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アシアスとルイナは、家族ごと保護と言う規模の大きさに目を見開いた。
被害にあった人達は、一人や二人ではない。ほぼ孤児だった子が多かったが、騙され家族と引き離された子もいる。
その人数に少なくとも身内を二人と見積もっても、結構な人数になるはずだ。
「家族ごとって・・・・お屋敷は広いのですか?」
「あぁ、大丈夫。屋敷には空間魔法をかけているから、見た目は小さな小屋みたいな家だけど、中はこの地下工房並みに広いから、まだまだ余裕よ。彼等のお世話は式神達がしているし」
しかも拡張もできるの、と笑うファラトゥール。
元々はごく普通の屋敷だったが、保護しなければいけない人数を多く見積もり、魔法で空間を広げたのだ。元々ある空間を広げる事は得意だから。
ファラトゥールも何度か保護された人達と会っており、その中で比較的元気な人達が畑を作ったりと働き始めていて、思ったほど鬱屈とした雰囲気ではない。
そう言う人達がリーダーとなり屋敷内の人達を纏めている所為か、精神的に傷つき引きこもっていた人達も徐々に外に出るようになり、まだ屋敷内だけではあるが他者とも交流ができるようになってきていた。
「こちらは任せて。売人がバランにいつまでこの状況を隠せるかよね。近いうちに身内同士で足の引っ張り合いが始まって、自滅するから。私はその火種を投げ込むだけだからね」
ニヤリと笑うファラトゥールの顔は、まさに悪人。
だが、アシアスとルイナの心の中では『なんて愛らしい!』と大騒ぎ。どんな姿でも可愛らしく見えるという、すっかりファラトゥールに毒されてしまっていた。
「正直、こんな力業も貧しいこの国だからできたようなもの。売られた子たちの身内に何の柵も無く、すぐに今の環境を捨てる事が出来たから可能だったのよ」
それだけ、貧しくて苦しかったってだけなのだけれど・・・・
暗く沈んできた空気を変えるように、ファラトゥールはパンと手を叩き明るい声を出した。
「さて、アシアスとルイナには食糧問題を手掛けてもらうわ」
そう言って、二人にショルダーバックを渡した。
茶色い鞣し皮のバックで、それほど大きくはない。
「これは?」
アシアスがカバンの中を見るも、何の変哲のないバッグ。
「それはね、無限収納バッグよ。見た目は普通に見える様にしてるし、二人以外が手にすればそれこそ普通にしか使えないの。つまりは、使用者限定魔法をかけているから、二人にしか使えないって事ね」
「無限収納って事は・・・・」
「何でも収納できるって事ですか!?」
幼子の様に目をキラキラさせる二人が可愛らしくて、にっこり笑う。
「その中には、豊穣の魔法をかけた苗と肥料が入ってる。アシアスに協力してくれている貴族に渡して。あと、あなた達から見て信用できる人達が他にもいるのなら、それらを分けて仲間に引き入れて。まずは恩を売るのよ」
「助ける」のではなく「恩を売る」。ファーラらしいなと二人は思わず笑ってしまう。
正直な所、勝手に自分の土地に居座る人達をファーラ自身は助ける義理は無い。これまでの経緯はどうであれ。
責任があるのは略奪したガルーラ王家にあるのだ。だから彼女がこの現状を気に入らなければ、魔法を使って一斉に追い出す事も可能なはずだ。
だが、彼女は全てをまるっと受け入れようとしている。アシアスとルイナには感謝しかなく、何としてもファーラの力になろうと思うのだ。
王家の一員として。
・・・・と、二人は決意を新たにしているが、ファラトゥールには彼女なりの事情があるだけで、それほど深くガルーラ国民に思い入れも情もあるわけでは無い。
ただ、この土地を取り戻した暁には自分の国の民となるのだから、嫌われるよりは慕われた方がいい。それだけだ。
それに貧しさ故、騙されて辛い思いをしている人達を見捨てる事も出来ない。
それを救うだけの、力があるのだから。物理的に。
五百年前は戦争ばっかりで、自分の事で手いっぱいだったけど。
今世は、色々恵まれているからその分還元しとけば、最終的には自分に返ってくるんじゃないかと思う訳よ。
有能な人材の命の恩人になれば、将来的な目標でもある左団扇の生活ができるはず!!
私が国王になった後、アシアスに正式に譲渡すれば呪いも発動しないし、好きな魔法の研究に没頭できるし。
「ふふふ・・・・」
まだ見ぬ薔薇色の未来に思いを馳せ、気持ち悪い笑みを浮かべるファラトゥール。
そんな彼女に心酔している兄妹には、ファラトゥールのどんな表情も誰よりも美しく見えるというフィルターががっつり装着され、うっとりとした眼差しで見つめているのだった。




