第47話 ひとときの日常と現れた蘇亜
「紅蓮大寿の娘?! ………あの……赤の会の? ………嘘でしょ?!」
近藤先生が叫ぶように言った。それは先生だけではなく、そこにいた誰もが思ったことで、大国照子ですら言葉が出ない。
「紅蓮大寿……テレビでしか見たこと無いけど……60代よね。70はいってないように見えた。金城蘇亜が30くらいだとすると、年齢的には合ってるけど………神取さんはそれをどうやって知ったって?」
近藤先生のその問いにアヤが答えた。
「ヒィーヒィー言いながらだからハッキリしない」
「え?? ヒィヒィって……なに?」
「ウニが電気アンマ外さなかった」
「はぁあああああ?? …………あのね~~篠原さん……」
「だって~~憎たらしかったんだもん…………フランスの高級パンツだよ! 私だって持ってない………でもアイツそんなこと言ってた? ………う~ん……そんな大事なこと言ってたんならアヤちゃんも止めてよね」
どうやら10分以上もの間ウミにやられていたらしい。酷ぇぇな。普通そこまでヤるか。それにしても高級パンツがそんなにいいのか? ああ、そう言えばウミは妙に小っこくて中がスケて見えるパンツ穿いてたな。好きなんだ、パンツが。
「でも………外した訳でしょ、電気アンマ。その時には聞かなかったの?」
「アイツがオシッコちびったって叫んで……」
うわ、オシッコちびるまでヤられたんだ。とんでもねぇ。
「それ聞いてウニが外したら、アソコ押さえてトイレに走ってった」
「え…………トイレから出てくるの待ってなかった……みたいね。そのまま帰って来ちゃったんだ。もう、しょうがないけど………権藤さんは、神取さんのその話し聞いてどう感じた? デタラメ言ってると思った? それとも……」
「アイツの嗅覚は人間離れしてる。デタラメじゃない。アイツは確信してる」
「そっか………言ってる本人は真実だと確信してるってことね。う~ん………河西早苗の件、それに金城蘇亜の生霊とマインドコントロール………それら全部を神取さんは正確に見抜いてた。嗅覚か………大国さん、お父さんに調べてもらうことって出来ないかな?」
「ああ、きっと出来る」
ウミとアヤの説明が終わると、近藤先生は俺に振ってきた。
「さっき3・Fで春山君が対峙したのよね? 金城蘇亜と。それが2度目だけど、大丈夫だったの? 生霊とマインドコントロール」
「どうしてなのか分からないけど、アイツに取り込まれないのは解ってた。生霊は………静香が蹴り飛ばしたら消えた」
「蹴り飛ばした?? えええええ? 生霊を? ………そんなの出来るの?」
「そう!! 跳び蹴り食らわしてやった!! ザマーーみろってんだ! ひっひっひ」
ウミとアヤも目を丸くして見てる。胸を張って鼻の穴を膨らませてる静香を。
「ウソ……だよね………生霊って……蹴れるの?」
「アタシも初めて見たけどマジだ」
「そっ、そうなんだ……蹴ったら消えたんだ。あははは………でっ、でもマインドコントロールは? 佐藤さんと枡渕さんは掛からなかったの?」
「うん、掛からない自信あったし」
「私もぉ」
さも当たり前のようにそういった静香と香乃の二人を見ているテルが腕を組みながら言った。
「静香はハルのことしか頭にないから、他の思念なんか入る余地がないのかもな。枡渕香乃は………よく分らん」
「それって褒められてる気がしないんだけど……」
そんなことをブツブツ言ってる静香を見ながらアヤが言った。
「佐藤静香は変わった。春山君の影響。気をつけた方がいい。見る者が見れば解る。普通の女じゃないってことが」
そう言ったアヤの隣にいるウミが小さく溜息をついていた。
「うん、確かに佐藤さんは……心が強くなったのは解る。そっか、権藤さん達にはそれが見えるのか、凄いね。………それは置いといて、春山君は金城蘇亜との2度目の対峙はどうっだったの?」
「おかしな映像を見せられた。随分と昔の出来事だと思う。独りの女が大勢に取り囲まれて叩かれたり蹴られたりしてた。取り囲んで乱暴してるのは男ばかりじゃなく女もいた。そのうちに衣服を脱がされ裸にされた女を、それでも蹴ったりして……裸の女は血まみれの泥だらけで。そしたら一人の……リーダーみたいなちょっと良い服を着た女が指示して、裸の女は犯された。いつまでもずっと何人もの男が入れ替わりで……そのうちに解ったんだ。その犯されてる女は、その映像を俺に見せてる金城蘇亜の母親だってことが。物凄い怒りと憎しみが伝わってきた。金城蘇亜は、ヤられてるのが母親なのか自分なのかがゴッチャになってるみたいに感じた。そして日本人を殺したい、日本の女を犯して殺したいって欲求に凝り固まってて、それだけを目的に生きてて………俺にやらせようとした」
俺の話を聞いていたそこにいる誰もが口を開かなかった。静香もウミも近藤先生も。
暫くしてテルが言った。
「ハルにレイプと人殺しをさせようとしたのか………おのれ…………見つけ出して……」
「アタシがやる!! アタシが………必ずヤル!!」
叫ぶようにそういったアヤは宙の一点を見据えていた。
静まり返った部室に構内放送が掛かった。校長先生の声だ。
「本日の授業は只今をもって終わりとします。クラス担任を持っている先生達は、職員室から父兄あてのプリントを持って、自分のクラスでホームルームを開いて生徒に手渡してください。本日は給食はありません。それと全ての部活動は中止です。なお明日の土曜日は第4土曜ですので休みです。本日休止となった授業については来月に振替ますので改めて連絡します。繰り返しますーーーー」
金曜日の授業が終わった。なんだが茶道部の部室と3・Fに何度も行って、なにしに学校に来たのかよく解らないが、とにかく終わった。体育館は第一も第二も使用禁止というか立入禁止だそうで、屋外の部活動も含めて今日は全部の部活は中止だ。3年F組の生徒の件が原因だろう。そんな金曜日の放課後なのだが、静香は自分で生霊をヤっつけたせいか機嫌が良い。
「ねぇ、今日って義仁のお父さん……いるの?」
「いや、金曜だから普通に仕事」
「なら、まっすぐ義仁の家に行ってもいいよね! いっしょにお昼ご飯作って食べようよ! お腹減ったけど家に帰ったってお母さんもいないし………あっ、そうだ、凛ちゃんもおいで! 義仁って料理上手なんだよ~~」
俺の返事など待たないで北川さんを誘ってるが、まぁいい。でも昼飯はきっと俺が作るんだろうな、まぁそれもいつもの事だし、いいけど。
静香に誘われた北川さんの顔がパっと輝いた。
「いいの? 私が行っても……」
「うん、全然いいって、義仁もいいっしょ?」
「ああ、かまわないよ」
「うん、なら行く。ちょっと待ってて、お母さんに電話するから」
教室の隅で電話をしていた北川さんが顔をちょっと赤らめ、嬉しそうに言った。
「午前中で学校終わったんだけど新しい友達の佐藤静香さんとランチするからって言っちゃった………えへへへ」
静香と北川さんの二人が腕を組んで前を歩いている。静香は俺と違って社交的だし、お喋りが大好きだ。今も大口を開けてケラケラ笑っていて、おとなしい北川さんも楽しそうだ。あれ? そう言えば静香って、おとなしくて引っ込み思案な性格だと思ってたはずだよな、俺。それを静香に言うと、
「うん? 義仁の前では猫被ってたの。ウッシッシ………」
「あ、そう………」
どうやら枡渕香乃と似たような性格だったのだろう。ただ意気地なしの臆病であったのは間違いないのだが、そんな性格すら変わった。
「そんなことより義仁にもね、凛って呼んで欲しいんだって、ちゃんと呼んであげなよーー、わかった~?」
「了解」
今日は手作りハンバーグにしよう。凛ちゃんに聞くと「大好き!」という答えが返ってきた。
「ちょっと~、なんで私には聞かないのさ!」
「え……あ~~……だって静香って好き嫌いないだろ。……あったっけ?」
「………ない」
そうなのだ。静香は細いくせになんでもバクバク食べて、おかわりまでする女の子だ。前に姉ちゃんと3人で天ぷら専門店に行った時なんか、「おいしい、おいしい」ってもの凄く食べるから、天ぷら屋の大将が「いいね~~、静香ちゃん最高だね!」って気にいっちゃって、静香が食べた分は大将の驕りになった。
大通りにある肉屋さんで合い挽きの挽肉を買い、家に着くと早々に冷蔵庫で、いや今日は時間が無いから冷凍庫で冷やそう。そして米を研いでうるかせ、パン粉に牛乳を入れ、冷蔵庫の野菜室を覗くと玉ねぎと人参とジャガイモがあった。
居間でお喋りに夢中の静香と凛。どうやら二人は、自分達は食べる人だと決めているようだ。しまいには、
「ねーーーー! 義仁の部屋に行ってもいいよね!」
「ん………いいけど、なんで?」
「凛ちゃんがね、男の人の部屋に入ったこと無いんだって! それにね、ウッシッシッシ……女同士のナイショのお話しするの」
見られてマズイものは無かったはずだし、ちょうど今朝、晴れてたからベランダに布団やら毛布を干して、シーツは洗濯機に突っ込んである。
キャッキャッ言いながら階段を上って行った二人。
泣きながら玉ねぎをみじん切りにして、とことん炒め、冷えた挽肉に塩を入れてコネる。……挽肉がちょっと多いか? いいや、俺も静香もガッツリ食うから大丈夫だろ。
コネまくって糸が引くくらいの挽肉にコショウとナツメグを入れて更にコネて、炒めた玉ねぎと溶き卵とパン粉を入れて、またコネる。
ハンバーグを作るたびに思うのが、「コネるよな~~」だ。これってコネる機械とかがあれば便利なのにと思ったりもするのだが、餅と同じかもしれない。武者小路の爺ちゃんとこでは今でも臼と杵で餅をつくのだが、とにかく美味い。それを爺ちゃんに言うと「機械でついた餅なんぞ、ありゃ~餅じゃねぇからな~」と返ってくる。もしかするとそれと同じかもしれないと思い、美味いハンバーグを食べるために今日もコネまくる。
コネ上がった挽肉を6つに分けたが、デカい。いや、焼けば縮むから大丈夫だろう、と考えながら潰すとバカみたいにデカくなって、フライパンに2つしか乗らない。フライパンを3っつ使えばいいんだ! ガスコンロだって4っつも口があるんだから余裕じゃん。
草履のような塊に小麦粉をまぶしてフライパンに乗せ、強火でジュッっと……おおおおお、膨らんで面積は小さくなってきた。
両面に焦げ目がついた辺りで中火にして水を入れ、フライパンに蓋を……蓋、蓋、蓋……あった! よかった~3つあったぜ。
「あっ……おいしい、メッチャおいしいぃ」
「うん、肉汁凄い~。これってお店で出せると思う」
焼いて縮んだとはいえ、それでも随分と大きいハンバーグをデカすぎるとも言わない二人の女子は、それぞれ2つを見事に平らげた。一緒に焼いた人参と皮つき馬鈴薯も大盛のごはんも全部だ。静香なら全部食うだろと思ったが、凛ちゃんもなかなか凄い。
「ねぇねぇ……なんかさ~……デザート系なんかあったりする?」
「冷凍庫にハーゲンダッツあるから好きなの食っていいよ」
「えっ! ハーゲンダッツあんの?! マジ! 食べる食べる。凛ちゃんも食べよう」
「うん、選んでいいの?」
「いいよ、好きなの選んだらいい」
3人でハーゲンダッツを食べていると凛ちゃんが伏し目がちに恥ずかしそうに言った。
「………さっき春山君の部屋でね、静香に言っちゃった………私……マイノリティだって……」
「うん、でもね……なんとなくだけど、もしかしたら凛ちゃんってそうなんじゃないかな~~って思ってたし……なんだろう……私そんなの全然気にならない。だからね、なんで義仁だけに言ったの! 先に私に言いなさいって怒ったの」
「うん、静香に怒られちゃった………」
へ~~意外だ、静香って鋭いとこあるんだな。もっと鈍いかと思ってた。
「でも初めて。春山君にもだけど、自分のこと正直に話したの。…………誰にも言えなくて……言ったら気持ち悪がられるんじゃないかって………怖くて…………自分だけが変なんだって苦しくて……」
「そんなことない! 凛ちゃんは凛ちゃんなんだよ。絶対に変じゃない!」
「………ほんと?」
「うん、それにね、凛ちゃん………これからは独りじゃないんだよ。私がいる。なんも出来ないかもだけど、凛ちゃんのこと私が知ってる」
真っ赤な目で静香を見ている凛ちゃんの頭を、隣に座る静香が優しく胸に抱いてあげた。
「どうして静香に話そうと思った?」
「うん…………静香って凄いな~羨ましいな~って思って」
「ん? なにが?」
「だってね、自分が春山君を凄く好きだってこと隠そうともしないし、ヤキモチだって全然恥ずかしがらないで焼くし、凄く自分に正直なのが羨ましくて………そんな静香のことをそのまんま受け入れてる春山君がいて、見てたら静香はしょっちゅう春山君に怒ってるんだけど、でもありのままの春山君を受け入れてるのが解って…………私の事も受け入れてくれるかもって……思った」
3人でマリオカートをすると凛ちゃんが凄く速くて、静香なんかムキになっちゃって、それでも勝てなくて凛ちゃんの脇の下をくすぐるという反則技を使った。
「静香ずるーーーい!」
「いいんだもーーーん。だってカートだってぶつかったりしてるじゃん。アリなんだよ~ん……ギャッ……」
「なら、これだってアリだよね!! どーーだ! まいったか!」
凛ちゃんが静香の両足を掴んで電気アンマを掛けた。マジかよ。二人ともセーラー服だよ。女子だけの場でやって欲しいんですけど。
「アギャアアアア………まっまいった、ギブギブ!! 降参、降参………ダメエエエエエエエエエ………義仁助けてえええええ……マジ……マジ……そこダメ~~ひぃぃぃぃぃぃぃ」
そういうのに俺を巻き込まないで欲しいから放っておいたのだが、いやいやいや、けっこうしつこいわ。女子もコレやるんだ。ウミもヤるみたいだけど……でも男子は小学校の、それも低学年の頃にしかやんないよな。ちょっとビックリ。
足の裏で股間をブルブルやられてる静香が、その足を押さえながら、笑いながらヒィーヒィー言ってる。やってる凛ちゃんもエラク楽しそうで、見てるこっちまで笑っちまったぜ。
ようやっと離れた二人がゼーゼー言いながら睨み合い、そして腹を抱て笑い出した。俺がいること忘れてないか? 二人してパンツ丸出しで転げまわってる。
「なんかね……電気アンマってやってみたかったの。ふふふ………前に静香と近藤先生言ってたでしょ、掛けてやるとか返り討ちにするとか。友達みたいでいいな~って……でも私………仲の良い友達って……いなくて………静香に掛けちゃった、アハハハハハ」
ええええ? 仲が良い友達って電気アンマ掛け合うの? よくわからんけど、ちょっと違うような気がする。でも静香もケラケラ大口を開けて笑いながら、凛ちゃんとは友達だよ~ん、なんて言ってるから、仲が良い女同士の友達ってヤるのかもしれない。いや、ヤらんだろ。
4時を過ぎた頃に凛ちゃんの携帯に電話が掛かってきた。
「お母さんが中学校まで車で迎えに来たみたい。私帰るけど………すごく楽しかった。私、中学になってから、学校帰りに友達の家に寄ったのって初めて………静香また遊ぼうね」
「うん、今度は私が電気アンマ掛けるから覚悟しなさいよ。ヒッヒッヒ」
「返り討ちにするもん。今日はごちそう様でした。春山君の料理の腕前ビックリした~。また今度作ってね。じゃ~月曜日に学校で………バイバーーーイ」
凛ちゃんを玄関で静香と二人で見送ったのだが、静香は当たり前に帰ろうとはしないで、
「ねぇ、二人でマリオカートもう1回やろ」
「いいけど、負けてもキーッてなるなよ」
「ム……負けないもん」
6時が過ぎ、静香が「お腹減ったよね、なに食べる?」と言い出し、晩飯だ。
冷凍庫にホッケの一夜干しが冷凍されているのを思い出した。
「うわ………すっごく大っきい………これって2人で一尾でいいよね」
「ああ、そうだな」
「あれ? 解凍ってしないの?」
「開きの一夜干しだから凍ったまんまで焼く」
「ふ~ん……そうなんだ」
グリルで焼いている間、俺は家の裏にある畑で大根を1本抜いてきた。
「家庭菜園やってんだ」
「うん………来年からはどうするか分かんないけど……」
「え…………あ………そっか………」
6月に死んだ母さんは農家生れってこともあり、家の裏を畑にして野菜を作っていて、今が夏野菜の収穫時期なのだ。
「獲りたての新鮮な夏大根は美味いんだぜ。大根おろしだけで飯なん杯でもいけるから。スーパーで売ってる大根とは大違いでオカズいらずなのが獲りたての大根」
話題を変えようとちょっと雄弁に語りながら大根を洗い、おろし器でおろしていると、
「あれ? 皮って剝かないの?」
「ん? あああ、うちの畑って堆肥から追肥も全部が有機だから、化学肥料や農薬なんて一切使ってないの。だから洗うだけでOK。ちっこい畑だからね。ちょっと醤油かけて食ってみ。けっこう辛いけどメッチャ美味いから」
「うん、どれどれ……………あっ、からーーーい!! ………でも……うんうん、美味しいコレ~」
「だろう~~。ホッケに大根おろしガッツリ乗せて食おうぜ」
焼いたホッケと山盛りの大根おろしーーー1本全部をおろしたら凄い量になったが、
「おいしーーー! このホッケ、脂のってておいしいね~」
「だろう~」
「うんうん、大根おろしも辛くておいしい。ごはん、おかわりある?」
「おお、あるある」
やたらにデカいホッケは勿論だか、山盛りの大根おろしも二人で全部平らげた。
食べ終えて二人で食器を洗っていると俺の携帯が鳴り、すぐさま静香のも鳴った。
「瀬川からだ。そっちは?」
「真奈美。ふ~~ん……あの二人、ついに付き合ったみたいだね。きっと同じ場所にいると思うな」
「もしもし、春山だけど、瀬川か? なんかあった?」
俺がそう言ってる隣では、静香も電話に出て、名前を名乗ることもしないでいきなり言った。
「そばに瀬川君いるんでしょ! …………………やっぱりだ。ひっひっひ………もうエッチしちゃった? ………ええ? チューだけ? ふ~~ん………チューはしたんだ………えええ?? チュッてやつ?……それってチューなの? マジ? う~~ん……なんか私と義仁のとは違うっぽい。なんで?」
コイツなに喋ってんだ?
「もしもし! 春山!! 聞こえてない? おーーーーーい、ハルヤマーーーーーーー!!」
「え……?! あっ、悪い悪い、聞こえてる、うん………っでなに?」
いや~隣で喋ってる静香がうるさい。そんな静香から離れて居間に行った。
「黒崎中との練習試合、決まった。9月6日、第一土曜日だ。うちの学校は休みじゃないから、午後の3時から。あいつら全道大会で準優勝だったのは知ってるよな? ……え? 知らんって………マジ? そっ、そっか………まぁいいや。っで昨日全国大会が終わったらしくて、あいつらベスト16だったみたい。………え? …………お前ね~~………北海道からは優勝校と準優勝校が全国に行けて、全国から24校が集って全国大会。そして3校づつの8ブロックに分かれての予選があって、上位2校づつの16校で決勝トーナメント」
「ふ~ん……だったら決勝トーナメントで初戦敗退か。大したことないな」
「う~~~ん…………それは……なんて言ったらいいのか分かんないけど………北海道大会で優勝したのは札幌の学校なんだけど………なんて言ったかな……名前忘れたけど、強豪校で全国の常連なんだよね。俺ってこっちに来る前は札幌だったろ。………え? そうなのかって………お前、知らんかったの? 1年の時言ったろ、札幌から来たって。どっから来たと思ってたんだよ………なんか疲れる…………とにかくさ~、札幌の……名前忘れちゃったけど強豪校に行ってるヤツ……バスケやってる奴と俺まだ繋がってて、そいつから昨日連絡あって、そいつらは全国でベスト4までいったらしいんだけど、全道大会には俺達が出て来ると思ってたみたい。…………うん、そう。やっぱ去年の新人戦の時の俺達のことが札幌でも評判になってて、でも蓋をあけたら黒崎中だろ。その強豪校に言わせたら、黒崎中もそこそこはヤルけど大したことなくて、実際に大差で勝ったみたいで、試合が終わった後に、なんで俺達が全道に出てこなかったのかを黒崎中のヤツらに訊ねたっていうんだよな。訊ねられた黒崎中のヤツらにしたらアッタマにくるさ。余裕で負けて、おまけに、なんでお前たちみたいな噂も聞かない学校が全道に出て来たんだ、って言われたのと同じだからな。そんなもんだから全国には相当に気合入れて行くさ。でも予選は2位通過で、3校中の2位だからな。そして決勝トーナメントでは一勝も出来ずに北海道に帰ってきた。3年生は全国で負けて引退なんだろうけど、このまま引退なんかできるか! って練習試合の日程を決めてきたみたい」
「へ~~…………ところでよ、俺達、勝っちゃっていいのか? 一応は全国行った学校なんだろ?」
「え??? …………ふふふ………あははははははははははははは………いいぞ、春山! 最高だ、お前!! おおおおおおおおおお!! 徹底的に捻りつぶそーーや!」
だが俺達の中学校では事件が相次ぎ、何人もの人が死に、はたから見れば気味が悪くて近寄りたくない学校だと思う。そんな俺達とよく練習試合をやろうと決めたもんだな。確か、俺達の学校に乗り込んで来て、そこで俺達に赤っ恥をかかせるつもりだったと思うのだが……
「ああ、向こうの親達は佐舞久留中の体育館でヤるなんて絶対許さないどころか、俺達との練習試合だって断固反対だったらしい。なにされるか分かったもんじゃないとか……呪われるってマジで言ってる親までいるらしい。だけど黒崎中のキャプテン、片山ってヤツなんだけど……あら、前に言ったろ、新人戦の時は全然目立たなくて記憶にも残ってなかったんだけど、背は俺と同じくらいで、中からでも外からでもズバズバ決めてくるって。そいつが何がなんでも俺達とヤる。学校や親達が認めないなら勝手にヤるだけだって啖呵切ったらしくて、他の部員たちもそんな片山に同調っていうか、どうも相当なリーダーシップ持ってるヤツらしくて、片山がヤルと言えばヤルし、ヤらないと言えばヤらないのが黒崎中のバスケみたい。っで結局は、黒崎中の体育館でヤるなら認めるって向こうの学校や親たちが折れた。俺達にとっちゃ完全アウェイ」
「おおおおお、いいじゃん、最高じゃん、乗り込んで叩き潰してやろうぜ」
「ふっふっふっふ……お前ならそう言うと思った。っで、明日、土曜だけど朝9時から練習だ。学校の体育館使えるって、さっき確認した。今から全員に連絡するから切るぞ」
「了解!」
いいぞ~~……9月6日か。今からワクワクする。
「あっ、テルちゃん。………静香だけど、明日9時から練習。黒崎中との練習試合9月6日に決まったって………うんうん、そう! 全道大会で準優勝だったみたいで、全国に行った学校。………え? テルちゃんも出るって? それは…………ええ? 練習試合なんだからいいだろって? どうだろう? 瀬川君や相手チームに聞かなきゃ…………あっ、切れた。もう…………次は1年生の門間君だ……」
どうやら4人のマネジャーが手分けして2年生8人と1年生12人に連絡を入れるみたいだ。
日曜日の朝9時。5人の3年生、8人の2年生、12人の1年生、それと大国照子と4人のマネージャー全員が体育館に集まった。スゲーな。昨日の夜7時過ぎに連絡が入ったはずだから、何人かは都合がつかないと思ったのだが、1人も欠けなかった。それに3年生だけではなく、1・2年生と4人のマネージャーまでが目を輝かせてる。勿論テルもだ。気合入りまくってるな。
「まずは体育館外周を3周だ!」
「おおおおおお!!!」
当然テルも走っているのだが、4人のマネージャーまで一緒に走ってる。そして先頭は中木と静香が並んで走っていた。
最後の直線で瀬川が怒鳴った。
「ダーーーッシュ!!」
中木と静香の二人が一気に他を置いて行った。くっそ~あいつら速ぇぇ。
「俺が勝ったーーーー!!」
「私の方が速かった!!」
「なっ……俺だ!」
「私よ!!」
なにやってんだか。
「よーーーし、次は全員で四角をやるぞ。最初はボールを2つ入れる。いいかーーー! ドリブルなんか使うなよ! ダッシュとパスで繋ぎまくれ! マネージャーは頃合いを見計らってボールを増やしていってくれ。枡渕さんなら分かるよな?」
「分かるよ~ん。真奈美と千佳と静香は見ててぇ、直ぐに解るからぁ。っで何個まで増やすぅ?」
「無限だ」
「ヒャ~~……キャプテン気合入ってんね~~」
真四角の4隅に別れる。大国照子を入れると26人だから、1つの角に6人~7人だ。①の角にいるボールを持ったヤツが走りながら②の角のヤツにパスをする。そして②の前を走って③に向かう。パスを受け取った②のヤツは走ってきた①にパスを返す。受け取った①は③の角の奴にパスをする。そして③の最後尾に並ぶ。
当然バスケットの練習だからトラベリングは禁止だ。更にキャプテンの瀬川がドリブルまで禁止にした。だからボールを受け取ってから2歩目で次にパスをする。モタモタしてるとパスが返ってくるので全力疾走しらなければ次に繋げることが難しくなる。
最初はボール2つだから、①の角、それと③の角から始まるが、どんどんボールが増えていくから休んでる暇もない。そしてパスを受けそびれたところで他のボールは動いているから誰も待ってなどくれない。瀬川はボールの数を無限に増やせと言ったが、実際にはせいせい5個、いや4個が限界だ。それ以上になったら足の速いヤツが遅いヤツに追いついてしまって続かなくなる。
始まった。
ボールは2個だ。しばらく回っているが1年生でもまだ付いてこれている。
全員が一回はボールに触った。
「樋口だ!!」
枡渕香乃がボールを入れた。ターゲットは2年生の樋口だ。
そうなのだ。ボールを入れる者が、どのタイミングで何処に入れるかを決めるのだ。それぞれの角で先頭に立っている者は、回っているボールと走って来るヤツに注意を払っている。そこに突然ボールを入れられるのだ。名前を呼ばれて。
「うわ、面白そう、次やらせて」
静香の声が聞こえた。
3つのボールが回っている。まだ1年生も付いてきていた。
「ヘッヘッヘ~~、だ~れにしようかな~~~………桜井!!」
すごい、ボールが4っつになったのに、どのボールも落ちないし、ドリブルをするヤツすらいない。
「いいぞおおおおおお!! いけええええ! 5つ目いけええええええ!!」
瀬川が走りながら怒鳴っていた。だが中木が前を走る1年生に追いつきそうだ。
「春山義仁!!」
うわ、強烈なタイミングでヤられた。あとちょっとで1年生のパスを俺が受けるタイミングで枡渕香乃に狙われ、危なく受け損なうとこだったぜ。
だが他のボールを1年生が受け損なっていた。ボールは後ろに転がっていった。
「取りに行くな!! かまわず続けろ!!」
「はい!」
ほおおお、止めないんだ。ヤルじゃん。
「テルちゃん!!」
静香がテルを狙った。ボールはまた5つになったが、今度は2年生が受け損なった。
「桜井!!」
「おっとーーっ!」
村上さんが投げ入れたのだが、けっこう高いとこいっちゃって桜井がジャンプして取った。
枡渕香乃と静香と村上さんの3人がボールを入れていて、次々と1・2年が受け損なう。3年生ですら危ない。
田川さんがホイッスルを鳴らした。どうやら瀬川から「止めろ」の合図があったのだろう。
「10分休憩」
休憩の後は、また四角。そしてその次は徹底してラン&ガンの練習だ。それはまるでラグビーにような練習方法で、横一列に4人が並び、全速力で走りながらパスを回し、最後は4人の内の誰かがシュートを放つ。当然トラベリングもドリブルも禁止で、そんな4人のオフェンスチームに、ディフェンスが2人付く。
バスケットは室内で行われる球技の中では特殊だと思う。他の室内球技ーーバレーボール、卓球、バドミントンのように「相手に〇〇点取られた負け」というルールではない。何点取られたって良いのだ。それ以上に取り返せば勝ちだ。屋外の球技ーー野球もそうだが、バスケットは野球のようなコールドがない。だからサッカーというよりラグビーに近いが、バスケットには一発退場は無く、更には退場者が出ても控えの選手が出てくるから、最後まで「5人対5人」。いわば対等な人数で殴り合う球技のような感じだ。
俺達3年生が1年の時ーー先輩たちのバスケスタイルは違った。簡単に言うとディフェンスにも相当な時間を掛けて練習していた。だが、特に俺と中木と瀬川の3人、それと大国井照子は、どうにもそんなプレイスタイルが性に合わず、とにかく攻め続けるスタイルに拘りーーー瀬川は見かけや喋り方は紳士的というか大人しそうなのだが、実は違う。攻めて攻めて攻めぬくのを信条としたプレイヤーで、それが去年の新人戦で爆発した。他のチームからは「あんな雑なバスケなんて……」とバカにされたが、そのバカにした奴らを全部叩きのめした。
2年前の2001年ーー俺達が1年生の時にバスケのルールがクォーター制に変わった。それまでは中学バスケであれば15分・15分の前後半制だったのが、8分・8分・8分・8分の4分割になり、全体の時間は2分間長くなったのだが、休憩回数が増えた。俺達は以前のルールの方がきっと好きだと思う。ハーフ15分を走り抜ける自信があったからだ。だが僅か8分で休憩になるルールであれば、相手チームもそこで復活してくる。ルール変更の目的は、バスケをよりスピーディにするためだったとか。まぁ観ている側にすれば、体力が落ちてきたバスケなんで観ていてイライラするだけだろうが、やってる側にすれば、そこで地力の違いを見せつけることが出来たと思う。
そんなこともあり、雑なバスケを得意とする俺達は、第3クォーターの途中までは接戦が多い。だが走り負けたりしない俺達は第4クォーターで一気に引き離す。
俺達男子バスケは伝統として毎年行われる校内マラソン大会で30位内に入らなければならない。男子が500人もいるマンモス中学校で、陸上部や野球部、それにサッカー部なんかも毎日走り込んでる中での30位はかなりきつい。だが桜井は無口のクセにーー無口かお喋りかは関係ないのだろうが、とにかく長距離走は凄くて、去年の秋にあった校内マラソン大会では2年生なのに3年生を抑えてダントツの1位だった。う~ん、やっぱ喋らんヤツの方が持久力が凄いのかも。そんで瀬川も10位以内に入っていて、俺と榎本と中木の3人はギリギリ30位には入った。そんな5人がスタメンなのだ。32分間も俺達についてこれるチームがいるとは思えない。
俺と瀬川、それと1年生2人を入れた4人が横に並んでパスを回しながら走っていた。デフェンスは2年生2人だ。樋口もいる。一番左側を走っていた瀬川にボールが回り、すぐさま高く放り投げられた。そして「行け!!」と叫ぶ。
もうすでに走ってるわ! ヤロウ、もっとふわ~っと投げやがれ。届くか……
僅かに放物線を描いたボールにギリギリで右手が届いた。リングのすぐ傍だ。そのまま押し込みリングにぶら下がった。
「瀬川! 今のってシュートか? 放っといたらリングに当たったぞ!」
ぶら下がったままそう怒鳴ると、瀬川がニヤニヤしながら、
「当たってもお前なら押し込めたろ」
リングから手を離し着地すると、樋口が傍にきた。
「春山先輩って身長なんぼっすか?」
「178だけど、お前は?」
「174っす。ちょっと壁にくっついて片手上げてくれません? 大国先輩、ちょっとこっちに来てください! …………春山先輩の手の先っぽが届いてるとこ押さえてて」
「ん? ……こうか?」
「そう、そのまま動かないで………」
樋口も壁にくっついて片手を上げると、
「あれ…………樋口の方が高い」
「俺……めっちゃ腕長いんっす。…………春山先輩、なんであんなに飛べるんすか? ちょっとコツみたいの教えてください!」
「コツ?? う~~ん………なんだろう………床を左足の裏でバーーーンって蹴って………」
「バーーンすか?」
「そうそう、バーーーンだ。っで右膝で………こう……空中にいる誰かの顎に膝蹴り食らわすみたいに……グォって」
「………グオ……っすか?」
「樋口、春山に聞いてもきっとムダだと思うよ。感覚的な話しかしないだろうしね」
後はそれぞれがフリースローやらスリーポイントをやり、2時を過ぎ、腹が減り過ぎて動けないから解散。
次期キャプテンの樋口の指示なのか1・2年生は全員が弁当を持って来ていて、飯を食った後も練習を続けるという。秋の新人戦のこともあるのだろう。俺達3年は、
「ラーメン食ってくか」
5人の3年生と4人のマネージャー、それと大国照子の10人が、ラーメン大盛、ライスも大盛、それプラス餃子を、女子マネージャーまでがガツガツ食ってる。
「ねぇねぇねぇ、明日の日曜日も練習やるんでしょ。だったらさ~どっかでジンギスカンやろうよ」
静香の提案に全員が異議なしだ。
「ジンギスカンならやっぱジンギスカン専用の鍋だよね。誰か持ってる? ウチはもうアノ鍋って無いんだよね」
「確かウチに1っ個あったはず」
村上さんが手を挙げながらそう言った。
親が北海道民なら家でジンギスカンを食べるのは珍しくはないが、山型になった昔ながらのジンギスカン鍋はあまり見かけなくなり、焼き肉のように鉄板か網を使うか、場合によってはフライパンで焼く。
「ウチにもあるわ」
田川さんがそう言い、鍋の確保は出来そうだ。次に何処でやるかなのだが、そう言えば明日の日曜日、父さんは朝からゴルフのはずだし、物置に炭焼き用のコンロは何故だか3っつも4っつもあって、炭も何袋もあったのを思い出した。家族で焼肉でもやろうとしてたのだろうか? なぜか手作りのベンチまで2本もある。
「炭とコンロは俺んちに幾つもあるし、明日は父さんいないから、もし雨が降っても車庫使えるから、俺んちでいいぜ」
「なら義仁のとこで決ぃーーーまり! 全部で10人ね………どうしようか? 一人2000円? 1500円で間に合うかな? やっぱ美味しいジンギスカンがいいよね! あれ……西3条にジンギスカン屋さんあるじゃん、あそこって、そこで食べるだけじゃなくってテイクアウトもOKなんだよ。あとは野菜がちょこちょこっと、それとコーラでいいよね」
「うん、2000円づつ集めて、余ったら分ければいいよ」
ラーメン屋での打ち合わせの後、結局、全員が中学校に戻り練習を再開した。
次の日の日曜日も朝9時からの練習。そして昼飯は打ち合わせの通り俺の家に3年生が集り、ジンギスカン5キロを10人で平らげた。1人平均500gだぞ。いくらジンギスカンは食べやすいといっても、女子が5人ーーその内の一人は大国照子なのだが、白飯だって炊いたのだ。8合も。確かにジンギスカンの時のごはんは進むのだが、きれいに全部なくなったのにはビックリだ。俺達は相撲部か?
でも楽しかった。集まった瀬川、樋口、中木、桜井、俺、大国照子、枡渕香乃、村上さん、田川さん、静香の誰もが何の遠慮もなく、誰に気を使うこともなくーー普段はあまり喋らない大国照子ですら、普通の女の人みたいに楽しそうに喋っては食い、食っては喋っていた。
そして死んだはずの飛内夏乃改め枡渕香乃は人一倍はしゃぎ、そんな彼女をそこに集まってる者全員が、なんの違和感もなく受け入れていて、静香が盛んに皆を写真で撮っていたが、村上さんと田川さんは枡渕香乃に強引に唇を奪われ、ギャーギャー騒いでいた。
だがこんな集まりーーバスケに関係した3年生だけの、気心の知れた集まりは、最初で最後だった。
月曜日、学校に行くと臨時の全校集会が開かれ、壇上に立つ栄前田椿がマイクを握っていた。
「新たに生徒会長となった3年C組の栄前田椿です。どうぞ宜しくお願いします。副会長の2人、それと書記の2人を紹介します。名前を呼ばれた人は壇上に上がってください」
うちの学校の生徒会は、生徒会長だけが選挙で選ばれるが、副会長と書記は生徒会長が指名する仕組みなのだ。内閣総理大臣が組閣を行うように。
「それでは2人の副会長……一人目は………3年A組 夏堀かおる子さん」
「はい!」
当然、本人とは事前に打ち合わせ済なのだろう、なんの戸惑いも無く夏堀さんが大きく返事をした。
「もう一人の副会長は、3年G組………城地ルミさん」
「はい!」
体育館に静かなどよめきが広がった。へ~~凄いな。あの城地ルミを副会長に指名したんだ。だが妙に納得した。新会長となった栄前田さんの決意と覚悟みたいなものを感じた。でも、よく城地ルミが引き受けたな。どんな手を使ったんだ? 隣にいる静香も、
「うわ~~強烈な人事だね。でも………いいかも」
「次に2人の書記です。一人目は、3年A組……播磨葵さん」
想像通りだ。副会長が夏堀さんなら書記は播磨さんだろうと思った。だとするともう1人の書記はきっと……
「もう一人の書記は、3年G組………丹波ユキさん」
「はい………」
丹波さんの低い声が聞こえた。秋田谷さんか丹波さんのどっちかだろうと思ったけど、やたらめったら見えてしまう丹波さんを選んだんだ。ふ~ん………
「げっ……ホクロ見られた人だ………ちょっと恥ずかしいかも……」
壇上に上がった2人の副会長と2人の書記が一人づつ挨拶をして新たな生徒会主要メンバーの紹介は終わった。彼女たちの仕事は、先ずは10月に予定されている学校祭が最大のイベントなのだろうが、今年はそれだけではない。3年F組問題だ。いじめ、売春、レイプ、リストカット、表に出す事が憚られる問題ーー売春が絡んでいる。それにその全部にウチの生徒でもない金城蘇亜という女が関係しているとしか思えない。それが権藤彩音が言ったように紅蓮大寿の娘だとしたら、赤の会までが絡んでいる。生徒会でなんとか出来る問題だとは思えないが、栄前田さんの性格を思うと、きっと避けることはしないだろうし、その為の城地ルミと丹波ユキなのだろう。おそらく2人には、それを説明した上で役員を引き受けてくれるよう頼んだのだと思う。
そんな考え事をしていると何時の間にか壇上には校長先生がいて喋っていた。
「ーーーーー当面の間、3年F組のみなさんは別のところでお勉強に励んでいただくことになりました」
なに? 3年A組の列に並んでいる俺は、そう言われるまで気が付かなかったが、横の向こうを見ると、3年F組と思われる連中の姿が見えないような気がした。背が180以上ある榎本に、
「おい、見るか?」
「ああ、いねぇわ。間違いない。3・Fのヤツら全員がゴッソリいない」
教室に戻り、ホームルームが始まったが、近藤先生は不自然なくらい3・Fの事を話さない。硬い表情のままで、
「夏堀さんと播磨さん、学級委員長の件をどう考えているのか、前に出て説明して」
前に出て来た2人。
「おはようございます。……え~っと………私……3・Aの学級委員長なのに、生徒会の副会長に指名されて、みんなに相談もしないで引き受けてしまって……ごめんなさい。でも………3年A組の学級委員長は辞めたくありません。続けさせてください! 理由は………その………私、好きなんです! このクラスが! だから卒業するまで学級委員長やっていたいんです! 副会長は………先週の金曜日に会長の栄前田さんと何時間も話し合いました。栄前田さんがやろうとしている事が良く解って……そして栄前田さんが、私と城地ルミさんに副会長として協力して欲しいって……だから私……引き受けました。栄前田さんがなにをヤろうとしているのかは………ちょっと言い難い部分もあって、ここでは言えないけど、城地さんも………凄く失礼な言い方なんだど、あの城地ルミさんが、よしヤろう! って。…………どうですか? 副会長をやりながらの学級委員長なんですが………」
「みんな、お願い! かおる子にこのまま学級委員長続けさせて! 私……生徒会の書記に指名されてビックリしちゃったけど、今、かおる子が言ったように栄前田さんのヤろうとしてることに私も協力するんだけど、学級委員長としてのかおる子にも、私がフォローする! だからお願い!」
一斉に拍手がなされた。誰も異議など挟む者がいない中で、2人の女子が深々と頭を下げていた時だ、なにかを感じた。なんだ? この異様な感じはなんだ?
廊下から激しい音がした。どこかの教室の戸を激しく開け放った音。そして誰かが走り去る足音。大国照子どうした! という怒鳴り声。続いて篠原朱海を呼ぶ声。そして権藤彩音を呼ぶ声も聞こえ、いずれも先生達の声だ。
「みんな席を立たないで!! 座ってなさい! 夏堀さんと播磨さんも自分の席に戻って!」
そう言って近藤先生が廊下を見に行った。いったい何が起きた? 俺が感じた異様な何かに三人娘も反応したのか? ……ん? この感じって……外からか? 窓際に座っている俺は窓越しに外に目をやった。見えるのは中庭なのだが、誰かがこっちを見上げていた。あれは……
その時、校内放送が掛かった。
「生徒会書記の丹波ユキだ! 全員に告ぐ! 教室から出るな! 生徒だけじゃない、先生も全部だ! そして窓も開けるな! 大国照子! 篠原朱海! 権藤彩音! 春山義仁! 4人は直ぐに中庭に行け!!」
丹波ユキ。普段はきっと無口なのだろう。喋っても低い声で多くを語ろうとしない彼女が必死に声を荒げていた。
「義仁!! なに? この変な感じってなに? 中庭って……」
駆け寄ってきた静香。お前も感じたのか、異様ななにかを。
中庭に独りで立ち、こっちを見上げている者。セラー服をきている。アイツだ。
金城蘇亜が現れた。




