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第42話 無効となった選挙と新たな事件

「来た、来た、静香のカ~レ~シ~………ひっひっひ」


 飛内夏乃あらため枡渕香乃が俺を見るなりそう言った。嬉しそうだ。独りで別の世界に迷い込んでしまった悲壮感などこれっぽっちもないみたいだ。それにしてもボーイッシュ過ぎないか。セーラー服着てるから女の子なんだと分かるが、ジーパンなんか穿いたら絶対に女の子には見えない。


 第二視聴覚室を見渡すと、ちょっと難しい顔をした近藤先生が教壇にいて、遅れて来た俺に早く座りなさいと促しているが、先生の目の前にある二人用の机には、枡渕香乃にくっついて静香が座っている。ずいぶんと仲が良いみたいでチョっとビックリ。そして右隣りの机には桜井と中木、左隣の机には大国照子が独りで座っているから俺はテルの隣に座った。後ろには瀬川と田川さんが座っていて、桜井達の後ろには榎本と村上さんがいるが、枡渕香乃と静香の後ろには誰も座っていないところを見ると、死んだはずの女子の傍は気味が悪いのだろう。村上さんも田川さんも斜め後ろから眉をひそめて枡渕香乃を見ていて、村上さんなんか榎本の陰に隠れるようにしながらチラチラ見てる。


「あれ? ウミとアヤは?」


 大国照子に尋ねると、


「神取美香を追いかけて行った。広島だか愛媛だか……瀬戸内海の島らしい」

「二人で行ったんだ」

「朱海が飛行機乗ったことないとか言い出しやがって、おまけに方向音痴らしくて彩音がついてった」


「ごっほん! さっそく始めるわね」


 近藤先生が口火を切った。


「枡渕香乃さん。苗字はお母さんの旧姓。戸籍取得の手続きは大国さんのお父さんが今やってるとこだけど、ウチの学校への転入の方は無事終わってます。今更だけど凄いね、大国さんのお父さん。いろんなとこに強烈なパイプ持っててビックリ。とにかく枡渕香乃さんは3年A組、私のクラスで引き受けますが、枡渕香乃が飛内夏乃だと知ってるのは、ここにいる本人と私を含めて11人と、篠原さん、それと権藤さんの2人なんだけど……共有化しなければばらない情報………あるよね~~。枡渕香乃さんはこの学校に転校してきたって扱いなのに、佐藤さんと仲良しって……それに春山君のことも知ってるって……」


「センセーー! それなら私の友達だって大崎さんに言っちゃいました。そして香乃がウチに遊びに来てる時に義仁とも逢ったって」


「そっか……もう言っちゃったか………それに合わせるしかないか……う~~ん………どういうふうに知り合ったのかも一応決めておく必要がありそうね」


「ピアノ!! 小学校の時ね、私と香乃っておんなじピアノ教室通ってたんだよ。今でもやってんの?」

「今はベース! 静香もバンド組もうって言ったじゃん!! でもさ~~ギターもドラムにいなくてぇ、ボーカルだってさ~~……」

「はいはいはい!! そこまで!」


 枡渕香乃はどうやらおしゃべりが大好きな女の子らしい。放っておけばいつまでも喋り続けそうだ。

 結局は静香と枡渕香乃はピアノの発表会で出会い、そして友達になったことにした。


「決めごとは最低限にした方が無難ね。あとは……そうね………枡渕香乃さん、あなたは……ちょっと……話し好きみたいだけど……ほんとに分ってる? 別の世界に来ちゃったってこと。これって残酷なんだけど……もう元の世界には戻れないと思うの。だから……」

「いいよ~ん。なんかさ~~、あっちもこっちも同じ人ばっかだしぃ、静香はこっちの静香の方がなんか楽しいしぃ、智哉の家で暮らせることにもなったしぃ、権藤彩音チンとも仲良しになれるっぽいしぃ……でもさぁ、篠原朱海はやっぱチョっとね~~静香の恋敵だったしぃぃ……こっちでは知らないけどムリっぽいかな~。ところでさ~~瀬川君と真奈美はやっぱ瀬川君がコクったんだよね? え……まだぁぁ? ウソ? まじぃぃ?」


 なんだか話が嚙み合わないような。それはそこにいた全員が思ったらしく、枡渕香乃は質問攻めにされた。


「えええ? 春山君の相手? うん、篠原朱海だよ。2年の時から付き合っててさ~、だからねぇぇ、私なんか1年の時から静香に言ってたんだよぉ。早く春山君にコクっちゃえって。なのにさ~~いっつもウジウジモジモジしちゃっててぇ、な~~んも言えんくて取られたの、篠原朱海にぃ。ほんとイクジなしで臆病なんだからぁ。でもさ~~こっちの静香ってさ~~なんか違うっぽいよねぇぇ。超明るいしぃぃ、積極的っていうか~さっきだって体育館で春山君にベッタリへばりついちゃっててさ~~。付き合ってんでしょ? どこまでヤった? ……うん? なにさ? まさか……ひええええええええええ……うっそ~~、私だって智哉とキスまでなんだよ~~。こっちって進んでんだね~。ちょっとぉぉ静香ぁ………あとで詳しく教えてよね。春山君とどんなことして、どうだったかをさ~~、ちゃんと教えなさいよ。ねぇねぇ、千佳は榎本君とチューした? ………ん? ………ちょっと~~千佳!! なんでなんも言わないのさ! さっきから変な顔してさ~~。私、死んでないから! ちゃんと生きてるから! 見なさいって! 足だってあるし、お化けじゃないから! ちゃんと仲良くしてよね! この前だってさ~~、千佳が言ってきたんだからね、チューってどうやるのって。だから私としたじゃん! ベロチュー。千佳の初キッスって私なんだからね!! っでもう一回教えてって言うからぁぁ、わざわざ千佳の家に行こうとしたら……迷子になっちゃって………こんなことになったんだからね! それなのに何なのさ! そのよそよそしい態度!! 超ムカツク。………え? なに? そんなことどうでもいいって? どうでもよくないの!! え………生徒会長? 篠原朱海だよ。3人も立候補したんだけどぉぉ、篠原朱海と神取美香と栄前田椿の3人。だけどぉ篠原朱海の圧勝。だってさ~~推薦者が春山君だよ。圧倒的じゃん。………え? 4月だよぉ、生徒会の選挙なんてぇ4月一回こっきりぃ。ああ、さっき体育館でヤってて超ウケた。夏堀かおる子が立候補しちゃってるのもビックりだけどぉぉ、ふんどしがどうしたとかぁ、レンガでぶっ叩くとかぁ………アレってマジ? ……え……バスケ? 春山君が? やってないよ。だってぇぇ小学の時からずっと剣道じゃん。全道大会で優勝したって全校集会で校長先生言ってたしぃ。男子バスケの3年は4人だけぇ。もっといっぱいいたのにぃぃドンドン辞めちゃってぇぇ、たったの4人。っでマネージャーは私だよ~~ん。………静香? 陸上だけどぉ………本番にダメダメでぇ、うん………いっつも予選落ちぃ。え……大国さん? 練習試合はぁ男子バスケに混じって出てたぁ。でもぉ、公式の試合はぁダメって言われちゃってぇ、めっちゃ切れてた……………うん、そうそう、大国さんって何故か静香のこと庇ってたぁ。1年の時だってぇ、変な3年の男子に静香が超しつこく言い寄られててさ~~、そしたら大国さんがソイツのことボッコボコにしちゃってぇぇ、キャハハハハハ………だってさ~~ソイツって大国さんにアソコ丸出しにされちゃって……キャハハハハハハハハハ………ずっと学校来なかったはず。超ウケルよね~~。………ええ? 春山君と大国さん? あ~~そうだね~~仲良かったかも。なんでだろう? 春山君のことハルって呼んでたしぃ………ヘッヘッヘ……私見ちゃったんだぁ、大国さんが春山君のアソコ掴むの。なんかねぇぇ……固いとかぁ曲がってるとかぁ言ってたぁぁ、キャハハハハハハハ………春山君のって曲がってんのぉぉ? 静香知ってんでしょ? 教えてぇぇ…………え? 権藤彩音チン? こっちの彩音チンってさ~なんか話しやすいよねぇぇ。私のこの髪の毛だってさ~、彩音チンのとこに美容師さんがいるからって呼んでくれてぇぇ、眉毛なんかさ~、彩音チンが剃ってくたんだよぉぉ、どうお? ピって感じでぇカッコいいよねぇぇ。向こうの彩音チンはねぇ、ほとんどガッコに来てないから、あんま知らないけど、ちょっと怖いっぽい。………え? なに? 赤の会? なにそれ? 知らない。…………はぁあああ? キセキって……ええ? 宗教の名前なの? そんなの初めて聞いたぁぁ。………だれ? 河西早苗? ウチらとドンパの女子で? そんな子知らない。…………東海林詩江? ………あれ? なんか聞いたことあるかもぉ……昔いなかったぁ? …………あ~あ~あ~10年くらい前に殺されちゃった子だぁ。……………ええええ!! 春山君のお母さんが!! ウッソ~! なんでええええ? …………マジィ? ………岡田先生? うん、3年A組の副担だけど………はい? 殺されたああああ? いや……ちゃんと生きてるから。…………ええええええ!! ガッコで首吊り?! なにそれえええ! ………全然関係ないヤツがガッコで首吊ったって……2人もおおお!! …………宮古愛? うん知ってるぅ。E組で吹奏楽部の部長。めっちゃキッツイ性格でぇ、私嫌い。………え……落ちて死んだ?! ちょっと~~何人死んでんのぉ? なんか呪われたりしてるぅ? ……1年の辺見? 知らないけど……その子も死んだのぉ? ………なんか凄いね? 笑っちゃうかも…………他になんか違ってることないかって? どうだろう……あっ、3年A組の担任が違う。………うん、近藤先生じゃないのぉ。菊池って男の先生でさ~、40過ぎてんのに独身でさ~~、もう脂ぎっちゃってぇぇ超キモイ奴ぅぅ。真奈美なんかさ~オッパイでかいじゃん。だから菊池のスケベ野郎なんかぁ、いっつも真奈美のオッパイやオケツ見てたぁ。ああああキモイ………ん? 静香? 静香はオッパイちっこいしぃ、オケツもないじゃん。私もだけど………そうそう、春山君ってさ~、篠原朱海みたいにオッパイでかい女が好みだと思ってたぁぁ、真奈美もデカイよね……」


 枡渕香乃がそう言った途端、静香に蹴られた。


「イテ……」

「やっちゃえ、やっちゃえ、静香もっとやれええええ」


 コイツは見た目だけじゃなく、性格もヤンチャ坊主らしい。


「ねぇ………私とベロチューしたって……マジ?」

「うん、したよ~ん。私ら4人ってメッチャ仲いいじゃん。っで最初に彼氏できたのがぁ、ワ・タ・シ。ひっひっひ。そんで、3年になってぇ彼氏ができた千佳と真奈美がねぇぇ、二人して、チューってどうやるのぉ、って私に聞くからぁ、ちゃーーんと教えてあげたのぉ。チョー親切でしょ?」 

「え? ………それって私もなの?」

「うん、真奈美なんかさ~~超エッチだからぁぁ、手はどうするのぉ、とかぁぁ、どっか触ったりぃ触られたりぃするのぉ、な~~んていっぱい聞いてきたじゃん。静香は春山君にずっと片思いしてたからぁぁ、チューの練習なんかはまだまだなのぉ」 


 向こうの世界でこいつら4人が何をやっていたのか知らないが、どういう訳か村上さんも田川さんも変なワダカマリが無くなったみたいで、4人で固まってワイワイ、キャーキャーやりはじめた。

 だけど、枡渕香乃が赤の会に狙われる可能性があることについては、近藤先生も大国照子も言わなかった。それは俺も静香も、そして枡渕香乃と付き合うことになるだろう桜井も同じで、誰もが本人には言わないが、それは絶対にそうさせないという思いの裏返しだ。それにしても俺は曲がってなんかないからな。


 でも枡渕香乃が河西早苗のことを知らないという事は、河西早苗がいた世界と、枡渕香乃がいた世界は別の世界ってことなのか? 隣に座っている大国照子も同じことを考えているのか、さっきから腕を組んだままで何も言わないし、教壇にいるスケベなエッちゃんも難しい顔で口を開こうとはしない。榎本は、さっきまで隣に座っていた村上さんにーー今は榎本を放っぽらかして枡渕香乃に抱き着いてる村上さんに何か言おうとしてた。きっと、お前アイツとチューしたの? と聞こうとしたのだろうが口をパクつかせただけだった。桜井はただひたすらに驚いていて、さっき俺と目が合った時など泣きそうな顔で笑いかけてきた。そんな桜井を励ましているのか慰めているのか、中木がなにやら桜井に喋っていた。そして瀬川は、やっぱり枡渕香乃に抱き着く田川さんを見ながら、俺に、


「俺……田川さんにコクった方がいいのかな……」

「ああ、待ってると思うぞ」

「……やっぱそっか……」


 本来いないはずの人間がそこに現れる。そして現れた人間がどんなに慎重に行動したとしても、絶対に何らかの影響を周りに与える。それは水面に石を投げると、その石が落ちた所を中心に出来る波紋がどんどん広がるのと同じように。バタフライ効果。

 でも、こんな事が起こり続けていいんだろうか? まだ誰かがやってきたら? 枡渕香乃がいた世界では母さんは生きてる。もしその母さんがこっちの世界に来たら? 紅蓮大寿が言っていた「悪魔」。どういう意味で言っていたのか……



 視聴覚室での打ち合わせが終わると、瀬川が第二体育館の開票見に行こうと言い出し、全員で、枡渕香乃も一緒に見に行った。


「あれ? 集計作業ってまだ終わってないみたい」

「うん、なんか揉めてるっぽい」


 最初っから見ていたらしい北川凛が俺達に気が付いたらしく、一緒にいた新井さんと二人でこっちに来て教えてくれた。


「まだ1回目の集計作業なんだけど、へんな名前で投票した人がいたみたいで、それを無効票にするかで揉めてるみたい」


 変な名前? なんだそれ? だいたい二人しか立候補してないのに、何て書いたヤツがいたんだ?



「そんな変な名前、無効票に決まってるだろ!」


 そう怒鳴っているのは3年F組の選挙管理委員の塩谷だ。


「変な名前だって夏堀さんだって解る! だから有効だ!」


 そう怒鳴り返したのはウチのクラスの選挙管理委員の犬養だ。


「バッカじゃないのか! 夏堀かおる子は夏堀かおる子だろ! 違う名前でも持ってんのかよ!」

「二人しか立候補してないんだぞ。それ見て誰だって夏堀さんだって思うだろ! 越前さんだって思う人なんかいるか! いないだろ!」



「静かに! 二人とも黙りなさい! ………………うるさい! 黙れ!! 喋りたいならパンツ脱いで玉を出してから喋りなさい! 私が速攻で潰してやるから、ほら出しなさいよ、塩谷と犬養、喋りたいんでしょ、だったら玉を出しなさい!」


 栄前田椿だ。それもマイクを使って怒鳴るもんだから体育館に響き渡ってる。

 玉を出してから喋れって……意味分かんないけど静まった。ギャラリーには大勢集まってるけど栄前田さんのあまりの剣幕に笑う人すらいない。だが枡渕香乃が小さな声で、


「玉だって玉………超ウケルんですけどぉ……」


 隣の静香もヒッヒッヒとか笑ってるし、気が合うのが分る気がする。


「自分で数えた中におかしな名前があったという人は手を挙げて…………1年生の投票と2年生か………3年生の投票箱は2年生に開けてもらいましたけど、その中には無かった? ………うん分かりました。いいですか? 前もって有効票と無効票のガイドライン的なものを説明してます。苗字だけでもOK、下の名前だけでもOK、漢字でなくひらがなカタカナもOK。そして越前紬さんの漢字は難しいので、3年A組、もしくは3年F組だけでもOKだと説明してます。 おかしな名前が書かれたものを順番に言ってください。1年A組の開票をした3年A組の選挙管理委員の人、言ってください」


「はい………レンガ女。これ絶対に夏堀さんのことだって!」

「うるさい! 余計なこと喋るな! 玉出すのか? ………レンガ女は無効です。他には?」

「はい、レンガ夏堀、レンガかおる子、ふんどし女、ふんどし夏堀、3年A組のふんどし女」

「レンガ夏堀、レンガかおる子、ふんどし夏堀、3年A組のふんどし女は有効。但し、ふんどし女は無効です。他には?」

「ありません」

「他のクラスの分で、今言った名前以外でおかしな名前ってありますか? ……………ないようですね。 もう一度、第1回目の集計作業を行います。選挙管理委員はさっきと同じ投票箱を集計してください。苗字、もしくは下の名前、それかクラス名が書いてあれば有効票としてカウントして、無効票も何票あったか数えて書き残してください」


 すっげー選挙だな。レンガ夏堀? ふんどし女? いや~~口は災いの元とはよく言ったもんだ。



「書き終えましたか? それでは各学年のH組の選挙管理委員は、今集計した学年分を合計して、書いたものを私に持ってきてください」


 栄前田椿が計算し、そしてその後に別の選挙管理委員に再計算させているようだ。


「第1回の集計結果を発表します。2年H組の選挙管理委員は、ホワイトボードに書いてください。投票数1002票、その内、有効票が965票で無効票が37票。3年A組夏堀かおる子 490票。 3年F組越前紬 475票」


 うわ、15票差。もの凄い僅差。ギャラリーもどよめき、口々に何かを言っていた。


「それでは第2回目の集計作業を行います。3年生の選挙管理委員は2年生の、2年生は1年生の、1年生は3年生の票を数えてください」


 しばらくすると、今度は各学年のG組の選挙管理委員が学年ごとの合計を出し、それを書いた紙を栄前田さんに持って行った。そして計算している栄前田さんの様子が遠目でもおかしいのがハッキと解った。何度も自分で計算し、しまいには宙を睨んでいる。そして別の選挙管理委員も何度も計算していた。

 おもむろにマイクを掴んだ栄前田椿。


「投票をやり直します!!」


 一瞬の間を置いてギャラリーが騒ぎ始めた。


「なんでだよ!」

「なにがあったのか説明しろ!」

「まずは第2回目の集計結果を発表しろ!」

「ど――なってんだ!」


 栄前田椿が持つマイクのスイッチが入ったままらしく、別の選挙管理委員の声を拾ってしまった。


「栄前田さん、どのクラスの分がおかしいのか、調べれば直ぐに解るって。そうすれば誰が不正をやったのか……」

「ダメよ。1回目の集計作業だって不正が無かったって言える? とにかく校長先生を呼んで来て!」

「え………そっか………わかった!」


 そんな声が聞こえたために、ギャラリーは大騒ぎだ。

 しばらくすると校長先生が息を切らせて飛び込んできた。そして栄前田さんとなにやら喋っていて、校長先生はさかんに頷いていた。

 マイクを持った栄前田椿がギャラリーに向かって話し始めた。


「投票結果に不正がある事がハッキリしましたので、今、この机の上にある全ての票は無効であることを宣言します。再投票は明日のホームルームで先生達から説明があるはずですが、明日の1時時間目、第一体育館で行います。その際、私を含めた3年生の選挙管理委員全員は、集計作業から外れてもらいます。その代わりに2年生の各クラスの学級委員長が臨時に選挙管理委員として集計作業に加わってもらいます。以上」


 ギャラリーの多くが選挙管理委員の所へ行って事情を聞こうとしているようだが、栄前田さんが箝口令を敷いたらしい。


「ふ~~ん……栄前田って女……ヤるな」


 そう呟いていたのは大国照子なのだが、俺もそう思った。あれはなかなか出来るものじゃない。これはマズイと感じてから投票無効を決めて、そして校長先生に的確に説明して、再投票のやり方まで。頭の回転が速いのと決断力が凄い。やっぱり栄前田さんが生徒会長に適任だと改めて思った。


「おーーい、男子バスケは第一体育館で練習やるぞーーーー!」



 いまだ第二体育館には大勢の生徒が残り騒いでいたが、瀬川の一声で男子バスケ部員とマネージャー4人、枡渕香乃も普通に入っていて、それと大国照子も第一体育館へと走って行った。


 今日も俺は体育館の外周を走り、その途中から静香とダッシュ競争――しかしコイツは速くて勝てなくて、俺が頭にきた頃合いでテルの呼び声が聞こえ猛烈に走って行くと強烈なパス、そして俺は飛んだ。


「えええええええええええええええええ!! なにそれええええええ!! ちょっとおおおお! 今のってダンクシュート…………えええええええええええええええええ??」


 枡渕香乃だった。目をまん丸にしてピョンピョンピョンピョン跳ねまわっている。


「あっ………マズイ、1・2年に言うの忘れてた。おーーーーーい、ちょっと聞いてくれーーーー! 新しくマネージャーになった枡渕香乃。女子だからなーーーー! 女子! ジャージ着てたら男に見えるけど、ちゃんとした女子だから間違うなよーーーー!」

「はい? ちょっとぉぉ瀬川キャプテン、ちゃ――んと紹介してぇぇ。いいよ、自分でするからぁ、おーーーーーい、1年坊主と2年坊主、こっちこ―――――い!」


 キョトンとしてる1・2年生のケツを枡渕香乃が蹴りなら挨拶していて、前からいる3人のマネージャーは笑い転げていた。

 そんな中で女子バレーの様子がおかしい。新キャプテンの2年生の丹波美羽が男子バスケの中木を呼んだ。


「おい、女子バレーの連中なにやってんだ? 中木も行ったけど……」


 俺の傍にきた榎本がそう言っている内に瀬川も桜井も集まって来て、そして中木が凄い勢いでこっちに向かって走って来た。近くに来ると顔が青ざめているのが分った。


「大変だ、3・Fの越前って女子……生徒会長に立候補した越前だって! 手首切ったらしい」

「はぁあああああ!! マジか? デマじゃないのか?!」

「その情報、出所は?」

「あ……あら……越前ってバドやってたみたいで、もう3年は引退してんだけど、2年のバドの連中が騒いでるらしい。越前先輩が手首切ったって……」


 バドってなんのことだ? 


「バドミントン部のことでしょ!!」


 そう言ったのは何時のまに来たのか静香だった。見ると、田川さんも村上さんも枡渕香乃もいて、その後ろには大国照子もいて、1・2年の男子バスケの連中も集まってきた。


「どうしたんすか? なにか………あれ? 救急車のサイレン聞こえないっすか?」

「まさか……学校で切ったのか?」

「行くぞ、ここでモチャモチャやってたって何も分らん」


 全員が走り出していた。

 生徒用玄関に行くと、大勢の生徒や先生がが集まっていて、誰もが無言でタンカに載せられ救急車に搬送される女生徒を見ていた。

 運ばれるタンカには縋りつく何人かの女子がいて、いづれもジャージを着ていた。部活?


 俺達は、回転灯を回してサイレンを鳴らしながら走り去って行った救急車を呆然と見ていた。


「先輩! 春山先輩!」


 その声に振り返ると、そこには見覚えのある顔があった。2年生の米森顕。S町出身で、俺と同じ町内に住んでいるから会えば挨拶もするし、人懐っこい性格なのかしょっちゅう話し掛けてくる。


「お前……泣いてるのか?」

「ちょっと………話しあるんだけど……いいっすか? 3年生の男子バスケの人達にも聞いて欲しい」


 1・2年には遠慮してもらい俺達は男子バスケの部室に入った。

 俺と瀬川、桜井、中木、榎本、それとマネージャーの4人と大国照子。

 米森顕は何度も涙を拭いながら話し始めた。


「俺達バドは全員が越前先輩に投票しました。でも……越前先輩はそんな人じゃないんです。生徒会長なんかに立候補する人じゃ…………3年F組ってなんなんすか!! 先輩イジメられてたんじゃないっすか!! 春山先輩は北川さんって女子を助けたって聞いたけど茶道部だからっすか! なんで越前先輩を助けてくれなかったんっすか! 男子バスケの3年生って、女子マネージャーだって守ってるじゃないっすか! 身内だからっすか! なんで誰も越前先輩を助けてくれなかったんですか! 俺……俺………」


 そこまで言った米森は嗚咽で喋れなくなった。


「落ち着け、2年坊主。なにがあったのかちゃんと話せ」


 そう声を掛けたのは大国照子だ。


「………男子バスケは………キャプテンもしっかりしてるし、春山先輩や大国先輩もいて……みんな羨ましがって………なにかあったら戦ってくれるって………俺……3年生が引退したからバドのキャプテンなんすけど……ムリっす。今日だって……越前先輩が来て、なんか喋りたいみたいで……でもすげー寂しそうな顔してて……バドの2年にN町の男いるんすけど。そいつが昨日俺に言ってきたんだけど………S町出身の男子10人集めろって、そしたら………越前先輩と……ヤラせてやるって、だから越前先輩に投票しろって。俺、ぶん殴ってやった。俺達バドって男子も女子も一つのバドミントン部で、先輩も後輩もけっこう仲いいんです。だから、言われなくたって全員が越前先輩に投票するのに……あの野郎………でも卓球部にも別のヤツから、やっぱ越前先輩とヤらせてやるから投票しろって……」


 部室のドワがノックされ、男子バスケの2年の樋口が入ってきた。次期キャプテンだ。


「俺もS町出身だから、来ましたよ。越前先輩とヤらせてやるから投票しろって。コイツですわ」


 樋口が引っ張ってきたのは3年F組の塩谷だ。選挙管理委員が立候補者の越前紬を……


 その塩谷を大国照子がいきなりぶん殴った。連れて来た樋口と一緒に部室の外に吹っ飛んでいった。



「殴りたければ殴れよ。でも無理なんだって。お前ら……大国だって権藤だって篠原だって勝てないんだよ! それなのに俺を殴るのか? やれよ、いいからヤれって」



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