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「ところでお兄様、こんな時間にどうされました?いつもの秘密の小部屋にいたのでは?」
と、クスクス笑うルイナ。
その儚くも美しい微笑みに、ファラトゥールは感動してしまう。
これで健康的だったら・・・傾国並みでしょ。
痩せ細り、髪や肌には艶もなく、顔色も悪い。
アシアスもそうだったが、兎に角、言い方は悪いが、くたびれ貧乏くさいのだ。
まぁ、アシアスでさえ毒を抜いて免疫力をあげただけで劇的に変わったからなぁ。
体力無さそうだから、少し時間はかかるかもしれないけど、健康になったら思いっきり化けそうね。
なんてことを考え、彼等の会話を何も聞いていなかったファラトゥール。アシアスに名前を呼ばれてようやく我にかえった。
「ファーラ様。妹を紹介したいので姿を現していただけますか」
「あぁ」
そう言って、隠密魔法を解いた。
兄であるアシアスから会わせたい人がいるいと言われ、一緒に入ってこなかったのだから、当然のことながら部屋の外で待っているのだと思っていた。
なのに、突然現れた美しい女性。
ルイナは驚きはしたが、突然目の前に現れた女性が、大魔法使いファーラだと一目でわかってしまった。
何故なら、何時からだったろうか。アシアスが大魔法使いファーラの話ばかりするようになったのは。
そしてペンダントの秘密。
一度ルイナを連れて地下工房へと向かおうとしたが、入る事はできなかった。
恐らくペンダントさえ着ければ入れたかもしれないが、そうなれば一人でそこに行く事になる。
危険だから駄目だと兄であるアシアスに反対され、ルイナはまだ地下工房へは行った事が無かった。
危険とは、地下工房が危険なのではなく、ルイナが一人でそこへ行き倒れてしまえば、誰も助けにいけないから。
それほどまでにルイナは弱っていたのだ。
産まれた時から、ルイナは身体が弱かった。
母親はアシアスは正妃から生まれているが、ルイナは側室が母親だ。
この王家は一夫多妻が認められており、現国王には沢山の妻がいた。
王妃は一人であるが、側室が両手では収まらないほどいたのだ。だが現在は、存命しているのは片手で間に合う人数。
王妃は既に亡くなっている。アシアスが十歳の時、毒を盛られ亡くなった。
犯人は王妃の座を狙っていた側室の一人で、すぐに捕まり処刑されその家自体が無くなってしまった。
国王は王妃が亡くなっても、次の王妃を決めることはなかった。どれだけ周りの人間が騒いでも、首を縦に振ることは無かった。
だから側室達は、勝手に権力争いを始めた。そして、両の手では収まらないくらいいた側室は、瞬く間に数を減らし今現在の人数で小康状態を保っている。
ルイナの母も他の側室に殺されてしまっていた。
突然の出来事に途方に暮れていたルイナに手を差し伸べてくれたのが、アシアスだった。
それ以降、ルイナはアシアスの庇護下に入り、この年になるまで生きる事ができたのだ。
というのも、あれだけ側室がいたのも関わらず、子供はルイナ一人しか生まれなかったのだから、命の危険にさらされる事は珍しくもなかったのが現実だ。
この国の後宮は特殊で、国王が求めて側室となるわけではない。
というのも財政難のガルーラ国。後宮などに掛けるお金など無いのだ。
よって、後宮に入りたいのなら自分で自分の面倒はみろよ。場所だけは提供してやる。その代わり、王家は一切関わらないから、と。うるさい貴族達を黙らせるための苦肉の策とも言えた。
つまりは、押しかけ女房的なシステムになっている。
国王が全く求めていないのに、何としても主権を握りたい強欲な貴族達が、自費で側室として娘を送り込み、何とか国王の情けを貰おうと無駄な努力をする場所。それが後宮なのだ。
親が強欲だから娘もそうかと言われれば、否定するだろう。
食うか食われるかの檻の中へ、自分の意志など関係なく放り込まれた令嬢達は堪ったものではない。
しかも自費での生活。当然貧富の差が出てくる。
そうなれば豊かな家は強く、貧しい家は虐げられる。
耐えきれず失踪する令嬢も多くいたという。
ある意味、人間版蟲毒そのものだったが、国王は手を差し伸べるどころか、見向きもしなかった。
なんせ、勝手に住み着いているだけの人間なのだから。
そんな状況の中、ルイナが産まれた事はまさに奇跡。とは言っても、ルイナの母親も事故的な状況で国王と関係を持ち、たった一回の情交で妊娠してしまったのだから、ある意味不幸としか言いようがなかった。




