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37.奪う(ライオネル)

「……お願いします。見逃してください。

 この家を、侯爵家を守るためだったんです」


「そのためなら何でもすると?」


「私にできることなら、何でもします!」


本当かなと思うけど、必死なのはわかる。

さて、どこまで受け入れられるか。


「ようはジュリアが嫡子を降りればいいんだろう?

 俺が妃としてジョルダリに連れて帰るよ。

 そうなれば庶子だとしても養子にできるだろう」


「ジュリアを妃に?本当ですか?」


「ああ。ついては、この書類に署名してくれ」


侯爵に婚約に関わる書類を一式渡す。

仕事はできると聞いていただけあって、何も見ずに署名するようなことはない。

契約書の一枚一枚をきちんと確認しているようだ。


そして最後の一枚、持参金の書類を見て騒ぎ出した。


「はぁ?持参金がこんなに?」


「ジョルダリの第二王子の妃になるんだ。このくらいは必要だろう。

 本来なら、妃となった後も生家は支え続けるものだが、

 侯爵はそんなことしたくないんじゃないか?

 だから、その持参金は手切れ金でもある。

 もう二度と、ジュリアは侯爵家に関わらない」


「ですが……こんなに?」


持参金として書かれている額は侯爵家の資産の三分の一ほど。

これほど高額になることは普通ない。

だけど、ここは譲る気はない。


「本来は侯爵家の資産のすべてはジュリアの物だ。

 それをあきらめて嫡子を譲るわけだろう?

 嫌なら、今すぐジュリアに爵位を譲るように王宮に進言してもいいんだが」


「それだけは!」


これだけ犯罪まがいなことをしていたのなら、

今すぐ侯爵の爵位を奪うこともできる。

だけど、もうジュリアはそんなこと望まないと思う。


ジュリアが欲しかったものは、

両親に認められることだったのだろうから。


「じゃあ、持参金も納得してくれるよな?」


「……わかりました」


ここまでして持参金にこだわるのはこれからのジュリアのためだ。

持参金なんてなくていい、後ろ盾には母上の生家がなればいい、

そんな風にすることだってできないわけじゃない。


だが、それをすれば苦しむのはジュリアだ。

何の力も持たずに令嬢や夫人たちの嫌味を受けることになる。

持参金すら持たせてもらえない令嬢なんて、いったい何をしてきたのか、

それだけ生家に嫌われるようなことをしたに違いない。


ジュリアなら泣き言を言わずに立ち向かえるかもしれない。

だけど、俺はそんなことはさせたくない。


ただ泣いて震えているジュリアを抱きしめれば守れるわけじゃない。

お互いに両足で立って、支えあえる関係にならなきゃいけない。

そうできるように動くことが、ジュリアを守ることになると思うから。


「署名したら、俺がすぐに王宮に提出するよ。

 あぁ、この国の王太子と第二王子とも仲いいんだよ、俺。

 だから速攻で受理してくれると思う」


「………そうですか」


幼いころに逃げてきたために、この国の王子たちは兄貴のようなものだ。

だからこそ、ジュリアを紹介しろと言われても断っていた。

第二王子にはまだ婚約者がいないからな。

惚れられても困る。仲が良くても、ジュリアを渡すことなんてできるわけがない。


侯爵がしぶしぶ署名した書類を確認する。

よし、問題ないな。


三分の一もの財産、一度にこれだけ奪えば元に戻すのは難しい。

王宮には報告済みだから、侯爵家に何があっても手を貸すことはない。

これからゆっくりと崩壊していけばいい。許すつもりなんて最初からない。

さて、アンディが継ぐまで保っていられるかな。


書類をジニーに渡して執務室を出るときに、

うなだれている侯爵にいいことを教えてやる。


「あぁ、そういえば、アンディの生みの母が怒っているそうだ。

 早く金を払ってやりなよ。

 色の指定までして男の子を生ませたんだろう?」


「いや……それは」


「契約を破ったら、取り返しに来るかもしれないな」


「そんな!」



アンディを産んだ後、領地からの旅に耐えられる三歳になるまで、

母親のそばで育てさせたらしい。

実の母親を乳母だと思い込ませていたらしいが。

そうして本当の母親に会いに行くと説明して、この屋敷に連れてきた。


実の母親には産んだ時に謝礼金を渡すほか、

毎年、援助としてまとまった金を渡すはずだったらしい。

だが、アンディが屋敷に来てから金が途絶えたと訴えようとしていた。


俺の手のものが実の母親を保護し、侯爵を訴える手伝いをさせている。

処分しようと思っても、もう見つけることすらむずかしいだろう。


出戻りの元貴族なんてどうにでもなると思っていたのかもしれないが、

契約書を作ったのはまずかったな。

これから毎年、契約書通りの大金を奪い続ける。

いや、契約違反をしているから、違約金も取ってもいいかもしれない。


侯爵は何か言い訳でもしようとしたのかもしれないが、

聞こえないようにドアを閉めた。

もうここには用はない。


「さ、帰ろうか。ジニー、ヨゼフ」


「はい」


「準備はできております」



満足そうな顔のジニーとうれしそうなヨゼフを連れて屋敷に帰る。

ジュリアが心配して待っているだろう。




これまでジュリアの存在を無視し続け、

殺そうとしたことを許すつもりはない。


兄のアンディの亡霊に取りつかれている母親も、

無邪気に異母姉を追い詰めたアンディも。


侯爵が固執した令息が嫡子となることが、どういう結果になったのか、

思い知った時にはもう遅い。

オクレール侯爵家は消えることになるだろう。



まぁ、そうなってもジュリアには報告しないけど。


こんなどうでもいい家、忘れて幸せになればいいんだ。





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