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第41話 厳正な選挙と風紀委員長の目的

 静香に後ろから抱き着き、こっちの学校のほうが好きかも、と言った人と目が合った。


「あっ、春山君……」

「え………?」


 誰? 少年? だけどセーラー服着てるから女の子だよな?

 髪の毛は俺と同じくらい短い。前髪も横も後ろも全部が2センチくらいだろうか。そして眉毛が凄く細くて斜め上に一直線に上がっているから、まるでヤンチャ坊主のように見えるが、スカートを穿いているから女子なのだろう。


「あっ!」


 振り返った静香が分ったみたいだが、口を覆って次の言葉を飲み込んでいた。まさか、飛内夏乃なのか?


「こら、こら、こら、勝手に入っていかないの」


 近藤先生が慌てたようすで駆け寄ってきた。体育館は夏堀・播磨コンビの強烈な演説にいまだ騒めいていて、急に現れた男の子のような女の子を気にする人はいないようだが、静香の後ろに座っている大崎由美は怪訝な表情で見ていた。俺の後ろの榎本はというと、俺と静香の様子から気が付いたみたいで、やはり驚いている。


「枡渕香乃よ、よろしくね。香乃のカは、良い臭いの香りの香だから」


 それだけを言うと近藤先生に連れられて行った飛内夏乃は、どうやら枡渕香乃と名前を変えたのだろう。


「今のって誰?」


 そう聞いてきたのは大崎由美なのだが、大崎さんもS町出身だから飛内夏乃のことは知っていると思うが気が付かなかったらしい。俺達にしてみれば4年ぶりに会った訳だし、もう小学生ではなく中学3年生の彼女は美形でかなりボーイッシュになっていた。それにしてもあの髪形は思い切ってやったものだと感心する。頭の形と額の形が良いのだろう、凄く似合っていた。

 だが、なんの情報もない中で急に現れ、抱き着かれた静香。それと名前を呼ばれた俺。怪訝な表情をしたまんまの大崎由美になんて説明したら良いんだ?


「え~~っとね~………ちょっと……友達なんだけど………うん……香乃ちゃん。今度こっちに転校してきたみたいだね~~あはははは」

「ふ~ん………でも春山君のことも知ってたみたいだけど?」

「あっ、ああ……俺な………うん……どこで会ったんだっけ? あははは……」

「うっ、うちに遊びに来てた時だよ。嫌だな~~義仁わすれちゃったの?」

「おっ、おおおおお………そうだった。静香の家に行ったらアイツが居たんだった」

「へ~~………でもなんで自己紹介したの?」


 いやいやいや、コイツしつこい。そんなのいいじゃん。頼むから気にしないで欲しい。


「え?! 自己紹介って………あっ、あ~~あ~~義仁ってさ~~人の名前全然憶えないのさ。だから前に会った時もね、香乃ちゃんの名前何度も間違えてたから、香乃ちゃんそれ覚えてて念押したんだと思う。もう間違えないでねって」

「ああああ、確かに春山君って静香以外の女子に興味なさげだよね。私の名前わかる?」

「なっ……分かるって!! 大崎由美だろ!」

「はい良くできました。パチパチパチ」


 ふざけやがって。まぁいいけど。

 手を叩いてる大崎由美の隣にいる榎本は、俺は一切関係ないからとでも言いたいのか、ずっと反対側を見ていてコッチを不自然なくらい見ない。



「ダメだダメだダメだーーーー! お前らいったいなんのつもりだ! こんな立会演説会があるか! やりなおしだ!! 特に3年A組の夏堀と播磨の二人はどーーゆーーつもりなんだ! ふざけるのも大概にしろ!」


 そう怒鳴りながら演台の傍まで走ってきたのは3年F組の担任、一戸先生だ。相も変わらず似合わないジャージの上下を着ている。コイツの事は嫌いだ。でも言ってることは分かる。夏堀さんと播磨さんが俺を庇ってくれたのは嬉しいけど、想像の遥か斜め上を行き過ぎちゃって、笑えないどころか、ちょっと恥ずかしいぞ。3年A組って瞬間湯沸かし器の集まりかよ。俺も人のこと言えないけど……


「ふざけてなんていません!!」


 マイクでそう怒鳴ったのは播磨さんだが、夏堀さんはーー強烈な身内根性の持ち主らしく、いまだ怒った顔つきで腕を組んで播磨さんの隣に立っていて、演台の下にきた一戸先生を睨みつけている。この女子にはもう絶対に喋らせるな。なに言い出すか分からない。

 体育館は一気に静まり、夏堀・播磨コンビと一戸先生のやり取りに注目が集まり、後ろの方に座っている生徒などは立ち上がって見ている。


「ふざけてないだと?? あれだけ人のことをバカにしておいて開き直るつもりか!! 教頭!! こんな立会演説会を認めるつもりですか!! 教頭!! こっちに来てなんとか言ってください!!」


 この中学校の方針なのか、生徒会の活動に対して先生が物を言うことは殆ど無く、今日の立会演説会も先生達は体育館の2階に設置されているギャラリーから見ているだけで、全てが選挙管理委員が仕切っていた。

 静まり返った体育館の中、ギャラリーの階段を降りてきた教頭先生。明らかに困った顔をしてる。


「あの~~……夏堀さん、君が生徒会長に立候補した……目的っていうのをですね~~、もう一度ちゃんと言ってくれますか? それを聞いて………なんて言うのかな~~………考えますから……」


「何べんでも言ってやる! マイクを貸せ!!」


 ちょっとちょっと、これ以上夏堀さんに喋らせない方が良いと思うのは俺だけか? 完全にキレてるし、遠くて良くは見えないが、あの目は三白眼っていうんじゃないのか。それにマイク無しでもこれだけ静まり返っていれば聞こえる。それをあえてマイクを使うって……

 播磨さんからマイクを奪い取った夏堀さんが、怒った時の癖なのか指をさした。一戸先生と教頭先生に。もう止めた方がいい。誰か止めろ。

 そして夏堀さんが、


「3年F組の奴らは……」


「言う必要などない!!」


 そう口を挟んだのは選挙管理委員長でこの立会演説会の司会の栄前田椿だ。


「この場で私が許可しない発言など認められない。そこのジャージ姿の男、お前は誰の許可を得て喋ったんだ? 私はお前の発言など許可していないし、そもそもお前は誰だ?」


 え?? ジャージ姿の男って一戸先生のことだよな。お前って……。

 案の定、一戸先生も驚いたようではあるが、教師に向かってその物言いはなんだ、と怒りの矛先が栄前田椿に向いた。だが教頭先生は黙ってしまった。


「もう一度聞くぞ。お前は誰だ?」

「なっ、なに……? 誰って………3年F組の担任で一戸勝………」

「へ~~3・Fの担任の一戸勝か……それがどうした? バカか? 退場だお前。今すぐこの場から出て行け」


 栄前田椿っていったいどんな女子よ? そういえば父親がY町の実力者で、佐舞久留町農協で次の協組合長ポストを狙ってるって誰かから聞いたけど、神取敏郎が組合長を辞任した後どうなったんだ? だけど、そんな父親なんか関係なしに元から強烈な女子だった。あの神取美香と取っ組み合いのケンカが出来る女子はそういないし、風紀委員会だって栄前田さんが強引に立ち上げたらしい。なんで生徒会長に立候補しなかったんだろう?


「なっ、なっ、なっ………きょっ、教師に向かって………おっ……お前とは何だ!! バカだ? 退場だ?? ふっ、ふざけんな!!」



「礼を持って接すれば礼を持って返す。お前は私が許可しないのに乱入して発言した。犬だって教えればマテぐらい出来るのに、お前はクソだ。ウンコだ。そんなウンコ野郎に礼をつくす義理なんかない。どうせ生徒手帳も読んだことないんだろ、ウンコ野郎だから。生徒の自主性を重んじ、生徒による生徒のための生徒会活動という文言が生徒手帳には書いてある。お前はさっき何て言った? こんな立会演説会はダメだと言ったな。選挙管理委員長の私をさしおいて。だったらこんな生徒手帳はいらない。生徒全員の生徒手帳集めて私が燃やしてやる。勿論、選挙管理委員会も風紀委員会も解散だ。お前は私の顔に泥を塗って恥をかかせた。どう始末をつけるつもりだ? 教頭!! コソコソ逃げるな!!」


 うん、この女子はヤクザだ。関わりたくない。父親も大変だろうな、あはははは……


「えっ、……にっ、逃げてなど……いませんよ、私は……いや……それは……栄前田さんが言われた事に気が付いた訳でして……ええ、ええ、その通りでして、我が校は生徒の自主性を重んじる学校ですので、生徒手帳にもその点がしっかりと謳われてまして……ですので……今日の立会演説会は選挙管理委員長の栄前田さんにお任せしてる訳で………一戸先生には私の方からちゃんと言い聞かせますので……はい、続けてください……お願いします、栄前田さん」


 そう言うと教頭先生は一戸先生の腕を引っ張って体育館から出て行ってしまった。ずいぶんと低姿勢だけど栄前田椿の父親が影響してるのか? いや、きっと風紀委員会を立ち上げる時にメチャクチャに言い負かされたんだろう。あの女子に口で勝てる人がいるとは思えない。それにしてもウンコ野郎は強烈だ。俺だって言えない。


「ウンコ野郎による邪魔が入りましたが居なくなったので立会演説会を再開します。夏堀さんと播磨さんは所定の席に座ってください。……あっ、マイクは持っていかないで……えええええっと……立候補者と推薦者による多少の行き過ぎた言葉はありましたが、何を訴えていたのかは分かりますね? 3年F組の越前さんは暴力の追放を第一に訴え、3年A組の夏堀さんはイジメ嫌がらせの撲滅、そのためなら暴力も止むを得ないとの訴えです。これからクラスに戻り投票箱への投票となります。各クラスの選挙管理委員は、第2体育館にある投票箱と投票用紙を取りに来てください。そこで私が投票用紙を渡しますので枚数を確認して自分のクラスに持って行き、決して不正が行われないようしっかりと監視の上、投票箱の封印を剥がさない状態で第2体育館に持ってくるように。開票作業は、全ての投票箱が集まってから始めます。開票作業を見たい方は、2階ギャラリーの上からなら構いません」



 ちょうどその時メールがきた。それは俺だけではなく、隣の静香と後ろの榎本にもきたらしく、二人とも携帯を見ている。



 立会演説会終わった? 投票が済んだら、第二視聴覚室に来てちょうだい。BY近藤悦代。

 追伸:例の話を知ってる他のクラスの男子バスケ部員と大国さんにも声かけて。




 前の方に座っている田川さんと村上さんが立ち上がってこっちを見てるから、彼女たちにもメールがいったようだ。


「マネージャーの私ら3人が伝えてくるね」


 そう言った静香が田川さんと村上さんを呼び、3人がそれぞれ瀬川と中木と桜井、それと大国照子の所に駆けて行った。



 教室に戻ると、後から入ってきた夏堀・播磨コンビが大喝采で迎えられ、3年A組は大騒ぎだ。そんな中で新井さんが俺に、


「夏堀さんって実はあんな人だったなんて超ビックリ。知ってた?」

「知る訳ないだろ」

「だよね~………でもさ、めっちゃスッキリした。全校生徒前でアレ言えるなんて……見直した。度胸いいね~。それにC組の栄前田椿、もうビックリ通り越しちゃって唖然呆然って感じ。でもなんでだろう? 教頭先生のあの態度」


 新井さんもそこが気になるみたいだから俺の推測を話すと、


「あああああ、確かに。教頭先生ってあんまり口が達者じゃなさそだもんね。けっこうどもったりするし、言い負かされたのかもね~~それってウケル。……あれ? 北川さんどした? なんか元気ないみたいだけど……」


 振り返ると北川凛が何かを考えているような深刻な顔をしていた。教室の前の方では夏堀・播磨コンビの周りにクラスの全員が集まってーー静香も田川さんも村上さんもキャーキャー騒ぎまくっているのと対照的だ。


「うん……ちょっと心配になっちゃって……」


 そうだった。北川凛はつい何日か前までF組だった。でも心配って何のことだ?


「紬って……ああ、越前紬のことだけどね、生徒会長に立候補するような子じゃないの。すごく大人しくて、目立つことなんかしない子なのに………それにY町出身だから、N町の天野君が推薦するなんて……仲が良い訳でもないのに、絶対におかしい」

「え……そうなの? 北川さんは越前さんとは仲が良かったの?」

「うん………F組ってN町の人が多くて、S町の人もいるけど……K町の私とかY町の紬って少数派で、そんなこともあって、一緒に給食食べたりしてて…………でもA組って給食はみんな一人で食べるって決まりで、すごくいいと思う」


 生徒会長に立候補した越前紬は誰かに強制的に立候補させられたのか? そうすると越前紬が喋ったアノ内容は、誰かが作った原稿を読んだだけってことか……推薦者の天野は、そんな越前紬のお目付け役かよ。ずいぶんと念を入れたものだな。


「F組の選挙管理委員って誰さ?」

「塩谷君だったはず……」

「学級委員長は?」

「工藤君」


 うわ、あいつら全員が絡んでるのかよ。


「担任の一戸ってさ~~男子の体育だけだから知らないんだけど、どんな先生? えこひいきとかするの?」

「う~~ん……女子は教えてないからよく解らないけど、男子は天野君と塩谷君と工藤君がひいきされてるって聞いた」


 そう言えば、選挙管理委員長の栄前田椿も越前紬と同じY町出身だったはずだ。


「うん、だからだと思う。紬の演説聞いて、え? て顔してたから、栄前田さんも紬の性格知ってんだと思う」



 選挙管理委員の犬養英二が教室に入って来た。投票箱となにやら筒状の紙を持って。



「席についてーーーー! みんなーーー! 自分の席に座ってくれーーー! 日直の人、これ黒板に貼って」


 日直の2人が犬養が持ってきた筒状の紙を広げ黒板に貼り出すと、そこに書かれていたのは、


 生徒会長立候補者

 3年A組 夏堀かおる子

 3年F組 越前紬


「投票用紙はピッタしの枚数で予備はないから、ウチのクラスは42枚。日直の人、全員が席に座っているか確認しながら数えて」


 2人の日直が列毎に空いている机が無いこと、そして42人を数えていた。ずいぶんと慎重だな。前の選挙の時は確かこんなことまでしなかったはず。


「いいですかーー! よーーく聞いてください! 廊下側の列から、一番前の人から順番に一人づつ教壇に来て、投票用紙を受け取って、先生の机で書いて、投票箱に入れること。そしてその後は廊下に出てください。全員の投票が終わるまでは教室に戻らないこと。わかりましたか? なにか質問は?」


「しつもーーーん!! そんなやり方って初めてなんだけど、なんで?」

「え? う~~ん……なんでって言われても………選挙管理委員長の栄前田さんの命令だから……後からいい加減な投票方法だったって分ったクラスの分は、全部無効票にするって」

「でも………どこどこのクラスでは誰に何票って……どうやって分るんですか?」

「第2体育館で開票する時、クラス毎に数えて、それを紙に書いて残しておくって」

「それって、選挙管理委員が自分のクラスのを数えるんですか?」


 すると犬養君はポケットから紙を取り出し、それを見ながら喋りはじめた。


「1年のは3年の選挙管理委員が数えて、2年のは1年が、そして3年のは2年。それが第1回目の集計作業で、第2回目の集計作業は、1年のを2年が、2年のを3年が、3年のを1年。っで……2回の集計で全部のクラスがピッタりと合わない時は、3回目の集計作業をやるって」


 すっげーな。栄前田さんかなり気合入ってんな。そういうのって嫌いじゃない。でもどしてそこまで神経質になってるんだろう。


「ほかに質問はありませんか? ……えっと、これも栄前田さんの命令なんだけど、質問には全部ちゃんと答えろって。っで、質問が出尽くしたら投票をやれって……」


 そう言った犬養君の手元を見るとメモ紙が何枚かあった。栄前田さんは事前に想定問答まで作り、それを選挙管理委員に伝えていたのだろう。だからなのかもしれない。栄前田椿が生徒会長に立候補しなかったのは、自分以外の者が選挙管理委員長であれば、ここまで徹底した投票ルールなんて出来ないと考えたのかもしれない。でも何故? どうして厳正なルールが必要なんだ? インチキがあるとでも思っているのか?


「質問もないようですので、投票を始めます。廊下側の列の前の席の人から順番に出て来てください」


 うわ、俺って最後から2番目だ。物凄く暇かも。

 投票は、今まで聞いた事も無い厳しいルールのせいで、私語を喋る者など誰もいない中で厳かに行われた。だがその反動なのか、投票が済み廊下に出た者が声高に喋り始めたのが教室内にも聞こえてきた。すると、


「投票を中断します!」


 そう言った犬養君が廊下に飛び出していった。


「静かに!! 休み時間じゃないんです! 私語は厳禁です!! それに立候補者の話は、これから投票する人に影響しますので喋らないこと!!」


 その声は犬養君ではなく女子の声だ。きっとB組の選挙管理委員だ。うわ~~こんな事まで予想してたんだ。



 投票が進み、俺の番に近づいてきた時に構内放送が掛かった。



「クラス全員の投票が終わり、選挙管理委員が投票箱に封印をした時点で今日の6時間目の授業は終わりとします。帰りのホームルームは全学年とも行いませんので、放課後ということになりますが、まだ投票を行っているクラスもありますので、暫くの間は私語を慎み、決して騒がないこと。繰り返します……」



 俺が投票し、そして北川凛の投票が終わって犬養君が投票箱にシールを貼った。するとそれを待っていたように、廊下にいた多くの生徒が足早に移動を始めた。聞くと、第2体育館で行われる開票作業を見に行くと言う。


「義仁、私たち先に行ってるから」


 静香が携帯を見せながらそう言った。第二視聴覚室で待っている近藤先生のところに行ったのだろう。静香と田川さんと村上さんとで。


「私も開票作業見に行くけど、佐藤さんたちは何処行ったの? 春山君は?」


 そう聞いて来たのは北川凛だ。


「え……ああ……俺や静香たちはバスケの打ち合わせがあって……」

「そっか……そうなんだ……」


 まだA組に来て日が浅い北川さんは、俺や静香たち以外とは馴染んでいないのだろう。ちょっと困ったな。


「北川さん、一緒に開票作業見に行こう」


 そう声を掛けてきたのは新井さんだった。ズバズバ物を言うところがある新井さんだが、周りを見ることができるし、相手を思いやれる優しさも持っている。

 声を掛けてもらった北川さんの顔がパっと輝いた。そして新井さんと二人で歩いて行った。すると向こうからコッチに歩いて来る一人の女子が見えた。皆と逆方向だ。あれ……あれって栄前田椿だ。C組の彼女がなんでこっちに来る? 選挙管理委員長なんだから第2体育館に行かなきゃダメだろ。


「ちょっと春山君に知って欲しいことあって……歩きながら話すね」


 栄前田椿と二人で歩いていると思い出した。俺が神取美香に股間を蹴り上げられ、まともに歩けなくなった時に肩を貸してもらったのを。あの時はクソ痛かった。ちくしょう……嫌なこと思い出しちまった。


「あれから大丈夫だった?」

「え……」

「そこ蹴られて凄く苦しそうだったから」


 そう言った栄前田さんは俺の股間を指でさしてきた。

 あれって夏休み前だぞ。俺の事、アソコを蹴られて悶絶した男子としか記憶にないのか? 別にいいけど。


「ああ、……あはははは……」

「ねぇ、春山君って佐藤さんとセックスしてるの?」

「ぇっ……えええ??」

「あの時すごく苦しがってたから……大丈夫なのか……ちょっと気になって……」


 この女子はどうやらマジメに聞いているみたいだし、蹴られて出来なくなったなんて思われたくない。


「…………何度かは……」

「あっ、そうなんだ、良かった~~。だって私と神取美香のケンカを止めようとして蹴られてたでしょ。だから変になってたらどうしようって、ずっと心配だった」

「ははは……大丈夫みたいです……正常に機能してます……ははは……」


 でも栄前田さんってセックスに対してチョッとって思えるくらい拒否反応があって、強引に風紀委員会立ち上げたはず。それって誤解なのか?



「夏堀かおる子に立候補するように頼んだのって私なんだよね」


 話しが俺の股間の事から急に変わって、直ぐには何を言ってるのか解らなかったが、1年生の時に栄前田椿と夏堀かおる子、それと播磨葵は同じクラスで、違った町の出身ではあったが不思議と気が合い、仲が良いのだという。うん、なんとなく解るような気がする。3人とも右翼女子だ。


「でもね、演説であんなに切れちゃうなんて思ってなかった……あはははは」


 いやいやいや、あなたも人のこと言えないから。


「夏休みの終わりごろに神取美香が転校するって聞いて………パパから聞いたんだけどね。2学期になったら速攻で生徒会長選挙があるって分かったから………本当はね、春山君に立候補して欲しくて、頼もうって思ってたんだけど……」

「ええええええ?? 俺?」


 絶対にそんなの柄じゃないし、無理に決まってる。それに落選する自信ある。


「落選? 絶対にそんなことないって。春山君って人気あるし、私おなじクラスになったことないけど、変なカリスマ性がある人だよ。それに、春山君が生徒会長になったら私がとことんフォローするの決めてたし。でも2学期の最初の日に、まさか春山君が狙われるなんて……」


 変なカリスマ性?? それってナニ? 意味が分からないけど、まぁいいや。


「F組から誰かが立候補しそうだな~って思てたから、それなのに春山君が立候補したら立会演説会がメチャクチャになっちゃうから夏堀かおる子に頼んだんだけど………あれなら春山君が立候補しても変わらなかったかもね。エヘヘヘヘ……」

「要は、F組の誰かが生徒会長になるのを阻止したかったってこと?」

「そう! その通り! 勘いいね」


 どういうことだ? そう言えば職員会議で近藤先生が、F組にはイジメを指示している生徒がいるって言ってたようだけど、それと関係してるのか?


 だがそれから栄前田椿が教えてくれた事は驚くべき内容で、ちょっと信じられなかった。


「3年F組の女子が売春やってる。私が知ってるのは4人だけど、もしかしたら生徒会長に立候補した越前紬もヤったかも。紬はそんなことヤる子じゃないけど、大人しいし生徒会長になるなんて言い出す子じゃない……誰かに弱み握られて強制的に売春ヤらされて、それネタに脅されて立候補させられたんじゃないかな。春山君の机ヤッた天野と塩谷と工藤、それと担任の一戸の4人ってね、穴兄弟だから。売春ヤってる4人の女子全部と寝て、それ動画に撮られて脅されてる。バカだよね、天野たち3人は初めて女と出来るって涎ダラッダラだったみたい。テメェ一人でシゴいてれってさ。それに一戸なんか嫁も子供もいるんだよ。なのに15歳の自分の娘みたいな生徒と…………ねぇ春山君もシゴくの?」

「………え………えええええ? 俺? いや~~………あはははは………たっ、たまには………」

「えええええ?? 佐藤さんがいるのにぃぃ?」

「そっ………それは………なんていうか………」

「ちょっとショックかも……」


 ショックって………なら何て言えば良かったんだ? 僕はそんな恥ずかしいことなど一切いたしません、ってか? めんどくせぇぇ。普通するだろ。


「栄前田さんって……しないの?」

「するよ」


 即答だった。聞いたコッチがバカみたいだ。しかしこの女子が使う単語は、ヤる、とか、シゴく、とか、穴兄弟ってなに? 初めて聞いたけどなんか凄いな。


「F組には指示してるヤツがいる。そいつが誰なのか分かんないんだけど、生徒会長ポストは絶対に渡せない。神取美香も超酷かったけど、変な企みなんてなかった。ヤることしか考えてない穴女だから、他人に害を及ぼすってこともなかった。でもF組は違う。なにヤり始めるつもりなのか………絶対に叩き潰してやる! 春山君も協力して!」


 穴女?? でも栄前田さんって、さっき自分の父親のことパパって言ってたよな。いったいどんな家庭環境で育ったんだろう。


「私、第2体育館行くから、頼むね、春山君」


 俺の返事など待たないで栄前田椿は手を振って行ってしまった。

 栄前田さんと話していてちょっと遅くなった。俺は走って第二視聴覚室に向かった。

 ドワを開けると、


「んちゃ!」


 超ショーットカットの女子が俺に「にっ」って感じの笑顔を向けてきた。

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