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第39話 売られたケンカと突然現れた少女

 部活の帰り俺達はお焼き屋に来た。誰もが腹を空かしていたのだが、村上さんの甘い物食べたーーい発言に静香も田川さんも大賛成で、男子5人はそれに従った。

 男子5人というのはバスケの3年生全員だ。

 男子バスケは今のところ3年生が5人、2年生が8人、1年生が12人で、下に行くほど人数が多いのだが、俺達3年生も1年の時は10人以上いたし、今の2年生もそうだ。バスケの練習はとにかくキツイし、やたらめったら走る。それもあってどんどん辞めていくのだ。


 3年生の5人は、身長が178の俺、榎本風太は182~3㎝あって俺と同じA組でS町出身。それとE組でY町出身の中木駿之介は172~3㎝で陸上部から誘いが来るほど足が速く、俺と静香が走ってるのをニヤニヤしながら見てやがる。ちくしょう……。同じY町出身の桜井智哉はH組で俺より少し小さいから175~6㎝だろう。スリーポイントが得意だ。憎たらしいほど入る。キャプテンの瀬川拓郎は一番小さく170くらいだが誰よりもバスケのセンスがある。

 5人しか残っていない3年生なのだが、平均身長が175㎝と中学バスケとしてはデカイ方だと思うし、ラン&ガンならどこにも負けない自負がある。とにかく最後まで全力で走れるのだ。だから試合となればスタメンはいつも3年生だけなのだが、中体連は俺が抜けて、その代役を2年生の樋口が務めたらしい。次期キャプテンなのだが気が弱いところがあって本番に力を発揮できないタイプ。それとミニバス経験者ってこともあり瀬川に言わせるとムダなドリブルが多く、3年生チームに入ると余計ダメになってしまったという。


 3年生男子5人と女子3人で店の中の椅子に座ってお焼きをパクついていると、中木が俺に向かて言ってきた。


「変な噂聞いた。桜井も聞いたらしいぞ。春山、お前のこと信じていいんだよな?」


 中木と桜井は二人ともY町出身で1年の時は同じクラスだったこともあり仲が良い。だが無口な桜井とは違って中木は言い難い事でもズケズケ言うから、下級生には1番キツイ。


「ああ、俺もさっきG組の城地ルミから聞いて初めて知った」


 このタイミングで俺に関する噂ならきっと田川さんとのことだろう。中木が耳にした噂がどんな内容なのかを確かめずにそう言った。そして俺のことを信じてくれとも言わなかった。


「わかった。実際がどうだったかなんてどうでもいい。今もお前の隣に佐藤さんへばりついてるの見りゃ、クソみたいな噂だって解る。だけどな、俺こういうの我慢ならねぇんだよな。ウチのマネージャーが言われてんだぞ。黙ってるつもりなんかねぇからな。田川さん、あんたのこと俺達男子バスケは見殺しなんかにしねぇから。そうだろ、瀬川!」

「そんなのあたりまえ」

「なら2年と1年には俺が言うぞ。田川さん、それでいいか?」


 だが瀬川がそれに待ったをかけた。


「下級生に言うって、どんな風に説明するの?」

「今とおんなじだ。実際はこうでした、なんていう必要ない。くっだらねぇ噂に晒されてるマネジャーを俺達は放っておかない。お前らも解ってるよなって念を押すだけだ」

「うん、言ってもいいよ。でも…………」


 田川さんは何かを言いたいようだ。だが、でも、と言ったきり口ごもってしまった。

 3年の男子バスケの中では中木が一番しゃべるヤツなのだが、口ごもった田川さんの次の言葉を黙って待っている。こいつが女子と喋っているのをあまり見たことがなかったが、相手のことを思いやれるヤツなんだな。意外だ。そういえば同じY町出身の彼女がいるって聞いたことがある。きっと女の子には優しいのだろう。


「真奈美らしくなよ。言いたいことあるんでしょ。ちゃんと言いなって」


 そう村上さんが促すと、下を向いたままで田川さんが口を開いた。


「私………男の人と付き合ったこと無いの。それが悔しくて………だからG組の女子と遊んで見返そうって………バカだよね、私。そしたら南部高校の人にホテルに連れ込まれそうになって………逃げようとしたんだけど腕掴まれて………春山君に助けてもらった。私、膝擦りむいちゃって、春山君がおぶってくれた。さっき聞いて初めて知ったんだけど、春山君、千佳に頼まれて私のこと迎え来てくれたみたい。それなのに…………ごめんなさい、みんな私のせい。全部私が悪いの。春山君までおかしな噂に巻き込んだ。静香の彼氏なのに………だから………だから……男子バスケのみんなまで巻き込めない…………私………やっぱりマネジャー」

「ダメだ!」


 瀬川だった。田川さんに最後まで言わせなかった。


「え…………ダメって………」

「キャプテンの俺がそう決めた。田川さんにはマネジャーをやってもらう。そして中木が言ったように、俺たちはマネジャーを見殺しにはしない。その噂の出所って…………もしかしたら春山の机と同じ?」

「はぁぁあああああ?? なんなのよそれ? マジか? 全部3・Fの仕業って…………どういうつもりだ?」


 俺の机がF組の天野にやられたのを中木も知っていたようだ。


「F組の連中、俺らA組のこと狙ってるらしい」


 そう言ったのは榎本なのだが、さっきから一言も喋らない桜井が、


「もうA組だけの問題じゃない。俺たち男子バスケにもケンカ売ってんだろ。田川さんはキカナイ性格みたいだけど、いい子だと思う。もう仲間なんだから変な遠慮するな。助けてって言えばいい」

「え……………うん……………お願い………助けて」


 そう言った田川さんはわんわん泣き出してしまった。そんな田川さんを静香と村上さんの2人が優しく撫ぜていた。


「くっそ~~F組の野郎………どうしてくれる。ぜってぇ許さんからな」


 しばらくすると桜井智哉の携帯に電話が掛かってきた。


「ああ、俺。………え? ………なに? ………意味わかんない。誰? ………はぁあああああ??? カノちゃんって……あの夏乃ちゃん? 飛内夏乃ちゃんのこと? なに言ってんだよ、バカじゃないの………ええええ?? 警察が連れて来た? まさか……ふざけんなよ……」


 桜井が喋ってる内容が聞こえた静香と田川さん、それに村上さんもギョッとした顔で、そして榎本もピンときたらしく小声で俺に言ってきた。


「おい、飛内夏乃って……まさかアノ子じゃないよな? ほら、覚えてないか?」

「覚えてるけど……まさか。同姓同名だろ」


 S町出身ではない瀬川と中木は怪訝な顔をしているが、電話で喋ってる桜井だってY町出身者でS町ではない。だから俺や榎本が知っている飛内夏乃とは別人のはずだ。

 電話を終えた桜井が呆然と突っ立っている。そして、


「悪い、俺帰るわ。父さんが中学校まで迎えに来るって言うから……中木も乗ってく?」


 Y町まではスクールバスが出ていて、部活のない生徒用のバスと、部活が終わった後に出るバスがあり、部活が終わった生徒用のバスにはまだ時間があるが、桜井はそれを待たずに父親の車で帰るらしい。

 そんな桜井に榎本が声を掛けた。


「今喋ってた飛内夏乃って………まさかS町の俺達とドンパだった飛内夏乃じゃ……ないよな?」

「うん……絶対に違う! でも父さんが………今家にいるって……」

「え……お前……S町の飛内夏乃って知ってんの?」

「ああ、知ってる。遠い親戚だったから……小学の頃、夏休みや冬休みになったら遊びに来てたし、葬式だって行った」


 静香が俺を見た。その目が何を言っているのか俺には分かった。俺も同じことが頭に浮かんだから。


「あのさ~~、お前らに聞いて欲しいことある。バスケの3年全員に聞いて欲しいけど、中木はバスの時間まだあるのか? 乗り遅れたら俺がバイクで送ってくから。桜井はあとで中木から聞いてくれ」

「わかった。お前がそう言うんだから、よっぽどなんだろ」


 俺が今から話そうとしている件は、静香は勿論知っているし、田川さんもどうやら静香からある程度は聞いているらしいが、村上さんと榎本、それに瀬川と中木と桜井は知るはずがないが、こいつらには知って欲しかった。それにあの飛内夏乃が現れ、そして桜井にも関係しているのなら、教えないわけにはいかない。


「じゃあ俺は帰るけど、飛内夏乃ちゃんと関係してるんだよな? 分かった、中木、あとで教えてくれ」


 店のおばさんにお焼きをもう一個づつ注文し、それを食いながら俺は話し始めた。


「この話を知ってるのは、俺と静香、それと田川さんも静香から聞いてると思う。あとは、B組の大国照子と金山要、C組の権藤彩音、D組の篠原朱海が知ってて、それと、大国照子の父親、権藤彩音のばあちゃん、篠原朱海のじいちゃんも知ってる」


 すると中木が、


「おいおいおい、そのメンバーが知ってるって………そっち系の話かよ。おまけに父親やら爺ちゃん婆ちゃんまで知ってんなら……マジな話しってことだよな? お前の家族は知らんのか?」

「ああ……父さんと姉ちゃんには言ってない。大人はきっと信じてくれないと思うし……」


 すると静香が、


「京華ねえちゃんには私が言ったよ。そしたらね、そっか、それってあり得るって、ちゃんと信じた」

「え?! ……そうなの? ………君らってマジで仲いいね」

「うん、隠し事なんかナーーーンもないの! ヒッヒッヒ」


 まいったね。姉と彼女が仲が良いって、険悪なんかよりはずっといいんだろうけど、なんだかな~……

 とにかく俺は話し始めた。


「パラレルワールドって聞いた事あるよな? 俺たちが居るこの世界とは別の世界がいくつもある並行世界のこと。そのパラレルワールドなんだけど、それってSF映画や小説の中だけではなくって、実際にあるはず。そうでなければ説明がつかないのが転校していった河西早苗。細かい話はすっとばすけど、10年くらい前にS町で殺された東海林詩江って女の子がいる。夏休み前に赤の会の連中がウチの学校に押し掛けてきて東海林詩江って生徒を連れて来い、って言ってたんだけど、その東海林詩江は河西早苗だ。殺された東海林詩江の母親って、河西って男と再婚して今も別の町に住んでる。だから東海林詩江が殺されなかった別の世界では、東海林詩江は河西詩江になって、どういう訳だかこの世界に飛んできた。下の名前は変えたんだろうな」


 そこまで聞いた榎本が、


「マジかよ……」


 その榎本の隣に座っている村上さんは、涙目になってギッチリ榎本の腕にしがみ付いている。

 そして瀬川は腕を組んだまま何も言わないが、中木は、


「河西早苗って……今年の4月にA組に転校してきて、直ぐに転校しちまった女だよな。アイツ、俺も何度か廊下ですれ違ったけど……なんか変だった。……香水の匂いプンプンさせて………でもよ~、その河西がお前となんか関係あんのか?」


「アイツ、俺の家の隣の隣に越してきて、ちょっとつき纏われた。っで、アイツが言うには、5~6歳の頃にもS町で俺の近所に住んでて、ずいぶんと一緒に遊んで………俺と……お医者さんごっこやって……結婚の約束をしたって」


 そう言うと、誰もが唖然と俺を見て口を開かなくなった。


「俺はアイツが近所にいた記憶なんてないし、絶対にアイツとなんかとお医者さんごっこなんかやってない。それにその頃近所にいて一緒に遊んでたのは2年の石橋伸江だ。っでその石橋伸江は殺された東海林詩江と仲良しだったらしくて、この前写真を持て来た。河西早苗にそっくりだった。っでアイツ……どういう訳か俺の携帯番号やメールアドレス知ってて、電話で………2016年4月21日木曜の大安に俺と結婚するとかほざきやがって。それと今年のセリーグは阪神が2位と16ゲーム差をつけて優勝するってよ、くそったれが」


 説明している内にだんだんとハラが立ってきた。そんな俺の怒りに気づいたのだろう、誰も口を開かない中、瀬川が聞いてきた。


「その電話っていつ掛かってきた?」

「ああああ?? えっと……4月の終わり頃だったかな……」

「マジ? 俺、けっこうプロ野球好きで覚えてるけど、4月でも阪神トップだったけど2位との差って確か2~3ゲームだったはず。今なら16ゲームぐらい差ついてるけど………それって予言…………それにお前……その結婚の日付……4カ月前に聞いたことなのによく曜日のことまで覚えてるな」

「ああ、どうゆう訳か頭にこびりついて離れない。クッソ~~腹立つ」


 だが静香には河西早苗からの電話の件は教えていなかった。


「義仁! それ、聞いてない! 結婚ってなに!」


 瀬川と中木が取りなしてくれて、少し落ち着いたようだが、


「私、すごいヤキモチ焼きだから、みんな覚えといて!!」


 そんな静香の発言を苦笑いで聞き流した瀬川が、


「予言じゃなく……未来を見て来たってことか……それって……別の世界の未来ってことか。春山、他にも何かあるのか?」

「うん……あら、4月にE組の宮古愛が屋上から落ちて死んだろ。俺が1年の教室の窓から見ちまったのは知ってるよな? っで1年の辺見って女子がおかしくなった騒ぎも知ってるよな?」


 すると村上さんが耳を塞いで下を向いてしまった。そして隣の榎本が、


「あれはヤバイやつだろ? だから篠原さんや権藤さんが念仏だか呪文みたいなもの唱えて抑え込んだって聞いたけど……ヤバ過ぎて誰も口にしない」

「ああ、確かに例の3人娘に言わると、最初に辺見に憑りついたのは宮古愛らしいけど、途中で別のヤツに憑りつかれたって」

「別のヤツ?……おいおいおい、なんなのよソレ……」


 田川さんまで耳を塞ぎ始めた。


「神取美香だ」

「はぁあああああ??? 生きてるだろ! ………まさか生霊ってヤツか?」

「そっか。別の世界で落ちたのは神取美香ってことか」


 そう言ったのは瀬川なのだが、物凄く勘がいい。


「ねぇ、もう終わった? まだ?」


 そう聞いてきたのは耳を塞いだまんまの村上さんだが、榎本が首を左右に振ると、また下を向いた。


「この件は面白半分で誰かに喋ったりするなよ、いいな。岡田先生殺されたろ。テレビや新聞じゃ10代の少女に刺殺されたって報道だけど、それって1年の辺見だ」


 瀬川も中木も榎本も驚きのあまり立ち上がったが、言葉を出せないようだ。


「それとこれもまともに報道されてないけど、その辺見が……病院で警官に射殺された」

「はぁぁああああ?? 射殺って……なんだそれ? なら1年の辺見って死んでんのか? そんな話し聞いてないぞ。どうなってんのよ? ほんとにマジな話しなのか? あっ………そう言えば変なニュースあったな。少女が警官に撃たれて死亡って……あれって……1年の辺見かよ……ちょっとヤバすぎだろ。なんなのよ?」


 田川さんも村上さんも目をギッチリつぶって耳を塞ぎ、絶対に聞こえないように「あああああ」なんて言っている。例の辺見騒動の話は、女子の中では結構広まっているのだろうが、さすがに怖すぎて聞きたくもないし、口にしたくもないらしい。だが榎本と中木の二人も青ざめた顔で、自分の身体を抱くような姿勢を取っている。静香は俺と付き合ってるせいで慣れてしまったのか怖がってはいないが、瀬川も驚いてはいるが怖がってはいないみたいだ。


「俺さ、1年の教室の窓から見たって言ったよな。宮古愛の死体。目ぇつぶったら今でもたまに見えることあるんだけど、落ちて手足や首が変なふうに曲がってるその女が顔を上げるんだ。そして立ち上がる。脳みそボトボトこぼしながら。その顔、ようやっと誰だか分かったんだけど、神取美香だ。っでな、辺見騒動の後、辺見って原因不明の骨折が何か所もあって入院してたんだけど、自分は神取美香だって言い張ってたらしい。岡田はどんな用事があったのか知らんけど、その病院に行ったら、辺見が片足や首が折れてるのにバッタバタ走って来て飛びつかれて、持ってたナイフで刺されまくった」


「ちょっと悪い……俺今日は眠れそうにない……」


 そう言ったのは中木だが榎本も似たようなものだろう。二人とも目が充血して顔が酷くこわばっている。だが瀬川は淡々としていて、


「っでどうして警官に射殺された?」

「その警官、赤の会の信者だ」

「ん?………赤の会?………あああああああああ、そういうことか」


 コイツ、めちゃくちゃに勘がいい。だが中木と榎本はついてこれないみたいで、そんな二人に瀬川が説明した。


「赤の会の紅蓮大寿が言ってたろ。佐舞久留町は別の世界と繋がってしまったって。その別の世界っていうのが、春山が言うパラレルワールド。だけど赤に会に言わせると悪魔の住処。ついでにキセキって連中は救世主がそこからやってくるって言ってる。………そっか、それか! 桜井が言ってた飛内って女の子。葬式に行ったって言ってたな………俺達がいる世界では死んでるんだな! でも生きてる世界もあって、そこから来たってことか?」

「まだハッキリそうだとは言えないけど………」


 俺がそう言葉を濁すと中木が、


「いや、さっきの桜井の様子……死んだはずの女の子が家に来たのなら……合点がいく」

「私、小学5年生の時、飛内夏乃ちゃんと同じクラスで仲良かったの。お葬式にも行ったし……でも何て挨拶しよう。もし学校に来て逢ったら……あっ、テルちゃんも同じクラスだった」


 そう言ったのは静香なのだが、そこにいた誰もが考え込んでしまった。本人は絶対に中学校に通っていたはずだ。だが俺たちにとっては過去の人だ。

 ようやっと耳を塞ぐのを止めた村上さんと田川さんなのだが、二人とも眉をしかめている。そして、


「静香、よく平気でいられるね。飛内夏乃って私も覚えてるけど……怖いって。死んでんだよ。さっきの話だって普通に聞いてたみたいだし………」

「え? 怖い? あ~そっか……なんだろう私って? 臆病だったのに………なんかね、義仁と付き合ってからね、変なこといっぱいあって、慣れちゃったのかな……あはははは」

「そんなの慣れる??」


 ちょうどその時に中木の携帯が鳴り、皆が飛び上がるほど驚いた。当の中木ですら、うわ! って声が出ていた。


「あはは……美羽からだ。………もしもし、俺だけどどうした? …………大通りのお焼き屋さんにいるけど…………そっか、うん、乗ってくから待っててくれ」


 電話を切った中木が嬉しそうだ。


「俺行くわ、美羽の母さんが車で迎えに来たみたいだから、俺も乗ってく。でも……さっきの話しなんだけどよ……桜井に上手く説明できる自信ないな」


 すると瀬川が、


「うん、きっと桜井の方から何か言って来ると思うな。その~現れた飛内って女の子のこと。その後に、春山と俺とで説明する。バスって朝の何時ごろに着く?」

「8時10分には着くな」

「わかった。その時間までに学校にいるようにする。春山もそれでいいか?」

「ああ、いいよ」


 中木が手を振って店から出て行った。すると静香が、


「ねぇねぇ、中木君が言ってたミウって誰? もしかしたら中木君の彼女?」


 すると榎本が、


「女子バレーの2年生で丹波美羽のことだ。確か中木と同じY町だから、前から付き合ってんだろ」

「ああ、そうみたいだね。女子バレー部は3年生はもう引退してて、彼女が新キャプテン」


 瀬川が付け加えると、静香はそれが誰だか分かったようだ。

 佐舞久留中はマンモス中学校だ。1クラスが40人以上いて、それが1学年8クラスもある。だから体育館は大きいのと小さいのが2つある。大きい方が男子バスケで1面、女子バスケで1面、そして男子バレーと女子バレーでそれぞれ1面づつ使っていて、それぞれにネットみたいな仕切りがある訳じゃないから、しょっちゅう色んなボールが転がって来たり、転がって行ったりしている。だがら試合形式の練習なんかする時は、全部の1年生が横一列に並んで壁になり、けっこう面倒なのだ。

 マネージャとなった静香は、暇な時などバレーの練習風景も見ているのだろう。


「あの子、背ぇ高いね。2年生なのに私より大きいと思う」

「佐藤さんって身長どれくらいある?」

「う~ん……161か2」

「いや、もっとあるわ」

「えええええ……ちょっと嫌かも。もう伸びて欲しくない。明日、保健室で測ってみよ」



 お焼き屋で解散し、3人の女子マネージャーは、俺と榎本それと瀬川でそれぞれ送って行った。


「ちょっとーー、河西さんからの電話、なんで言ってくれなかったのさ!!」


 二人っきりになると静香がそう切り出してきた。


「いや……なんでって……アイツからの電話ってこれからもあるような気がするけど……静香にはきっと言わないと思う」

「えええええ?? なんで!!」


 そう言うと腕に嚙みついてきた。


「イテテテ……痛い……噛まないで。最近さ、静香って怒ったら噛むよね。祖母ちゃんとこにいる猫みたい」


 武者小路の祖母ちゃんところには、昔っからずっと猫と犬がいる。爺ちゃんが動物が好きで飼っているのだが、犬は間違いなく飼っているが、猫は農家だから飼っているのか勝手に居ついているのかよく解らないのだが、家の中をウロウロしている時もあって、抱き上げて撫でると喜んでゴロゴロ喉を鳴らすのだが、機嫌が悪い時に触ると噛みついてくる。


「ふん! どうせ私は猫ですよ! ………そんなことより何でこれからも私に言わないのさ! そういうのってすっごく意地悪だ!」

「アイツの用件って、静香の悪口を俺に言うことだから」

「ええ? ………私の悪口って……なにそれ? ………それってどんな?」

「言いたくない。思い出すだけでスッゲーー腹立つし」

「そっか………わかった………」



 次の日の朝、いつもより早く家を出て静香を迎えに行ってから学校に着くと、もうすでに瀬川は待っていたが、ちょうどY町からのスクールバスが来たところだ。

 真っ先にバスから降りて来た桜井と中木。


「人に聞かれたくないから部室行こう。佐藤さんも来て」


 瀬川と俺と静香、それと桜井と中木の5人で部室に入ると、いつもはあまり喋らない桜井が興奮ぎみで喋り出した。


「今朝も大変だったんだ。俺と一緒に学校行くって言い張ってて、それを行かせないようにするのに、父さんと母さんが色々言って、ようやっと今日だけは休むけど、なんで学校行ったらダメなんだって、ずっと食って掛かっちゃって………」


 そこまで言った桜井に対し中木が、


「ちょっと落ち着けって……いいよ、さっき聞いた話し俺が説明するから」



 中木の話は俺達の想像通りだった。

 警官によって桜井の家に連れてこられた女の子は、俺達が知っているS町の飛内夏乃を名乗っていて、彼女を見た桜井も、桜井の両親も夏乃に違いないと当惑した。

 5年生の時に交通事故で両親ともども亡くなった飛内夏乃。だか桜井家に現れた飛内夏乃は、交通事故で死んだのは両親だけで自分は大怪我をしたものの助かり、その後は遠い親戚である桜井家に引き取られたという。

 彼女は或る日、学校の帰りに、クラスメイトの村上さんの所に行こうと歩いている内に道に迷い、何時間も彷徨い、そして倒れたらしく、気が付くと病院にいたという。

 それは通行人が倒れている彼女を発見し慌てて110番したらしく、駆けつけたパトカーによって救急車が手配されたからだ。

 病院で検査を受けた彼女だが、身体のどこにも異常はなく、そして警察の聴き取りによって自分は飛内夏乃で、元Y町の桜井家で暮らしている中学三年生だと分かったらしく、警察は何度か桜井家に電話をしたものの、農家の為に家には誰もいなくて電話が繋がらず、いきなり桜井家に彼女を連れて来た。

 腰を抜かすほど驚いた桜井の両親。慌てて息子の桜井智哉に電話をして迎えに行った。家に帰った桜井智哉も死ぬほど驚いた。

 現れた飛内夏乃は怪しい素振りもなく、素直で可愛らしい女の子に成長していて、そんな彼女に、お前は死んだはずだ、などと言えなかった桜井家の3人。

 どう扱って良いのか解らなかったが、遠い親戚でもあり、とりあえずは彼女を泊めた。だが彼女はそこで気が付いた。自分の私物がこの家には一切ないと。そこで互いの情報を交換してようやっと、彼女だけが生き残り、そして桜井家で引き取ったという事を固く信じ込んでいるのだと分かり、彼女は自分も両親と死んだと思われているのだと知った。

 疲れていたのか布団に入ると直ぐに眠った飛内夏乃。桜井の両親は権藤彩音の祖母ちゃんに電話をした。というのも桜井家は権藤さんのとこの信者ではないが、何度か世話になったことがあり、このような困った事態になると権藤さんを頼るという。

 話しを聞いた婆ちゃんは、さほど慌てることもなく、眠ったのなら明日の朝に行く、と言って電話を切った。

 今朝、目を覚ました飛内夏乃は、学校に行けば友達もいる。一番仲の良い佐藤静香なら私が死んだなんて言わないはず。だから絶対に学校には行くって言い張っていた。


「え……私?」

「そう。クラスも3年A組らしい。っでどういう訳か男子バスケのマネージャー」

「えええええ……ってことはマネージャーが4人もいたってこと?」

「いや、飛内夏乃1人」

「ふ~~ん、そうなんだ………ねぇねぇ……ひっひっひ……夏乃ちゃんの彼氏って桜井君でしょ」

「え……俺は小5の夏乃ちゃんしか知らんけど、向こうはそう言ってる。なんで解った?」

「だってさ~~夏乃ちゃんってメッチャ可愛かったもん。おんなじ家に住んでたんでしょ……ウッシッシッシ……エッチだ」

「………さっ、佐藤さん……怖くないの?」

「え? 死んだはずの夏乃ちゃんが現れたから? べつに怖くないけど………変かな?」


 そこに大国照子が飛び込んできた。


「彩音から電話が来た。飛内夏乃が現れたって………桜井の家に……って知ってるみたいだな」

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