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第34話 雑誌記者との対決と新たに見た夢

「君! 春山義仁君! ちょっとしっかりして!」


 気が付くと女の人が俺の身体を揺すっていた。ああ、雑誌記者の大橋リカっておばさんだ。


「夢……」

「え……あ~~びっくりした~。もう……脅かさないでくれる。立ったままで意識なくなったかと思ったでしょ。でもほんと大丈夫? なんともない? 私のこと分かる?……何なの? 今、夢って言った?」

「ああ……夢を見た」


 まただ、また例の夢だ。これから起きるこの世界の未来なのか? それとも別の世界の未来? それにしてもどうしてあんな夢を……


「夢って……そんな……いくら眠たいからって立ったまま眠れる?……それにほんの数秒だったはずよ、君の様子がおかしかったの。雑誌記者なんかと喋りたくないのは分かるけどさ、もっとマシな断り方考えなさい。そんなバカげた話しなんて小学生だって……」

「……今泉リカ」


 俺がそういうと顔色が変わった。


「………今なんて言った?」


 以前、静香の家に遊びに行った時のことを思い出した。田川さんと村上さんもいた時のことだ。


「そうか、おばさんか……田川真奈美の母親と高校の同級生って。その頃はS町に住んでたんだ」

「あ~、裕子の娘から聞いたんでしょ、私のこと。だから旧姓まで……急に言い出すから驚いちゃった。確か娘が2人いたはずだから、真奈美って言ったっけ? それ長女の方だね、君と同級生なんでしょ」


 夢の内容を言った方がいいのかな? 内容が内容だけに言い難いな……


「おばさん、雑誌社って東京なんだろ? もう帰った方がいいよ。そしてこの街には近寄らない方がいい」

「はあああ? 大人をバカにするのも大概にしなさいよ。こっちは仕事で全国飛び回ってんの。あんたみたいな脛っかじりの中坊がナニ分かった風なこと言ってんの。あ~~そっか、中二病ってヤツか。急に意識無くしたふりしたと思ったら今度はもったいぶった言い回し。それががカッコいいと思ってんだ。アハハハハハハハ……そんなの学校の中だけでやってくれないかな~~おばさん困っちゃうでしょ。もういいわ、あんたを買い被ってたみたい、アハハハハハ、じゃあ帰るね、お邪魔しました……」


 玄関から出て行ったおばさんの背中に向かって俺は言った。


「神取剛と神取彰の二人、もうおばさんのこと見かけてるかもしれない。だから逃げた方がいい」


 ドアが閉まる間際にビクっと動きを止めた背中が僅かに見えたが、俺は構わず鍵を掛けた。とりあえずは言った。後は自分で考えればいい。これ以上さっきのおばさんには関わりたくない。それでなくても色々と面倒に巻き込まれてる。悪いけど勘弁だ。それにせっかくの静香との楽しいデートの余韻が吹き飛んじゃったじゃねぇかよ。汽車の中での静香、駅から家まで送る際の静香、それと家の前での静香、全部メッチャかわいかったのに、なんで今は30過ぎのおばさんの顔しか浮かばないんだ、クッソ~~、なんとか思い出そう。


「……え?」


 玄関のドワノブを誰かがガチャガチャ動かしてる。やめてくれ。無視しよう。するとチャイムが連打され始めた。絶対にさっきのおばさんだ。いや、もしかしたら違うかも……

 そうっと玄関ドワに近寄りドアスコープを覗くと、おばさんだ。放っておけば諦めて帰るはず。だがチャイムの連打は終わらないどころか鳴らす間隔がどんどん短くなってきて、しまには郵便受けから怒鳴り始めた。


「ちょっと出て来なさいって! あんな言い方……こっちが背中向けてるのをいいことに、言いっぱなしなんてズルイでしょ! ちょっと開けなさいよ! 開けるまでずっとこうしてるからね! 出て来い! 春山義仁! 逃げるな!」


 ふざけんなババーー。誰が逃げるか、クソッタレが。怒りに任せて鍵を開けると、向こうから勢いよくドワが開けられた。


「あんたがさっき言った事どういう意味? ちゃんと説明しなさい!」

「人の家に来て偉そうにほざくなババーー! そこはウチの敷地だ。どうぞお入りくださいって言ったか? 言ってねぇだろうが。勝手に入り込みやがってババー、パンツ脱がすぞ! てめぇだって女なんだろ。脱がされたくなかったら帰れ!」


 あ、マズイ。今言っちまったのってこの人のトラウマだと思う。スカートの上から股間押さえて固まってしまった。あ~~面倒くさい。俺はあんまり口が達者な方じゃないっていうか、アッタマにきたら言葉がついてこなくなる。だからスッゲー幼稚な言葉が出ちゃうんだよな。30過ぎの女の人にパンツ脱がすぞは無いよな。お前の母ちゃんデーベーソの方がまだマシかも。


「いや……悪い……脱がしたりしないから……もう帰って……言い過ぎた……謝るから……ゴメンね」


 まだ瞬きもしないで突っ立ってる。どうしよう。


「あのねおばさん、俺の事ちょっとは調べたって言ってたよね。俺さ、女の人に乱暴な事しないよ。そこんとこ解ってない? 口は悪いかもだけど……だからさっき言っちまったのは……全然本気じゃないから……いつまでもソコ……押さえるの止めなよ。自分で弄ってるみたいで、なんか凄く変だ」

「………え? 自分で弄ってるって……なに? え? え? あ! ちょっ……ちっ、違うっ……そっ……そんなの……するはずないでしょ! ガキじゃないんだから……もう………ほんと最近の中学生って……大人をからかわないで……」


 そう言うとその場にしゃがみこんでしまった。まいったな。


「コップに水でも持って来ようか」

「……え? あ~~……悪いけど…入っていい? ちょっと椅子に座らせて欲しい」

「ここで腰降ろしてくれないかな。俺、おばさんのこと信用してないから。後から変な事されたって騒がれても迷惑だし」


 俺がそう言うと、たたきに手をついてノロノロと上がり框まで来て、そこに腰を下ろした。


「やっぱりお水ちょうだい」


 いや~スッゲーめんどくさい。やっぱ言わなきゃよかった。どうすんだよこの状況。田川真奈美のオバサンでも呼んで、連れてってもらおうかな?

 コップに入れた水を渡すと、それを一気に飲み干した。


「………ありがとう」


 空になったコップを俺に返したおばさんは帰るのかと思ったが、立ち上がろうとしない。黙って自分の足元を見ているようだ。

 困った。どうしたらいいんだ? 田川真奈美のオバサン呼ぶにしたって、何て言えばいい? オバサンの同級生が俺の家に居座ってるから連れてって……。俺のせいで静香を何日も預かってくれたオバサンにこれ以上迷惑は掛けたくないな。そう考えると溜息しか出ない。

 声を掛けるにしても、変に慰めるもおかしいだろうし、こんなおばさんに喋れるネタなんか持ってない。

 俺は黙って突っ立っていた。


「君……私のなにを知ってるの?」


 ようやっと口を利いたと思ったらソレかよ。さっき見た夢のことをそのまんま話せばいいのか? 俺は女じゃないからよく解らないけど、絶対にマズイと思う。


「俺の話しって大人は信じないよ。さっきおばさんが言ったみたいに中二病のたわごとだって言われるのがオチだ。俺は実際に中学生だしね。だから言いたくない」


 俺がそう言うとオバサンはまた黙り込んでしまった。少しは落ち着いたみたいなんだから帰ってくれないかな。


「さっきは……私……ちょっと感情的になっちゃって……ごめんなさい……それに私って記者やってて、うちの週刊誌ってそれほどお堅い雑誌じゃないから、君たちが考える大人よりは柔軟な思考持ってると思う……お願い……教えて……取材なんかじゃないから……それとオバサンは止めて」


 俺は何度かおかしな夢を見たことがある。中には俺と全く同じ夢を同じ日に見た人もいる。その夢は、普通の夢とは違い、細部までクリアーに憶えていて、そして全部がこれから起きることだと思う。それに今もそうなんだけど、目が覚めてる時のほんの数秒の間に見ることもあって、その夢を見た俺にとっては、そんな短い時間に見た夢だとは思えない内容だ。


「あ~~それって予知の一種ね。その手の人取材したことあるけど……言っちゃあ悪いけど、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるっていうのが全てだった。その夢気にしてるの? 私のこと心配してくれたみたいだけど、大丈夫だから安心して」


 俺もそう考えた事はある。予知夢じゃないかって。でもきっと違う。予知って夢に限らず、これから起きる事が分かるってことだと思うけど、俺が見た夢はそうじゃない。分かるんじゃなくて経験してしまうんだ。例えば1年後の自分が経験する出来事、それを今体験してしまうってこと。だから臭いや味だったり、柔らかい感触、それに腸が捩れるくらいの怒りだったり、焦りや絶望、それと痛みや快感を伴う出来事を体験した。


「それって……第三者的な視点で未来が見えたんじゃなくて、君が経験するであろうこれからの出来事を……体験してしまったってこと? 快感って言ったよね……それって性にまつわること? まさかさっき言った同じ夢を同じ日に見たって人って……その……快感の相手なの? ……………ウソ……その最中に具体的に何をしたのかも共有……それって佐藤静香? 信じられない。ちょっと教えてくれる? その夢で君が彼女になにをして、彼女が君にしたこと。………うん約束する。断じてこれは取材ではないから、絶対に口外しない」


 俺はあの夢のことを細かく説明した。不思議と全てを覚えていた。


「そんな………そんなの………君って童貞? いや違うか、その夢を見た時って童貞? ……彼女も勿論バージンだったのよね……………15歳の中学生が見る夢じゃない。そんなの……ちょっと凄すぎる……私だってしたことのない行為まで……………理解が追いつかないけど……そうだね……君が中二病なんかじゃないってことは分かった。それと……君がこれから経験すること以外は見えた事はない? 要するに君の視点だけなのかって意味。……………だったら……さっき見たモノって……私なんだよね? そこに君もいたってこと? …………そっか………ハッキリ言って! 君はナニを見て、なにを経験した?」


 俺は神取剛とか神取彰なんて奴の顔は知らない。前に誰かから聞いた名前のような気がするけど、顔なんて知らなかった。だけど夢の中の俺はそいつらの顔を知っていた。そして神取彰の左手の人差し指が無かった。きっとそれが関係してるんだと思うけど、俺は神取彰が或る空き家に居ると聞いて入っていった。懐中電灯で照らしながら何かをやってるようだった。そして聞こえた、「お前、あの時の女子高生、今泉リカなんだってな」って声が。俺が近づいて行くと、大橋さん……あなたがベットに縛られていて明らかに乱暴された後だった。


「………そっ……それから……どうした……の」


 そう言った大橋さんの声は震えていた。見ると握った拳も僅かに震えているように見えた。


 2人を俺は半殺しにした。もしかしたら殺してしまったのかもしれない。そこはよく分からないが、どっか冷静な自分を自覚していたから、加減はした。


「殺してしまえばいいのよ! ……あんな奴ら………」



 大橋さんは何も言わなくなった。どうやら泣いてるようだ。

 暫くすると、キっと俺を見上げ、


「それって本当に私だった? アイツらだって勘違いして別の女に酷いことしたのかもしれないよね。暗かったから懐中電灯使ってたんでしょ。私だって証明できる何か…あった?」

「顔だけど、大橋さんだと思う。それと……剃ってた…全部……それって違うのかな?」


 大橋さんがいきなり立ち上がり、玄関ドアに背中をピッタリとくっつけ、目と口を大きく開けて俺を見ている。やっぱり大橋さんなんだ。


「……どうして………どうして知ってるの………夫だって知らないのに……」


 意味が分からない。夫も知らないってなによ? 剃ってるってことか? なんで?


「君……私の見た……」


 まただ、また股間を押さえ始めた。なんなんだよこのオバサン。それ止めて欲しい。


「いや……別に…見たくて見たんじゃないから……気にして欲しくないんだけど……流行ってんの?」


 俺は何を言ってんだよ、流行っていようが廃れていようがどうでもいい。流行ってるって言ってきたらどうすんだ?


「え………」

「そんなのどうだっていいか……あはは……確かに大橋さんのアレ見ちゃったけど、普通だったよ。だから別にいいんじゃないの、減るもんじゃなし、それに大橋さんはバージンでもないだろうから見たの俺だけでもないし、それに俺に剃られたわけでもない」


 余計になに言ってんだか分らん。


「は……? ……普通?」


「いや……あはははは……普通だった……と思うよ…大橋さんの……よく解んないけど……毛ぇないから見えちゃった……ハハハハ」


 おばさんはみるみる真っ赤になって目を泳がせているが、俺はバカか? 口が勝手に喋ってるとしか思えない。


「そっ、そんなことより音が聞こえてたの思い出した! あれは盆踊りの太鼓の音だ。だとすると明日だと思う。来年のお盆って可能性もあるけど、明日はこの街に居ない方がいい。っていうか、もう帰りな、東京に。この街にいたらロクな目に遭わないって。トラウマになってるとこ悪いけど、もう二度と乱暴されたくないよね。君子危うきになんとやらって言うだろ」


 うわ、言っちまったよ。あえて説明は省いていたのに。この人、高校生の時に犯されてる。神取剛と神取彰に。マズイな……


「………君……全部知ったんだ……親にだって隠してたのに……でもなんだろうこの気持ち……あはははは……君に知られてなんだか気が楽になったみたい……そうよね……PTSDに苦しんでる人沢山いるのに……私……結婚してる……性生活だって普通だ。心の傷……ずっと前に癒えてたんだ……なのに頭が追いついてなかったのかな? 凄く不思議な気分。それに……君がモテる理由、なんとなくだけど解った気がする。なんだろうね………大人の女を前にしてるのにすごくエッチだ。……スケベ!! なのに妙に色気みたいなのがあって……15歳のくせに……ここで私が聞いたことは絶対に口外しないから、君も喋ったらダメだよ。私の事は自分でなんとかする………でも君が見た夢って決定事項? …………そうだよね、未来は絶対に変えられる。うん、私もそう思う。運命なんてものは自分で切り開くものよ。………随分と長居しちゃって悪かったね。帰るわ。あ……そうだ、一つ教えておいてあげる。女のこと。女ってね、男が思ってるほど保守的じゃないから。望まない妊娠って10代の女の子より40代の主婦の方が圧倒的に多いの。私はまだ33だけどね……この意味わかる? ふふふふ……また会いましょうね、大人の中にだって君の話を信じる人はいるよ」


 とにかくやっと帰ってくれた。疲れた。時計を見るともうすぐ11時になろうとしていた。早いとこ風呂に入ろう。






 鍵を開けて中に入ると真っ暗な室内。今日もバスケの練習で遅くなり、疲れた。誰もいない部屋に向かって、ただいま、と言った。いつもの習慣だ。

 玄関の鍵を閉めてから電気のスイッチを探すが、なかなか見つからずイラつく。この部屋に住むようになってから2カ月が過ぎたが、いまだに慣れない。やっと手がスイッチに触り、部屋が明るくなった。


 姉ちゃんが一緒に暮らそうと盛んに言っていたのが思い出された。俺はあの街とは違う街ーーローカル都市にある高校に入学した。映画館があり姉ちゃんも住んでいる街で退屈しない。父さんの言葉も思い出した。下宿の方がいいんじゃないのか? だが1人の方が気が楽でいいと1人暮らしを選んだのだが、暗く誰もいない部屋に入る時が嫌なのを今更ながら思い知った。

 1LDKのアパートが妙に広く、余計に独りを感じる。俺はこんなに人を恋しがる性格だったのか。

 リビング兼ダイニングそして対面キッチンがあり、それが10畳、それとは別に4畳半の洋間あって、クローゼットも大きい。1ルームでもよかったのだが最近では物件数が少なく、結局は1LDKにしたのだが、空間が広いのが嫌でキングサイズのベットを置いた。姉ちゃんなんかは、誰と寝るつもりなの? と笑っていた。


 コンビニ弁当は嫌いだ。カップラーメンなんかを一人で啜っているのをドラマで見るが、わびしいというか貧乏くさくて絶対に嫌だ。簡単でもいいから自分で飯を作る。どんなに遅い時間でもだ。その為の食材を今日は買って来た。時計を見ると8時を少し回っていた。



 チャイムが鳴った。ここのチャイム音は好きになれない。玄関を開けると和服姿の背の小さな女だ。


 権藤彩音。


 婆さんは亡くなり、そのせいなのか、それとも元々そう決めていたのか、アヤは高校には行かず、今では多くの信者を抱える身だ。

 外開きのドワを身を乗り出して押さえる俺の腕の下を潜って、アヤが部屋に入って行った。


「ふ~~ん、綺麗にしてるんだ」


 そして寝室に使っている洋間を覗き込み、なにやら呟いている。


 スルスルと帯を解いて、あっというまに着物全部を脱いだ。

 少しふっくらとしたアヤの胸。だが、肌は相変わらず白粉を塗ったように真っ白で、どうしても見惚れてしまう。そんなアヤが近づいてきて、俺の首に両腕を回した。

 背が小さい彩音。下から俺の顔を見上げている。


「春山君が生まれた日だな」


 そう言ったアヤを抱き上げると両脚を俺の身体を挟むように絡め、唇を寄せてきた。長い、長い、口づけ。

 そのまま洋間に運んで二人でベットに倒れ込んだ。




「え……………夢……か」


 俺は風呂の洗い場で椅子に座って身体を洗っていた。

 又だ、またやっちまった。とにかく今日は裸だからパンツを洗わなくて済む。いや~~湯船に浸かってる時じゃなくて良かった~~。

 それにしても何なんだよ。今日はこれで2度目だ。さっきは大橋って記者の夢、今度はアヤだよ。俺は高校1年生だった。一人住まいを始めて2カ月だった。ん? アヤが俺の生れた日だって言ってた。6月30日だ。え……アヤ? そうだよ、アヤだ。アヤが生きてた。あの真っ白な身体のどこにも傷なんて無かった。


「彩音のやろう、生きてやがった。あはははは……彩音が生きてる! 来年の6月にアヤが生きてた!」



 俺は裸のまま風呂を飛び出し携帯を掴むと、アヤに電話を掛けた。1回目の通話音で出た。


「アヤか! 俺だ! 見たか? 見たよな! ……夢」

「……見てない。どんな夢?」

「え……見てない……って……どうして!」

「そんなの知らない。いいから、夢の内容教えろ」


 なに? なんでアヤは見ていないんだ? 俺だけが見た夢? なら普通の夢なのか? いや違う、絶対にアレは普通の夢なんかじゃない。アヤとのセックスを実際に体験した。

 とにかく夢の内容をアヤに事細かく説明した。俺の説明を聞いている内にきっとアヤも思い出すんじゃないかと思い、細部まで凄く詳しく説明した。


「……生えてた?」

「え……なに?」

「見たんだろ、アタシの裸。ならソコも見たはず。 生えてた?」

「そっ、そんなもんどうだっていいだろ。そんなことより思い出したか? 夢のこと」

「どうでも良くない!」

「はぁああああああああ?? …………意味が分からんわ………ツルツルだった!」

「………」

「あ、……切りやがった。なんてヤツだよ……クッソ~~」



 俺は風呂場に戻り考えた。

 どういうことだ? ……そう言えば、夢の俺は静香の事などコレっぽっちも頭に浮かばなかった。別れた? いやムリだ。静香と別れられるとは思えない。それも来年までになんて。静香もきっとそうだ。だったら静香と付き合いながらアヤと……ムリだ。俺の性格でそんなの絶対に出来っこない。だったら考えられるのは一つしかない。この世界から繋がる未来ではないってことだ。


 俺はもう一度夢のことを思い出すことにした。

 チャイムが鳴って俺がドワを開けた。すると着物姿のアヤが立っていた。それを見ても俺は驚かなかった。でもアヤはあの部屋に入ったのが初めての様子だった。そして何の躊躇いもなく全部を脱いだアヤ。まぁそれは今でもそれくらいはやるだろうな。でも脱ごうとしてるアヤを見ても俺は驚いたり、止めたりしていない。そしてキス。あのキスは……初めてじゃない。それにベットでもそうだ。慣れてた、アヤの身体に。アヤも俺の身体を知ってた。


 夢で見た俺はきっと静香と付き合ってない。ずっと権藤彩音と付き合っていて、高校に入ってもそれは続いていて、アヤは久々に俺に会いに来た。俺の誕生日に。あのキングサイズのベットだって、相手もいないのに買うはずがない。アヤだ。アヤと二人で寝るために買ったベットだ。なんか呟いてたな。小さい声だったけど聞こえたはずだ。そうだ、思い出した。


「ベット……アタシ眠れるかな…」


 アヤは確か畳の上に敷布団を敷いて寝る生活だったはずだ。


 別の世界の未来だ。それを夢で見たんだ。

 前に金山要が言っていた。時間軸の枝分かれについて。ごく最近の過去に枝分かれした世界なら、今自分たちがいるこの世界ととても似てるはずだ、だけど何十年も前に枝分かれした世界なら、この世界と違っている箇所は凄く多いと思う、と。


 前に見た河西早苗と結婚してる夢も、今日見た権藤彩音と付き合っている夢も、今俺がいる世界とは違う。

 だったら大橋リカがレイプされる夢は、この世界なのか? 別の世界? いや……あのおばさんは過去に神取剛と神取彰にレイプされてる。それはこの世界でも起きてるし、俺が見た夢でも神取の二人は言っていた。33歳のおばさんが高校生だった時だから15年くらい前だ。やっぱりあの夢はこの世界の未来だ。

 なら静香も見たアノ夢はどうなんだ。大人の静香だった。きっと高校生でもない。でも俺はアノ夢で静香が言った言葉が気になっている。静香は大して気にしてないようだが……。夢の静香は「私のこのホクロ見たの義仁だけ」って言っていた。あの際どいところにあるホクロのことだ。でもその台詞って、暫く俺と別れていたような意味にもとれる。夢の中の俺は何を考えていたのかがどうしても分からない。もうその行為に夢中だったらしい。たんなるスケベ野郎だ。


 ダメだ。ちゃんと整理して考えよう。ターニングポイントは河西早苗だ。アイツが居るからこの世界はバタフライ効果に見舞われ、他の世界には無いことが起きてるはず。

 大橋リカがレイプされた夢はどうだ? あの記者がこの街に来た理由は神取一族らしいけど、ずっと取材を続けてるのは事件が起き続けたからだ。だったら、やっぱりあの夢はこの世界から繋がる未来だ。

 アヤが殺される夢は? キセキなんて連中がこの街に集まってること自体が、河西早苗がいるから起きた波紋だ。やっぱりこの世界から繋がる未来なんだろうな。

 俺が河西早苗と結婚してる夢は? そう言えば、あの夢のアイツの名前って、早苗なのか? それとも詩江なんだろうか? ダメだ、夢の中の俺はそんな名前のことなんか全然考えてない。どっちにしたって、この世界にいるのは河西早苗で狂った女だ。まともな女の河西詩江ではない。絶対に別の世界の未来だ。だけど夢の中のアイツ、俺が中学生の時に静香と付き合っていたと言ってた。やっぱり別の世界でも似たようなことは起きるんだろうな。

 さっき見たアヤの夢は? 夢の中の俺は静香の事をなんにも考えていない。それは静香と付き合う前に枝分かれした世界だ。

 静香も見たアノ夢は? ……よくわからない。だけどこの世界にいる俺と静香に強烈な影響を与えてる。アレって大人になったら普通にするのかと思ってた。なのにさっきのおばさん、したことないって……マジかよ。そんなことないよな、あのおばさんが皆と違うんだ、きっと。

 そんなことはどうだっていい。とにかく、アヤが殺される夢、それとオバサンがレイプされる夢、この2つはこの世界から繋がる未来だ。あのおばさん、自分でなんとかするって言ってたけど、やっぱり放っておくこと出来ないな。


 だけど、どうしてこんなにおかしな夢を見るんだ? 河西早苗が現れてからだ。最近なら起きてる時にまで見るようになった。さっきだって一人で風呂に入ってる時だから良かったけど、夏休みが終わって、学校にいる時やバスケの練習してる時なら……地獄だ。ヘタしたらジャージ穿いてる。相当にヤバイ。いきなり立っちまって染みが滲んできたら、超超超変態だろ。絶対になんとかしなきゃ。ウミも言ってたけど、近藤先生の車で送ってもらった時に何かあったような気がする。学校始まる前に近藤先生に会いに行こう。

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