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第6話 なにかを気づいた女子とニュース報道

 その日の夜のテレビの全国ニュース、それもトップで取り上げられたこの街で起きた事件。そのニュースで被害者の女性が死亡したことを知った。

 母さんは家の電話を使って誰かと喋り続けている。父さんは父さんで携帯電話でやっぱり喋り続けていて、二人の会話の中心は「死んだのは誰なのか?」、「犯人は誰なのか?」、「この街の小中学校や高校に通う子供たちは明日はどうすべきなのか?」なのだが、ともすれば「だから女の担任は全く頼りにならなくてダメなんだ」という話にすり変わる。母さんなんかさっき本人を目の前にして笑顔だったクセに。


「だから違うって! 何度言ったら分かるのよ! 近藤先生は自分が出来る事を精一杯やってた! なんも知らんクセに頼りにならないなんて言うな! それこそ副担の岡田なんて男のクセにどっか行っちゃって何もしてねぇからな! あいつなんてチョー無責任なんだって! それなのに何で近藤先生ばっか女だからって頼りにならないとかダメだとか言ってんのよ! ふざけんな!」


 近藤先生は転勤してきたばかりで、どんな人なのかは俺だって知らない。けど無性に腹が立った。なんで近藤先生ばっか悪口言われてんだよ。先生の事を悪く言う両親やクラスメイトの親たちが許せなかった。俺は乱暴な足取りで階段をあがり自分の部屋に籠った。


 ベットに寝転がって天井を睨んでいても一向に怒りが収まらない。なんにも知らんクセに知ったふりしやがって、全部勝手に決めつけて、それでいて俺が何かを言うと、子供のクセにとか、社会っていうのはそんな甘いもんじゃない、理屈を言うな……自分たちに都合のいい言葉で胡麻化して、大人ってなんであんなにクダラナイんだ。

 考えている内にますます腹が立ってきて、壁を思いっきり叩きそうになるのを寸前で止めた。前にそれやって壁に穴があいちゃってポスター貼って胡麻化しているのだ。クッソーもっと頑丈な壁にしてくれよな。なんでこんなもんで穴あくんだよ。携帯が鳴った。


「もし……」

「私……わかる?」

「ああ、新井さんだろ」


 そもそもアドレスだけではなく俺の携帯番号を知っている女子は新井さんしかいないし、その新井さんが勝手に自分の番号やらアドレスを俺の携帯に登録していったんだから、今だってディスプレイに新井涼子って文字が出ている。


「なんか珍しく機嫌悪そうだけど、なんかあった?」


 電話掛けてきたのはそっちだろ。何かあった? はこっちの台詞だ、って言いそうになったが止めた。


「別に何もないって」

「ふ~~ん、まぁいいや。ところで今って喋っても大丈夫? 傍に親とかいない?」

「ああ、自分の部屋で一人だから」


 ーー例の刺された女の人、死んじゃったのは知ってる? ……うんそうそう、全国ニュースでも取り上げられてた。っでその死んだ女の人って、1っこ先輩に佐々木君っていたでしょ? ……ちょっと不良っぽくってウチらの学年のC組の影山純子と付き合ってた………え? 知らないの? マジ? あの二人って堤防でセックスしてるの見つかったバカップルで有名だったじゃん。……まぁいいや、その話は置いといて、その佐々木君の母親らしいよ、刺されて死んだ女の人って。ニュースじゃ何か所も刺されてたって言ってから怨恨なんじゃないのかな? ウチって商店じゃん。私も店番やることあるから……うん……随分前になるけど佐々木君が母親と来たことあって、私覚えてんだよね。なんて言うのかな~~パっと見は普通のオバサンなんだけど、へんなエロさみたいなのがあってーー



 それから佐々木君の母親のエロさを長々と説明する新井さんは、結局は不倫相手に殺されたんじゃなかろうか、という事を言いたくて電話をしてきたようだ。そんな新井さんと喋っている内にーー大半は新井さんが一人で喋っていたのを俺が聞いていたのだが、不思議と気分が落ち着いたのに気が付いた。そう言えば電話に出た時の俺って、けっこうツッケンドウだった。それは新井さんも感じてたはずだけど……そんな俺の態度受け流して……付き合いが長いせいなのかな?


 話がひと段落ついたところで俺は聞いてみた。


「新井さんって河西さんのこと知ってた?」

「へ…?」

「ほら、転校生の河西さんの事だって」

「そんなの当たり前に知ってるって! 改めて聞いてくる理由についてが疑問符なの!」

「あ~悪い悪い。河西さんってつい最近転校してきたけど、10年くらい前にもこの街にいたって知ってた?」

「え…ぇぇえええええ?? なにそれ? そんなの初耳! でもさ~初めての日に自己紹介してたじゃん。チョー簡単だったけどそんなこと言ってないし、先生だって……それって誰情報?」

「いや…誰ってこともないんだけど…きっと勘違いだわ。ただ…もし前に住んでたんなら、家が商売やってる新井さんなら顔も広いし、知ってるかな~って思ったんだよね」


 ーーこの街ってけっこう広いよ。だから街の反対側に住んでたんなら……だってさ~、春山とは小学校も同じだけどウチの店に来るようになったのって今の家に越してきてからでしょ? 前に住んでたのってどこだっけ? ……あ~曙町ならウチの店に来ることないわ。小学校は同じ校区だけどさ。あ…そう言えば河西さんで思い出したことある。D組の女子で篠原朱海って知ってるよね。………そうそう、小学5~6年の時同じクラスだった朱海。私と従姉妹なのも知ってた? ……え? ………知らんかったけど顔似てるって? ……そうかな~…まぁ母親同士が姉妹だから似てるのかもね。朱海の家ってお寺なのは知ってるよね。本山が高野山の真言宗のお寺。私はよく分かんないんだけど、朱海のお父さん…私とは血ぃ繋がってないからね。落とせるみたい……除霊ってやつ。そんなこともあって娘の朱海も見えるらしくて、その朱海が言ってたんだけど……あの子…河西さんのことなんだけど、あの子おかしい、って。なにがどうおかしいのかは朱海自身もよく分からないみたいなんだけど、とにかくおかしい、って。そう言えばさ~話変わるけど、ウチらの学年って恐れられてるって知ってた? 変に固まっちゃったんだよね。朱海がお寺の娘でしょ。B組の大国照子が神社の娘。……え? 神社に娘なんかいたかって? あ~~あんたが言ってる神社は、あんた家の近所にある天照系の神社でしょ。確かにあそこは娘なんかいないし息子が2人だわ。大国照子の家は……なんなんだろう…あの神社…川向うにある山の中腹にある神社。……行った事なくたって鳥居ぐらいは見たことあるんじゃないの? かなり遠くからでも見えるでしょ。……うん、なんか祀ってるんだから大国照子の父親が神職なんだろうね。そう言えば、昔ウチの祖母ちゃんが言ってたことあったな~……。確か大陸から渡ってきたナニかを祀ってるって。だからなのかもね、大国照子って物凄く背ぇ高いでしょ。175はあるよ。そんでもって照子の父親なんか190は絶対あるから。あっち系のDNAだよ。それともう一人、C組の権藤彩音。彩音の祖母ちゃんって今でも拝み屋やってて、ちょっとした民間信仰みたいなものらしくて、この街で彩音の祖母ちゃんのこと信じてる人ってけっこういるみたいだよ。そんなの揃った学年だから上級生や下級生が恐れちゃってんだって。ちょっと笑っちゃうよね。でも先生方も気にしてるっぽくって、3人が同じクラスなったことないもんねーー


 そう言えば今日体育館で河西さんに何かを言っていた女子も権藤という苗字だと聞いたな。


「1年の時に3年生の不良にビンタと回し蹴り決めたって高橋が言ってたけど、その権藤のこと?」



 ーーあ~、3年生の男子にビンタ食らわしったのって1年生の時の権藤彩音だよ。私その場にいたから見てたもん。でもさ~回し蹴り決めたってことになってんだ、アハハハハハハ…うける。……うん違うよ。ビンタされた3年生の男子がやり返そうとしたんだよね。そしたらさ~……クックックック…彩音が思いっきり急所蹴り上げたの。ね~ね~ね~、あれってさ~、蹴られた男子ってメッチャ痛いんでしょ。でもね、はたから見たらすっごく滑稽なんだよね。ヒッヒッヒ……だってね、蹴られたら速攻でアソコ押さえて、そのまんまの体勢で頭から突っ伏しちゃって、床で身体くの字にしてウンウン唸ってんだもん。それまで不良ぶってカッコつけてたのにだよ~。女子もいっぱいいる中で……キャハハハハハハハハ……保健室に連れてかれちゃったみたいだから、保健のオバチャンに、痛いのかい? どれどれ見せてごらん、なーーんて言われてパンツ下げられてたら……ギャハハハハハハハハハハ……苦しい……あ…思いだした。また聞きなんだけど、権藤彩音も朱海と似たようなこと言ってたって…誰かから聞いたな。体育館で河西さんにイチャモンつけてるように見えたんでしょ? それってアンタが感じた通りだったんじゃないかな? ……え? ……なんて言ったって? う~ん…また聞きだしちょっとイミフなんだけど…アイツ何しに来たんだ的なことーー


 いったい何なんだろう河西さんって……篠原さんはおかしいって、権藤さんは何しに来んだって……それてどういう意味だ? すごく気になる。母さんは俺と幼馴染だっていうけど、まるで覚えてないし、なんだかへんだ。小学校に上がる直前まで伸江ちゃんと遊んでたの覚えてる。クッちゃんと遊んでたのって………そうだ、今の家に越してくる前って……アパートの隣に伸江ちゃんが住んでいて……そのアパートに越してくる前だ、クっちゃんと遊んでたの。伸江ちゃんと遊んでた頃とクっちゃんと遊んでた頃って違うアパートに住んでたんだ俺。そうだよ、写真見た事ある。え…写真? 河西さんが写ってる写真って……見たことない。


「ちょっと~~聞いてる?」

「え……おっ…お~お~」

「なにその…お~お~って」

「悪い悪い…なんの話だっけ?」

「も~~……今日、春山のとこ迎えに来れたのって聞いたの! ウチの親が迎えに来たのもけっこう遅かったけど、そん時だってあんたまだ体育館にいたじゃん」

「あああ、連絡とれんくて先生の車で送ってもらったんだけど、途中で道に迷っちゃって……」

「はぁああああ? 道に迷った? なんで?」

「あれ……なんでだろう……」

「ちょっとちょっと、寝ぼけてんの?」

「あっ、ああ……そうかも…」

「そっか……なら電話切るね、もう遅いし」

「ああ……」



 次の日の朝、誰かと電話で喋ている母さんの声で目が覚めた。ずいぶんとデカイ声だな~、うるさい。

 階段を降りて居間に行くと、まだ受話器を片手の母さんがーー


「義仁、あんたの副担任の岡田先生、逮捕されたって! ほら、今もテレビでやってる……」


 テレビを見ると、学校をバックにして喋るアナウンサーがいた。


「え……ええええええええええええ!! 逮捕?! 岡田が?! ああああああああああ、あれって俺の学校だ!」



 ーー児童買春容疑で逮捕された岡田容疑者47歳は、〇〇中学校に勤務する現役の教師であり、生徒や保護者など学校関係者に動揺が広がっております。岡田容疑者は14歳の少女に金品を渡し、ホテルでいかがわしい行為に及んだという、援助交際という名の児童買春容疑で逮捕され、認否のほどは明らかにされておりませんが、捜査関係者への取材によりますと、昨日発生した女性殺害事件に関与していることをほのめかしているようで、今後の捜査の行方が注目されますーー



 なっ……なんだこれ? 援助交際? 児童買春? 殺害事件に関与? 父さんと母さんが何かを言ってるようだけど……なに? 岡田ってヤツは独身なのかって?


「そっ、そんなの知らない……俺のクラスの副担だけど……なんの科目も持ってないし……岡田なんかに興味なかったから…知らない」


 俺の携帯が鳴った。新井さんからだ。


「岡田のこと知ってる?」

「あ~今知った」

「アイツ、マジ犯人かも。刺されて死んだ女の人、1こ先輩の佐々木君の母親だって言ったよね。その佐々木君が2年の時の担任が岡田だったんだって。そんでもって岡田と佐々木君の母親、不倫に走っちゃって、それがバレて担任降ろされたみたい」

「マジで? メッチャ無責任なのが親たちにバレてって担任外されたって聞いたけど…」

「うん、それもあったみたいだけど、生徒の母親とやっちゃったってのが担任外された一番の原因みたい。でもそれでも続いてたんだって。不倫が」

「岡田って独身だっけ?」

「嫁も子供も普通にいるって。確か高校生の娘がいるって聞いたような気がする。それにしても児童買春で逮捕って別件逮捕なのかな~。でも相手の14歳の子ってヘタしたらウチらの学年だよ。だって私だって今年15だけどまだ14だからね。あんただってそうでしょ。しっかし中学からなんで売春なんかするんだろ? オヤジ相手にセックスって…キモイ。それも岡田だよ岡田……ゲロゲロ。まさか…その14歳の子って……3年A組じゃないよね……あるか」

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