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腹を満たし、一息吐いたところで三人は今後について話し合いをすることにした。
アシアスから先程、地下工房で話していた内容をルイナにも話せば、全面的にファラトゥールに協力する事を約束してくれた。
一体何をすればいいのかと二人に聞かれ、取り敢えずはこの国中のありとあらゆる情報収集を頼んだ。
貴族間で囁かれているものでもいいし、使用人達の噂話でもいい。市井で囁かれている事でもいいし、笑ってしまう様なくだらない事でも何でもいいのだ。
アシアスも執務をある程度担当しているのだろうから、その内容も知りたい。
所謂、間諜の様な役目である。
ファラトゥールは、兎に角この国の事を知りたかった。
現状、ガルーラ国の情報がほとんど無いのだ。もたらされる情報を精査し、今後どうするかを決めようと思った。
「無理はしないで。中枢の情報は私がやるわ。それと一応、二人は病弱設定の方が安心かな?」
いきなり健康になった二人のこれからを、心配するファラトゥール。
治したのは彼女だが、健康になった二人に更に別の方法で命の危険が訪れるかもしれない。
アシアスに関しては徐々に治しても良かったかなとも思うが、ルイナは正直な所かなり危なかった状態だ。
「未だ犯人が分からない以上、守りを固めないといけないわね」
ファラトゥールは、五百年前に使用人に渡していたペンダントを二個出し、それぞれに与えた。
「これでルイナも地下工房に来れるわよ」
アシアスとルイナは嬉しそうにネックレスを受け取り、さっそく首にかけた。
「そのペンダントには、幻術を付与してるから、周りには私が回復魔法をかける前の姿に見えるはず。それと、毒を感知できるようにしたから」
「え?そんな事が可能なのですか?医師ですらわからないのに・・・」
「その医師がグルだったら、話は変わってくるわよね」
「・・・・・そんな」
「宮廷医が・・・・」
かなり信頼していた人物だったのだろう。二人とも愕然としている。
別に意地悪を言ったわけではないし、いたずらに不安を煽ったわけでもない。
ファラトゥールが回復魔法で解毒したが、使われていた毒はあまりにもポピュラーなものだった為に、医師がわからない訳が無いと思ったのだ。
つまりは、彼等を診察した医師が一番怪しいと言っているようなものなのだから。
彼等の症状を聞くと昔からある、ゆっくりと苦しめながら殺していく、そんな毒が使われていたのではと推測。
ファラトゥールが鑑定して確認したのだから、日常的に食事などに混ぜられていたのだろう。実際そうだった事が後に判明する。
その毒が分からないとは、本当に知識が無いか、わざと見逃していたかのどちらかだ。
幼い頃から診てもらっていたという、医師。年齢は国王と同じ位の年齢で、ファラトゥールから言わせれば、若い。
う~ん・・・国王も下手すりゃあと五年くらいで死んじゃうし、政権を握りたい貴族の後ろについちゃったのかな。
それとは別に、幼い頃からお世話になってる人に裏切られるのは、きついよね。
「ペンダントは服の中に隠しておいてね。毒や敵意を感知すると少し熱を帯びるから、すぐわかると思う」
「・・・わかりました。未だ信じられない気持ちで・・・・ですが、こちらも命がかかっているので、見極めたいと思います」
アシアスとルイナは苦悶の表情ながらも、きっぱりと宣言。
「そうね。辛いかもしれないけど、相手の欲望を放置していたら、今度は媚薬あたりを盛られて既成事実、結婚。子供が出来たら殺害・・・っいてなるかもしれないし」
まぁ、その医師が犯人と決まったわけではないのだが、かなり濃厚な事は間違いない。
「もしその医師が犯人だったと仮定して、彼の後ろにいる人物も突き止めたいし・・・・とにかく情報が欲しいわ」
アシアスとルイナは「お任せ下さい」と頭を下げた。
「あぁ、そんな従者みたいに、やめてよね。敬語なしで普通に話して。それとこれも渡しておくわ」
そう言って、イヤーカフを渡した。
アシアスには紫色の、ルイナには青色の石が填っている。
「私が動けるのは今はまだ夜だけだから、何かあったらそれで連絡して」
使い方を説明し試した後、ファラトゥールはアトラス国の公爵邸へと、今度は転移で戻ったのだった。
ファラトゥールが帰るところが地下工房でない事を知り、また、そこがどこなのかも教えてもらえない事に、まるで捨てられた仔犬のような眼差しで見てくる兄妹。
不安そうな表情の彼等をおいていく事もまた不安だったが、今日初めて会ったばかりで何の情報もないままここにずるずるいても仕方が無いと、後ろ髪を引かれる思いで帰ってきたのだ。
はぁ・・・疲れた・・・
部屋に着くなりファラトゥールは、ベッドへ倒れ込むとそのまま深い眠りへと落ちていった。




