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私は幸せ


「可愛い、モンロリオール。大事な大事な最高の娘。もうすぐ、もうすぐだよ。貴方の王子様に会えるぞ」


「はい、お父様。わたしも楽しみです」


「ああ、ああ。良い子だ」




 大きな商家の主カンダタ・ジャムニーは、首の見えない二重顎と大きく突き出た腹部を揺すりながら、そこにいる娘を大袈裟に誉めちぎった。50代程で目尻や頬にややシワの刻まれた顔は笑っているが目は冷めており、娘の状態を鋭く確認する。逸れこそ、頭の先から足の先までくまなく。



「完璧だよ。サーフィオ殿下がたいへんお喜びだろうさ。これまでの恩を返しておくれよ。くふふ」



 値踏みするような視線を気づかない振りで微笑んでかわし、美しいピンクに輝く瞳はカンダタの鼻付近を見ながら、ぽってりとした唇は声を発した。貴族に対しても失礼のないように教育を受けた彼女は、美しい声音で先程のことに触れる。指の先まで綺麗な所作で胸に手を当て、心の準備がしたいとカンダタに言うのだった。艶やかな長くて青いプラチナの髪と、白いワンピースを着ていてもわかるスタイルの良さは大輪の華のようで、今が盛りと告げている。



「不安か?」


「……少し不安ですが、大丈夫です。でも折角王子様に会えるならもっと綺麗にしようと思いまして。期日はお決まりですか?」


「…………そう言うことか。迎えは明後日の夜だ。爪でも磨いて仕上げをすると良い」


「はい、お父様。それと最後のお願いがあるのですが…………」









彼女は、孤児だったモンロリオール。

カンダタとは血の繋がりはない。

住んでいたのはスラム街のような汚くて荒んだ場所。

いつの頃からか常に空腹で、ゴミ箱をあさってその日その日をを生きていた。彼女を知る者から、「お前の親は貴族に逆らってここに逃げて来たが、流行り病で死んだんだ」と憐れむように言われた。そんなことを聞いても、何も思うことはなかった。


彼女にしてみれば、親が逆らわず従っていれば飢えなかったのだろうと思うだけ。彼女が不憫で、時々でも食べ物を分けてくれる人がいなければ、とっくに死んでいた。ここには貧しい者しかいないので、施しとしても僅かな物であったが。


今の彼女からすれば、空腹が一番辛かった。

こんな思いをするくらいなら、自分も親と死んでいれば良かったと何度思ったことか。


そしてある日、この場所を通るカンダタに商家の裏にある別邸のような場所へ連れてこられた。


無理矢理じゃなくて、ご飯をたくさん食べられると言われて着いて行ったのだ。空腹で文字通り死にそうだったから。どうせ死ぬなら満腹でと思ったのもある。頭は食べ物のことでいっぱいだった。


その建物には、個室の小部屋が20個くらいあった。

古いけれど、宿屋のような大きさだった。



「……あなた、何でこんな所に来たの? 騙されたのかい? 売られたのかい? 可哀想に」


廊下を歩いていた女の人が、声を掛けてきた。

髪が長くてスタイルが良く、何と言うか肉感的な綺麗な人だった。


私は空腹で死にそうだから着いてきたと言うと、

「そうなんだ。空腹も辛いからね」と。


そう言っただけで、その人は悲しそうな顔をこちらに向けてから応接室に入っていった。



(可哀想………ここは可哀想な人が住んでいるんだろうか? 間違いなく今の私は可哀想な人だろう。……けど、あの人も悲しそうだった。空腹ではなさそうだけど。これから嫌なことでもさせられるのだろうか?


 私のような痩せっぽちの孤児には何もないのに。丁稚のように下働きでもするのかな? それでもご飯がたくさん食べられるなら、それでも良いや)



その後、自分に声を掛けてくれた女性ランチェは、カンダタに命令されてモンロリオールを部屋まで連れて行った。そしてモンロリオールが慣れるまで、彼女(モンロリオール)の世話をするように言われていたようだ。




 彼女ランチェ・ジャムニーの生まれは伯爵家のご令嬢だったが、父親が愛人に入れ込んで私財を貢ぎ、没落の憂き目にあった。


そこに現れたのが、当時から既に大商人に登り詰めていたカンダタだった。



「お嬢様を私の妻にしてくだされば、伯爵家の再興をお約束しますよ」


 普通は金持ちとは言え、平民の成金に伯爵令嬢が嫁ぐことなどないと聞く。大きな身分違いは貴族側の醜聞になるからだ。だがもうこの頃には、自分達が爵位を返上して平民になるような瀬戸際。そんなこと(プライド)よりも今ある生活を守る方にしがみついた父母。娘のことは少なからず愛していたのだろうが、今のその存在は大商人(カンダタ)への商品(貢ぎ物)のように変化していた。



「伯爵家が維持できるなら、どうぞ娶ってやってください。その代わり…………」




 長年の貴族教育で身に付けた、感情を悟らせない動揺のない表情で頷く彼女。幼き時からの婚約者とは、没落すれば結局は結ばれない事実。ここで売られるように嫁いでも結果は同じ事。全てを諦めて返事をした彼女には、何も寄る辺はなかった。


「私に否はありません。どうぞよろしくお願いします」




彼女が嫁げば継続的に資金援助をすると約束したカンダタ。

その代償に、彼女(ランチェ)の夫としてナイライ伯爵家と親戚関係であると公表して良いとの承諾も得た。そしてもし彼女が亡くなっても、貴族的な裁判や抗議はしないと文書で誓わせた。


ろくなものではない。


ただこの時、伯爵家の誰もが追い詰められていたのは確か。




だから彼女一人を犠牲にした。


その後突然の婚約解消に、彼女の婚約者ミレ伯爵子息レフリーは、ライナイ伯爵家に抗議をしようとした。


だが内情を既に調査済みのミレ伯爵はそれを止めた。


「レフリー、残念ながら既に手遅れだ。彼女を止めれば彼女の家族や領民全てが路頭に迷う」


「ですが………くっ」と、表情を歪めるレフリー。



幼い時から、彼女を見守ってきたレフリーの父さえ諦めた。

ランチェは心根の良い賢き娘だ。俺がランチェを好きになる前から娘のように可愛がっていた父。悔しいのは一緒だろう。


「ライナイ伯爵家の借金は莫大過ぎて、(うち)が肩代わりすることもできん。レフリー、すまないが今回は諦めてくれ」

悔しくても何もランチェにしてやれない悔しさに、両手がめり込むほど強く握り締めていた。





その後は婚約もなく、駆け足で結婚式が取り行われた。

いろんな人に手早く周知させようとしたのだろう。教会での式はカンダタの家族とランチェの家族だけで簡易に行われた。





 

ーーーーーーーーー


政略結婚で結ばれたランチェの母マインは、ダムリ侯爵家の一人娘。家督を継ぐ予定の兄が一人いる。マインは気性が荒く、侯爵家の娘だと言うのに、婚姻を望む者は訳ありな者達ばかりだった。


その為寄り子に当たる伯爵家の、美しい容姿を持つグラスコッパーに白羽の矢が立ったのだ。



 遅くに産まれた待望の女児で我が儘に育てられたマインは、伯爵家に嫁いでもその傲慢さは変わらなかった。義父母には取りあえず取り繕っていたが、爵位が下で大人しい夫や使用人に対する態度は酷いものだった。本人も弁えることはせず、寧ろ我慢等せず暴言や暴力の日常。



彼女の思考には何故か「侯爵家の娘が嫁いだのよ、感謝しなさい」となっていたのだ。とんだ事故物件なのに。




ダムリ侯爵としても、結婚すれば多少は我慢を身に付け、経済的に援助を続ければ何とかなると思っていたらしい。


残念ながら、そう上手くはいかなかったのだが。



気弱なグラスコッパーは実父に逆らえず、実父は寄り親の侯爵家に逆らえず成った結婚。経済的な支援はあるが、心休まらぬグラスコッパーは、二人の子を成した後は邸に帰る頻度が減った。


城勤めをしている文官の彼がそう言えば、流石のマインも責められない。勤務後の飲み会だとて出世に関わるのだ。



それでも夫の仕事内容がどんなものなのか等、文官を父や夫に持つ知人や友人に聞けば造作ないことなのに、その性格ゆえ友人もおらず聞ける者がいなかったのだ。それならば親に聞いてみても良いのだが、プライドが邪魔して聞けず仕舞いに。



マインはマインで、伯爵家に送られる支援金を好きなようにドレス等に使い、寄り子の令嬢を引き連れて夜会に出掛けていく。





勤務の為に登城し、眠る為だけに帰るグラスコッパーとマインには、既に会話もほとんどない。代わりに争う事さえもない日常。勿論親と子の交流さえも無いに等しかった。


ただ次期伯爵予定のランチェの兄ダーウィルには、マインは関心を持って大事に関わった。グラスコッパーは大人しいが、金髪碧眼の美しい顔立ちだった。だからマインに狙われもしたのだろう。ダーウィルは父にそっくりだった。


 美しい兄ばかりが可愛がられ、マイン似のランチェは空気のような扱いだった。淑女教育の為に家庭教師は呼ばれ、懸命に学んでも家族の誰にも顧みられることはない。幼い時は仲の良かった兄とも次第に交流が減っていく。兄も母親の機嫌を取っていれば大事に扱って貰えるので、無理をしながらも話を合わせて微笑む。父はいつ戻るとも知らない状態だった。


 一人孤独に悩む彼女(ランチェ)に優しくするのは、前伯爵(ランチェの祖父)が決めた婚約者達だけだった。隣の領地に住むミレ伯爵家のレフリーは、幼い時からランチェが知る頼りになる友人だった。レフリーの父もライナイ伯爵家の内情を知っており、前伯爵がランチェがさすがに可哀想だと言い懇願されて決めたものだった。ミレ伯爵は健気で頑張るランチェを娘のように大事に扱っており、将来の若夫婦になる二人を夢見ていた。





「何て事でしょう。貢いでいた女に逃げられ、おまけにツケ払いで多額の買い物をされたなんて。それもこんな高額の借用書が来るなんて…………


 一体どうするおつもりですか?」



「ギャーギャー煩いんだ。君がそんなだから、僕は外に癒しを求めたんだ。そんなこともわからないのか?」



いつもは防戦一方のグラスコッパーも、今日は我慢をしなかった。騙されたとは言え、彼は逃げた女に(しか)と癒されていたのだ。


ライナイ前伯爵も蓄えなど殆どなく、ほぼ全ての財産をグラスコッパーに残しての隠居だったので宛にはできない。


 

 今の伯爵では、どうやっても借金は返せない額だった。今までの侯爵家の支援金を貯蓄しておけば何とかなったのだろうが、綺麗さっぱりマインが使っていた。恥を忍んで更に借金を侯爵家に頼むも、既に当主は兄に代替わりしており断られた。


「月々の支援金さえ意味がわからないのに。父に頼まれているし、今さらマインに戻られても困るから送っていた金だって高額だぞ。それが………桁が一つ違う借金なんて、何を考えているんだ。作物の不作だとか水車の取り替えとかで金が掛かるならまだわかる。だが女に騙された借金なんて、醜聞を越えて間抜け過ぎる。諦めて領地を返して平民になった方が懸命だ」


マインの兄は思った。

きっと今回助けても、きっと同じことを繰り返すだろう。

グラスコッパー達が下手に税を上げて農民が疲弊したり、反乱を起こすくらいなら、今のうちに領地を返上した方が幾分とましだろう。

侯爵家の財政だとて、限度がある。

例え妹でも好きな奴に嫁いだ身だ、それなら俺も自分の子や妻に金を使いたいと思うのは当然だろう。




 マインが責められるのは自身の行動のせいだが、マインの躾を放棄していた前侯爵夫妻にも責任はあるだろう。だからこその支援金だったのだが、それはマインのお小遣いに消えていた。既に隠居したマインの父には、多額の金銭を動かせる権限はないのだ。



伯爵家の為に使う支援金の意味を、マインには何度もした筈だが、彼女は何もわかっていなかった。


マインもグラスコッパーも互いに罵りあい、責任転嫁をしていたが解決策は浮かばないまま時間だけが過ぎる。



ランチェの婚約者のミレ伯爵家に支援を依頼しても、依頼金の一部しか受けて貰えない。それほどに高額な借金なのだ。ミレ伯爵も精一杯の支援だったが、マイン達は満足しない。


それならば婚約を解消して、金持ちに嫁がせようと画策する始末だ。だがそれもライナイ伯爵家の内情を漏らす使用人により上手くいかなかった。不当な暴言や暴力を受けた使用人は、仕返しのようにペラペラと噂をばらまいていた。噂と言うより真実だが。


彼女(ランチェ)の容姿は父の血なのか、年々美しくなり知性も兼ね備え優しく女性へと成長を遂げていた。それだってミレ伯爵達のお陰なのだが。借金などなければ引く手数多だっただろう。



そこに現れたのが、大商人のカンダタだった。

カンダタは彼女を珠玉の商品として買い取った。


だがそれはランチェには最悪なことだった。


 



寂しい結婚式を終えた夜、ランチェは初夜を迎える。


「ふつつか者ですがよろしくお願いいたします」



覚悟を決め頭を垂れるランチェだが、カンダタは申し訳なさそうに囁く。

「君もわかっていると思うが、私は既に成人した子供もいる年寄りだ。そこで、ね。君には悪いのだが、目隠しをして欲しいんだ。私の情けない体を見られたくないんだ。……君の元の婚約者は若くて逞しいだろ。比べられたくない男の意地みたいなものだが、嫌かい?」


そこまで言われれば、断れる訳などない。



「私は大丈夫です。……寝台に横になってから目隠しをしたら良いのですか?」

恐々ながらも承諾するランチェ。

本当は怖い。初めてのことなのに何も見えないままで、何をされるのか?



「ああ、まず横になって。大丈夫だよ。痛いことなんてしないから。ゆっくり、ゆっくりと愛してあげるよ。力を抜いて身を任せて欲しい」

優しい声だが、やはり怖さは拭えない。

緊張で喉がカラカラと乾燥していて、声もスムーズに出ない。



「…はい。……わかりました」


でも逃げられない。

私は借金の代わりに嫁いできたのだから。



そうしているうちに寝台に寝かされ、目を布で覆われた。


「まずは口づけをして、体を触るからね」

「はい」


ベッドにギシリと人があがった音と気配がする。


顔に手が触れられ、唇に口づけられる。

最初は浅く、そしてその後は舌も入ってくる。


体を強張らせるも、「大丈夫だから」と声を掛けられた。


そして夜着が脱がされて、全身が露になる。


羞恥で体を隠すも、「手は枕の下に入れて、隠さないで」


そう言われ、おずおずと言葉に従う。


上半身をまさぐられ口づけられ、下半身も執拗に触られて体を繋げられた。


痛みと羞恥で可笑しくなりそうだった。




でも暫くして状況に慣れてくると、異変に気づく。

カンダタはかなり恰幅が良い。

でも今自分の上にいる者は、明らかにカンダタより細身だと思う。


カンダタのような溢れる贅肉がない、のだ。




「あ、あの、カンダタ様。ここにいるのはカンダタ様ですよね」

あり得ないと思いながら、どうしても声が出ていた。


「そうですよ。当たり前じゃないですか」



声は返ってくるが、どう考えても声の方向が違う。

いったい、どうなっているの?


私は誰に抱かれているの?



混乱の中拒絶もできず、ただただ何も考えないようにしていた。

そうしているうちに、気を失っていた。


そして意識を取り戻した時、既に行為は終わっていたようだった。でもそれに、彼らはランチェに気づいていないようだ。




「カンダタよ。彼女最高だったよ。

まさか本当に初めてだとは思わなかった」


満足そうに笑う中年の男の声。 



「公爵様には、大変お世話になっておりますから。処女権、今後も出ましたらご連絡します」


「ああ、楽しみにしているよ」


「それと、公爵様。彼女は私に抱かれたのですから、くれぐれも彼女にも他の方にもこの事は内緒ですよ。そうじゃないと、私は罪に問われ、ひょっとすると、公爵様にも追っ手がかかるかもしれませんから。私はか弱い平民ですから、守ってくださいよ」


「何を言う、この悪徳が。彼女もとんでもない男に買われたものだ。今後も夜のお勤めを、お前と偽られて違う男を咥え込まされるのだろう。憐れな女だ」


「そんなこと言いっこなしですよ。これからも、彼女は夫婦の営みをするだけです。それで生家を助けていくんですから」


中年の男はやや声を低くし、「だが、気づけば自害するかもしれんぞ。貴族の女は貞操観念が強い」


「………死ねませんよ、彼女は。婚約者も捨てて、家の為に醜い男に嫁いだくらいだからね。私に抱かれるなら、誰が抱いても同じでしょう」

皮肉るように答えるカンダタ。


公爵と呼ばれた男は首を横に振り、「俺が言えた義理じゃないが救えんな」と。そして着替えをしてから、部屋を出て行ったようだ。


カンダタは彼女に布団を掛けて、抑揚のない声で「お疲れ様」と言って部屋を出ていった。彼がこちらに、気がついているかどうかはわからない。


暫くしてもカンダタが戻って来ないのを確認してから、目隠しをはずし体を丸めて声を殺して泣いた。

カンダタが言っていたように、彼女は逃げられない。

あんな家族でも見捨てられなかった。

特に見張りがついている訳ではないから、逃げたければ逃げられる状態なのに……………




―――――――自分は何の為に生まれてきたのだろう?

時折頭を駆け巡る疑問を、無理矢理追い出し生きていく。





 そんな苦しい日々を生きて、次第に生まれてきた意味への問いも薄れ10年近くが経っていた。日中は商会の経理をし、使用人にも大事に扱われていた。カンダタも丁寧に接してくれて、夫婦同伴の時も宝物のように対応してくれていた。会合や食事会で、時折気になる視線を感じたが、私は知らない人だしカンダタも特に紹介もしないので関わらなかった。


10年経っても、私は妊娠したことがない。

そのことにカンダタは、「既に跡継ぎがいるから気にしなくて良い」と言う。

「ただ、親御さんに孫を見せてあげられなくて済まない」と気遣う言葉も。


きっとカンダタの年齢のせいで、孕まないと言いたいのだろう。私に原因がある訳ではないと、庇うような発言だ。


でももし、孕んだりしたら大変なことになるだろう。

誰の子かわからないし、時々聞こえる話し声から、夜のお勤めに高位の貴族がいると想像がつく。途端に隠し子騒動になりかねない。



きっと食事にでも、避妊薬が盛られているのだろう。





幸か不幸か、私は30代になっても若々しいままだった。

カンダタへの夜お勤めも続いている。勿論目隠しをしたままで。




でも漸く私にも救いの日が来るようだ。

ある時血を吐いて医者に見て貰うと、悪さが進行した肺病のようで余命は短いと言う。道理ですぐ息切れもするし、時々胸が痛んだ筈だ。最近は食欲もなく痩せてきていた。


死が救いになる日が来るなんて。

でも何だか、もう無理しなくて良いんだと思うと楽になった。


結婚前に援助は私が生きているうちだけ、そして私が死んでもカンダタのせいだと訴えないと約束している。家の家族は難癖付けてきそうなので、それで正解だと思う。



18歳で嫁ぎ、今年32歳になった。

家族に尽くすには十分な年数だろう。

カンダタはこのこと(死病のこと)を、文書でライナイ伯爵家に伝えると言う。

私も手紙を書けば渡すと言われるも、特に伝えたいこともなかった。こちらに嫁いでから、父母や兄は私に会いに来たことがない。やけにプライドが高い人達なので、商家にいる娘など恥ずかしいのだろう。


時々、父方の祖父母が来て話をしていく程度だ。祖父母も最初は泣いていた。馬鹿息子の尻拭いを孫にさせるなんて申し訳ないと。


悪いのは父や母なのに、祖父母が泣いて謝ってくれる不思議。

父母からの謝罪だってされていないのに。

お祖父様(おじいさま)達が悪い訳じゃないですから、泣かないでください。他の叔父様(父の弟)叔母様(父の妹)は、ちゃんとしてますもの。きっと誰が育ててもああなってます、きっと」


少し笑いながら伝えると、「ありがとう」とまた泣かれてしまう。


そんなことがありながらも、交流は続いていた。



そして元婚約者のレフリーとミレ伯爵も、買い物ついでに寄ってくれていた。元婚約者が来て不貞を疑われないように、伯爵とレフリーはいつも一緒だった。


レフリーは嫡男なのに伯爵家を継がず、妹が婿を取って伯爵家を継いだそうだ。


「俺には宰相補佐で手一杯だから」


そう言うレフリーは、未だに結婚どころか婚約者もいない。

きっと奥さんがいれば、継ぐことは可能だったろうに。


「好きになれる人がいなくて。政略結婚はちょっと苦手だし。こんなこと言ってるうちに、妹が恋愛で相手を見つけて来たから、丁度よかったんだ。婿に入ってくれた人も、良い奴で安心だし」



私は嬉しいような、申し訳ないような気持ちでいっぱいだった。

初恋の人が結婚すると嫉妬もしたし、ショックも受けただろう。

でもいつまでも一人でいるのも心配だし。

複雑な心境だった。


そんな日常にやって来たのが、モンロリオールだった。


最初にここに来た5年前は、濡れネズミみたいに黒くて汚かった女の子。カンダタに頼まれて、淑女教育も勉強も教えてきた自分の子供のような妹のような存在。



「ゆっくりで良いからね。きっと知識は貴女を助けてくれるから」


「はい、姉さん。今は頭がこんがらがるけど、やってみる」


ここに慣れてからは、明るい表情を見せてくれたモンロリオール。彼女は飲み込みが早く、驚くべきスピードで知識を吸収する。

私が学んできたことは、全て彼女に伝えてきた。

既に情も移り、裁縫や野菜作り等いろんな事も教え込んだ。


別邸にいる女性達も同様だった。

ランチェは日中は本邸にいる。日が落ちてからこの別邸に通い、モンロリオールに教育するのだが、日中はここの女性達が面倒を見てくれていたのだ。


皆美しく優しい女性達だった。

貴族や金持ちの秘密の妾のようだ。

身分も平民から貴族まで、いろいろな人がいた。

一人で住まわせると心配だし、奥方に命を狙われかねないと貴族達がここに住まわせているらしい。外出や店に行くのに制限はないものの、カンダタの店の外へ行く時には護衛が着いていた程だ。


きっとランチェのように、借金の為にここにいる人も多いのだろうと、最初の頃は目を伏せた。


思えば最初から、ランチェの寝室や私室も別邸だった。

カンダタから見れば、彼女達もランチェも同じなのだろう。



「ランチェ姉さん、レフリーは王子様みたいね。恋人もいなくてモテないと言ってたけど、嘘だよね。素敵だもの」

頬を染めるモンロリオールを微笑ましく見てしまう。


「さあ、どうだろうねえ。私は社交界デビューしてないから、王子様に会ったことないのよ。素敵な人だと良いね」


微笑んで恋の話をする私達も、最初は無言や言葉少なだったが、お互いに打ち解けながら話をして今がある。


モンロリオールは、女性達の心に灯火を照らしていた。



 私が施した教育をモンロリオールが吸収したことで、どうやら本当の王子に目をつけられたようだ。いつまでもこんな胡散臭いところにいるよりも、妾でも良いから出た方が良いと思うけど、性癖がよろしくないらしい。


モンロリオールには輝かしい事ばかりではなく、人間の裏も教えてきた。私の家族の事も面白おかしく伝えたら泣かれた。


割りきって話していたのだが、その時の私はとても苦しそうな表情だったよう。つられて私も泣いていた。抱き合っていつまでも盛大に。オロオロと心配をした使用人に、声を掛けられたくらい。





「サーフィオ王子か…………」


レフリーに聞くと、芳しくない返事だ。隣にいるミレ伯爵も頷く。

宰相補佐の身分の彼は、いろいろと耳にする機会が多いそう。


あくまでも噂だがと前置きし。

「婚約者が3回変わっているらしいんだ。そのうち二人は修道院へ行き、もう一人は精神を患い自宅療養中らしい」


「そんなこと………」


「ああ。礼儀正しくて、綺麗な顔立ちをした精悍な若者だ。特に表面的な瑕疵はないように見える」


「じゃあ、何があったの?」


「済まない、わからない」


レフリーは頭を下げてくれた。

でも、私は不安に苛まれる。


モンロリオールは元孤児だが、母親は彼女が幼い時には生きていた。青いプラチナの艶のある髪と薄ピンクの瞳は、平民にはなかなかいない造形だ。貴族の血が入っていると考えても良いだろう。



そんな彼女が、未だ未婚の30歳近い男に娶られる。

平民が妃や側室になれないから、妾姫くらいが関の山だ。


でももしカンダタが、彼女の出自を知った上で利用しようとしているなら、モンロリオールが危険だ。



「ねえ、レフリー。このお金でギルドを使って調べて貰えないかしら?」

このお金はカンダタから給料として渡されているものだ。

大商人の夫人としては、多いくらいに毎月支給されている。



「たぶん、噂程度の情報になると思うぞ。良いのか?」


「ええ、構わないわ。そしてモンロリオールの髪と瞳についても、調べて欲しいのよ。彼女が形見に持っていた三つ葉と蜂鳥の絵柄の産着もお願い」


「ちょっと待て。三つ葉と蜂鳥なら、プラチナ王家の家紋だぞ。なんでそんなものが…………絶対他言するな。でも…………王子が気づいているなら、やばいな」


「産着の話しはカンダタは知らない筈よ。彼女が母親に見せられた産着で作った巾着の話を、思い出したのも最近だし、今は口止めしてるから。でも………」




最初から知った上の事なら、きっと回避できない。

何故彼女の母が逃げて、貧民街に隠れていたのか?

何故あの時期に、側妃マロニエール様が療養の為に表舞台から姿を消したのか?


第一王子シュナイダーが立太子するまで、第二王子サーフィオは強く立太子を望んでいたらしい。でもある時急に大人しくなったそうだ。


その時期が、カンダタがモンロリオールを見つけた時期と重なる。たぶん彼女は、国王と隣国の王女である側室の子供で間違いない。



きっとサーフィオは、モンロリオールを王家の血筋と認めさせてから殺害して、隣国と開戦させるつもりだ。そして戦禍の有耶無耶で立太子いや王位を狙うのかもしれない。


婚約していた女性達のことはわからない。だが、幼い時からペットが相次いで亡くなることが続いていたが、実は王子が殺して楽しそうに解剖したと噂されていた。それが本当なら、きっと王子はサディズム(加虐性癖)だ。


婚約者達も、何らかの虐待を受けた可能性がある。




「ああ、何てことなの。あの子殺されちゃうわ。どうしたら良いの?」


「まあ、待て。側妃が隠したのなら、きっと彼女への王位継承権は望んでいない筈。それに側妃が死ぬのは、サーフィオ王子にとっても予想外だった筈だ。モンロリオールに教育を施し、レディになってから連れていこうとしている。それはみんなに、貴族に認めさせることが必要だからだ。ただの偽物のような平民を連れてくるのではなく、貴族然とした彼女をね」


「そうして連れていって、暗殺される寸法なのね。表向きは王妃を蔑ろにされたと騒ぐ騎士に、実際はサーフィオ王子の命令で。そしてその公の場で無礼切りにし、貴族に恐怖を植え付け逆らえなくする気だろう」



「彼女はそんなことの為に生まれてきたんじゃないわ」



「そうですよ、妹には幸せになって貰わないと。私達の分まで」




 長年接してきたレフリーにとっても、彼女はもう身内のような存在だ。そんな2人からすれば、サーフィオ王子が偉かろうがカンダタが雇われていようが、そんなことは知ったことではない。


そもそも私の命は僅かしか残っていない。

情もない家族より、この子の方が何倍も大切だ。別館の彼女達もそれに賛同してくれた。勿論ミレ伯爵とレフリーも。


幸いにしてこの部屋は、話の漏洩を避ける為に盗み聞きや盗聴も出来ない悪巧み用の応接室だった。(ランチェ)が知ったのもつい最近だ。カンダタの悪巧み仲間がぽろっと話したのを、聞き逃さなかった。


「この部屋なら、誰にも盗聴される心配のない壁や扉の厚さだ。悪人の用心深さで、私も安泰だ」と。

カンダタは笑って誤魔化すが、目は客人を睨んでいた。

きっと真実なのだろう。


客人が来れば、私一人にならぬよう別館の女性が付き添いで入る。不穏があればカンダタに知らせるうように、言われているのだろう。


でも既に彼女達は私の味方だった。モンロリオールが繋げた絆だ。



血生臭いことは避けたい。

だからモンロリオールを迎えに来る日までに、私達は逃げることにした。


レフリーが調べてくれたように、やはり側妃はモンロリオールと同じ瞳の色で髪は王の色だった。側妃の絵姿は、モンロリオールにとてもよく似ていた。


元々王妃とは政略結婚で、愛しい側妃は隣国の末姫らしい。国のパワーバランスで自国の公爵家の娘が王妃になったが、本当ならば末姫を王妃にしたかったのは明らかで、その差は周囲にもはっきりわかった。


王妃は何食わぬ顔顔で、側妃の食事に毒は盛らせるわ、階段から突き飛ばそうとするわをしていた。


せめてきちんと外面だけでも優先してくれたら、王妃だってここまで荒れはしなかった。



でも、筆頭公爵令嬢(王位継承権も持つ)がここまで馬鹿にされたのだ。殺意もわく筈。


表面上は敬うも陰では嘲笑する貴族達に、何度煮え湯を飲まされた気分になったか。憤死しそうになるのを堪えて、良き王妃を演じて来た。彼女が信じるのは、公爵家から連れてきた侍女とメイドの三人だけだ。


だが毒の教育も受けてきた元王女には、慣らされたきた毒は効かず、少々こずかれても護身術で鍛えた体は攻撃をかわした。


そこからは暗殺者の登場だ。


側妃なら回避可能も、モンロリオールが狙われては話しが違う。


結局側妃は、王と相談して身を隠すことになった。

モンロリオールはまだ5ヶ月になったばかりだった。



王家の避暑地の別邸に内密に移動する途中に馬車が襲われ、側妃とモンロリオールと側妃の侍女とメイドの四人で近くの街へ逃げた。幸い騎士達が応戦してくれ逃げおおせたのだ。


金品もあり民家を借りて潜んでいたが、執念深く刺客は襲ってきた。武道の心得のあるメイドや侍女も劣性だった。


「お姫様、お逃げください」

その声に弾かれるように動き出す側妃。

自分がいれば、足手まといになると思ったんだろう。


「私は逃げ足が早いから大丈夫よ。すぐ貴女達も刺客から離れなさい!」


きっと彼女達は退かないとわかっていた。

けれど声を掛ける側妃。……生きていてと祈るように。


「すぐ追いかけますので、先にお行きください」

「わかったわ。大好きよみんな」


そう言って、側妃は走って行く。後ろなど振り返らずに。


そして隠れるように貧民街近くに潜伏した。

元々服装も民にまぎれるよう昨日侍女が手配してくれた。



側妃は住み込みで食堂で働き、モンロリオールを育てていく。

元々人の善い食堂の女将は、何も聞かずに側妃を雇ってくれた。でも、そこも王妃の手の者に見つかり貧民街へ逃げた。

手に入る食べ物はモンロリオールに食べさせて、自分はあまり食べもせずアクセサリーを売って食い繋いだ。ほとぼりが覚めて、食堂へ戻った時には既に側妃は衰弱していた。


そして、「御迷惑だと思いますが、この子をお願いします」と言ってこの世を去った。


食堂の夫婦はモンロリオールを店で遊ばせながら、育ててくれた。その時におくるみで作った巾着に、着替えや宝物を入れて置くと良いと渡されたのだ。小さいおくるみだが生地がとても上等で、モンロリオールとわかる物の一つとして女将さんが縫ってくれた。



暫くは平穏な日々が続くが、ある日女将さんが馬車に跳ねられ死んでしまった。残された店主では店が続けられず、店を売った金で酒浸りになった。モンロリオールは保護を受けられず、そこから食べ物を探してさ迷う日々が続くのだ。


期間としては半年ほど、でも記憶が怪しくなるほど彼女は疲弊していた。そしてカンダタに着いて行ったのだ。




国王も王妃も側妃も、もう少し互いを思いやれば幸せになれたかもしれない。ただ三人は愛されるのが当たり前で、他者のことを考える能力が低かった。




でも今となっては、モンロリオールには関係のない話だ。

自分のいない所で好きにやれば良い。


打算があって育ててくれた(実際に育てたのはランチェだが)カンダタには多少感謝している。あのままならきっと死んでいたから。



でも髪と目の色から検討をつけて、密かに側妃達探しをしていたサーフィオに売り渡そうとしたのは勘弁して欲しい。



だからもう、みんなと相談して、モンロリオールはここを出ていくことにした。

ランチェとレフリーも、一緒に来てくれるそうだ。


その時にここの別邸にいる女性達も、みんな出ていくことにしたらしい。



モンロリオールの扱いを聞いて、もうこのまま我慢することを止めたらしい。弱い者は利用されて殺される。


モンロリオールは極端だが、自分達の命と心だって緩やかに殺されているようなものだ。


ここに自分がいることで家族は幸福かもしれないが、恩恵なんてまして感謝の言葉すらないのだ。それが当たり前になっている。


「お前が我慢すれば済むことだ」と。


一度は受け入れた。

けど、もう十分頑張った。ここにいる女性は、それこそ十年以上も頑張ったのだ。


今度は貴方達が我慢すると良い。

そうすれば済むこと。



彼女達は、奪われた自由を取り戻すように逃げることにした。

自由に責任は付き物。

たとえ捕まえられても殺されても、モンロリオールを逃がすことができればそれで良い。


カンダタだとて借金の為にここへ来て、30歳を越えた娼婦のような女達を貴族用に囲い置くよりも、お金で家族に責任解決して貰う方がだんぜん良い。妾として囲っている貴族も、責任から囲っているだけで飽きた体にもう食指は伸びない。いなければ新しい娘を探すだけなのだ。


失礼なことに、男達は若い娘に価値を置いていた。

花の盛りを過ぎた女達は、こんな扱いなのだった。


店で雇っている騎士は少人数だ。

数名の女性が出掛ければ、付き添うために手薄になる。


その上で店の者の目を盗み、モンロリオールや数名の女性が別邸を去る予定。




決行はあっさり成功し、モンロリオールと数名の女性は逃走できた。よく逃走は逃げてからが本番だと言うが、レフリーやミレ伯爵の協力もあり国外の逃亡は叶った。



元々女達が逃げたことはなく、それを防ぐ方法も考えていなかったのだろう。家族を捨てる気がある者なら、最初からここに来ることもなかったろうと驕っていた。


人間は諦める動物だが、きっかけがあれば変われることもある。


モンロリオールというカンフル剤が投入された別邸には、もう今までの価値観の人はいない。


人間は考える葦。そう、弱いけど思考する強さがある。





ーーーーーーーーー


「サーフィオ殿下。モンロリオールは十年以上の教育を施し、美しい淑女になられました。切って捨てるには惜しい女性ですぞ」



 そう言って悪い顔で笑うカンダタは、別にサーフィオに意見したい訳ではない。立派に育てたのだから、金銭を弾めと遠回しに言っているだけだ。 

この悪い商人にあるのは、何が得で何が損か。敵か味方かだけ。

シンプルだが、切り捨てる潔さは強い。

普通の人間には情が生まれるからだ。それが殆どないのだからある意味最強だ。




「言いたいことはわかっている。だが、惜しいと思われてこその人身御供なのでな。謝礼は弾む、その代わり明日は派手に着飾らさせよ」


「承知しております。心してお待ち申し上げます」


 

打ち合わせをして帰るカンダタは、商品(モンロリオール)と引き換えの金貨を思いほくそえんだ。



だが帰宅すれば混乱した店の様子に、嫌な汗が出る。


「申し訳ございません、旦那様。モンロリオールがいなくなりました。ランチェ夫人の姿も見えません」


「な、なんだと! 探せ探せお前達、草の根分けても探し出せ!」


倒れそうになる身を奮い立たせて、ランチェの行きそうな場所へ指示を出す。



「あの女の居場所。ライナイ伯爵家に、ミレ伯爵家、それと前ライナイ伯爵家くらいか。すぐに捕まえてやる。帰ってきたら多少の折檻は必要だな、くくくっ」

余裕なカンダタは、既に結果が出たように安堵していた。

突発的な家出と思われたのだろう。



そこでまた、逃亡に有利な時間が増えたのだ。





モンロリオールとランチェ、レフリーは、既に隣国へ向かう船に乗っていた。彼女らが別邸を出たのは午前中の10時くらいで、カンダタ達が気づいたのは、夜間の21時過ぎだ。そしてここまで追ってくる気配もない。



そもそもレフリーがここにいるのも異例だ。

彼は宰相補佐なのだから、仕事を辞する覚悟がなければ来れないだろう。だが彼がここにいるのは、隣国ガネーシャの特使として王国に向かう為になのだ。


勿論ミレ伯爵からの書状で、隣国の王へモンロリオールのことを伝えた後の結果だ。

こちらにいるガネーシャの間諜による事実確認がなされ、秘密裏に護衛を頼まれたのだ。


こちらの国王には、レフリーがガネーシャ国王との親交があり輸入のことで相談したので特使として送って欲しい旨の手紙が。


ミレ伯爵には、モンロリオールを安全に連れて来て欲しいと、依頼する手紙が送られて来ていた。



 カンダタに一番に疑われるレフリーだが、王の勅命の最中でランチェに構う暇はないだろうと容疑は外された。無論嫌々ながらのミレ伯爵にも邸を見せて貰うが、いる気配はなかった。



生家のライナイ伯爵家へ出向く。

すると伯爵から、「ランチェが死ねば支援金が貰えなくなる契約について、どうにかならないか」と開口一番に言われた。


(娘の心配どころか、金の無心か。あの女も酷い親に当たったものだ)


僅かに感傷するが、ランチェが逃げたことを伝えればランチェの両親や兄は顔を青くした。


「ランチェが逃げた。ここにいれば連れて行くが、いなければ契約は終了だ。本当は違約金も欲しいところだが、よく働いてくれたのでなしで良い。寿命も僅からしいからな。だが見つければ連れてきても構わない。そうすれば死ぬまで契約は続行しよう。取り合えず今月分は渡し済みだから、いったん契約終了だ」



そう告げて邸は探さず、踵を返した。

「ランチェだとて、あの家に戻りたいと思わないだろう」



 ライナイ前伯爵の隠居邸にも彼女達はいなかった。

そこである思いが去来する。


(もしかしたら病が辛くて、自殺…… 世話になったモンロリオールも彼女と一緒に死んだとか?)


心のどこかでこの可能性を思いつけば、何だかしっくりする気がした。

モンロリオールがここに来た時は、生きる気持ちが強かった。

でも教育を受けランチェを慕うことで、一緒に死んでも良いと思ったかもしれない。どうせ殺されるか妾にされるしかないなら、着いていこうと思ったのかも。



そうなれば、いくら探しても無駄な気がした。



店に帰れば、人の出払った店の隙をついたのか、別邸の女がみんないなくなっていた。一人も残らずだ。目に生気のない者も多かった筈なのに。



「ははっ。みんないなくなった。

そうだよな、こんな地獄で自分だけ犠牲になる必要はない。

自分達で責任を取れば良い。俺もきっとすぐに地獄にいくだろう」



 カンダタは、従業員を呼び出して暇を出すと言った。


「サーフィオ殿下の商品を逃がした俺は殺されるだろう。

みな今まで良く働いてくれた、退職金を渡すから並んでくれ」


「カンダタ様、申し訳ありません。俺達のせいで」


従業員達は土下座で謝るも、もうカンダタは怒っていなかった。

「良いんだよ、もう。他の女も探さなくて良い。今ある金の借用書は息子に渡すから、生活には困らんだろう。逃げた女達の借用分は家族に支払わせるしな。金もある程度あるから、こっちは気にするな。みんなは元気で頑張ってくれ。生きてたらまた会おう」



従業員も息子も、涙を滲ませていた。

こうして見れば、情も悪くないな。

もっと早く気づければ良かったのに。


まあ、気づけて逝けるのは良いんじゃないかな。

何故か抗う気もなくなったカンダタは、重荷が取れたように体が軽い。


「今日はもう店じまいだ。殿下に顔ばれしてる奴は、遠くに逃げろよ。八つ当たりされるぞ」

いつもしかめ面の顔に笑顔が溢れた。


「お前も金を持って逃げろ。暫く身を隠せ。今まで親らしいことも出来なくて悪かったな」


そう言われた息子は、俯いて床に涙を落とした。

「なんでそんなこと言うんだ。孤児の俺を育ててくれたのに…… 一緒に逃げようよ、親父ぃ」



カンダタも孤児だ。

丁稚奉公先の息子に虐待により男性器(精子の袋)を破壊され、子供を持てない体となった。それでも子供の悪ふざけとして済まされ、極僅かの見舞金を受け取っただけだ。


この時にカンダタは誓った。

「力がなければ、謝罪さえされない。

いつか力を持って、見返してやる」と。



それからカンダタは、悪事にも手を染めながらのしあがった。

元々地頭が良い男で、顔も整っていたカンダタ。

今は美食だけが生き甲斐で太ったが、なかなかのイケメンだったのだ。殺人以外は何でもやった。ジゴロなんて朝飯前だ。体を繋げなくても寂しい女はたくさんいたから。



そんな時に親から殴られ、死にそうな今の息子に会ったのだ。

その時は気が向いて、医者に見せて引き取った。

戻せば今度は殺されると思って。



「弱いと食い物にされる。強くなれ」


息子は頷き、カンダタの右腕として働いた。

傍にいるだけで幸せだった。


カンダタに抱きついて、「ありがとうございました」と言って店を出ていった。きっとそれが彼の望みだから。

そして貰った命を大事に生きていく。


その背を見送るカンダタ。


思えばカンダタは、丁稚奉公のような暴力を従業員に向けたことはない。それだけでも従業員は嬉しかったのだ。


人をいたぶる雇用先に、遣えていた者が多かったようだ。

だから無愛想でもカンダタは嫌われていなかった。


給料もきちんと安定して支給する良い雇用主。

仕事内容はきついこともあるが、落ち着いて暮らしていけた。


カンダタの店で、腕っぷしも鍛えられた従業員はもう暴力には怯えないだろう。




「ありがとうございます。できれば生き延びてください」

思えばカンダタは、自分がされた暴力は従業員にふるわななかった。人として扱った。勿論例外はあるけども。




 そして翌日サーフィオは、店の前で怒りに任せてカンダタを切り殺した。それを知った息子と従業員達は復讐を誓った。殺すことじゃない、商人としてのやり方で。


いつもの仮面を外した微笑みの王子は、罵倒と共に既に息をしていないカンダタを蹴りつけた。ゲシッゲシッと音を立てて。


それにはお着きの騎士も、さすがに止めた。

「殿下、どうぞその辺で」


「はあっ、はあっ、ああ悪いな。計画が崩れて、思わず切れてしまったよ。悪いんだけど、モンロリオールを探してよ。なるべく早くね」


「はい。早速、開始いたします」


「頼むね」



地面に横たわるカンダタだが、苦悶はなく穏やかだった。

勢い良く切られたことで、意識を手放せたことも幸いしたのだろう。

覚悟を決めたカンダタは、逃げる素振りも見せなかった。


逆に突然に切りつけたサーフィオは、周囲の平民達に醜態を見せたことで、徐々に偽りの姿が剥がれていく。あの状況を見た人から詳細を聞いたカンダタの息子は、真実のサディズム(加虐性癖)と婚約者の末路に尾ひれを付けて流し始めた。


それにより平民はおろか、貴族からも遠巻きにされた。

娘を傷物にされても王家に逆らえなかった貴族は、肯定はせずも否定には回らない。それが答えだった。



隣国をまきこむどころか、自ら自滅したのだ。

でも大丈夫、王太子は彼を反面教師にして良い治世にするつもりだから。





――――――――――

その頃のガネーシャ王国では。


モンロリオールは祖父となる国王と、祖母となる王妃と対面していた。


「ああ、良く生きていてくれたね。貴女の亡き母の若い時にそっくりだ」


「本当に似ているわ、ううっ。私が隣国王との結婚を許さなければ」


「そう言うな。もしそうすれば、この子に会えなかったのだよ」


「そう、ですね。すいません、貴方」


亡きモンロリオールの母を思い、涙を流す国王夫妻。

そしてモンロリオールに向き直り、優しく話し掛けた。



「私達が貴女の祖父と祖母とになる、ラフィール・ガネーシャとユズミ・ガネーシャだよ。よろしくね、モンロリオール」



モンロリオールは、ランチェに学んだ淑女の礼(カーテシー)を披露した。隣国とはマナーも殆ど変わらないと聞くので大丈夫なはずだ。


国王夫妻を見るとうんうんと頷き、「とても綺麗な礼ね」と褒めてくれた。礼だけでこんなに褒められるなんて、ハードル低いなと微笑むと、今度は泣かれた。


「よくぞこんなに立派に」


「頑張ったのね」



それもその筈。ミレ伯爵からの彼女の生い立ちを聞いて、平民のようなマナーを知らない孫だとしても受け入れようと思っていたから、まさかこんなに気品を身に付けていると思わなかったのだ。



「はい、頑張りました。これはランチェ姉さんが教えてくれたのです」


「まあ、そうなのね。貴女のお隣の女性がランチェさんかしら」


「ご挨拶申し上げます。ランチェ・ライナイと申します」

そして、見事な淑女の礼(カーテシー)をして見せたのだ。

社交もしていないランチェは、緊張でいっぱいいっぱいだった。


(何とか上手くできたかしら。緊張するわ)



「ありがとうございます、ランチェさん。ああ、先程からランチェさん呼びでごめんなさいね。モンロリオールがそう呼ぶから。不快だったら直すわ」


「いいえ、光栄です。是非、ランチェと呼び捨ててください」


「うーん、ランチェさんと呼びたいわ。孫とお揃いなんだもの」


「わかりました。光栄です」

ランチェはそう言って頭を下げた。



「そして、君がレフリー・ミレ伯爵令息だね。ありがとう、君と君の父上のお陰で、生きて孫に会えた。何のお礼をしたら良いか」


国王は心からの賛辞を述べた。

レフリーは深く礼をしてから、述べる。


「勿体ないお言葉でございます、陛下。厚かましい願いがございます。でももし可能ならば、ランチェの病を見てくださいませんか? 医者からは寿命僅かと言われています」


驚く国王。

「そんな体で、こんな遠くまで来てくれたのか? ああ、すぐに医師を手配しよう。もし手術可能なら、刃物で切り取る方法もある。まずは診察じゃな」


そう言うと、お付きの方に指示を出して王宮医師を呼ぶ。

この国は私の国より医療が発達しているようで、私の国にはない外科手術と言うものがあるらしい。


「お祖父様、絶対治してあげて。ランチェは私の姉さんのような大事な人なの」


孫娘の懇願に、国王は最大級の協力を約束した。


「そこの者、法王へ至急連絡じゃ」

「王よ、いくら何でもそれは」


「そなたは、孫の姉を見殺せと言うのか?」

「いえ、失礼致しました。至急お呼びします」


そう言って、走り去る側近達。




(大変なことになったよぉ、どうしよう)

焦るランチェ。

彼女はモンロリオールをここに届ければ、思い残すことはないと思っていたのだ。ふらつきながらも、最期の力を振り絞ってここまで来た。昔から我慢することには慣れてたから。



それが王宮医師に法王なんて、普通の貴族令嬢でも縁のない状況が続いている。特に法王の奇跡の力は、王族以外には秘密なんだとか。知れれば、貴族が群がって治療を望むだろうからだそう。

国を治める者にしか使われない奇跡を、私が受けるなんて、冷や汗がでる。


「絶対、大丈夫。助かるよ、ランチェは」

「そうだぞ、そして俺と結婚してたくさん子供を作るんだから。モンロリオールの弟と妹だ。絶対可愛いぞ」

「うん、いっぱい弟妹欲しい。今度は私が勉強教えてあげるよ」



二人は嬉しそうに話している。

そうね、そんな未来が来ると良いなぁ。


そう思っていると、気を失っていた。







目が覚めると、ベッドの上にいた。

「痛たっ。ズキズキする」


思わず声がでると、扉が開いてモンロリオールとレフリーが入って来た。


「やっと目が覚めたのか、やったぞ! ランチェ、お前は病気に勝ったんだ」

「姉さん、病気治ったんだって。良かった、良かったよぉ」



どうやら死にそうだったのは確かだったようで、気を失ったまま手術をされて、死にそうになると法王様が回復魔法を掛けながら手術を続けたようだ。



でも、全然目覚めなくて、私は死の淵をさ迷っていたようだ。

悪いところはもうないと、法王様のお墨付きだ。



「本当にありがとうございます。命の恩人です、皆さんは」

起きたら全てが終わっているなんて、何て嬉しい誤算だろう。



その後国王様からのお話で、モンロリオールとレフリーは毎日教会で泣きながら祈っていたらしい。


「姉さんを連れていかないで。治してください」

「俺はもう、大好きなオレンジは食べないと約束する。だからお願いします」


毎日、神様とお話していたらしい。

自分の出来ることをするんだと言って。


それが神頼みだったみたい。



私は嬉しくて、嬉しくて、大泣きしていた。

でも泣くと、胸が痛くて「痛たっ」って。


生きていて、こんなに嬉しいのは初めてだった。





国王様は生家に帰らなくて良いように、私を侯爵家の養女にしてくれて、手術の痛みがなくなったらモンロリオールの侍女になった。


これからいつも一緒だ。


レフリーは駐在外交官となり、この国に住むことになった。

そしてもうすぐ結婚することに。



私はカンダタの元で、どういう生活をしたかを彼に話した。

まるで娼婦のような生活のことを。


そうしたらレフリーは、「そんなこと気にしない。ランチェが生きてるだけで十分幸せだから。神に誓ったから、もう好物のオレンジは食べられないけど、ランチェと一緒になれるんだから屁みたいなもんだ」


過去のこと等なんでもないと言い、笑って口づけてくれた。

私は泣きながらレフリーを抱き締めて、レフリーも優しく腕を回してくれたのだ。



モンロリオールの父である国王アクトには、ガネーシャ国王から信書が送られた。


ランチェ・ライナイ令嬢はモンロリオールの命の恩人だと、モンロリオールが生きていることを王に伝えた。


そしてライナイ家のことを非道を伝え、ランチェのことは死んだことにして欲しいことと、もう既にこちらの侯爵家の養女に入っているので、生家にもそちらの国にも帰らないことも伝えてくれた。


そして側妃の死の真相と、こちらの侍女とメイドの死。

側妃が亡くなりモンロリオールが巡った不遇なども。



モンロリオールからは、貴君の王妃とサーフィオの罰は特に望まないが、モンロリオールのことは特に知らせないで欲しいと頼んだ。


いつか会うことになっても、既に住む世界は違うので交わらなければ良いと思うからと。


王妃とサーフィオには思うところはあるけれど、人の罪をどうこうしたいとは、もう思わないのだ。


勿論王が来れば、いつでもモンロリオールには会えると伝えた。



国王アクトは、モンロリオールのことは秘密にしているらしい。

そして王妃とサーフィオにはがっちり監視を付けて、何かすれば即断罪する予定だそう。

近日こちらに来るそうだ。

モンロリオールが生きていて、本当に嬉しいと書かれていた。

本当はがっつり断罪したいが、醜聞で国が荒れるので監視に留めているらしい。難しい立場だ。




ランチェも家族には文句も言いたいところだが、ここに来なければ病気を治せなかったことを思うと、もう良いやと思ったらしい。


ミレ伯爵との交流は盛んで、ちょくちょくこちらに来て泊まっている。



今、私は幸せだ。





 ライナイ伯爵家は、カンダタの支援金がなくなっても母は贅沢し、父も愛人を作り生活しているらしい。領地収入では二人の散財を支払いきれず、既に爵位を継いでいた兄は、両親と縁を切って捨てたらしいと聞いた。



母は父と離婚して生家に戻るが、既に代替わりした兄に部屋に監禁されているらしい。外に出れば買い物で散財して手に追えないようなのだ。母の両親は既に他界しているので、もう我が儘を許してくれる人はいない。


父は文官の仕事を細々と続けているが、羽振りが悪くなり容姿も落ちた父は愛人に捨てられたらしい。所詮、愛がなければこんなものなのだろう。今は寂しく呑み歩いて、体を壊していると言う。


健康って、大事なのにね。



王太子はもうすぐ国王に即位するらしく、その王太子の毒殺を狙ったサーフィオは毒杯を賜ったらしい。どうやら、彼の評判は落ちて手駒がいないので、自分で実行し失敗したのだそう。


まだ王位諦めていなかったんだね。

残念王子だ。


新国王と王妃は仲睦まじく、お似合いの二人らしい。

前国王は、こちらに暫く滞在すると張り切っている。




王妃は更なる国王の冷たさに、浮気をして離婚された。

今は生家で何もせず、ぼんやりしているらしい。


せっかく王太后になったのに、こちらも残念な結果だ。 





結婚して3年が経ち、私は男女の双子を出産した。リオ(モンロリオール)は大喜びで遊んでくれている。弟妹がいっぺんに出来て、とても嬉しそうだ。


レフリーもずっと優しい。

来年にはもう一人子供を授かる予定だ。

まだまだ新婚のようだと、回りに冷やかされる。

恥ずかしい……………

それでも、生きていて良かったと毎日思う。

夢のような時間だ。



やっぱり今日も、私は幸せだ。





 モンロリオールが貧民街で食べ物を探してさ迷っていた時、時々食事を提供していたのは、お世話になっていた女将さんの旦那さん(店長)でした。酒浸りで朦朧とすることが多かったのですが、時々酒が切れた時に゛はっ〝とモンロリオールのことを思い出し、一度放り出した手前自分では渡すことは出来ずに、お礼を渡して他の人に食べ物を届けて貰ったのでした。酒が抜けない彼には定期的な援助は出来ず、時々日雇いで働いて酒代とモンロリオールの食事を捻出していました。ツケも多くありました。


 でも、モンロリオールがいなくなり、死んだと勘違いした彼は後悔から酒を断ち、真っ当に働いて女将さんとモンロリオールの冥福を祈ることにしたようで。その後の生涯は一人で過ごしましたが、仲間に恵まれて穏やかに過ごしたようです。勘違いですが、知らずにモンロリオールは、彼の人生も救っていました。



12/24 日間ヒューマン部門30位でした。

ありがとうございます(*^^*)

夕方22位でした。ありがとうございます(*^^*)

12/25 7時も22位でした。ありがとうございます(*^^*)

夕方、17位でした。ありがとうございます(*^^*)


 誤字報告ありがとうございます

大変助かります(*^^*)

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