004 気
「うぁ~」
熱が上がって苦しいよぉ。
「あんなに布団が濡れていたら、そりゃあ風邪ひくわよ。なんで、あんなにびしょびしょになってたのかしら?」
ごめんなさい、私が魔法の練習してたせいです。
お母さんが付ききりで看病してくれている。
暑いから額に乗せられたタオルがすぐに熱くなってしまうのだ。
それをお母さんが一生懸命に取り替えてくれる。
自業自得で風邪ひいちゃったのに、ちょっと申し訳ないなぁ。
あ、そうだ!
氷系魔法使えるようになったんだから、タオルを冷やせばいいじゃない。
今度は布団が濡れないように、氷を出すんじゃなくて、タオルを冷やす程度に調整して……ああ、気持ちいい。
「えっ!?今、魔力が……」
あ、やばいっ!?
私が魔法使ったの、お母さんにバレちゃった?
生後数ヶ月の赤ちゃんが魔法使ったら、いくら異世界でもおかしいよね?
「そんな筈無いわよね。気のせいかしら?」
お母さんが、何か勝手に気のせいって事で納得してくれたので助かった。
それにしても、魔法が使える人には他人が発した魔力も感じれちゃうみたいね。
気をつけなくちゃ。
私はなるべくお母さんが居ない時にタオルを冷やす事にして、それから3日間寝込んだ。
そして、何とか回復したけど、赤ちゃんだから寝たままなのは相変わらず。
暇なので、私は魔法の練習を再開した。
出せる氷をもっと大きくしたいので、どうすればいいか考えてみる。
第一案、魔力増強。
でも、どうすれば増えるの?
筋肉と同じで、超回復の原理で増える?
そういえば、意識が飛ぶまで魔力を使うと次回から少し慣れてくるから、毎日魔力の限界まで使うのがいいのかも?
但し、変な時間に意識を飛ばすと、夜中に目覚めてお腹が空くという事態になる可能性があるので、就寝前に全魔力を解放する事にしよう。
第二案、効率化。
とは言っても、どういう課程で氷が出来てるのか分からないとダメよね。
魔力を集めて——頭の中でイメージして——具現化する。
これが氷を作る時の手順だけど、魔力がどうやって氷になってるのか分からない。
物理とか化学とか苦手なんだよな~。
頭で考えても分からない時は、実験して検証してみるといいって、前世で先生が言ってた。
という訳で色々試してみる事にする。
氷が出来たんだから、他にも何か具現化出来るかも知れないよね。
魔法万能説!
取り敢えず、暑いので扇風機を具現化してみよう。
魔力を両手に集めて、扇風機をイメージ。
「へあっ!」
……何も出ない。
赤ちゃんの魔力じゃ足りなかったのかな?
いや、何か今のは魔力が対応出来なくて霧散したように感じた。
ひょっとして、空気中にその物体を構成する元素が無いから具現化出来なかったの?
その可能性はあるかも。
氷は空気中の水蒸気の温度を下げる事で具現化できていると考えれば、扇風機は鉄の元素が空気中に殆ど含まれていなかったから具現化出来なかったと言えるかも知れない。
魔法って言っても万能じゃないんだね。
土になら鉄分は含まれてると思うけど、土は外から持って来なければいけない。
私が寝かされている場所は和室の中央で、障子戸は開けられていて直ぐ縁側が見えるけど、ちょっと遠いから外まで魔力は届かないだろうなぁ。
そうすると、やっぱり空気中で何とかしないと……。
えっと、空気中にある元素は、窒素、酸素、二酸化炭素……あ、炭素があるじゃん!
二酸化炭素を魔法で分離させて炭素を取り出せば、軽くて丈夫なカーボンになる筈。
私は両手を天井に向けて魔力を集中させる。
そして、二酸化炭素を酸素と炭素に分離させるイメージを頭に描く。
触媒になる物なんて無くても、魔法なら分離出来ると思う。
手から出た紫色の魔力がうねるように動きだしたところで、分離した炭素をまとめ上げるイメージを集中させる。
紫色の靄が私の顔の前で一カ所に集まると、直径2cm程の黒い球体を形成する。
できた……けど、やっぱりちっさ。
しかもこれ、カーボンってより炭みたい。
炭素の英語名ってカーボンだった筈だけど、私のイメージ力じゃ前世で見たカーボンフレームみたいな軽くて丈夫なものにならないみたいだね。
きっと特殊な加工が必要なんだろうなぁ。
イメージ出来てないから具現化出来ないのかな?
そんな技能の知識無いよぉ……。
そして私は、目の前で浮いている黒い物体を見ながら、はっと気付く。
こんな炭の塊が布団に落ちたら絶対汚れる!
怒られる事は無いと思うけど、あんまり不審な事はやっちゃダメだ。
炭に向けて魔力を再び流し、元の二酸化炭素に戻るようにイメージする。
すると炭の塊は溶けるように霧散して行き、空気中に消えていった。
証拠隠滅ミッション、コンプリート!
その直後、お母さんがこちらに歩いて来る音がした。
「あら、おかしいわねぇ?また、こっちの方から魔力の気配がしたんだけど、誰も居ないし」
あぶない、あぶない。
お母さんに魔法使ってるのを見られるとこだった。
証拠隠滅しといて良かった……。
辺りを見回してたお母さんが視線を下げて、
「やっぱり撫子が……?」
ギクリ!
私はそっと視線を外した。
「まさかねぇ」
疑われ始めてる……拙い!
慣れて来たせいか魔力が大きくなって、離れた所からでも感じとれるようになってるのかも。
多分、お母さんは私の手から出ている魔力を感じてるんだと思うから、放出を抑えて、体内で魔力を移動させる訓練に変えよう。
魔法使う為の基礎トレーニングだと思えば我慢出来る。
剣道やってた頃から、地道な練習は結構得意なのよ。
それから暫くは、体内の魔力を自在に操る訓練が中心になった。
最初は手の中で魔力をぐるぐる回すとこから。
次第に腕、足首、膝、腰、額と色々な所で魔力をうねうねと動かす。
プールに入る時と同じように、心臓から遠いところからやっていきます。
内臓付近の魔力を動かすのって、ちょっと怖いからね。
赤ちゃんは成長が早いのか、数日でかなり思い通りに動かせるようになって来た。
もう一日中動かし続けても、意識を失う事は無く動かせるよ。
そしてある日、魔力では無い別の力の存在に気付く。
……これってまさか、気?
タイトルはボール集めっぽいのに、完全にバトルオンリーになっていたあの漫画に出てくる気?
そんなのがあるって事は、とある国の大王の名前みたいな気の衝撃波を撃てるって事?
そういえば、お父さんが刀を光らせてたのって、お母さんが使ってた魔法とは光り方が違ってたかも。
お母さんの魔法は紫色の光を放ってたけど、お父さんの刀は太陽の如く金色に輝いてた。
お母さんはお父さんに「気を抑えて」って言ってたし。
あれは魔力じゃなくて、気だったのかも。
そもそも丹田呼吸法をしたら、魔法じゃなくて気が使えるようになる方が自然だよね。
自然の定義って何ぞや?
知らぬ!
気を発見した私は、その日から魔力と気を高める訓練に勤しむ事にした。
何時か気の衝撃波を撃てる事を夢見て。
あれ?私、剣士を目指してた筈じゃ……?