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セレムの滞在は公爵邸に帰ってきたその日だけで、翌朝には砦へと帰っていった。

今更ながら、公爵家当主としての執務はどうしているのと思い家令に聞けば、重要なものは砦で決済し、比較的簡単なものは家令が決裁しているらしい。

ファラトゥールがいるから砦に詰めているわけではなく、普段から砦で生活しているのだそうだ。


「ジェイドって、本当に優秀よね!今回の一人目令嬢の調査書もとても助かったわ。特別手当を思いっきり弾ませてもらうわ!」

セレムも居なくなり、上機嫌で工房へと向かう準備をするファラトゥール。


亭主(仮)元気で留守がいい!!はぁ~、最っ高!!


アシアスとルイナに生身で会うのは久しぶりで、それも楽しみで仕方が無い。

二人の前では、自分を偽る事をしなくてもいいのだから、とても楽だ。

先日はファラトゥール子供バージョンの式神を向かわせたが、何故か二人とも式神を膝に乗せたままでその日は終わっていた。

確かに癒しの為に子供バージョンを送ったのだが、抱っこで終わるとはファラトゥールも思わなかった。


まぁ、式神ファイブが集めてくる情報で精神的に疲弊していただろうから、癒し目的で子供バージョンを送ったんだけど・・・・

まさかあそこまでウケるとは・・・・

式神だから食事は必要ないのに、二人とも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたのよね。


昨夜の事を思い返しながら、お留守番式神を召喚。

「何かあったらすぐに連絡してね」

「承知しました」

式神の返事に頷き、ファラトゥールは地下工房へと転移したのだった。



アシアスとルイナが来るのは夕方過ぎ。

それまでは、一人黙々と情報整理をする。


う~ん・・・まさか一人目令嬢の義妹の婚約者が、ガルーラ国の中枢悪徳貴族と繋がっていたとはね・・・


正直、意外な繋がりにファラトゥールは「これは運命かも」と、人の悪い笑みを浮かべる。


アシアスが自信なさげに、バラン公爵が黒幕かもって言ってたけど・・・まさにその通りだったなんてっ!!面白味も何もない。誰もが分かるくらい堂々と悪事を働いてたのね。

バラン公爵とその腰巾着達は私が処理するとして・・・食糧問題はアシアスに任せようかしら。

アシアスに協力してくれてる貴族に、豊穣の魔法をかけた肥料と苗を配ることにするかな。

取り敢えず、二つの事を並行して進めていこう。時間短縮、短縮!


相変わらず胸糞悪い情報ばかりだが、それに対しての対処も始めている。

バラン公爵のメインの事業は、人身売買だ。

ファラトゥールが王女時代セイリオス国と国交を繋いでいた国々は、全て人身売買を法律で禁じていた。

中には合法にしている国もあるが、かなり少ない。セイリオス・アトラス・グルリア国は勿論、ガルーラ国でも違法である。

人身売買は問答無用で極刑だ。

だが世の中、裕福な人達ばかりではない。中には生きる為の手段として地下に潜り、違法な生業に身を落す人もいるのだ。

だが、バラン公爵は違う。ただ、己の権力と金品欲しさの為だけに、おもちゃを売るかのように人を売買していた。

その窓口となっているのが、バランが運営している孤児院。

貧しいこの国では孤児を欠く事は無いのだから。そして貧しさ故、子を売る親も多い。

それ以外にも、少しでも見目が良いと『どこぞのお屋敷で使用人を探している』と嘘をつき、そのまま売られるケースもある。

兎に角、様々な手口で犯罪を犯していた。


ただ・・・これに関わってる貴族が多すぎるんだよなぁ・・・

しかもココ、貧しいとはいえ、沢山の人が住んじゃってるし。

取り戻したとしても、国として運営しなきゃいけない事は決定事項。

となると、やっぱり優秀な人材は必要。バラン公爵と一緒に断罪される分の人数・・・・の半分は必要かな。


そう思いながら情報を精査していて気付く。

―――あれ?こいつ等居なくなっても大丈夫じゃね?と。


どこの国でもそうだが、地位だけで仕事のできない貴族は存在する。

そんなバカ貴族が何故、その役職に居座り続ける事ができるのかと言うと、下で働く者が優秀だからに他ならない。

前世で見たニュースを鮮明に思い出す。大国での指導者を決める選挙を。トップに問題があっても、周りを優秀な人材で固めておけば、国は成り立つのだ。


バラン(←既に呼び捨て)もその手下も、仕事できない奴ばっかじゃん。

下で働いてる人達は、ヤツに弱みを握られて逆らえないだけだし・・・わぁ・・・なんて脆い地盤なのかしら。それでもまかり通ってたんだから、これまでどれだけの人達が被害にあっていたんだか・・・

だったら、やる事は一つよね。


ファラトゥールは、バラン達に仕方が無く従っている人達の事情を徹底的に洗い出し始めたのだった。



集中していた所為で気付かなかったが、既にアシアスとルイナが来る時間帯になっていた。

ふう・・と息を吐き、冷めたお茶に口を付けると同時にルイナが駆け込んできた。

「ファーラ様!お会いしたかった!!」

そう叫びながら、ルイナはファラトゥールに抱き着いた。

「ルイナ、久しぶりね。中々来れなくてごめんなさいね。体調はどう?」

「はい、とても快調です。昨日も小さなファーラ様に癒されて、今日も大好きなファーラ様に会えて、絶好調ですわ!!」

ルイナはあの病弱さは見る影もなく、まだ細めではあるが徐々に女性らしい本来の姿に戻りつつあった。

ファラトゥールはルイナを抱きしめながら、肉の付き具合だとか、抱き着く腕の力強さだとかを確認し、満足そうに微笑んだ。

ひとしきり抱き着いて満足したのか、ルイナはファラトゥールから離れると、後ろに立っていたアシアスに振り返る。そして、とんでもない事を言った。


「お兄様!お兄様もファーラ様に抱きしめて頂きましょう」と。

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