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打ち合わせした後の彼等の行動は、とてつもなく早かった。


ファラトゥールは、アトラス国内での人身売買をまず片づけ始めた。

セイリオス国とグルリア国にはバランの手は幸いにも回っていないかったが、比較的犯罪に対しての法律が緩い他国へと売買を進めようとしていた事を知り、それを妨害した。

と言うのも、セイリオス国もグルリア国も貧困層への対策がかなり進んでいる為、違法な売買等に対しかなり厳しい取り締まりをしている。

反対にアトラス国で事が起きているという事は、他の二国と比べてまだ隙があるという事。

だが、それもじきに無くなるだろう。この事件が間もなく発覚するのだから。


バランの商売も正直なところ誰にでも売ればいいというものではない。

商品は自国で生産できるが、どこに売るのか、買い手は信用できるのか、と言う審査にもかなり時間をかけている。

慎重なのが幸いし被害者数は思っていたよりも多くはない。が、そこそこの人数にはなっている。


元々バランは違法薬物で儲けていた。

その過程で、貧困層の子供達に生産、販売をさせていたが、他国での薬に対する取り締まりが厳しくなり、今度は薬の規模を縮小し女子供を商品とし始めたのだ。

人身売買はガルーラ国でも極刑にされるほどの重罪ではあるが、己の地位を最大限に生かしながら堂々と商売している。


バランが本当几帳面でよかったわ。それがまた命取りになってるんだけどね。証拠ありすぎだし。

この国では誰もヤツに逆らえないから天下だったんだろうけど、他国では違うからね。

こんだけ堂々と証拠を手元に保管してるって、どんだけ危機感が無いんだか・・・ってか、誰も何も言えない事を良い事に好き勝手してたんだろうけど・・・

ふふふ・・・・それもあと僅か・・・・ギャフンと言わせてやるわよ!


ふふふ・・・・と、嗤い続ける昭和臭漂うファラトゥールだった。



その頃アシアスとルイナは、ファラトゥールに彼等の留守番式神を作ってもらい、互いに準備に不備は無いか確認していた。

隠密行動な為、護衛は当然の事ながら式神。人型ではなく、式神ファイブと同じ小鳥だ。

式神ファイブ同様、彼等にも自己判断能力があり、有事の際には王子と王女を守りながら戦う事もできる。小さいからと侮るなかれ。

そんな力強い護衛を胸に潜ませながら二人は、ファラトゥールが設置してくれた転移魔法陣で、アシアスに協力的な二貴族のうちの辺境に領地がある貴族領へと向かうのだ。


リウム伯爵家とジルト伯爵家は、未来を見据えたアシアスの政策に協力的な貴族だ。

リウム伯爵領は比較的王都から近い場所な為、アシアスは良く足を運んでいた。

反対にジルト伯爵領はセイリオス国の国境に近い場所にあり、早々行ける距離でもなく、主に手紙のやり取りを頻繁にして互いの近況を報告し合っていた。

ずっと気になってはいたが、毒の所為で体調も思わしくなかったアシアスが長距離の移動に耐えられるわけもなく、半ば伯爵に任せっきりにしていた事をずっと気に掛けていたのだ。

だから、一番初めに訪れるのはジルト伯爵領と決めていた。


アシアスのバックには肥料と苗が。ルイナのバックには食料がありったけ詰められている。

「ルイナ、準備はいいか?」

「えぇ、お兄様」

「では行くとしよう」

兄妹は手を握りあい、転移魔法陣に魔力を流したのだった。



アシアス達が転移魔法で降り立ったのは、ジルト伯爵邸内のある一室。

既に日時は伝えてあったので、室内には伯爵当主夫妻と次期伯爵である子息と令嬢が待っていた。

「ジルト伯爵、久しいな。ずっと任せっきりで申し訳なかった」

「殿下、ご無沙汰しております。王宮内の話はわずかではありますが聞き及んでおります。ご無事で何よりでした」

「心配かけた。私だけではなくルイナもこの通り共に動けるようになった」

「初めてお目にかかります。ガルーラ国第一王女ルイナでございます」

「ジルト家当主バレッド・ジルトと申します。ルイナ殿下にお目にかかれ光栄に存じます」

そして妻エイヴァ、息子ケイド娘アイラを順に紹介した。

「では早速だが作業場に移動しよう」

アシアスとルイナは王族とは思えないほどの軽装で、動き易さ重視のいでたちだ。

対するジルト伯爵家も、伯爵と子息が作業着、妻と娘も動きやすそうなシンプルなドレスを着ている。

四人は屋敷を出て、敷地内にある作業小屋へと向かった。


作業小屋の前には数十人の男達が、伯爵が来るのを待っていた。

「皆、待たせて済まない。こちらの方がガルーラ国王太子アシアス殿下、そしてルイナ王女殿下だ」

男達は一斉に膝をつこうとしたが、アシアスが止めた。

「堅苦しい挨拶は不要だ。皆には苦労をかけさせて申し訳ない」

そういい皆の顔を見渡せば、疲労の色が濃くそしてどこか諦めの様な表情を滲ませている。

どれだけ品種改良しても、うまく育ってくれない。領民がなんとか食べていけるギリギリの収穫しかないのだ。

「今日は肥料と苗を持ってきた。これらには、豊穣の魔法がかけられている」

『魔法』と言う言葉に周囲が騒めいた。この場である程度事情を知っているのは、伯爵家のみ。でなければ、転移魔法陣も設置できない。

騒めく彼等を手を上げ静めると、アシアスは名前を明かさず「とある大魔法使い様がこの不毛な地を変えようとしてくれている」と、大量の肥料と苗をショルダーバックから出してきた。

さほど大きくもないバックから、その容量を超えた物体が次々出てくるのだ。その光景だけで、アシアスの言葉を信じるに十分だった。


伯爵領とはいえ、王都以外は不毛の地。領地は広くとも住む人は少なく、町とか都市などには遠く及ばない、村としか言いようのない状態だ。

領民はと言うと、それこそちょっと栄えている村くらいの人数しかおらず、ほとんどが農業に従事している。

どんなに手を尽くしても思うような成果が出なかったところに、魔法と言う未知であり五百年以上前には誰もが持っていた力。

小さなバッグからどんどん出てくる肥料と苗。


周りの人達は驚きと共に心の奥底で、これで大丈夫かもしれない・・・と漠然とだが期待感が広がっていった。


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