇帝ドミナートルの時代は、これまでの帝国歴の中で一番豊かで栄えていた時代だった。
そんな帝国を狙う他国から、国と皇帝を守っていたのがファーラだったのだ。
「皇帝は私を手元に置きたくて、義妹にしてしまったのだよ」
「普通は、結婚して妻として縛り付けるのでは・・・」
「あぁ、私独身主義だったからお断りした。魔法の研究が楽しくてね。皇后をやっている暇があるなら魔法の研究をしていた方が、国の為にも私の為にも有意義だ。で、この土地を貰ったわけだ」
何が「で」なのかはわからないが、ファーラに好意を持っていた皇帝は結局フラれ、諦めきれず義妹として地位と土地を与えたのだろう。自分に縛り付ける為に。
確か皇帝ドミナートルは、生涯独身だったはず。
後継は弟の息子に譲ったと。それが、帝国解体への第一歩だったと記されていたな。
サイモンは歴史書に書かれていた帝国の末路を思い浮かべる。
要は後継者が凡庸過ぎたのだ。ただの凡庸ならまだいい。凡庸で我欲が強い者が皇帝となった。ただそれだけで全てを失くした。
帝国が瓦解するにはそう時間はかからなかった。それにより、アトラス国やセイリオス国が興ったのである。
サイモン達は納得したように頷くと「我々は何をすればいいでしょうか」と、既に国王と言うより臣下の顔をしている。
「まずは、この土地を私に戻してもらう。だが、しばらくは国王の役目を続けて欲しい。バランの件だが・・・・」
バランの悪事を映像を交えて説明。そして今後の方針を伝えた。
「近々、アトラス国からバランに対しての書簡か使者が来るはずだ。その時に勝負をかけようと思う」
ガルーラ国王に送った密告書を、アトラス国王へも送った事を明かす。
「恐らく、裏取りができた瞬間に捕縛されるだろう。今現在も、絶賛監視中だ」
アトラス国も必死だろうな。なにせ、これまで悪事の証拠を掴めなかったジャーク侯爵家に対しての、貴重なタレコミだ。
まぁ、半信半疑ではあるだろうが、式神で手紙を送った事が功を奏したようだし。
見た事も聞いたこともない魔法を見せつけられ、アトラス国の人達はかなり舞い上がっていたんだよね・・・なんか、チョロイな・・・・
魔法と言う力が、ほぼ廃れたこの世。上手く力を使えば、今世は世界征服もできそうだな・・・と考えつつも、最終的には面倒くさいなと目の前の事に意識を切り換えた。
「今現在、バランの周りは私の協力者を紛れ込ませている。余計な話が耳に入らないようにね」
商売での最大の協力者でもある相棒が逮捕されたなんて、そんな話が聞こえた瞬間、逃げられたら全てが台無しだ。まぁ、逃がすつもりはないが。
この国・・・いや、私が平穏にそして自由に暮らすためには、害虫は確実に仕留めるのみ。
描いていた未来がすぐそこまできている事を確信し、思わずニヤリと令嬢らしくない悪人の様な笑みを浮かべた。




