表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたにはもう何も奪わせない  作者: gacchi(がっち)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/56

48.聞き分けのない令嬢たち

「ルミリア、この侍女は捨てて帰れ」


「捨てて?」


「忠告だ。この女をそばに置いたらろくなことにならない」


ライオネル様の忠告を聞いて、ルミリア様は面白そうに笑った。


「嫌ですわ。どうやら学園だけじゃなく、

 そこのジュリアというものに詳しいというのは本当だったようですし」


「なんだと?」


「ライオネル様が帰ってくる頃には社交界で話題になっているでしょう。

 その婚約者だという女がどれだけひどいのか」


「アマンダから聞いた情報を社交界で流すつもりか」


アマンダからの情報を流す?

私は言われて困るようなことは今までしていない。

だけど、噂を捏造するのがアマンダのやり方だ。

どれほどひどい噂を流されることになるのか……。

想像して血の気がひいていく。


私の顔色が変わったのを見て、弱みを握ったと勘違いしたのか、

ルミリア様とブランカ様がにやりと笑う。

しまった……顔に出してはいけなかったのに。


「へぇ、その侍女はよほど楽しい情報を持っているようですわね。

 私にも聞かせてほしいですわ」


「ええ、帰りは一緒ですもの。

 二人でアマンダから聞かせてもらいましょうね」


言い出したルミリア様だけではなく、

ブランカ様も一緒に私の噂を流すことに決めたようだ。


どうしよう。高位貴族の二人が噂を流したら、

それが本当のことだと思われてしまう。

卒業してジョルダリに行った頃には、

取り返しのつかないことになっているかもしれない。


その時、私はライオネル様の婚約者だと、

認めてもらえるのだろうか。


顔に出してはいけないと思っているのに、

嫌なことばかり想像できてしまって、うまく笑顔を作れない。


焦り始めた私とは違い、

ライオネル様は顔色を変えず冷たい目で二人を見ていた。



「お前たち、これは最後の警告だ。

 その女をジョルダリに連れて帰るのはやめておけ。

 今のまま、平穏な日々を送りたいのであれば」


「あら、侍女を雇うのは私の自由ですわ」


「ええ、そうですわね。そして、侍女から話を聞くのも自由では?」


「そうか……二人の考えは変わらないのか。俺は止めたからな?」


「ふふふ。ライオネル様がお帰りになるのを楽しみに待っていますわね」


「今だけはライオネル様の隣にいることを許して差し上げますわ」


強制送還されるというのに、二人は楽しそうに出て行った。


「その立場でいられるのは、短い間になりそうね」


「アマンダ……」


「私は私のやり方を変えるつもりはないの。

 ジョルダリでまた会いましょう、ジュリア」


アマンダはそう言い残して出て行く。

後に残った私は、話せないほどに落ち込んでいた。


「心配しなくていいよ」


「え?」


「ここで話すと聞こえるかもしれない。

 あいつらが強制送還されるのを見届けてからね」


「……うん」


いつも通りのライオネル様の笑顔に少し混乱する。

どうしてそんな風に笑えるの?


何が大丈夫なのかわからないけれど、

強制送還を見届けなくてはいけないと思いなおした。

これ以上、情けない姿を見せてはいけない。


ライオネル様と校舎の外に向かい、

ハルナジ伯爵に強制送還をお願いする。


「すまない、ジョルダリに着くまで面倒をかける」


「わかっています。安心して待っていてください」


「ああ」


にこにこと笑うハルナジ伯爵にお願いして、

ルミリア様とブランカ様をジョルダリまで送り届けてもらう。

馬車の列を見送り、ようやく終わったと、大きく息を吐いた。


「もういいよ、お疲れ様」


ライオネル様に抱き上げられて、私たちも馬車へと乗る。

本当に疲れた。まさか、アマンダがあきらめていないなんて。


「屋敷に戻ったらゆっくり話そうと思ったけど、

 早めに教えたほうがよさそうだね。

 ジュリアが落ち込む必要はないんだよ。

 あの三人はジョルダリに入国できないから」


「え?」


「犯罪人は入国できない。それは知っている?」


「犯罪人?出国許可の偽造で?」


それってマリリアナ様が偽造したんじゃなかった?


「いや、それはマリリアナの罪になる。

 二人はマリリアナに従っただけだろうから、無罪になると思うよ」


「じゃあ、なぜ」


「アマンダは俺の守り石を盗んだ罪で重大犯罪人になっている」


「あ」


「ジョルダリに入国禁止になっているんだ」


「そういえば」


王族しか持つことが許されない守り石。

アマンダはブローチを盗んだ罪で平民に落とされていた。


だが、それで罪が消えてしまったわけじゃない。

過去に重大な犯罪を犯した者は住居の制限をされる。

クラリティ王国から勝手に出ることなんてできるわけはない。


あの二人はアマンダが平民だと思っているから、

侍女として雇えばジョルダリに連れて帰れると思っている。

だけど、重大犯罪人を連れてジョルダリに入ろうとしたら……


「処刑すらありえるほどの重大犯罪人だからね。

 アマンダを入国させようとすれば、

 あの二人も犯罪人となって入国できずに捕まることになる」


「だから、忠告していたのね」


「ああ。俺は止めろと言った。アマンダを捨てていけと。

 それを無視して入国させたのなら、知らなかったでは済まされない」


ライオネル様が少しも焦っていなかったのはこのためか。

アマンダが入国できないだけじゃなく、

あの二人も罪に問われることになる。


どのくらいの処罰になるのかはわからないけれど、

貴族として残れたとしても社交界に出てくることはない。


「これで安心できた?」


「うん……良かった」



そして、十日ほどすぎて早馬で報告がされた。

ジョルダリ国に入国したと同時にアマンダは捕縛され、

ルミリア様とブランカ様も犯罪人として取り調べされている。


詳しい報告はハルナジ伯爵が戻ってきてからになるが、

ライオネル様が言ったとおりになって、ようやく気持ちは落ち着いた。


これで、本当にアマンダと会うことは二度となくなっただろう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ