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これまで、公爵家に乗り込んできた令嬢は四人。結婚してから二週間ほど経ってから、一人目がやってきた。
一人目の令嬢は、伯爵令嬢だと言っていた。
レインフォード公爵とは、母方の親戚だという。
金髪と言うよりは黄色と言った方がしっくりくる髪色と、くすんだ緑目の普通の容姿の令嬢だった。レースとリボンがふんだんに使われたフリフリのドレスが見るからに痛い。
自称、ファラトゥールより二歳年下だとか。
だが家令は会った事のない令嬢だと言っていた。
結婚式には、招待客に入る事が無い感じの距離の親戚らしい。
丁寧な言葉づかいではあるが、ファラトゥールの容姿を貶めるような言葉を端端に感じるのは、かなり意図的なのだろう
「セイリオス国の王女殿下と聞いていたのですが、とても地味な・・・あ、失礼。落ち着いた感じの方なのですね。てっきり煌びやかな方を想像していましたので。このアトラス国の王女殿下のような」
人を小馬鹿にしたような笑みは、滲み出る卑しさと彼女の性格を物語っているようだった。
確かにこのアトラス国の第一王女は美女として有名だった。蜂蜜の様な輝く金髪に紺碧の様な瞳。だが彼女は他国の王子妃になる為、既にこの国にはいない。
だが未だに、彼女の容姿はこの国の女性たちの憧れでもあった。
そしてセレムも、外見だけは一流の美男子。
いくら顔のつくりが美しくとも、ファラトゥールの様な地味な色の人間は似合わないと、暗に貶し下に見ているのだ。
そして次第に自画自賛し始めたのだから、ファラトゥールもあっけに取られてしまう。
「茶色い髪って地味に見えるでしょ?公爵様の妻はもっと華やかな方がいいと思いますの。その点、私は明るい金髪。自慢ではありませんが透ける様な白い肌だと皆さまが言ってくれますのよ。自分で言うのも恥ずかしいのですが、私の美しさは社交界でも有名らしいんですの」
思わず「金髪?」と、オウム返ししたファラトゥールに令嬢が「何か?」と睨んでくる。
睨まれても、醜いだけで大して怖くはないので、親切心を前面に出し金髪とはこれを言うのよと、使用人の中でも美しい金髪を持つ女性を呼んだ。
「失礼ですが、貴女の髪色は金髪ではありませんわ。金髪とは彼女の様な髪色を言うのです。それと透ける様な白い肌と言うのも、彼女の様な肌を言うのですわ」
ピシッと言ってやれば、令嬢の顔が今以上に醜く歪む。
だって、どう見ても金髪じゃないんだもん。金髪見た事ないのかなって思っちゃった。あ、自慢してた王女は金髪だったわね。見た事あるじゃん。
しかも、透ける様な白い肌?おしろいをこれでもかと叩きまくって真っ白ではあるけど・・・・なんか公爵家と少しでも縁がある人間って自意識過剰気味?鏡みたことあるのかな。
こんなのが社交界で美人と言われているの?ヤバくない?
自分に都合の良い、現実を見ない思い込み人間が多いのかしら・・・鳥肌立っちゃう。
―――・・・・あれ?・・・・もしかしてこの人・・・結構年齢いってるんじゃない?
化粧で誤魔化してる?
あまりにも真っ白に塗りたくっているその顔を、じっと見つめていたファラトゥールは気付いてしまった。
私も前世で記憶にあるわ。朝は化粧のノリがいいんだけど、午後とかって気付けば目じりの小皺とかにファンデが溜まってるのよね・・・・
彼女、塗りすぎでヒビ入ってるじゃん・・・ヒビは初めて見るわ・・・・
キャンキャン騒いでいる彼女を、思わずガン見するファラトゥール。勿論、顔面に走る亀裂に目を奪われているだけなのだが。
首の皺は・・・ないわね。本当に若い?お手入れを怠ってるだけ?・・・・にしても、私より確実に年上よね・・・・
どうしても気になって鑑定魔法を展開。
・・・・あ、二十一才?五歳もサバ読み!?無理あるわぁ!
頭の中で相変わらず忙しなく騒ぎながらも、セイリオス王家特有の「セイリオスのエメラルド」と呼ばれる澄んだ瞳で、ヒビの数を数えはじめた。
反論するわけでもなく、ジッと見つめられる伯爵令嬢。次第に勢いが無くなっていき、あれだけ自分勝手に騒いでいた口をとうとう閉じてしまった。
相手の間違いを正し、赤子の様な澄んだ美しい緑色の瞳がジッと見つめてくるのは、なかなかに攻撃力が高かったらしい。
令嬢は「さっさと離婚して、この家から出ていきなさい!」と、まるでボコられたチンピラの様な捨て台詞を吐いて帰っていった。
滞在時間は約一時間。
意外と早いのね・・・粘りに粘って延々と嫌みを聞かされるかと思ってたんだけど・・・・でも、何をしたかったのかな?
あ、離婚して出て行けって言われたわね。まぁ、いずれするんだから、スルーでいいわね。
それよりも、彼女の自画自賛に怒りより驚きの方が勝ったわ。でも、後からじわじわ怒りが込み上げそうな気がする・・・やだな・・・・
そう思いながら、何とか伯爵令嬢の言動をレポートにまとめた。
すぐにセレムに送った方がいいかと家令に相談したら、恐らくまた何かしら来るだろうという助言に何人か溜めてから送る事にした。




