第49話 火の星と能面
「テレビ見てる!!」
携帯が鳴り、出るといきなりだった。俺は名乗るどころか、もしもしだって言ってない。そして掛けてきた向こうも名乗りもしない。新井さんだ。
「いや……いま家に……」
「早く見て!!」
バスケの練習が終わり、静香を送り届け、家に着いた途端に携帯が鳴ったのだ。それを言おうとしたが遮られた。とくかく新井さんのペースに合わせるしかない。
「テレビって……なんチャンネル………」
「いいから黙って点けろ!!」
凄い剣幕で怒られた。マジかよ。こっちはハラ減ってんだよな。ラーメンでも食ってくれば良かった、などと考えながらテレビを点けると、
「ーーーー繰り返します………」
あれ? これって民放チャンネルだよな。臨時ニュース?
「どのチャンネルでもやってるから!!」
そう怒鳴る新井さんの声が聞こえる中、テレビを見てると、
「宗教団体赤の会教祖 紅蓮大寿 本名 山田太郎に対し、殺人教唆の疑いで逮捕状が出されましたが、山田太郎容疑者は行方をくらまし、全国指名手配となっております。又、公安調査庁は公安審査委員会に対し、山田太郎容疑者が教祖をつとめる宗教団体赤の会を破防法の適用、並びに、団体規制の対象とすべき調査を申請したとの発表がなされました。この申請によって宗教団体赤の会が解散指定団体となる可能性があります。又、この件について、宗教団体アレスの友はコメントを発表しております。われわれアレスの友は、赤の会とは違った教義を持つ全く別の宗教団体であり、指名手配となった紅蓮大寿、並びに、破防法適用を申請された赤の会とは一切関係のない団体である、との内容です。しかしながらアレスの友の教祖マーズは、赤の会教祖山田太郎容疑者の実の娘であることから、捜査関係者への取材によりますと、両団体の関係性についても調査しているとのことです」
なに? 実の娘だ? マーズ? 金城蘇亜の他にも娘がいるってことか? アレスの友? なんだそれは?
「ちょっとーーー! 聞こえる? はーーるーーやーーまーーー!!」
新井さんが怒鳴っていた。
「あっ……ああ……聞こえる」
「マーズってさ~、英語で火星のことだよ。そしてギリシャ語ではアレス。火星ってなんで火星って名前なのか知ってる? ………赤く見えるから。だから火の星、っで火星。赤の会と関係アリアリじゃん。っでさ~、アレスの友って名前、そうとうにヤバイわ。確かね~、ギリシャ神話に登場する神にアレスってのがいて、ゼウスの息子だったはず。…………うん、アレスは有名だよ、オリュンポス十二神の一人。神様だから一人とは言わないけど…………っでアレスは戦いを司る神。それも狂乱と破壊をもたらす荒ぶる神。それを教団の名前に使うなんて、かなりヤバイ団体でしょ」
「狂乱と破壊をもたらす神? それって神なのか? まぁアレか……日本の神様にも似たような感じの神っていたな。それにしても赤い星だから火星って………知らんかった。赤の会と赤い星か………兄弟団体っていうか親子団体だな。そう言えば大国照子が言ってたんだけど、紅蓮大寿ってオッサン、女に不自由してなかったから種バラまいてたんじゃないかって………娘やら息子どんだけいるんだ? そいつら全部独立して別の宗教団体の教祖やってたら………勘弁だ……」
「マジ? 種バラまくって………バラまかれる相手って信者だよね。それってどうなの? 信者になったら教祖とセックスしたくなっちゃうワケ? なら男の信者はどうすんのさ? まさか教祖が気持ち良ければなんでもアリ? ウゲェェェ……まじ吐きそう。そんなの宗教じゃないよ、教祖の欲求捌け口集団じゃん。そういえば例の女………キンジョウソアだっけ? まじでF組にずっといたってこと? トイレだって行くよね。なら私もすれ違ったことあるのかな………ゲロゲロ……めっちゃ気味悪ぅぅ」
新井さんはさかんに金城蘇亜のことを聞きたがった。そうだよな、気が付かなかったとはいえ、数カ月の間、同じ学校の同じ学年にいたのだ。俺だって静香だって廊下ですれ違っていたのかもしれない。そう考えるとゾっとする。ソイツが片付いたと思ったら今度は別の娘だ。そして今度の娘は教祖らしい。アレス……戦いを司る神か……ギリシャ神話らしいが、新井涼子って女子はスケベだけど博識だよな。
「え? ギリシャ神話でアレスがどうなったか? そんなに詳しくないけど……いろんな奴にボコボコにされたはず。ヘラクレスに半殺しにされたり、巨人の兄弟に壺に閉じ込められたり、それに人間のディオメーデスってのにも負けた。…………う~~ん、弱いっていうより……古代ギリシャ人から嫌われてたんじゃないかな。だからボコられた神話が作られたんだと思うな。ああ、でもアレスに勝った人間ディオメーデスってね、アテナって女神の支援があったの。そのアテナって女神も戦いの神なんだけど、栄誉とか計略の方が専門だったはず。そんでもって処女。男知らずの神様、ひっひっひ…………ねぇ春山ってさ~、もう童貞じゃないんだよね? いつムケた? 言いなさいよ、9年間も同じクラスの仲なんだからさ~」
翌朝。8月26日。北海道の秋は早い。もう朝晩が涼しい時季のはずが妙に暑い。昨日も最高気温が27℃を越え、夜もそれほど下がらなかった。そのせいか今日は朝から暑い。まさか30℃にはならないよな。北海道でも家庭にはクーラーってもんが普及して家に居る間は涼しいのだが、学校には無いんだぜ。ウダる。
いつもの習慣で朝はテレビを点けニュースが流れている。父さんは既に仕事に行った後だが、あえてチャンネルを変えることもしない。
昨夜流れたニュースをやっていたが、新たな情報が無いのか、全く同じ内容を繰り返している。パンが焼けた。
「ーーーー昨夜、何者かが侵入し、その家に住む神取美香さん15歳と、神取浩君14歳が刃物で複数カ所を刺され、病院に搬送されましたが重体のもようです。当時は、その家に住み込みで働く女性が留守のため美香さんと浩君の二人しかいなかったらしく、家の中には争った跡があり、侵入してきた何者かに襲われ、二人が抵抗したものとーーーー」
なに? 神取美香? 同姓同名か? いや、神取浩の名前も言った。焼けたパンを食いながらテレビの前に立ち、繰り返しのニュースを見ていたが、間違いない。あの神取美香と神取浩だ。玄関を飛び出し、走って静香の家に向かった。
チャイムを鳴らす前に出て来た静香。顔が青ざめてる。
「ニュース見た……よね? あれって……前の生徒会長の神取さん……だよね? なんで? どうして? 誰に襲われたの? 赤の会の破防法とかと関係してる?」
「わからない………」
「偶然……なんだよね? ………でも………そんな偶然ってある? 佐舞久留町で色んな事件が起きて、昨日だって金城蘇亜って……あの人も紅蓮大寿の娘なんだよね? その娘が学校に来て私の名前呼び続けて、アヤちゃんと対決したばかりなのに、その佐舞久留町から出て行ったはずの神取さんが、別の町で誰かに襲われた? そんな偶然って………いったい何がどうなっちゃったの?」
静香の言うとおりだ。銃や刃物による殺傷事件が起きれば全国ニュースになるが、その発生頻度がどれくらいなのかは知らないが、1日に何10件も起きるほど日本は物騒な国ではない。それに佐舞久留町は都会ではなく田舎だ。人口だって4町が合併したのに3万人もいない。そしてウミの話だと神取美香が今住んでいるところも佐舞久留町に負けないくらいのド田舎だ。その佐舞久留町で事件が起き続け、佐舞久留町に最近まで住んでいた神取美香が別の町で事件に巻き込まれる偶然なんてものは、偶然なんかじゃない。
学校に着き3年A組の教室に入ると、まだ早い時間なのに大勢がいたが、バス通学用のバスが到着していないせいで北川凛の姿は見えなかった。
教室に居る誰もがニュースのことを喋っているのが聞こえた。赤の会が破防法の適用。そもそも破防法ってのはなんなのか。そしてその宗教団体の教祖ーー紅蓮大寿が全国指名手配。それだけでも赤の会に関係してしまった佐舞久留町にとっては大ニュースだ。それなのにちょっと前までウチの学校の生徒会長だった神取美香が襲われたニュースまでが飛び込んで来たのだ。教室はそれこそ蜂の巣を突いたようなありさまだ。
そんな騒めいている中で俺を持っていたのか、生徒会書記の播磨葵が駆け寄って来た。見ると、3年G組の秋田谷楓子もいる。ヤバイ時に何かを感じると言っていた秋田谷楓子。そんな彼女が目にいっぱい涙を溜めていた。
硬い表情の播磨さんが、
「かおる子は、栄前田さんと城地さんと丹波さんの4人で話し合ってる。昨日のニュースと今朝のニュース………秋田谷さんはN町だから本当はバスなんだけど、あのニュース見て丹波さんのお母さんに車で送ってもらったって、城地さんも」
そう言った播磨さんが後ろ振り返って秋田谷楓子に促している、あたなが説明してというように。真っすぐに俺の目を見る秋田谷楓子。その片方の目から涙が一筋流れた。
「こっ……こわいの………だ……だからガッコ………来たくなかった………でっ、でもルミだって……昨日あんなに頑張って……た。春山君………気を付けて…………」
「秋田谷さん……震えてるのか?」
「うっ………うん………朝……起きた時から………こわくて………ふ……ふ……震え……止まんない………見たの……私………夢を……みっ……見た」
「夢?…………どんな?」
「……………オメン……」
そう言った途端、秋田谷楓子の重心ががグラリと傾いた。
「秋田谷さん!!」
抱きかかえた静香と播磨さん。その二人の肩を借りて保健室へと行った。オメンってなんのことだ?
暫くすると静香が北川凛と手を繋いで戻て来た。ちょうどバスが到着たらしい。
「秋田谷さん、保健室で横になってる………けど……すごく怖がってて、1人にしないでって。だから播磨さんが付いてる。手を握って………」
そんな話を俺と静香と凛でしていると田川真奈美が来た。村上さんは榎本の傍で恐々とこっちを見ている。そして隣の新井さんも加わった5人で何かを話そうとしたが、誰もが言葉が出ずに、ただ互いの顔を見合っていた。
近藤先生が来てホームルームが始まったが、その近藤先生ですらニュースのことには触れることをしなかった。
神取美香が住んでいるところは瀬戸内海の島だと聞いた。遠い、遠すぎる。本来なら聞いても直ぐに忘れてしまうくらいの、遥か遠くで起きた事件が、頭から離れない。
いつのまにかホールムールが終わったらしい。教室を出て行こうとする近藤先生が振り返り、俺と目が合った。そして何事も無かったように教室を後にした近藤先生。あの目は俺に、ちょっと来て、といってる目だ。
「トイレ……行ってくるわ」
誰にともなくそう言い残して廊下に出ると、廊下の向こうを歩いて行く近藤先生の後ろ姿が見え、後を追い、横に並んで歩くと、近藤先生がこっちを見ないで話し始めた。
「篠原さんと権藤さんの二人………警察に呼ばれた」
「え……? …………なんで?」
「………あの二人が神取さんの家を訊ねた時、近所に聞きながら行ったみたい。っで、最近ここら辺では見かけない女が二人訊ねてきていたって目撃情報から、フェリーを辿って次にタクシー会社、そして近隣の空港から羽田空港、そして羽田からこっちの空港………警察の捜査って凄いね。あっという間に篠原朱海と権藤彩音が捜査線上に浮かんだ。まぁ、あの二人が足取りを消そうとなんかしてない訳だし、篠原さんなんて方向音痴で、ちょっと天然っぽいから、見つけてくださいって言ってるようなものだろうけど………凄い速さで見つかった。神取さんが元は佐舞久留町に住んでたってこともあって……」
「捜査線上って……まさか神取美香を刺した容疑者………」
「警察はそう考えたろうけど、神取さんが刺されたのは昨夜。あの二人は北海道にいた……アリバイとなると家族しかいないけど、あの二人の家族と大国さんのお父さんが警察に駆けつけたようだから、きっと直ぐに解放されると思う。それに神取美香と神取浩から証言が取れれば………」
「死んでないんだよな! 生きてるんだよな!」
「…………重体が続いてるって」
教室に戻ると直ぐに細野先生が来て英語の授業が始まった。だが俺の横には枡渕香乃がまだいる。じっと俺を見ていて自分の席に戻ろうとしない。
「グッモーーニン、エブリバディ………ん? ゼアーオブボーーイ! ………オウ! ソーーリーー、ソーーリーー、アイエイダミステイーーク! ゼアーオブガール!!………え~っと……このまえ転校してきた……ミス……カノ……マスブチ! シッティンユアシーーート! ユアシーート!!………席に戻れ!」
「おい、香乃………なにやってんだよ、戻れって………」
「…………さっきねぇ、私、B組に行ってたのぉ。大国さんに教えてもらったぁ……彩音ちんと篠原さんのことぉ、春山君……気ぃつけてぇ………静香には……私がくっついて離れないからぁ」
そう言った枡渕香乃は、俺にメモを渡すと自分の席に戻って行った。なに? どういうこと? 席に戻った香乃を細野先生がチョット睨み、それから出席を取り始めた。俺は渡されたメモに視線を向けた。
ーーーー嫌な予感がするの。出来過ぎのような気がする。全部が絶対におかしい。気をつけて。
メモを読んだが余計に分からない。どういうことだ? 香乃はナニを………
今すぐにでも香乃に問いただしたい。お前が気にしている出来過ぎってナニを指している?
教壇では細野先生が英語で何かを喋っていた。早く終われ、とっとと終われ。
教壇の細野先生を睨んでいたら当てられた。
「ミズター ヨシヒト ハルヤマ、プリーズ リード ザ レスト………続きを読みなさ~~い」
「げっ………」
どこよ? 何ページ?
「………59ページ、イラストの下から」
後ろからの凛の声。サンキューだぜ。
読み終えた俺は教室の前に掛けられている丸時計をずっと見ていた。まだ30分もある。秋田谷楓子の見た夢のことも気になる。オメンってなんのことだ? そう言えばさっき出席を取った時に播磨さんは居なかった。まだ保健室で秋田谷さんの傍にいるのか。ヤバイ何かを感じてしまう秋田谷さんが見た夢って、いったいどんな夢? 彼女は涙を流し酷く怯えていた。それに香乃からのメモ。ウミとアヤなら直ぐに戻ってくるはず。いったい何が気掛かりなんだ? くっそ~まだ終わんない。あと25分。長ぇぇ。
「ミス、カオルコ ナツボリ プリーズ リード」
「イエス」
学級委員長兼生徒会副会長の夏堀さんが立ち上がって教科書を読んでいると、別の教室の戸が開けられた音がした。
「な………なんだお前は!!」
国語の陣内先生の声だ。普段は小さな声で何を言ってるのか聞き取れない陣内先生が声を荒げている。
「出て行け!! 警察を呼ぶぞ!!」
只事ではない。声の聞こえ方からするとB組だ。
教科書を読んでいた夏堀さんの声も止まり、クラス全員が廊下に目をやった。
「お前たちはそのままでいろ。先生が見てくるから」
細野先生が腰を引き加減で教室の出入り口に近づいて行った。その間も陣内先生の怒鳴り声が続いた。
「顔を見せろ!! 名前!! あ! 大国! 近づくんじゃない! 危険だ!!」
B組に間違いない。いったい誰が入って来た? 顔を見せろって……覆面でもしてる奴なのか? だったら強盗?
細野先生は怒鳴り声が聞こえる度にビクっと動きを止め、そしてソロリソロリと入口に向かっているが、クラスでは何人もの生徒が立ち上がった。榎本や静香、田川さんに香乃、そして夏堀かおる子も拳を握りしめて仁王立ちだ。初めての事件が起きた時も英語の授業で細野先生がいたが、あの時は誰もが怯え、震えていた。
教室の戸が外から急に開けられ、細野先生は尻もちをついてしまった。なんの躊躇いもなく教室に入って来た者。3人。
着物?! それも真っ赤な着物に赤い帯。そして面を被っている。あれは……能面。女面だ。
姉ちゃんに連れられて能だか狂言を見に行ったっことがあり、その時のパンフレットに能面の説明が書かれていて妙に記憶に残っていた。平安時代の女のように少し下ぶくれの輪郭、細く切れ長の目、そしてその目から随分離れた場所にある短くて太い眉、真っ赤な紅を引いたような唇。光の加減によって表情が変わる女面。今は、笑っているように見えた。それも人を愚弄する笑い。
「榎本! サスマタを取れ! 春山! 木刀だ! 女子は窓際に行けええええ!!」
そう叫んだのは夏堀かおる子。
「おおお!!」
榎本が返事をしながら教室の後ろに走り込み、壁に掛かったサスマタをジャンプして掴み取った。
木刀を持って前に行くと、夏堀かおる子の右手にはレンガが握られていた。
「そんなモン、どっから?」
「机に入れておいた」
マジで持ってたんだ、レンガ。
床に座り込んでしまって動けない細野先生の前には、女面を被り真っ赤な着物に身を包んだ3人がいる。背格好から女であることは間違いなさそうだ。
「てめぇぇら誰だ!! …………誰だっていいか。面被って素性隠して学校に押し入って来たってことは、間違っても誰かの親兄弟ってことは無いし、ハロウィンって季節でもない。問答無用で叩きのめしてやっからな。真ん中の奴の頭を私がレンガで叩き割る。春山君は左、榎本君は右………一斉に行くよ……1……2ぃのぉ……」
「ちょっと待て!!」
そう怒鳴ったのは俺だ。
「なに? 春山君らしくないだろ、どーーした?」
自分でもよく解らない。だが、コイツら、女面を被った奴ら、普通じゃない。
真っ赤な着物に真っ赤な帯。そして能面の女面を被って学校に現れること自体が普通じゃないのだが、そんな見た目とは違った、別の何か……言葉では言い表せない普通じゃなさを感じた。
昨日、アヤとヤり合った金城蘇亜。アイツは普通じゃないどころか、ほとんどバケモノだ。今ここに現れた女面の3人は、金城蘇亜が発散していた空気すら腐らすナニかを醸し出してはいないし、放つ気もさほどではない。だが、何かが違う。普通の人間とは違う。
夏堀かおる子がいきり立っている。放っておけば一人でも飛び掛かる。笑っちまうほど好戦的な女子だ。
保健室に行った秋田谷楓子はオメンと言っていた。こいつらだ。こいつらが来ることを夢で見たのだ。ダメだ。夏堀さんを行かせられない。
「よくわからない………けど、今ここで、コイツらとヤり合うのはマズイってことは分る」
「…………なら、どうすれば?」
「コイツらが、あと一歩でも入って来たら、俺が食い止める。俺なら一瞬で二人は動けないように出来る。残る一人が俺をかいくぐって来たら………ヤれ」
「了解!!」
俺が言った事が聞こえたのか、それとも最初から教室の中まで入るつもりが無かったか、女面の3人は教室の入り口から動こうとしない。表情が見えないせいで、なにを考えているのか窺い知ることも出来ない。
3人の女面、やっぱり薄ら笑いを浮かべ、愚弄しているように見える。その面のせいなのか、こいつらが普通じゃないと感じるのは。それにしても不気味だ。意味も分からず鳥肌がたつ。
「ぐっ………」
俺の喉からの声。意図しないのに唸っていた。それは俺だけではなく、レンガを握る夏堀さんもサスマタを構える榎本もたじろいでいる。もう1人来たのだ。
やっぱり真っ赤な着物に赤い帯を締めているが被っている面が違う。あれは鬼面。
その鬼面を被ったヤツは異様な何かを放っていた。先に来た女面の3人の後ろに現れただけなのに、そいつに気圧された。
能面を被った奴らが一言も口を利こうしない中で、廊下から陣内先生の怒鳴り声が聞こえる。
「出て行け!! 直ぐに出て行け!!」
コイツがB組に侵入したのか。鬼面を被ったヤツ。なら大国照子はどうしたんだ?
能面を被った4人。面に隠されどこを見ているのかがハッキリしないが、クラス全員の顔を順に見ているような気がする。誰かを探しているのか? ん?! 何となくだか4人の視線が一点に定まった感じがした。俺のすぐ後ろだ。
「戻るよ」
喋ったのは鬼面を被ったヤツだ。女の声だった。
鬼面の奴が廊下に戻り、それに続いて女面の3人も出て行った。そこでようやっと俺は振り返ることが出来た。俺の直ぐ後ろには佐藤静香が俺が着ている学ランの端をギッチリと握りしめている。そしてその隣には枡渕香乃が静香の手を握っていた。
あいつら、俺の後ろ、静香を見ていた。間違いない。だが……なぜ? そして静香はそれに気づいたのか?
大国照子が入って来た。
「みんな無事か? ………ん? サスマタに木刀………はぁああ? レンガって………………ヤるつもりだったのか?」
「そうよ! これで頭カチ割るつもりだった。大国さんはそうじゃなかったっていうの?」
「アイツは危険すぎる。手段を選ばない人間だ」
「…………それってどういう意味?」
「一撃で殺すか、動けないようにしなきゃ、手当たり次第に何でもヤる人間ってのがいる。卑怯もへったくれも無い」
「え……? それって………」
枡渕香乃が「人質を取るってことぉ?」と言った。
「ああ、優位に立つためなら簡単にヤる。学校の中だ、人質に出来そうなのいっぱいいるだろ。アイツらは取った人質の一人や二人は見せしめに殺すだろうな。なんの躊躇いもなく。そういう種類の人間だ」
サイレンが聞こえ始め、その音は近づいていた。誰かが警察に連絡したのだろう。
「大国さん………あの鬼の面被った奴にぃ………大国さんなら勝てるぅ?」
「負けはしない。それはハルも同じだ。そして彩音や朱海も負けない。………1対1ならな」
警察への説明は細野先生と陣内先生が行った。
興奮冷めやらぬ中、2時間目、3時間目、そして4時間目も終わり、保健室で秋田谷楓子に付き添っていた播磨葵は3時間目が終わった休み時間に戻って来ていた。
播磨さんは秋田谷さんから夢の話を聞いていた。秋田谷楓子が夢で見たのは、やはり女面を被った3人と鬼面を被った1人が学校に侵入してくるというもので。正夢だ。そして秋田谷楓子は言っていたという。
「鬼のお面を被ったヤツ。底なしに怖い。金城蘇亜みたいな力は持ってないけど………金城蘇亜以上に怖い」
給食を早々に食べ終えた香乃が俺の隣にきた。
「出来過ぎだって思わないのぉ? なんでぇ? もう………春山君ってさぁ、案外ニブイぃ?」
こいつの喋りかたって何とかならないのか? どんなに深刻な話を真剣に喋っても、そうは聞こえない。
「だってさぁ、彩音ちんたちってまだ戻て来ないんだよぉ。そういう環境をね、誰かが作ったって思わないぃ?」
「あああ? 環境って……………え……まさか………」
さっき能面を被ったヤツが現れた時に権藤彩音と篠原朱海がいたら……俺とテルと4人だ。これは……
その時だった。
ドーーーン!!
地響きを伴う爆破音が響き渡った。なに? なんだ? 地震?
廊下かで大勢が騒ぎ始めた。
廊下に出ると、何人もの生徒が窓にへばりついている。
「あそこだ! 煙! 煙が上がってる!」
「あれって、畜産場だ!」
そいつ達が指をさす、向って右の方角を見るとモウモウと煙が上がっていて、その煙のところどころに炎が見えた。ガス爆発?
ドーーーン!!
揺れた。思わず窓枠に掴まった。
「ああああああああああああああああ!!」
今度は左の方角から煙が上がっていた。何が起きてる?
ドーーーン!!
まただ。また揺れた。そして違った場所で煙が上がった。




