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第38話 月の引力とターゲット

 俺の胸の上に乗った篠原朱海。近藤先生が俺に教えた内容を早く聞きたくて我を忘れたと思うのだが、それにしたって押し倒して乗るか? それくらいあの時の事が重要であると考えていたのだろうが、ずいぶんと小さくて生地の薄いパンツが俺のすぐ目の前にあって、俺は思わず透けてると言っちまった。口は災いの元なのだが、茶道部の部長がなんであんなの穿いてんだよ。勝負パンツってヤツなのか? 誰と勝負するのよ。


 カエルのように飛び上がって俺の身体から降りたウミ。顔が見る見る真っ赤になってスカートの上から股間を押さえながら俺を睨みつけている。


「……あの~~……篠原部長……大丈夫ですか?」

「………ぇええ?」

「春山先輩に……なにかされた……とか」


 ふざけんな。俺がなにをしたって言うのよ? 余計なこと言っちまったのは事実だけど、黙って覗き続けるより100倍ましだ。それを言おうとーーいつまでも寝転がってるのも変だし、立ち上がるとウミの回し蹴りが俺のケツに飛んできた。


「オーーーーーホホホホホホホ………大丈夫よーー! うん、ぜーーーんぜん大丈夫なの。オーーーーホホホホホホ………ちょとね……寝技のね、練習なんかをね……やってみたりしたの。……どう? 凄かったでしょ? 私ね……得意なの、こういうの。おほほほほほほほ……」

「そっ、そなんだ……篠原部長って強いんですね!! 速攻で春山先輩のこと捻じ伏せて……めっちゃカッコいい!!」


 茶道で寝技って、コイツらバカだ。どうでもいい。するとウミがひきつった笑顔のまま小声で言ってきた。


「……何が見えたのさ」

「え………ナニって言われても、女の身体ってよく解らないし………なんか複雑な……」

「いい、言わなくていい………ヘンタイ」


 そう言ったウミは部室の隅に固まる部員の所に、余裕を見せているつもりなのかスキップをしながら近づいて行った。北川凛なんか両手で口を覆ったまんまで固まっているのに。俺も行った方が良いんだろうか、などと考えてると声が聞こえ、振り返ると、涼しい顔で正座をしている権藤彩音が手招きをしていた。ちょっと助かったかも。傍に座ると。


「近藤先生の話し、教えろ。ウニにはアタシから言う」


 近藤先生の話をアヤに説明すると、




「そっか………やっぱり繋がってるのか。その繋がり……上弦の月で大きく開くってことか。月の引力……気が付かなかった。それに9月26日……朔は魑魅魍魎……闇の奴らが蠢く。間違いないな」





 アヤへの説明も終わりバスケに行こうと茶道部の部室を出ると、ウミが廊下まで追いかけ来た。うわ、しつこい。そして飛び蹴りを仕掛けてきた。どんな茶道部長だよ、勘弁してくれ。その飛び蹴りをヒョイと避けると、キーーって感じで追いかけてきたが、ちょっとばかり肉付きの良いウミじゃ俺に追いつけるわけがない。さっさと逃げ切り体育館に入ると、


「遅い!!」


 腕を組んだ静香が待っていた。なぜか竹刀を持ってる。そしてジャージ姿だ。

 どうして静香がバスケの練習にいるんだ? と思っているとキャプテンの瀬川拓郎が傍に来て教えてくれた。


「今日から男子バスケのマネージャーらしいぞ。……押しかけマネージャー。それも3人。……全部お前のクラスの女子。バスケのルール知ってるよね?」


 体育館を見渡すと、村上さんと田川さんもジャージ姿で居た。

 瀬川拓郎の話だと、3人がいきなり来て、


「私たち今日から男子バスケのマネージャーやるから」


 と言ったそうで、部員の誰もが驚いてキャプテンの瀬川を見たが、瀬川もかなり驚いたらしく、思わず、「よろしくお願いします」と言ってしまったという。


「顧問の砂川先生は?」

「ああ、さっき俺が職員室に行って聞いてきたら、いいんじゃない、だって」

「でも静香って陸上部だぞ」

「お前だってバスケやりながら茶道部入ってるし、かまわないんじゃないの。マネジャーだし」


 ウチの学校の部活動でマネージャーがいるのは野球部だけだと思う。マネージャーってそのスポーツのルールに詳しくなければスコアシートなんか絶対に書けないし、そこまでルールに詳しいのなら普通はそのスポーツをやる側に回る。そんなこともあって、どの部もマネージャーなんか募集してない。

 それに砂川先生は、男子バスケの顧問ではあるが、練習を見に来ることもない名前だけの顧問だ。マネージャーが居ようが居まいがどうでもいいんだと思う。


「う~~ん……でも砂川先生ってバスケの経験者だと思うな。バスケのルールって野球やバレーと違って、あまり一般的じゃないだろ。経験者じゃなかったら顧問なんかできないから。その先生がいいって言うんだから………」


 瀬川はそう言うが、砂川先生は絶対に素人だと思う。前に誰もいない体育館でセットシュートやってたの見た事があるのだが、見事に1本も入らないどころか、リングに届かないのまであった。


「……マジ?」

「ああ、マジだ」

「………でっ、でも、佐藤静香さんって春山の彼女だよね。……バスケのルール……分ってるよね?」

「どうだろう? 聞いた事ないから……」

「聞いた事ないって………お前………だったら村上さんは? 榎本の彼女なんだよな?」


 榎本と村上さんが付き合ってるのを瀬川が知っているのは意外だった。それを聞くと、


「いや、知らなかったけど、さっきマネジャーの自己紹介で……」

「どんな自己紹介したのよ?」

「え? 自己紹介か~~……まず最初に佐藤さんが、今日からマネージャーの佐藤静香でーーす。義仁の彼女だからよろしくね~、って言うから、1・2年なんかヨシヒトって誰だか分からないみたいでキョトンとしてるから、春山のことだって俺が付け加えて、次の村上さんは、榎本君と付き合ってる村上千佳だよ~んって言って、他にもいっぱいなんか喋ってたけど、忘れた。最後が田川さんで、彼氏募集中の田川真奈美でーーーす、だって」

「………バスケのルール知ってると思うか?」

「ムリか……でも田川さんの彼氏募集中でけっこうテンション上がったヤツいたぞ。あれ見てみろ」


 瀬川が指で示した方を見ると、狂ったようにドリブルシュートを繰り返しる何人かがいて、そいつらはシュートが決まるたびに田川さんの方をチラチラ見てた。ああ、確かに田川さんは可愛いと思うけど……


「ヨシヒト!! いつまで瀬川君とダベってんのさ!! 瀬川君! 義仁にさっさと着替えるよう言って!!」


 竹刀で床を叩きながら静香が怒鳴っていた。


「なんで竹刀持ってんのよ?」

「お前は体力戻すために別メニューで、それ佐藤さんに頼むねって前に言ったよね。だからじゃないの?」


 部室に入ると静香まで一緒に来た。


「なっ、……着替えるんだから、ちょっと……」

「さっさと着替えなさいって、待ってるから」

「二人で籠ってたら、へんな事してるって誤解されるだろ」

「なら外で待ってるから早くして」


 着替えて体育館に戻ると静香が、


「先ずは軽~く走って身体を温めて」


 体育館の外周を走っていると大国照子の姿が見えないのに気が付いた。きっとウミに呼ばれ、さっき俺がアヤに言ったことを一緒に聞いているのだろう。それにしても暗月だとか朔とか上弦の月なんてものを知ってるだけじゃなくて、何月何日がソレだと一発で分かるアヤって、いったい何者? よくわからないけどスゲーな。そんな権藤彩音のことをカワイイ、ギューーってしたいという今年の1年。確かに小さくって日本人形みたいだから解らない訳じゃないけど……


「義仁、あったまった?」


 考え事をしながら走っていると、いつの間にか静香が隣を走っていた。


「ああ、あったまった」

「なら行くよ! ………レディ………ゴーー!!」


 レディで静香が走りながら腰を僅かに曲げて頭を下げていた。そしてゴーっと言った瞬間に、左足で床を蹴った音が響き、僅かに曲げていた腰が伸びて、床を蹴った左足から背中までが一直線になった。それから3歩で俺は静香の背中を追っていた。まだ静香の頭は下がっている。5歩で距離が開いたのが分った。最高スピードに持って行けば僅かでも追いつくはず。そう思ったが、体育館の端につくまで距離は縮まらないどころか1秒近く差がついた。体育館にいたやつらの響きが聞こえた。コイツ……まじで速い。


「もういっぺんだ!」


 4回繰り返したが、差はまるで縮まらず、5回目に静香が加減をしたのが分った。


「ふさけんな! 誰が手加減してくれって頼んだ!」


 思わず怒鳴っていた。クッソーー。



「ハル!! そのまま全力で走って来い!」



 反対側のゴール近くからテルが怒鳴っていた。いつ来たのか知らないが呼んでんだから行ってやる。

 ムシャクシャしていた。静香にではなく、俺自身にハラが立っていた。知らずに雄叫びを上げて走っていた。


「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……」



 テルからのパス。それは振りかぶっての強烈なパスだったが、絶妙なポイントで受け取っていた。床に左足が着いた瞬間だった。走り込んできた勢いを殺さず、そしてドリブルなどしないで、次に右足で大きく一歩、そして次に着いた左足で床を蹴って、空中の誰かに膝蹴りを食らわせるように右膝を跳ね上げた。すると左足で踏み切って飛んでいた身体が、跳ね上げた右足の勢いを借りてもう一段浮いたのが自分でも分った。それから右手だけでボールを高く掲げた。

 全てがスローモーションのようにゆっくりと見えた。いっぱいいっぱいに伸ばした右腕。その先にボールがある。まだ俺の手から離れてはいない。リングも見えた。ずいぶんと近い。




「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」




 歓声が聞こえた。

 俺は片手でリングにぶら下がっていた。

 降りると瀬川が凄い勢いで走ってきた。


「春山!! お前……すっげー飛んだ……今のってダンクだって、ダンク! それもフリースローラインから飛んで……浮いてたって。おおおおおおおおお!! なんなんだお前わ!」


 向こうを見ると、いつの間に行ったのかテルが静香の隣にいた。きっとテルが何を言ったのだろう、さっき俺が怒鳴ってしまったのに、静香はアッカンベーをしている。近寄って行くと、


「ふん! 可哀そうだな~って思って手加減してやったの! でも全然元気じゃん。もう絶対に手加減なんかしてやんない! いっつもぶっちぎってやるんだからね! ふん!」



 だがその後、何度飛んでもリングに届かなかった。あと数センチなのに。


 練習が終わり静香と二人で帰る途中、


「あの時、テルに何か言われたんだろ? なんて言われた?」

「な~いしょ。教えてやんない。でもさ~、義仁の操縦法わかったさ」

「操縦法? テルが言ったのか……」


 ちょっと嫌だな。まぁいいか……


「なぁ腹減んない?」

「うん、減った」

「ラーメン食ってこう」

「いこいこ」


 大通りまで行って二人でラーメンを食っていると、ふいに思い出した。


「あれ? そういえば田川さんは?」

「ん? 真奈美? 瀬川君の家って真奈美の家に近いんだって。だから瀬川君が送ってくって言ってたよ」

「へ~~~」





 次の日の朝、静香を迎えに行って学校に着いて、朝のホームルームの時間になったが近藤先生が来ない。その内に構内放送が流れ始めた。


 ーー本日の1時間目は全学年とも自習とします。体育や音楽など他の教室での授業予定であった者も、自分の教室で自習となります。繰り返します……




 自習です、といったところで自習になるはずがなく、誰もが仲の良い者同士でのお喋りが始まった。案の定、静香は俺が座ってる椅子に強引に座ってきて、俺の机の前には田川真奈美がいる。村上千佳は榎本のところに行って、他にも仲が良さげに見える男子と女子がいた。


「ねぇ春山君。瀬川君ってさ~~好きな子……いるの?」


 田川さんだ。昨日一緒に帰ったんだからその時に本人に聞けば良かっただろ。


「二人っきりじゃなかったの! 名前知らない2年の子が2人もいて、聞ける訳ないでしょ」

「ああ、そうなんだ。でもさ~~、自己紹介で彼氏募集中って言ったんだろ。それ聞いて目の色変わったヤツ何人かいたらしいから、付き合ってくださいって言って来るかもよ」

「え! マジ? 誰? 誰?」

「いや……知らん」

「もう! ………静香わかる?」


 静香と田川さんが顔を寄せ合って何やらヒソヒソ始めた。隣を見ると、新井さんのところに京本令子と大崎由美が集まって、やはりなにやらヒソヒソやってる。京本さんも大崎さんも俺と同じでS町出身だから小学校でも同じクラスになったことがあるし、この3人は小学校の頃から仲がいい。それに新井さんがメールで言っていたように3年A組にはずいぶんS町出身者が多いな。2/3くらいいるんじゃないかな。


 そんな事を考えていると、京本令子と大崎由美の二人がそ~っと教室を抜け出して行った。後に残った新井さんが、それに気づいた俺に向かって、しーーっ! と人差し指を口の前で立てていた。


 なにやってんだ?


 キャハハハハと笑った静香が俺の身体に寄り掛かってきて、危なく俺が椅子から落とされそうになった。狭い……


 10分くらいすると、さっき教室からそうっと抜け出して行った2人が戻って来た。それもバタバタと大きな音を立てて。


「大変、大変! 職員会議チョー大もめ!」


 どうやら抜け出た2人は職員室を盗み聞きしてきたようだ。ヒマだね~。

 だがクラスの大半の者がーーそれまで好き勝手に喋ったり大笑いしてたのが嘘のように静まり、戻って来た2人の周りに集まって来た。ヒマなヤツだらけだった。


「職員会議で近藤先生ブチ切れちゃって、物凄い剣幕で食って掛かってた」

「ええええ………誰に?」

「う~~~ん……最初っから聞いてたんじゃないから……でもきっと一戸にだと思う」



 一戸? F組の担任の一戸先生のことか? 昨日の俺が原因じゃないのか? すると京本さんと大崎さんの2人ともが俺を見た。ああ、間違いないな。昨日の件だよ。俺にくっついて座ってる静香もそれに気づいたらしく、


「義仁のことで職員会議が揉めてるってこと?」


 だが京本さんの答えは、


「半分はそう。だけどもう半分は違うっぽい」

「ちょっと令子、なに勿体つけてんのさ、ハッキリ言いなよ」


 そう言ったのは新井さんだ。新井さんは田川さんほどじゃないがモノをハッキリ言う方だ。奥歯にモノが挟まったような物言いはイラつくんだろう。


「うん、半分当たってるっていうのはね、うちの春山義仁は自分で決着をつけてきた、って言った近藤先生の声が職員室に響き渡ってたから………でもね指示した生徒がいるって」


 なに? どういう意味だ?


「近藤先生が気づいてるのに、3・Fの担任は出席を取ってるだけか、って。そしたらね、一戸がね、うちのクラスの男子が春山君に酷い悪戯をしたのは事実でとかなんとか言ったら、もう近藤先生ブチ切れちゃって、酷いイタズラだあ? 寝ぼけたこと言ってんじゃない! って怒鳴っちゃって、それからバンバン捲し立てて、そんなんだから悪質な嫌がらせが横行してるんだって………」


「令子、ちょっと待って。悪質な嫌がらせが横行って………F組のことだよね? それって春山君みたいなことされた人がF組に何人もいるってこと? それにさっき言った指示してる生徒って………要は黒幕がいて、その黒幕が嫌がらせを指示してるってこと? それを近藤先生ですら気が付いてるのに、F組の担任の一戸が気づいてないから近藤先生がキレた。そういうこと?」

「そうそう、それ」


 スゲーな。京本さんに質問しながら要約したのは田川さんだけど、さっきの京本さんの解り難い話をイラつくこともなくちゃんと聞いて、そして理解しちゃうんだ。新井さんを見ると驚いた顔で田川さんを見ていて、その顔は、よく理解出来たな、と言っていた。だがその新井さんが、


「それって………あるかも。F組ってちょっと変わってるって思ったことない? 勉強でもスポーツでも飛び抜けた子っていないんだよね。だからと言ってグレてるヤツもいないし、めっちゃモテる子もいない。とにかく目立つ子がいないクラス。だからさ~今回の春山の件にしたってね、F組のヤツが犯人だって聞いてビックリしちゃったんだよね。名前なんだっけ……………え? だれ? 天野と工藤と塩谷? そんなヤツ知ってた? 1年のとき同じクラスだった人っている?」


 すると村上さんが、


「静香と私は天野君と同じクラスだったよ」


 だが静香は、


「えええええ? …………そうだった? いたっけ?」

「いたって! でも目立つ男子じゃなかったし、誰かに嫌がらせするタイプでもなかったような………あははは……私もよく覚えてないわ」


 すると大橋さんが、


「私は1年のとき工藤と塩谷と同じクラスだったけど、二人ともすっごく無口な印象しかないな~」



 なんだかイヤ〜な予感がしてきた。


「俺、ちょっとトイレ行ってくるわ」


 廊下に出た俺は3年F組に向かった。

 3年生は8クラスのうちA組からF組の6クラスが3階にあって、3階にはそれ以外の教室は無い。A組の俺は3階の端から端までを歩いて行くことになる。

 B組の前を通り過ぎると大国照子が出てきた。


「ハル、F組に行くんだろ。付き合うゾ」

「え……ああ、そうだけど………そうだな、テルはF組から誰も廊下に出さないようにしてくれ」


「了解。ところで知ってるか? 神取敏郎、農協の組合長辞任したらしいぞ。まぁ当たり前だし、遅すぎたくらいだ。神取剛と彰の2人ともが息子なんだからな。種馬も真っ青って奴らの親玉がよくもまぁ組合長やってたもんだ。そんでもって生徒会長の神取美香、それと2年の神取浩、転校した。ツラの皮どんだけ厚くたって、この街に住み続けるのは無理だわな。本州の学校らしいぞ。金には困ってないだろうから、噂が届かないようなとこ探したんだろ」


 そうなんだ、佐舞久留町の実力者が王座から転げ落ちたんだ。それの直接の原因は大橋リカって雑誌記者へのレイプ未遂事件。だけどその大橋リカがこの街にヘバリついていた理由は、事件が立て続けに起きていたからだ。だとすると、それもバタフライ効果の一つなのか? 河西早苗がこの世界に現れ、それによって起きた波紋なのか? そう言えば、大人のアイツと結婚してたアノ夢で、アイツ言ってたな。この街が大嫌いだったって……


 そんな考え事をしながら廊下を歩いていると騒がしい声で我に返った。E組の教室前だ。廊下まで聞こえる大きな笑い声。それはどのクラスも似たり寄ったりでF組も同じで少しホッとした。さっき新井さんが言ってたように、F組が変わったクラスでシーーんと静まり返って自習なんかをやっていたらゾッとしたと思う。


 テルを廊下に残し、F組の後ろの戸を開けると、傍にいた何人かがこっちを向いたが、それ以外の生徒は自分たちの笑い声やお喋りに夢中で気づかなかったようだ。

 北川凛の席は昨日のことで覚えている。窓際の真ん中あたりだ。見ると、1人ポツンと座っている背中が見えた。誰かと喋っているふうでもなく、それどころか北川凛が居るところだげが周りに誰もいない。どいつも何人かで固まって楽しそうな声をあげているのに。


 俺は誰にも声を掛けずに北川凛の方へと歩いて行った。

 教室の入り口付近の静まった空気が広がっていくのが分った。口を閉ざして俺に視線を向けるヤツらが次々と増えていく。

 クラスの雰囲気が変わったことに気が付いたのだろう、北川凛が顔を上げキョロキョロし始め、そして振り返って俺と目が合った。


「え………春山君………」


 そして彼女は慌てて自分の机を手で隠した。でも隠しきれていない。北川凛が使っている机は、昨日俺が持ってきて強引に天野とばくった机だ。誰も彼女を助けないのか。助けないにしても傍にいてやることすら誰もしないって、酷いな。女の子だぞ。ちくしょう、俺のせいだ。


 教室の後ろの方に目をやると、慌てて目を逸らしたヤツがいた。


「お前、工藤か? 塩谷か? ……どっちでもいいか」


 そいつの周りにいる数人の中に天野がいた。きっと昨日の3人組全部がそこに集まっているのだろう。


「お前の机、なんでこんなに綺麗なのよ? 書けよ、僕はクソでクズですって、歯で削って書けよ」


 工藤だか塩谷だか知らないが、そいつの頭を力任せに机に押し付け、ゴリゴリとその机の表面に顔を擦り続けた。

 天野を含めそこにいる全員が立ち上がったが、誰も俺を止める事も出来ずに呆然と見ているだけで、机に顔を擦りつけられているヤツは、必死に、止めてください、と言ってるようだ。

 そいつの髪の毛を掴んで引っ張り上げ、強引に立たせたソイツの頬を平手で叩いて、俺は聞いた。


「お前が工藤か?」

「ちっ……違います……塩谷です」

「なら工藤ってどいつよ?」 


 すると手を小さく上げたヤツがいた。俺の隣に突っ立てるヤツだ。


「お前が工藤か。塩谷の代わりにヤレ」


 突っ立てる工藤の後頭部に手を掛け、力任せに机に叩きつけてやった。ガンっ! という鈍い音が静まり返った教室に響いた。鼻をヤッてやろうと思ったのだが、工藤が手で机を押さえたから額が当たった。だがその音があまりにも大きかったせいで、何人もの女子が悲鳴を上げ、机を蹴散らせ教室から飛び出して行こうとした。


「開かない! 誰か押さえてる! 開けてーーー! ここを開けてって!!」


 教室の後ろに集まった女子数名が戸を叩きながら金切声を上げた。すると何人もの男子が前方の入り口に殺到し、そして戸に手を掛けたが、


「コッチも開かない!」


 あれ? 誰だろう? テル一人じゃムリだ。


「もっ、もう……止めてくれ……春山君……俺達関係ないんだ……天野たちが勝手にやったんだから、それなのに関係ない俺たちまで閉じ込められて……それにもう春山君にだって関係ないし……」


 名前も顔も知らないやつが半べそになってそう言ってるが、俺のことは知ってるんだ。いったいどんなふうに知ってるんだろう? もうメチャクチャに乱暴なヤツ? どうでもいいか……


「関係ないだ? 関係してんだよ。北川さんは茶道部の部員だ。そんでもってどういう訳か俺も茶道部員なんだわ。………似合わねぇってか? 悪かったな、俺みたいなヤツが茶道部で。だから関係あんだよ。お前ら知らんだろうけどウチの茶道部はそういう部なんだよ。部員が謂れのない嫌がらせされて黙って見てるような茶道部じゃねぇんだ。しまいには釜で頭カチ割るぞ!」


「春山君………私なら大丈夫…………だから………」


 北川凛だ。彼女がそう言ってしまう気持ちは分かる。こんなクラスで独りぼっちで頑張れって言う方がムリだ。



「お前ら何やってんだ! どこのクラスだ! ……あっ……大国照子……」


 廊下にF組の担任の一戸先生が来たようだが、テルの姿を見て戸惑っているみたいだ。どういう事だ?


「先生、まだ教師やってんのか? とっとと辞めちまえって言ったよな………おーーーい、ハル、そろそろ入れるぞ」


 そう言ったテルが教室の後ろの戸を開けると、前側の戸も開けられた。そして榎本と村上さんと田川さん、そして静香の4人が入って来た。こいつらが戸を押さえていたのか。



「また春山か………お前だったら……」

「一戸先生、あんたがコレやらせたのか?」

「なに? コレって……なんのことだ?」

「とぼけんなよ! 北川凛が使ってる机、よく見ろ! 俺が昨日持って来て天野の机とばくったヤツだろ。アンタが北川凛に使わせてんだろーが!」

「あっ! ………しっ、知らん……俺は知らん」


 そこに近藤先生が飛び込んできた。


「あなたたち…………ここで何をやってるの! 自分のクラスに戻りなさい!」

「エっちゃん、この子、北川凛っていうんだけど知ってるよね? ウチのクラスに連れてくけど、いいだろ? 俺の後ろの席空いてるし」


 近藤先生はスケベだが勘はいい。直ぐに状況を飲み込んだようだ。


「え………そっか……今度のターゲットは北川さんか………分かった、連れて行きなさい。今から北川凛は3年A組の生徒です。今日から私の生徒だ! 北川さん、それでいいわね!」


 近藤悦代先生が言い切っちまった。

 俺はほとぼりが冷めるまでA組にいればいいと思って言ったのだが、強引にクラス替えをやるつもりか? そんなこと出来るの? 大丈夫なのか?


「ぇ……いいんですか? 私もA組になれるんですか?」


「北川さん、おいで」


 静香と田川さんと村上さんの3人が呼んでいた。呼ばれた北川凛は立ち上がって頬を拭っている。泣いていたのか? それでも嬉しそうに3人の所に行き、そして肩を抱かれながらF組から出て行った。


「一戸先生、校長には後で私が説明します。あたは結構です。大国さん、悪いけど、その机あなたに保管を頼みたいんだけど、いい?」

「了解」




 A組に戻ると、教壇に立った近藤先生が話し始めた。静かな口調ではあるが、破裂しそうなくらいの怒りが立ち上ってるのが分った。



「イジメという行為について話をします。昔はいじめっ子と呼ばれる子供がいました。昭和の古き良き時代の話ですが、いじめっ子と呼ばれる子は、だいたいがガキ大将でした。だけどイジメられっ子と呼ばれる子は……私は知りません。いつもいつも決まった子供がイジメられることなど無かったからだと思います。そして、その日にイジメられた子供は泣きながら家に帰って、誰々にイジメられたと母親に訴えたものです。ある母親は、その子を優しく抱いて慰め、又、ある母親はイジメっ子に直接、ウチの子と仲良くしてやってね、と言ったものです。

 陰湿な嫌がらせが常態化するのが現代のイジメです。さきほど言ったようにイジメは昔からありました。いじめっ子という言葉で。その言葉が現代でも使われ続けているのでしょうが、昔のいじめっ子がやった行為と、現代のイジメは全く異質なもので、同じ言葉を使うべきではない、と私は思ってます。なら現代のイジメは何なのか? 簡単です。それは………犯罪。

 人の尊厳、プライドだったり人間性だったりを、繰り返し繰り返し根こそぎ踏みつぶして否定する行為。それが現代のイジメです。イジメは人の希望を奪います。明日なんか来なければいい、という絶望を与えます。自ら命を絶つ子供もいます。

 あなた方に言います。イジメを受けたら声を上げなさい! 大人しくヤラレていればいつかターゲットが変わるなんて思うんじゃない! イジメがエスカレートするだけです。嫌だ、止めろ、と声を上げなさい! 私が一緒に戦います。教師生命を掛けて全力で戦います。だから声を上げなさい! 私に助けを求めなさい! それと……もしこのクラスの人間が、イジメをしていると分った時は、私がそいつの全てを叩き潰してやるから覚えておきなさい!」


 そう言った近藤先生は、クラスの一人一人の顔を順番に見ていった。そして目が合った生徒の誰もが目を逸らせることをしなかった。


「今日から、北川凛がA組の仲間です。挨拶なんかいりません。当たり前に接するように。先生は、今から校長のところに行ってきますので、後は自習です。いいですか! 教室から抜け出さないこと! 特に春山君………居なさい」



 教室から出て行った近藤先生が、隣のB組で、大国さんを借ります、と言った声が聞こえた。

 静香が速攻で俺が座ってる椅子に強引に座ってきた。そして後ろを向いて北川凛と向き合い、


「これ、私の彼氏だから、ちょっかい掛けたらダメなんだからね」

「うん、知ってる。それに……春山君って怖いから……ちょっかいなんて……」

「なら仲良くしようね、凛ちゃんて呼んでいい? 私のことは静香って呼んで」


 すると大勢の女子が集まって来た。凄く喧しい。


 結局、北川凛は3年A組になった。近藤先生が校長をどのように説得したのか知らないが、スゲーな。

 だが3年F組でイジメを指示している者が誰なのかについては北川凛も分らないと言う。いつも天野、工藤、塩谷の3人組が誰か一人をターゲットにしていたらしく、それはF組の中だけだったせいもあって、他のクラスの者には見えなかったのだろう。俺をターゲットにして初めてF組の実態が表に出たのだ。

 いったい誰なんだ? 確かにあの3人が俺をターゲットにするなんておかしい。



 帰りのホームルームで近藤先生が、


「生徒会長の神取美香さんが転校しました。よって新たに生徒会長を選ぶことになります。我こそわ、と思う勇者の方、立候補の締め切りは8月21日木曜日です。締め切りまで2日しかありませんが、生徒会長の不在を長引かせる訳にもいきません。選挙管理委員まで申し出ること。勇者……待ってますよ。ヒッヒッヒ。あ~それと春山君、すぐに校長室に行って、私も同行するから」


 廊下に出ると静香までくっついて来た。すると近藤先生が


「佐藤さん、残念でしょうが呼ばれてるのは春山君ですから、おとなしく待ってなさい」



 近藤先生と並んで歩いてると、


「例の写真……消した?」

「例のって、エっちゃんが白目剥いて寝てるヤツ?」

「そう、それ」

「消してません。たまに見て大笑いしてるから」

「ふ〜〜ん………そうなんだ〜………ふっふっふ」

「なに? その笑い」

「ウソは分かるのよ。私のエッチな部分も撮ったんでしょ! それオカズにしてんだーー! きゃーーエッチ〜」

「…………孫の手で叩いたりしないで電気アンマにすればよかった」

「いいよ〜、受けて立ってやるからヤってみなさい」



 校長室に入ると、


「いや~~春山君、私は誇らしい! 君が夏祭りの最終日に女性を助け出したっていうじゃありませんか! どうして言ってくれなかったんですか! 担任の近藤先生は知ってたんですか? ……ええ?? 知ってたって……なら言ってくださいよ! さっき警察から連絡がきまして……いや~~とにかく素晴らしい!! わが校の誇りです! 明日、感謝状を渡したいから春山君に来て欲しいそうですが、まぁ、そこに座って、君の武勇伝を私にも聞かせてください……」

「え……武勇伝……ですか……」


 校長先生にそこまで言われて断る理由も思いつかないし、近藤先生もニコニコしながら先に座っちゃって、とにかく俺も近藤先生の隣に腰を下ろし、当たり障りのない話だけを選んで校長先生に説明したが、話の要所要所で、おおおお、とか、ほおおお、なんて感嘆の声を上げる校長先生。きっと良い人なんだろうな。いろんな事件が起きちまって気の毒に思えてきた。


 茶道部は欠席してバスケに行くと、昨日よりも怒った顔をした静香が待っていた。


「おっせーぞ、義仁! 早いとこ着替えてこい!」


 なんなんだよ、ドラゴンボールの悟空みたいな喋り方して。着替えて部室を出ると、


「ほら走って!」


 いきなり竹刀でケツを叩かれた。機嫌悪いな~。

 3週を走ったぐらいで並走してきた。


「行くよ……」

「ちょっと待って、今日は俺が合図出すから」

「ふ~ん、いいよ、それで私に勝てると思ってんだ。ヘッヘッヘ」


 憎たらしい奴だ。


「レディ………ゴーー!」


 最初の2歩は俺が先行してた……はずだったが一気に追い抜かれた。くっそ~……


「もういっぺんだ!」

「どうぞ、なんべんだって手加減なんかしてやんないから」


 5回やったが全然追いつかない。


「義仁! お前はそんなもんなのか! 違うだろ!」

「なっ、なに~~……なめやがって……おおおお、もういっぺんだ!」


 俺がそう怒鳴った時だ、


「春山ああああああ!! こっちだーーーーーー!!」


 見なくても分かった。瀬川の声だ。瀬川が俺に回そうとしているのだと身体が反応していた。

 声に向かって条件反射のようにダッシュしていた俺は、アイツのパスはキラーパスだと思い出した。味方ですら取り難い厳しい場所ーー猛烈にダッシュしてようやっと片手が届くか届かないかの場所めがけて平然と投げてくるのだ。なめんじゃねぇぞ、クソっタレが。


 ふわっと投げやがった。それも遠くの高いとこに。

 高すぎる。



「ぬおおおおおおおおおおおお…………」



 気づいたら飛んでた。

 左足で踏み切った、ダンッ! という重い音が自分にも聞こえた。そして右膝を鋭角に強烈に振り上げもう一段浮いた。届くか? 意地の悪い瀬川がよこしたボールが空中に止まって見えた。そのボールに俺が伸ばした右手が触れ、そのままリングに叩きつけ、俺の右手はリングを掴んだ。だが勢いがつき過ぎていて、掴んだ右手を支点に身体が振られ、リングを離した途端に足が頭より上がり、背中から床に叩きつけられた俺は、バウンドしながら田川さんに向かって滑っていって、俺の上に乗った田川さんの体重のおかげで止まった。

 転がるように俺から降りた田川さん。立ち上がると真っ赤な顔で自分のお尻を押さえていた。



「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 春山ああああああああ!! アウリープだ! 今のってアウリープだって! おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 叫びながら走って来た瀬川。俺が背中から床に叩きつけられたことも、真っ赤な顔で変な場所を押さえる田川さんのことも目に入ってないらしく、地団駄を踏むように喜んでいる。


 テルが近寄ってきた。


「ハル、あの女の掴んだろ。あの掴み方はヤバいな。ケツの割れ目あたりからグサって感じだった」


 こいつも俺の身体のことなど気にしてないらしい。確かに俺の身体は頑丈に出来てるらしく、背中から叩き落ちたのにそんなに痛くもなかった。だが田川さんが田川さんらしくない。テルに言わせると俺に変なとこを掴まれたらしいが、いつもの田川さんなら俺を蹴っ飛ばすくらいはするはずだ。妙に元気がない。




 練習が終わり部室に入ろうとすると静香に呼び止められた。そこには田川さんも居た。その田川さんは相変わらず元気がない様子で下を向いていた。


「義仁、ちょっと話したいことあるから、こっち来て」


 まさか、さっきの事じゃないよな。偶然なんだから。それに竹刀でケツ叩かれたぞ、何発も。

 呼ばれるまま体育館の隅に行くと1人の女子が待っていた。あれ、城地ルミだ。この前、俺が3年F組に行った時に、北川凛の援護射撃をしてくれた。それがなんの用だ?

 その城地ルミが、


「へ~佐藤静香も来たんだ。真奈美、いいのかい? 例の話し、佐藤静香にも聞かせて」


 下を向いてる田川さんが小さく、うん、と頷いたが、その代わりなのか静香が口を開いた。


「私、真奈美から聞いて知ってるから………義仁は言ってくれなかったけど、真奈美に恥ずかしい思いさせないためだって分かる」


「あっ、そうなんだ、へ~~~……春山君ってさ~余計な事しゃべらんヤツだって聞いてたけど……ふ~~ん、噂以上だね。そっか、なら話は早いわ。F組の奴ら、あんたらA組を狙ってる。最初は春山君だった。まぁ、F組の連中もあそこまで反撃されるなんて思ってなかったんだろうな。普通アレはヤレないわ。アハハハハハ、一戸が居る前だもんね。春山君、あんたマジだったろ? あいつらの前歯へし折るの。いいとこで大国照子が止めに入っちゃって、アタシは残念だったけどね。だけどアレで終わってないから。ましてや北川凛を連れてったろ、あんたら。近藤先生って……いい先生だな。戦う気マンマンだもんな。前もって言っとくけどさ、佐藤静香、アンタもターゲットにされるよ、きっと。それはさ、春山君の女だから。でも今は田川真奈美だ。F組の誰かに見られたみたいだね。真奈美がウチらとツルんでる時、南部の連中と一緒にカラオケ行ったろ。あんた途中で男と出てったけど、ラブホの前でその男と揉めたのか? そこらへんはアタシ見てないからよく解んないけど、春山君におぶさって帰ったんだろ。どうもね~、真奈美と春山君がラブホにしけ込んで、真奈美が立てないくらいフラフラにされて、おぶさって帰ってきたって事になってんだよな。この噂、A組じゃ~どうだか知らないけど、他のクラスには一斉に広がってる。アタシもさ~~真奈美のこと嫌いじゃないっていうか、いい子だと思ってるし、あん時、南部のバカ共誘ったのアタシだし、ちょっと責任感じてんだよね。だからアンタらがアイツらとヤリ合うんなら、アタシはアンタらに付くから覚えといて。それにしてもF組って不気味なんだよな。春山君の机やった天野と工藤と塩谷なんてどう見たってパシリだろ。誰かが指示してるんだろうけど………そんな様子全然見えてこない。あ~それと、この件にD組の篠原朱海、それとC組の権藤朱音の二人は絶対に巻き込むんじゃないよ。あの二人と春山君けっこう仲いいんだろ? だけどさ~あの二人が絡んじまったら、マジで死人出るよ。B組の大国照子は意外と自制心ってヤツ持ってるけど、あの二人はヤバイわ。シャレにならんことになっちまう」


 そう言い残した城地ルミは体育館から出て行った。


「ゴメンなさい…………私のせいで春山君まで…………それに静香にだって………ゴメン………」

「真奈美のせいじゃないって。それに私だったら全然へーーき。義仁の事ちゃーーんと分かってるし」

「うん………でもほんとゴメン…………私バスケのマネジャー辞めた方がいいよね………みんなに迷惑かけちゃう」


 静香が困ったように俺を見た。


「なんで辞める? それってF組の狙い通りじゃないのか? 冗談じゃねぇぞ。意地でも辞めるな」

「うん、そうだよ、義仁の言うとおりだって!」


 瀬川と榎本、それと村上さんがこっちに走って来るのが見えた。


「この話、あの3人には言った方が良いと思うぞ。瀬川と榎本は信用出来るし、二人とも余計なこと喋るヤツじゃない。それにあの時、田川さんを連れ戻しに行ってくれって頼んできたの村上さんだし」

「ええええええええ??!!」


 静香と田川が同時に叫んでいた。


「だったらなんで俺があそこに居たと思ってたのよ?」

「え…………偶然かな〜って………」

「私も」


 瀬川と榎本と村上さんには静香が説明した。すると榎本が、


「なんだそれ? F組のヤロウ…………ふざけてんのか!」


 そして瀬川は、


「分かった。田川さんは俺が送り迎えする」

「え………そんなの………悪いよ…………」

「マネジャーだって仲間なんだから気にしなくても良いよ。家だって近いし」

「…………ならマネジャー続けても………いいの?」

「当たり前だろ。F組にちょっかい出されたくらいで辞める必要なんかないって」


 それを聞いて田川真奈美は泣き出してしまった。


「なんか腹減ったよね」


 瀬川がそう言うと、


「減ったーー!」


 静香が手を上げて叫んでいた。

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