表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたにはもう何も奪わせない  作者: gacchi(がっち)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/56

38.おかえりなさい

オクレール侯爵家に話し合いにいっていたライオネル様が、

ヨゼフを連れて戻ってきた。


「おかえりなさい。ヨゼフも連れて帰ってきたのね」


「ああ、もうあの家にいさせる理由はないからな。

 侯爵家は退職させてきたよ。

 今日からは、ここでジュリアのために働いてもらおう」


「本当?うれしい!これからまたよろしくね、ヨゼフ」


「ええ、こちらこそ。ジュリア様」


ニコニコと笑うヨゼフに、良かったと思う。

あの後、ヨゼフだけ侯爵家に戻っていたから心配していた。

もし、私を助けたことがお父様に知られたら、どうなるんだろうと。

侯爵家を辞めたのであれば、もう大丈夫かな。


リーナにお茶を入れてもらって、話し合いの結果を聞く。


「婚約の書類はそろったから、そのまま王宮に提出してきたよ。

 ジュリアが嫡子から降りることが許可されれば、すぐに婚約も調う。

 そうしたら、ジョルダリにも書類を送るから」


「……お父様、本当に認めてくれたの?」


もめたんじゃないだろうか。

私が嫡子を降りることは問題ないだろうけど、

素直に持参金を出してくれるとは思わない。


「嫌がってはいたけどね、認めさせたよ。

 ほら、書類。確認してくれる?ジュリアのものだからね」


「私のものって、持参金のこと?」


渡された書類を見て、言葉を失う。

こんなに?通常の持参金の十数倍はある気がする。

第二王子の妃になるにしても、この半分あれば十分なんじゃ……。


「あの家からはあとから援助とか期待できないだろう?

 だから、できるだけ出させてある。

 これだけあれば、ジュリアが肩身が狭い思いすることはないよ」


「ライオネル様……ありがとう」


いくらライオネル様が気にしなくていいと言ったとしても、

持参金がないような妃は馬鹿にされる。

王家から支給される予算だけでは妃の品位は保てない。


公式行事にかかるドレスや装飾品はつくれるとしても、

非公式のお茶会などで着るドレスなどは個人で出さなくてはいけない。

後見する妃の生家がある程度お金を出すのは当たり前のことだ。


高位貴族の令嬢だからこそできることであり、

それができないような家からは妃を出す資格がないということでもある。


「ジョルダリの貴族家に後見してもらう必要はあるけど、

 母上の生家がしてくれることになっている」


「なっている?」


婚約が調う前なのに、まるで決まっているような言い方に、

つい聞き返してしまう。

ライオネル様は少しだけ気まずそうに、お茶を飲んだ。


「……ほら、その辺の話し合いは八歳の時にもうすでにしてあるから」


「本当にそのころから求婚してくれるつもりだったのね。

 でも、求婚を受けるかどうかもわからなかったのに、

 そこまでしてくれていたんだ」


「当たり前だろう?他国に嫁ぐんだ。

 不安要素をなくしてからじゃないと受けてもらえないじゃないか」


当たり前のように言うライオネル様に、

抱きつきたくなったけど抑えた。

私から抱き着くなんてはしたないと思われるかもしれない。


だけど、ライオネル様はどれだけ私のことを想っていてくれたんだろう。

私がライオネル様を知らなかった間も、

こうやって二人の未来を考えてくれていた。


私の気持ちに気がついたのか、ライオネル様はふふっと笑って、

隣の席に移動してくる。

ほら、と両手を広げてくれるのを見て、その胸に顔を寄せる。


恥ずかしいけど、うれしい。

こうやって抱きしめられても、誰からも怒られない。

気がついたら、周りには誰もいなくなっていた。

リーナやジニーですら、いつのまにか部屋から出て行ってしまっている。


……本当に婚約できるんだ。


「これでもう大丈夫だよ。

 俺たちの婚約はすぐに認められるはずだ」


「うん……ありがとう。うれしい」


「……もう、いいか」


「え?」


「ジュリアにふれても」


「………うん」


本当は駄目なのかもしれないけれど、

ライオネル様の顔が近づいてくるのがわかって、そっと目を閉じた。


ふれた唇にゆっくりと熱が伝わってくる。

離れるまでの数秒間がすごく長く感じられた。

このまま時間が止まるんじゃないかと思うくらい。


ぎゅうと強めに抱きしめられ、私もライオネル様の背中に手を伸ばす。

お互いに抱きしめあう形になったら、もう何も不安はなくなる。


「ジュリアが侯爵家を捨てたんだ。

 そして、俺を選んだ。

 そのことを後悔させないように頑張るから」


「うん……大丈夫。きっと後悔しないわ」


私が捨てられたんじゃない。嫡子を奪われたんじゃない。

私が侯爵家を捨てたんだ。ありえないくらいの持参金を奪って。


そうして、幸せになるためにジョルダリに行く。

ライオネル様の妃になるために。


そこにはもう何も後悔なんてなかった。

もうお父様もお母様も必要ない。

お兄様もアンディも忘れて、この人のために生きて行こう。





そうして三日後には私たちの婚約が認められ、

ライオネル様はジョルダリへと書類を送った。


ジョルダリ国王に送ったのかと思ったが、

送り先は第一王子であるお兄様のようだ。


「これで、議会が動くと思う」


「議会?」


「ああ、俺の婚約が決まったとなれば、王妃争いが激しくなる。

 だから、俺の婚約を公表する前に議会で採決を取るはずだ」


「どんな法案?」


「王命による婚約の廃止と高位貴族の政略結婚の禁止だ」


「……本当に?」


「ああ、ジョルダリは変わるよ」



そして、その言葉通り、ジョルダリの議会で法案は可決され、

ジョルダリ国は大きく動き出すことになる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ