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第40話 下弦の月と立会演説会

 4年前の小学5年生の時に交通事故で亡くなった飛内夏野。俺とは小学3~4年生の時に同じクラスだったから覚えている。テルや静香は彼女が亡くなった5年生の時に同じクラスだったらしく、静香に至っては仲の良い友達だったという。その飛内夏乃が突如現れ、今は男子バスケの桜井智哉の家に居る。

 もう既に朝のホームルームも終わり1時間目の授業が始まっている時間なのだが、俺達はまだ男子バスケの部室に居た。

 大国照子が言ったのだ。


「飛内夏乃が現れたことを知ってるヤツ、全員集めろ。今直ぐにだ! もたもたしてたら大変なことになる」


 集まったのは、既に部室に居た俺と静香、それに瀬川と中木と桜井。そこに携帯で呼び出された榎本と村上さんと田川さんの3人が息を弾ませて入って来た。走ってきたのだろう。

 集まった8人を前にテルが話し始めた。


「今、桜井の家で善後策を練ってるのが、彩音と婆さん、それと朱海と爺さん、あとはウチの親父だ。飛内夏乃が現れたってこと知ってるのは、今ここに集まったヤツだけか? お前ら誰かに喋ったか? 親とか兄弟とか知り合いとかに」


 皆が互いの顔を見合っている中、瀬川が口火を切った。


「昨日、春山に聞いた話も凄過ぎて、とてもじゃないけど気軽に喋れる話しだとは思えない。だから誰にも言ってない」


 それは榎本も田川さんも中木も同じで、静香は、


「うん、京華ねえちゃんにも喋ってない」


 どうやら静香にとって一番信頼して、なんでも話せる相手は、親ではなく俺の姉ちゃんらしい。そして一番おしゃべりな村上さんはというと、


「私怖くて……一生懸命思い出さないようにしてたのに喋る訳ないよ。今だって怖くて……あまり聞きたくないのに……」


 それを聞いた大国照子が、


「ならいいや。でもこれからも絶対に喋るな。赤の会に伝わっちまったら……殺される」


 俺と静香にはその意味が分かった。それと勘のいい瀬川も分ったみたいだ。だが他の人、特に桜井と中木は、


「殺されるって……誰が?」

「夏乃ちゃんがってことか? なんでよ! なんで夏乃ちゃんが赤の会に殺されなきゃならんのよ!」


「4年前に遺体も確認されて、葬式だってあげてんだ。それなのにその本人が現れるってのは、間違いなく別の世界の飛内夏乃だ。だけどな、赤の会の親玉、紅蓮大寿が血迷ったこと言ってたろ。別の世界と繋がっちまった切れ目からやってくるのは悪魔だって。だから別の世界から来た飛内夏乃は滅ぼすべき悪魔なんだ。本人目の前にして悪いんだけど、ハルのお袋さんが殺られたのもそれだ。アイツら狂ってんだからヤるぞ。だから絶対に喋るな! 問題は警察だな。ウチの親父が手を回して調べてる。警察内部に赤の会の信者がまだいるのかどうか」


「でも……警察にいるくらいなら学校にだって……」


 そう言ったのは田川さんなのだが、そう言われて俺も初めてその可能性に気づいた。学校か……。その学校から逃げた河西早苗。アイツは東海林詩江だ。だが俺達がいるこの世界の東海林詩江は死んでる。それなのに赤の会は東海林詩江を探していた。河西早苗ではなく東海林詩江を。どういうことだ? 俺がそれを言うと瀬川が、


「俺達がいる世界じゃ河西早苗なんて本当は存在していない。だって苗字が河西になる前に死んでるんだろ? そうすると………4月に転校してきた河西早苗を見て、あれ? って思ったヤツがいたんじゃないか? 見覚えがある顔だ、似てる、死んだはずの東海林詩江に似てるって思ったヤツが。そしてそう思ったヤツがそれを誰かに喋って、何人かに伝わって……その内、死んだはずの東海林詩江が現れたと伝え聞いたヤツがいたとしたら?」


 瀬川のその推論を聞いて俺はあることを思い出した。


「テル! 神取美香にウミが聞いてくるっていってたよな。河西早苗と何かあったんじゃないかって。それどうなった?」

「うん、アタシも今それ思った。瀬川……お前スゲーな。いるな。ウチの学校にも赤の会の信者がいる。でも朱海はまだ神取美香に会ってない。2学期が始まってから学校の中で呼び出すつもりだったらしいけど、本州の学校に転校しちまった。いいや、朱海には本州まで追いかけてけって言う」


 そんな話しを聞いた桜井が今にも泣きそうな顔で言ってきた。こいつ飛内夏乃のことが好きだったみたいだな。


「赤の会ってなんなのよ……夏乃ちゃんどうすればいいのよ」

「親父が言ってた。まずは名前を変える。そもそも戸籍がないんだから、なんてったかな……確か就籍だかって手続きやって戸籍作るらしいけど、別の名前にして、後は……男みたいな髪形……スキンヘッド!! そうすりゃバレない。眉毛もなんもかもゼーーンブ剃っちまえ。あそこの毛もだ!」


「……それってスケキヨだろ。女の子なんだぜ」

「いや、スケキヨだって下の毛までは……」


 よその町に逃がすって手もあるのだろうが、飛内夏乃の両親は二人とも兄弟・姉妹がいなかったらしく、夏乃にとって馴染のある親戚縁者は、遠い親戚にあたる桜井家だけだという。それに、赤の会の情報網がどこまで伸びているのかも分からない中で、夏乃だけを独りで見知らぬ街に住まわせるのは返って危険であり、今は、権藤家と篠原家と大国家のいずれかで引き取る方向で話し合っているというが、夏乃自身は今まで通り桜井家で暮らしたいと涙ながらに訴えているらしい。



「ところで昨日の月ってなによ?」


 俺がそう聞くとテルが答えた。


「一昨日が下弦の月だ。だから昨日も小潮みたいなもんだ。間違いない。別の世界との裂け目ってのは月の引力と関係してる」

「下弦の月? 上弦の月とは違うのか?」

「どっちも半月は半月だ。沈む時に直線が上になってりゃ上弦の月、直線が下になってりゃ下弦の月」


 俺とテルの話は、そこにいる他の奴らには当然分からない。説明すると村上さんが、


「ああああああ、だから篠原さん聞いてきたんだ。近藤先生の車で送ってもらった時のこと。でも全然覚えてない……それってマジ? 私たちも別の世界に入りかけたってこと?? ………うげ……やばいっしょ」

「え……私、聞かれてない……ちょっと~~なんで私に聞かないのさ!」


 静香がそう言い出したから、


「俺、静香に聞いたって、盆踊りの時に。そしたら……なんかいっぱい文句言ってきたから……俺に触られたとか……」

「え……? アレがそうだったの? もっとちゃんと聞いてよね。もう……でも義仁にいっぱい触られたのは事実なんだからね! ……まだ付き合う前なのに」

「はぁぁあああ?? 春山君ってあの時そんなことヤってたの?! 先生の車の中だよ。うわ~~超エッチだ」

「わざとじゃないって。近藤先生の運転ってメッチャ荒かったろ。だから……」

「いーーや! 絶対にわざとだった! でなきゃあんなとこ触れるはずないもん!」

「あんなとこって………まさか……ぇええええええええ!!」


 そう言って村上さんが仰け反っていると瀬川が助け舟を出してくれた。


「佐藤さんはその時のこと、どういうふうに覚えてるの?」

「え………あの時は……なんか道に迷ったような……高橋君の家に行く途中だったかな? あれ? 髙橋君を降ろして千佳の家に行く途中かな?」

「ふ~~ん……そうなんだ。近藤先生の記憶とはみんな違うんだ……。でも現れた女の子……夏乃ちゃんだっけ? その子も村上さんの家に行く途中で道に迷ったって言ってるんだよね? 何かあるのは間違いなさそうだね」



 教室に戻ると1時間目は数学だった。教壇で近藤先生が睨んでいる。俺と榎本と静香と田川さんと村上さんの5人も居なかったのだから当然だ。


「ほっほっほ……やってくれるじゃないの。どういうお仕置きにするかは考えておくから、覚悟しなさいよ」


 1時間目の授業は直ぐに終わった。休み時間になると集まって来た。榎本と静香と田川さんと村上さんが。


「お仕置きってなんだろう?」


 静香がそう聞いてきたから冗談半分で言ってやった。


「女子は電気アンマ」

「はぁあああああああ???」


 女子の3人が一斉だった。


「あの先生、それくらいは平気でヤルぞ」

「……あああ……やりそうかも」


 すると後ろからの声が、


「ウソ………近藤先生って……女子にそんなことしちゃう先生なの?」


 北川凛の心底驚いた顔。からかったら面白そうな女子だ。


 次の休み時間、静香と田川さんと村上さん、それに北川凛もくっついて教室から駆け出して行った。どうやら近藤先生を捕まえに行ったようだ。

 暫くすると戻って来た4人。俺の後ろの席に座った北川凛に聞いてみると、こうだった。


 静香が聞いたらしい。


「先生、女子のお仕置きって電気アンマ掛けるって本当?」

「えっ……誰がそんなこと言ったの?」

「義仁が、あの先生ならそれくらいなこと平気でやるって」

「あんにゃろ~………でも……そうね、あなた達3人なら電気アンマでいいわね。特に佐藤さん、あなたには5分くらいガッチり掛けるから」

「センセェェェ………いいもん、私だってヤリ返す。真奈美と千佳が先生ば押さえてギャンギャン掛けまくるんだから」


 そう言って近藤先生に抱き着いていたそうだ。


「A組って……みんな仲が良いんだね、先生も」



 帰りのホームルームで選挙管理委員の犬養英二が前に出て喋りはじめた。このお調子者が選挙管理委員だったんだ。ちょっとビックリ。


「生徒会長に夏堀かおる子さんが立候補しました。締め切りは明日の朝だけど、夏堀さんの推薦者の播磨葵さんが皆に話したいそうです」


 播磨さんが推薦したんだ。夏堀さんと仲が良いもんな。でも夏堀さんって学級委員長だよな。どうするんだろう?


「えええ……かおる子を、あっ……夏堀さんを生徒会長に推薦したのは私で、本人は、自分は学級委員長だからと断っていましたが、ちゃんとした生徒会長ができるのは夏堀さんしかいない思います。ですから、夏堀さんが生徒会長になったら、学級委員長は私がやってもいいです。だから、A組のみんなで夏堀さんを応援して欲しいんです」


 確かにこれまでの生徒会長は酷すぎた。神取美香だもんな。テレビで自分は処女です。処女膜検査を受けますって言い放つし、処女膜再生だかなんだか良く解らないことまでやってたようだし、夏堀さんなら真面目で一生懸命やるだろうから、新井さんが変なこと言ってたけどーー夏堀さんってオナニーしてるよ、って言ってたけど、静香だってウミだってしてるみたいだし、そんなの生徒会長には全然関係ないからいいんじゃないの。と思っていると、次々と「賛成」の声が上がった。へ~~人気あるんだ。確かに可愛い顔してると思う。顔は関係ないのかな?

 播磨葵の提案に異議を唱える者はいなかったが、窓際でそんな様子を見ていた近藤先生が何かを言うだろうな、と思っていたのだが、先生も何も言わなかったのはチョっと意外だった。もしかしたら、男子のお仕置きのやりかたでも考えてんじゃないのか。あり得る。


 夏堀さんが前に出て話し始めた。


「A組のみんなが応援してくれるなら、私、ガンバリますのでよろしくお願いします!」


 夏堀さんと播磨さん、それと選挙管理委員の犬養が席に戻ると、近藤先生が、


「立会演説会は明日の5時間目、第一体育館で行われます。明日の朝のホームルームでも言いますが、時間前に自分の椅子を持って体育館に移動すること。それと、立候補者と推薦者はポスター作製や貼り出し、それとクラス周りなど頑張ってください。協力できる人は是非協力してあげるように。それではホームルームはこれで終わりますが………春山君、部活に行く前にちょっと付き合って」


 げっ……電気アンマの件か?

 近藤先生について行くと視聴覚室に入って行き、俺も中に入ると鍵を掛けた近藤先生。


「ええ? ……ちょっとエっちゃん……なに? なにするつもり?」

「残念でした、春山君の頭の中に渦巻くスケベな妄想みたいなことはしませんから。そんなことより教えて欲しいことがあるの。大国さんのお父さんから連絡があって、飛内夏乃っていう女の子を私のクラスで引き受けて欲しいっていうの。戸籍が無いとか新たに取るとか……だけど本人は3年A組を強く希望してるからって……春山君、あなた知ってるんじゃない? ……これは私の想像なんだけど………もしかしたら別の世界からこっちの世界に紛れ込んでしまったんじゃ……」


 驚いた。勘がいいのは知っていたがここまで鋭いとは。凄いな。俺は飛内夏乃に関する知ってることを全て近藤先生に話した。赤の会に狙われる可能性があることも。


「4年前に亡くなってるのか……でも向こうでは普通に中学3年生……それキツイな……この話し知ってるのは誰と誰?」

「うちのクラスじゃ俺と榎本、それと静香と田川さんと村上さん。B組は大国照子、C組は権藤彩音とバスケの瀬川、D組は篠原朱海、E組がバスケの中木、H組がバスケの桜井。それと大国照子のお父さん、権藤彩音の婆ちゃん、あとは篠原朱海の爺ちゃん」

「箝口令は敷かれてるのよね? うん、わかった。私が引き受ける。…………え? なに? はい? スケベなエっちゃんで大丈夫か?! あのね~~………そーーですっ! 私は確かにスケベですっ! 悪かったねっ!! 私の写真オカズにしてる人から言われたくないんですけど。ふんっ!! でも考えてみなさい、私以外に引き受けられる教師いると思う?」

「え……ああ……確かに。でもさ……俺、マジでエっちゃんの写真なんかオカズにしてないから」

「なら使いなさいっ!」

「はい」


 その日の茶道部は、部長のウミと副部長のアヤの二人ともが都合が悪いとかで活動は休止となっていて、部室の前では休止の張り紙を見た1年生女子の数人が、


「彩音ちんと会えないの寂ちぃ~~」


 彩音ちんかよ、笑える。

 バスケに行くとテルと桜井もいなかったが、田川さんと村上さんは楽しそうに細々と動いている。そして竹刀を持った静香は今日も腕を組んで待っていて、


「おっせーぞ、義仁!!」


 なんだか小憎たらしい。今度、電気アンマ掛けてやろう。


 次の日、8月21日の給食を食い終わると静香が自分の椅子を持って、


「ねぇ体育館行く途中に保健室で背ぇ測って」


 保健室で静香の背を測ると、わざとに小さくなってる。


「ちゃんとしろって、猫背になってる。ほら顎を引いて………え? マジ?」

「なんぼ? 伸びちゃってる? 162? ……まさか163はないよね?」

「………165.5ある」

「はぁああああああああああああああああ!!」

「身体検査って4月だったよな。その時は?」

「161.5……」

「4ヵ月で4㎝って………俺……追い抜かれるかも」

「義仁なんぼさ」

「178」

「抜くはずないでしょっ!! …………でもテルちゃんみたいになったらどうしよう」


 静香の強い要望によって何度も測り直したが、やっぱり165.5だ。こいつ、きっとまだ伸びる。なのに何故俺は伸びない? 2年の途中から全然変わらない。

 体育館に行くと、静香はクラスの女子の何人かと盛んに背を比べていて、


「後ろから2番目になっちゃった……でも義仁の隣だからいいか」


 5時間目まではあと5分くらいあるが、演台を見るともう既に立候補者とその推薦者が座っていた。だが、どうやら立候補したのは夏堀さんだけではなく、もう1人いた。誰だろう。遠くて分らないな。隣にベッタリとくっついている静香が話し掛けてきた。


「立候補した人って、何人かで朝や休み時間に色んなクラス回ったみたいだよ。でもさ~ウチのクラスには誰も来なかったよね。あれって誰だろう? 見える? 女子と男子なのは分るけど、どっちが立候補者なんだろう?」

「ん……全然わからん」


 まだ立会演説会が始まる前ってこともあって、「かおる子、頑張ってーー!」、「夏堀さーーーん!」などと声援が聞こえる。きっとウチのクラスの女子だろう。だけどもう一人の立候補者に対する声援が聞こえない。


「選挙管理委員長の栄前田椿です。今日の立会演説会の司会を務めますので、よろしくお願いします」


 栄前田さんって風紀委委員長だけじゃなく選挙管理委員長もやってたんだ。


「生徒会長に立候補したのは、3年A組の夏堀かおる子さん。それと3年F組の越前紬さんの二人です。そして夏堀かおる子さんの推薦者は3年A組の播磨葵さん、越前紬さんの推薦者は3年F組の天野克己君です。演説の順番は事前にクジを引いてもらいました。最初が越前紬さん、その後に夏堀かおる子さんです。演説の最中にヤジを飛ばすのは絶対に禁止です。速攻で退場を命じます。それでは始めます。越前さんと天野君は前に出て、マイクの前でお願いします」



 3年F組から立候補したんだ。おまけに推薦者が天野って。隣の静香も驚いているようだし、後ろの榎本も、


「おい、アイツって……例のアレだよな」


 と俺に言ってきた。



「この度、生徒会長に立候補した越前紬です。私が立候補したのは、この学校から暴力を追放する為です。私たち3年生は下級生である2年生や1年生に模範をしめさなければなりません。それなのに、ある3年生が……はっきり言いますが3年A組の男子が、2年生の全クラスに脅しを掛けて回り、挙句の果てには高校生と乱闘騒ぎまで起こしています。そして私のいる3年F組に何度も来ては、乱暴を繰り返してます。そんな行為が許されるはずありません! この学校から暴力を追放します。その為に私は生徒会長に立候補しました………」


 うわ、俺かよ。とんでもねぇ演説ぶちかましてくれるわ。


「これってマズイかも……」


 後ろからそんな声が聞こえ、振り返ってみると大崎由美だ。彼女はウチのクラスの女子では一番背が高く、165.5㎝となった静香よりもい大きいらしいから168くらいあるのかもしれない。そんな彼女に静香が、


「ん? マズイって……義仁のことだから?」


「う~~ん……あのさ、夏堀かおる子の本性知らないでしょ? 学校じゃ成績が良くって優等生みたいに思われてるけど……ナショナリズムが凄いの。身内根性っていうのかな~~。去年、サッカーのワールドカップあったでしょ、日本で。私ね、けっこう夏堀かおる子とも仲が良くって一緒にテレビで観てたんだけど………もう男だよ、男。なにやってんだ!! 今のがなんでファールなんだ!! 審判、てめぇぇ目ぇ腐れてんのか!! とか、とにかく日本に不利なジャッジとか、相手の悪質なプレイあったらブチ切れちゃって、私怖くて一緒に観てるの辛かった」


「ええええ………マジ? 知らなかった……っていうか……そんなふうに見えない」


「とんでもないよ。相手に点なんか入っちゃったら立ち上がって、ヌオオオオオって吠えるから。あの時って日本がベスト16まで行ったでしょ。夏堀かおる子から一緒に観ようって誘われたけど、私、怖くて断ったんだから。たしか1ー0で負けたはずよね。テレビ壊したかも。一緒に観なくてマジ良かった。それにね、夏堀かおる子って3年A組大好きっ子。だから学級委員長やってたんだと思う」



 吠える?? マジか。怖ぇぇな。

 演台の方に目をやると、越前紬が喋り終えたところで、一部から凄い拍手があがった。この拍手って3年F組の拍手? 凄いな、練習でもしてたのか? するとその拍手に釣られたように拍手が体育館全体に広がって行った。続いてマイクの前に立った天野。


「越前紬さんの推薦者の天野克己です。言いたいことは全て越前さんが言いました。僕がここで言いたいのは、越前さんならきっとやってくれるという事です。佐舞久留中学を皆が平和に、そして楽しく過ごせる学校にしてくれます。越前さんを信じてください」


 そう言って天野が頭を下げると、再び凄い拍手があがり、それが体育館全体に広がっていった。

 さっきからウチのクラスの連中がなにやらコソコソしていた。伝言のようだ。それが静香のところまで伝わり、俺に教えてくれた。


「ウチらも負けないくらい拍手するって。何人かの男子は、いいぞ、よし、って声も掛けるみたい」



「それでは続いて、3年A組の夏堀かおる子さん、それと推薦者の播磨葵さん、マイクの前に進んでください」


 栄前田椿のアナウンスがあり、前に出てきた夏堀かおる子。

 さっき大崎由美があんな事を言っていたが、まさかだよな。俺だって去年のサッカーワールドカップはテレビの前で熱くなって応援したし、そんな人は大勢いる。

 前に出た夏堀かおる子。演説机の上にあったスタンドマイクを、そのスタンドごとグゥワシッと鷲掴みにした。え?? 全校集会の時に挨拶をする校長先生だってそんなことしない。演説机の前に立って、両手は身体の前で組んだりしながら喋ってるのに。


「なにをクッチャべるかと思えば、片腹イタイわ! 盗人猛々しいって言葉はテメェらのためにある言葉だ! 暴力だぁぁあああああ? 冗談とふんどしは股にしてくれや。テメェらのやったことを棚の遥かズーーーと天辺にあげてやがって、笑かしてくれたもんだ。オイオイオイオイ、天野君よ、おめぇだろーが、ウチの春山君の机にナイフで死ねって彫りやがったのわ、おめぇぇだろが! どのツラ下げて学校の平和なんて語ってんだ?? もういっぺん言ってみろや!! 私はな~3年A組の学級委員長なんだよ。ウチのクラスのモンが他のクラスに嫌がらせされて黙ってると思ったか? そったら大人しい学級委員長じゃねぇんだよ。今度やってみろ。私が天に代わって成敗してやるかならな。レンガで頭カチ割ってやる、覚えておけ、ボケ!!」


 そう怒鳴り続けた夏堀かおる子の演説は、終始マイクを手で持ち、聴衆の方など見もしないで、演台の奥に座っている越前紬と天野克己の傍まで行って、その二人に指をさし、唾を飛ばした強烈な演説? で、まるでプロレスのマイクパフォーマンスだ。


 静まり返った体育館。だが「よおおし、よく言った!」と言う声があがった。この声には聞き覚えがある。バスケのキャプテン瀬川拓郎の声だ。続いて、3年A組の何人かが立ち上がり「その通り!」、「いいぞーー! 3年A組のジャンヌダルク!!」などと声が掛かり、その後は身内による強烈な拍手が体育館全体に広がった。だがその間も、夏堀さんは腕を組んで、越前紬と天野克己を睨み続けている。この女子は……うん……ヤバイな。


 司会の栄前田椿も呆然と突っ立ているのをよそに、推薦者の播磨葵が夏堀かおる子の傍に行って、ハイタッチを交わしやがった。この女子もヤバイ女子なのか? 案の定、マイクを受け取ると、そのマイクを手に、演台机の前に立って喋りはじめた。そこに立つかい、とも思ったが、それこそ演台から飛び降りて聴衆の中に入って喋るつもりか?


「よーーーく聞け! 私ら3年A組は、絶対………ぜーーーーーたいに、イジメや嫌がらせに屈したりはしないんだ!! ウチらの仲間がヤられてたら……断固戦う! 暴力も辞さない! 知ってるはずだ。ウチの生徒が高校生に嫌がらせされていたのを誰が助けたのか。2年の神取ってガキが神取一族だからってデカイ顔してたのを、誰が分らせたのか。それが間違ってるのか? どうなんだ? 間違ってると思うなら、F組のクソ女に投票しろ! 構わないからそうしろ! 夏堀かおる子は……戦う生徒会長になる! 以上!」



 大歓声と割れるような拍手が続いた。そんな中、誰かが静香に後ろから抱き着いてきた。


「ふふふ……すごいね、こっちの学校の方が好きかも」


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