第48話 中庭での対決と指名手配
「アノオンナ………サトウシズカ………ツレテク…………オオゼイノオコト……オンナニウエタオトコタチ………ホウリコム………シナセハシナイ………オトコノオモチャ………ヒルモヨルモ……ズット……セイエキニマミレ………イキテク…………サトーーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーー! シズカーーーーーーーーー!! サトーーーー!! シズカーーーーーーーーーー!!…………」
中庭に出る前から聞こえていた。物凄い声量で、女の声には思えなかった。
「サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーー!! サトーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーー!! サトーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!!……」
木刀を握る手に震えるほどに力が入っていた。中庭に出ると金城蘇亜が校舎の3階に目を向け、佐藤静香の名をひたすら叫んでいた。こいつ、あの時、3階の窓をぶち破って逃げたはず。だがどこも怪我をしているようには見えない。バケモノか。生霊がバケモノなんかじゃなく、こいつがバケモノだ。
「サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーー!! サトーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーー!! サトーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーー!! サトーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーーーーー!! ……」
怒り、妬み、怨み、憎しみ、そんな負の感情だけの叫び声。聞きたくもない。だが強引に聞かされていた。耳にというより心に、いや、心を掴み取るような叫び声だ。身体の芯がまるで氷にでも触れたように冷たくなる。腹の中のドス黒い血を巻き散らすかのような叫び声。ここまで人を憎めるものなのか。
金城蘇亜の視線は3年A組を捉えていた。見上げると、3年A組の窓際に何人かの生徒と近藤先生らしき姿が見えた。まさか静香も窓際にいるのか。いや、きっといる。
「オマエダアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
こいつ、見えるのか。中庭から3階の教室にいる者の顔が分かるっていうのか。
金城蘇亜は3年A組に向かって右腕を真っすぐに伸ばし、指をさした。指をさされた3年A組の教室では、窓際にいた全員が慌てて離れた。
「サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーー!! サトーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーー!! サトーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーー!! サトーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーーーーー!!……」
ヤロウ、もう我慢できない。俺がカタをつけてやる。
「ハル!! よせ!」
大国照子が傍にいることにさえ気づいていなかった。金城蘇亜以外が目に入っていなかった。それは女とは思えない声量だけではなく、アイツが発散している何かが凄まじく、周りの全てを霞ませていたからなのか。改めて見ると、金城蘇亜から4~5メートル離れた場所に無造作に突っ立っている女の子がいた。ポケットに両手を突っ込んだ女の子。
「彩音…………テル、俺がやる。アヤを下がらせろ。金城蘇亜の放つ気が凄いのは解る。だけどあの程度なら俺は勝てる。だから……」
「アイツはきっとあんなもんじゃない。それに……」
「なに? なにが言いたい?」
「彩音が本気だ」
アヤが本気? どういうことだ? 前に俺とテルとアヤの3人で高校生を相手にした時も、確かにアヤはビビったりはしていない。半端な度胸じゃないのは分かるし、俺には理解できない力を持ってはいるのだろう。だけどアヤがどうやってアイツを捻じ伏せることができる。とてもじゃないが想像できない。
「春山君、アヤちゃんのこと知らないでしょ」
いつのまにかウミが隣にいた。そうか、こいつら気配消してたのか。だから居るのが気が付かなかったのか。でもどうして? なんでそんなことをしてた?
「アヤちゃんが本気になったら私なんかよりもずっと強い。でもアヤちゃんは優しいから、自分のことなら我慢してしまう。でも今は違う。春山君なのよ。金城蘇亜が、あなたにレイプや人殺しをやらせようとした。アヤちゃんの地雷を踏んだ。もうアヤちゃんを止められない。私たちは邪魔をしないようにするだけ………でも………」
それで気配を消していたのか。
次の言葉を言い淀んだウミが続けた。
「いざとなったら突っ込む。照子もいいわね」
「ああ」
「サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーー!! サトーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーー!! サトーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーー!! サトーーーー!!……」
こいつの叫びは何なんだ。声が身体や心に纏わりつく。クソ~~、腹の底に力を込めてなけりゃ……
「サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーー!! サトーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーー!! サトーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーー!! サトーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーー!!……」
後ろから誰かに手を握られた。驚いて振り向くと丹波ユキだ。何故いる? どうして校舎から出て来た?
「勝手に放送かけて………春山君をアタシが呼んだ…………アイツを倒すのにきっとアタシも役に立つ……怖いけど………でもここで倒す必要があるって分かる…………アタシだって生徒会の役員………栄前田椿に指名されて……嬉しかった………だからアタシもここにいる」
そう言った丹波ユキの手はガタガタ震えていて、見ると、膝も笑っていた。
「サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーー!! サトーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーー!! サトーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーー!! サトーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーー!! シズカーーーーーーーーーーー!! サトーーーーーーーー!! シズカーーーーーーーー!!……」
アヤがポケットからゆっくと両手を出したのが見えた。その途端、俺の両側に立つウミとテルの二人共が身構えたのが解った。それは後ろに立つ丹波ユキも同じで、握っていた俺の手に爪を立ててきた。
金城蘇亜に向かって立っているアヤ。こっちからは後ろ姿しか見えないが、風も吹いていない中庭なのに、肩までのアヤの髪がフワっと持ち上がった。
ズン
アヤの周辺の空気が陽炎みたいにユラリと歪んだ。そして膨れ上がったのが分かった。その膨張した空気がアヤを中心に広がり、俺達の方にも来た。それはまるで池に投げ入れた小石から広がる波紋。中庭の芝が外側に向かってドミノ倒しのように倒れていく。
ムっ……
目には見えない空気の塊が俺達にぶつかり、衣服や髪の毛を靡かせた。
暖かかった。そして微かな香りがした。この香りには覚えがある。嗅いだことのある香りだ。アヤの家に泊まった時だ。俺が目覚めるまで裸で抱きしめてくれていた彩音。あの時の香りだ。
「……すっ……すごい………」
丹波ユキの声。彼女には俺とは違った何かが見えたか感じたのかもしれない。
アヤを中心に四方へ広がった空気の波は金城蘇亜にもぶつかり、一瞬、わずかに仰け反った蘇亜だが踏みとどまった。あの空気の塊はなんだったんだ? 俺達はアイツほどの衝撃は受けなかった。
蘇亜はもう佐藤静香の名を叫んではいない。じっと彩音を睨みつけている。
風が無い、そして音もしない静寂が支配する中庭。背が小さな二人ーーーセーラー服を着た二人が互いの力量を推し量っているのか、距離を詰める事も無く対峙していた。
芝が僅か靡いた。
「来る……」
そう呟いた丹波ユキは女とは思えないくらいの力で俺の手を握りつけてきた。
芝の靡き方がおかしい。睨み合っている二人の周りだけが一定方向に、渦を巻くように靡いていて、それがだんだんと強まり、芝はすでに倒れ、芝の隙間からの土埃が舞い上がり始めた。俺達がいる場所はまるで無風なのに。
つむじ風。だがそのつむじ風はいつまでも止まず、そして移動すこともせず、ずっと二人の周りだけで吹き荒れた。二人の穿くスカートは身体に絡みつき、髪の毛は真横に立ち上がっている。そして靡き倒れた芝が次々と千切れ、土埃と共に凄い勢いで舞い続けている。
アヤが着ているセラー服の片袖が切れた。僅かに赤い液体が飛んだ。皮膚も切られたのか。どうやった? かまいたち? 舞ってる芝に切られた?
反対側の袖も切れ、そしてアヤの下半身に纏わりついていたスカートも切れ、その度に血が飛んだ。怒りが沸いた。あの真っ白なアヤの肌に………
「ダメ! 春山君、ダメ! 権藤彩音はこの程度じゃ負けない。私には見える。権藤彩音の大きさが見える。だから……邪魔したらダメ!」
丹波ユキ、コイツの目にはいったいなにが見えてる。俺の両隣にいるウミとテルも動こうとはしていない。
後ろ姿のアヤがどんな表情なのかは見えないが、アイツ……金城蘇亜は薄ら笑いを浮かべているように見えた。そして口を利いた。
「オマエ…………ショジョ………クックックック………オトコドモガヨロコブ…………」
アヤのセーラー服の背中が刀で袈裟に切られたように肩から斜めに腰までバッコリと開き、肌までも斜めに切られ血が流れた。あのバカ、ブラジャーつけてないのか、と後から考えると変なことを思ってしまった。
「ん………? なに? 浮いた……」
思わず声が出た。アヤの両足が地面から僅かに離れた。それは目の錯覚などではなかった。アヤは明らかに浮いた。そしてどんどん地面から離れ、完全に宙に浮いた。
「アイツ………想像以上に強い」
それはウミの声だった。という事は、アヤが自分で浮いたのではなく、蘇亜にヤられてるってことなのか。
そんなウミの声にテルが返した。
「ああ、ヤるな。生霊飛ばしてない分、力を自分に集中させてる」
お前ら解説してどーーすんだ。あれでもアヤは大丈夫なのか。
「アーーーーーーーーーーーーーーーッハッハッハッハッハ…………ショジョ…………サラシテヤル」
アヤの身体は既に2メール近く浮いた。物体を浮かすことが出来るヤツがいるとは聞いた事があるが、コイツのは只事じゃない。とんでもない力を持っていやがる。その気になれば手を触れずに心臓を潰すことだってできる。いや、既にソレをやろうとしているはずだ。アヤがそれをブロックしてるのか。
浮いているアヤが宙でゆっくりと回転を始め、エビ反りの格好で止まった。まるで腰に付けられたワイヤーで吊られたように宙でブリッジをさせられ、手足が力なく垂れ下がった。
相変わらず土埃と切れた芝が舞っていた。その芝が容赦なくアヤに襲い掛かり、セラー服の胸や腹、それにスカートが次々と切られ、垂れ下がり、下着までが切られたのだろう、片足に絡みついている。そして下着を剥ぎ取られたアヤの両脚が少しずづ開き始めた。そんなアヤの下半身を下から見上げている金城蘇亜が含み笑いを漏らした。
蘇亜が片手を伸ばした。宙に浮くアヤに向かって。開かされた両脚の中心に向かって手を伸ばしているが、高く浮いたアヤの身体に届いてはいない。
力なく垂れ下がっているアヤの足。なにやってんだ。抵抗しろ! あのヤロウ、アヤの女の部分を明らかに狙ってやがる。ジタバタしろ!
伸ばした蘇亜の手に向かってアヤの身体が僅かつづ降りてきた。
「照子は正面から行って! 私は左から、春山君は右から回り込んで! 誰でもいい、アイツに辿り着けたら容赦なく息の根を止めて。私が辿り着けたら、コレをアイツの脳天に突き刺す」
そう言ったウミは両手にそれぞれ法具を握りしめていた。
おおおお、ヤってやる。一撃で脳天を叩き割って脳みそ引きづり出してやる。
「待って!! 権藤彩音は全然負けてない。あんたらには見えないの!」
そう言った丹波ユキ。
「見えないって何が?」
「光! 権藤彩音の身体が光ってるだろ。あの光……どんどん強くなってる。権藤彩音は全然ヘタってない! そもそもあんなんで負けるはずない!! あんたらにはそれが何で分からん!」
「ええ? 光? …………あなたには見えるの?」
「ああ、見える。権藤彩音は輝いてる。あれは………まるで………大天使カマエル」
それまで何も言わず腕組みをして見ていた大国照子が言った。
「彩音のヤツ、向こうが力を出し切っちまうの待ってるんじゃ………それにしてもヤられすぎだ」
「権藤彩音!! ガンバレーーーーーーーー! 負けるなーーーーーーーーーー!! アタシがついてるぞーーーー!!」
アヤの事を大天使だと言った丹波ユキ。だが、さすがに見ていられないのか声援を送り始めた。その声が聞こえたのか金城蘇亜がこっちを見た。そして丹波ユキを指でさし、何やら力を込めたのが分かった。
「ぐっ………」
丹波ユキが胸を押さえ、しゃがみ込んでしまった。
なに? そんな……まさか。
「ノウマクサラバタタギャテイビャク サラバボッケイビャク サラバタ タラタ センダ マカロシャダ……………」
ウミが真言を唱えながら、そして法具を持ったままの両手で自分の前に大きな長方形を描き、地面に2つの法具を突き刺した。
「丹波ユキさん、結界を張ったから私の後ろから出ないで!」
「え? あれ……? 楽になった……今のってなに? それに結界って……」
「アイツが念を飛ばしてきたの。あなたを狙って。一種の呪みたいなもの。だから私がバリアを張った。それが結界」
「そんな………でも……あんたらは何ともない訳?」
「アイツが飛ばす念なら私や照子には利かない。春山君にもね。アヤちゃんにも無理。アイツもバカじゃないようだから外側からの攻撃を仕掛けてる。だけど、ほんとに光ってる? アヤちゃんが? ………う~ん……そうなんだ………あなたって凄いね。私には全然見えない。照子は見える?」
「宙でエビ反ってるだけにしか見えん」
なんで俺まで三人娘と同じ体質のように言うんだ? あんまり同類のようには思われたくないんですけど。
「あっ、権藤彩音が動き出した!」
宙でエビ反りの格好だったアヤが、逆方向にーーバク転でもするように頭から下がってきた。ゆっくりと。そのせいで宙で逆立ちの格好になって、見てる俺達には髪の毛が逆立ったアヤの正面が見えた。ボロボロに破かれたセーラー服から血まみれのオッパイが見え、そしてスカートが捲れ、下半身全部が見えてしまった。それを見た丹波ユキが手で口を覆い、
「え?…………ない」
「アヤちゃんまだ生えてないんだ………」
「マジックで書いとけばいい」
そんなくだらない話がどうやらアヤにも聞こえたのか、慌てたように手で隠して、そんな格好で地面に降り立った。
金城蘇亜は降り立ったアヤを呆然と見ている。驚きを隠せないようだ。風はいつの間にか止み、土埃も千切れた芝も舞ってはいない。
アヤが片膝をついて両手で地面に触れた。いったい何をするつもりだ?
「アヤちゃんは大地から力を貰うらしいの。私にはちょっと理解できないけど、本人がそう言ってるから……そうなんでしょうね」
金城蘇亜の右腕が不自然に動いた。上から急に引っ張られたように動いたと思ったら、直ぐに戻るを繰り返しているのだ。まるで右腕が何かに操られているようだ。そして左手でその右腕をガッチリと掴んだ。
「オマエ…………」
だが右腕は、掴んでいる左手を振り払おうと酷く暴れ始め、金城蘇亜の首に届いた。
「アガッ………アガガガガ………」
自分の右手に首を絞められている金城蘇亜。そんな右手と戦っている左手なのだが、右手の5本の指が首に食い込んでいた。
「10秒待ってやる。その間に右腕を切り落とせ。10秒経ったら左腕もアタシが支配するぞ」
「アガッ………アガッ………アガッ…………」
顔を真っ赤に、そして口を大きく開けて顎を引く金城蘇亜は、開いた口からダラダラと唾液を溢しながらも、自分の首を絞める自分の右腕を、左手で搔き毟っている。
「6…………7…………10」
面倒になったのか8と9を飛ばした。そして左手は右手と共に金城蘇亜の首を襲った。
口から泡を吹き上げながら爪先立ちとなった金城蘇亜。自分で自分を絞首刑させるかのようだ。
「アヤちゃん………宙吊りにされたのがよっぽど悔しかったのね。同じ目にあわせようとしてる」
「アヤも物体を浮かすことができるのか!!」
「出来る訳ない。だからあんなバカみたいなマネを」
目を剥き、口から泡を吹き、赤色を通り越して土のような顔色になった金城蘇亜が、渾身の力を込めてガッ! っと股を開いて腰を落とした。なんだか大相撲で両力士が土俵際で「吊り合い」をしている様子が思い出された。
するとそんな踏ん張っている金城蘇亜めがけて走り出したアヤ。股を開いてガッチリ腰を落としているその股間に、走り込んだアヤの右足がめり込んだ。すごい音がここまで聞こえ、「ああっ……」とウミと丹波ユキが同時に叫び、二人ともが自分の股間を押さえていた。
「あれは折れたぞ。恥骨骨折ってみっともないやつ……」
丹波ユキに言わせると大天使らしいが、天使がアレをやるか? もっと違たやっつけ方を選ぶんじゃないの。
自分で自分の首を絞めながら倒れた金城蘇亜は、地面に顔を押し付け、股を閉じてケツを高く上げて悶え苦しんでいる。そんな蘇亜を見下ろしているアヤがおもむろに近寄るとスカートを脱がせ、パンツを剥ぎ取り、片脚を持ち上げた。
「うわ、濃い」
思わずそう言っちまった俺に、ウミと丹波ユキがギロって感じで睨んできた傍でテルの呟きが聞こえた。
「自分の見られたもんだからって、無駄なことを……アホらしい」
アヤは膝をつき、苦しむ蘇亜の頭に手を乗せ、地面に押し付けるように体重を乗せた。
「力を貸せーーーーー!! こいつに一気に力を流し込んで空っぽにするから、そんなとこで見てないで力を貸せ!!」
「ほら言わんこっちゃない。無駄なことやるから力が底をついたんだろ………しゃーない、手伝うか」
「そうね。やりましょう」
テルとウミがそう言って近寄って行く途中にテルが、
「おーーーい、丹波ユキ。お前の大天使様が手伝ってくれって言ってるぞ。お前も手伝え!」
「え………?! いいの? ………うん、手伝う!!」
アヤとテルとウミの3人が、それぞれ片手を伸ばして金城蘇亜の頭に手を乗せた。そんな3人に丹波ユキが聞いた。
「………どうやれば?」
「ありったけの力をコイツに流し込め。そうすりゃ~オーバーヒートする」
俺には4人がただ蘇亜の頭に触れているようにしか見えなかったが、どうやら強烈に力を込めているらしい。
手持無沙汰の俺は、自分が着ていた学ランをアヤの肩に掛け、そしてアヤの頭を撫でた。振り返りもしないアヤだが、なぜかニヤっと笑ったのが分かった。
芝の上で、身体を横向きに両膝を抱きかかえるように横たわる金城蘇亜は、周りを取り囲む俺達を決して見ようとはせず、地面に視線を向けたままだ。そしてその目からは涙が流れ落ちた。どんな意味の涙なのかは知る由もないが、何かが抜け落ちた表情をしている。
「丹波ユキ、見えるか? こいつの何かが」
「なにも見えない。もう普通の女」
「そっか、やっぱりな」
「大国さんのお父さんに連絡したから。この人、引取にきてくれるって。それで良かった?」
いつ間に来たのか、その声に振り返ると近藤先生だ。
「ああ、それでいいはず。親父ならなんとかする」
そして近藤先生の隣には静香が。
今日、金城蘇亜が現れた目的は静香だ。静香に生霊を蹴られたことが腹に据えかねたのだろう。凄まじい声で名を呼ばれ続けた静香。心なしか青ざめた顔をしていた。
「あの声…………怖かった。でも私………大丈夫だから。テルちゃんとアヤちゃんとウミちゃんが三人がかりで負けるはずない。それに義仁もいる。だから……」
そういって俺の手を握りしめてきた静香の手は酷く冷たく、そして震えていた。
今日は月曜日だ。
急遽の全校集会で生徒会役員が紹介され、その後のホームルームの最中に金城蘇亜が現れたのだ。だが月曜日だ。普通に授業が再開された。ええ? って感じがするが、どうにもならない。
金城蘇亜はテルの親父さんが連れて行った。どうするんだろう? なにを企み中学校に潜り込んでいたのか分からないが、普通じゃない。紅蓮大寿の娘であることが本当なら危険人物だ。今年の5月頃から3年F組に居たらしいが、そのせいでF組はグチャグチャにされ、売春、レイプ、リストカットまでが実際に起きた。目的があったはず。
そんな授業とは全く関係の無い事を考えていると、3時間目も4時間目も終わり、給食の時間になると大国照子がやって来た。おいおいおい、まさかもう食い終わったんじゃないよな。
「親父から連絡があった。金城蘇亜は確かに紅蓮大寿の娘だ。だけど紅蓮大寿って野郎は生粋の日本人らしく、本名は山田太郎。本名も偽名みたいで笑っちまう。女には困って無かったらしいから、そこら中に種ばらまいてたんだろうけど……金城蘇亜が紅蓮大寿の指示でウチの学校に来たのかってのは分からんみたいだ。ただな~~娘があれだけの力なら、親父の紅蓮大寿ってヤツは………ヤバイかもな。それに他にも居る可能性大だ。………赤の会に金城蘇亜みたいなヤツがってことだ………それと……」
大国照子がまだ言いかけている時に構内放送が掛かった。校長先生の声だ。
「生徒の皆さんに警察の下屋敷刑事から連絡があります。暫くの間、静かに聞いてください」
「えええええっと……警察の下屋敷です。もう既にマスコミ発表がされましたので、今頃はテレビやラジオでは臨時ニュースが流れている頃だと思います。宗教団体の赤の会教祖 紅蓮大寿に対し、殺人教唆の疑いによる逮捕令状が出され、全国指名手配となりました………」




