表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/55

12

その日は、定期的に地方を巡回する日だった。

時折、視察と言う名目で各地を回り、わずかではあるが食糧支援をしていた。

時には現地で狩をし、浅い所までしか森に入る事は叶わないが、獲物を仕留められればそれは貴重な食料として領民に分け与えていた。


今回訪れた場所は、アシアスを陰ながら支えてくれている伯爵が治める領地・・・・と言うよりも村と言っても過言ではないくらいの小さな領地。

この国では珍しい、ちゃんと現実を見ている数少ない人で、土壌改良や作物の品種改良を手伝ってくれる大切な仲間だ。


なかなか野菜が育たないこの地域。だが研究の成果は、本当にわずかではあるが出始めていた。

だが、アシアスにとっては無力さしか感じず、せめて何か獲物でも仕留められればと騎士達と一緒に狩をしているのだ。


その日も変わらず狩をする為に森の近くを歩いていると、突然小動物が飛び出してきた。それは一匹二匹ではなく。

これは幸運だ!と思い仕留めにかかったが、どうも様子がおかしい。

そうしているうちに森の方で木が倒れる様な、メキメキという音と共に巨大な熊が現れたのだ。

アシアスの身長は低い方ではない。だが優に二倍近くの高さと横幅に、彼等は圧倒されすぐには動けないほどだった。


巨大熊は見るからに、アシアスたちが仕留めた獲物を狙っていたようだが、簡単には渡せない。

何せこちらも民の生活がかかっている。

正直、見た事もない巨大熊には驚き恐怖もあるが、満足に食事も摂れない彼等にとって目の前の獣は、ただの食料である。

驚きに呆けたのは一瞬。彼等は今日の糧を得るために、剣を握りなおしたのだった。


かなり手こずったが、相手は一頭だったこともあり、数でこちらが優位だったおかげで、食料を確保でき皆ホクホクだ。

そしてその巨大熊を解体した時、胃の中から出てきたのがそのペンダントだったのだ。

見た事もない美しくも鮮やかなオレンジ色の石が填ったペンダントは、宝石には疎い誰が見ても高級なものだとわかり、王太子であるアシアスに渡されたのだった。





こんな貧乏な国であっても、アシアスは王太子。

今の国王と比べれば、さぞかし気弱で無能に見える事だろう。

だが、本来の彼は賢く優秀である。ただ無情になれないだけで。


父でもある国王を何とかしなくてはいけない。だが、国王との力の差は圧倒的で、ただ情けなさだけが募っていく。

王太子だからと後ろ盾にと声を上げる貴族もいるが、基本、国王の腰巾着ばかり。国王亡きあと彼を傀儡にしようとする魂胆が見え見えなのだ。


そんな彼の唯一の逃げ場所は、地下にあった。

幼い頃偶然見つけた地下への階段。その突き当りには扉があり、小さな部屋があった。

地下なので窓も何もない部屋だったが、不思議と落ち着く事が出来た。

それからというもの、周りには内緒で私物を持ち込み、秘密の小部屋が出来上がったのだ。

そしてペンダントを身に着けいつもの様に秘密の部屋に行けば、不思議な事に床に扉が現れた。

恐る恐る扉を開ければ、柔らかな明かりが灯りさらに地下へと続く階段が照らし出される。

驚きはしたが、不思議と恐怖感は無かった。迷うことなく階段を下りれば、そこには暖かな光が照らす貴族の邸内の様な空間が広がっていた。


邸内を飾る美術品や廊下に敷かれたカーペット。どれをとっても一級品。

そして幾つもある扉。だが、その扉を開ける事は出来なかった。

唯一開いた扉が、今いる部屋なのだ。

柔らかな光源に浮かび上がる室内は、まさに執務室。

何より目を惹くのは、壁に沿うように置かれた本棚。

しかし、これにも一切手をつけることができなかった。というより、触れる事ができないのだ。

見えない壁があるようで、この室内にある物は何一つ触れる事ができない。

唯一触れる事ができたのは、大きな机の上にある三冊ほどの本のみ。


二冊は魔導書。一冊は報告書のような物だった。

創作魔法がどのように発動したか。何をすればこうなる・・・だとか。

本当は報告書を先に読みたかったか、魔法が廃れて数百年。まずは魔導書を読み込み、そして報告書を読んだ。

保護魔法がかかっているのか、どんなん事をしても本は汚れる事がない。

だから、安心して読み返す事が出来た。何度も、何度も。

その報告書が大魔法使いファーラのものだと知った時には、とてつもなく興奮した。夜も眠れぬほどに。

そしてここが、ファーラの地下工房だったのだと確信した時は、まさに世紀の大発見だと一人飛び跳ねた事は言うまでもない。

だがそれと同時に、これは誰にも知られてはいけない重要事項だという事でもあった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ