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第23話 小学校の想い出とおんぶ

 下屋敷刑事の動きは速かった。少し曖昧な俺の証言を基にすぐさま捜査令状を取った。河西さん一家が住んでいた家に対する家宅捜査令状だ。前の住人ーー河西さんに家を貸した家主である沼田さんにも連絡が行き、沼田さんのおじさんが立ち合いに来た。下屋敷刑事はどうやら沼田さん家族全員の指紋提出まで協力を求めたらしい。

 例の騒動ーー転落死した宮古愛に憑かれていたとしか思えない1年C組の辺見友里恵騒動の際、下屋敷刑事の対応は当然問題視されていたはずだ。その騒動が元で辺見友里恵は、いまだに入院しているらしい。原因不明の手足の複雑骨折と頸椎骨折という外科的な症状だけではなく、自分が辺見友里恵だとは相変わらず思っていないらしく、だからと言って宮古愛を名乗っている訳でもなく、自分が誰であると言っているのかは極少数の人にしか伝えられていない。その少数の中には当然辺見友里恵の母親も入っているはずで、警察に対し強烈な苦情を申し立てていて、訴えてやるとまで言っているそうだ。

 そんな不手際を挽回するためなのか下屋敷刑事の動きは速かった。


 下屋敷刑事は俺の両親のところにまで来た。その際に明らかになった事柄で俺も驚いたが、父さんと母さんが何日も口を利かない夫婦喧嘩となり、ウンザリだ。それでなくとも親となんか喋りたくないから晩飯の後は早々に二階へ行くのだが、階下からは思い出したような2人の口論が聞こえ、家にいるのが苦痛だ。

 ケンカの原因は河西さんの件だ。母さんは、昔住んでいたアパートの近所にも河西さんは住んでいて、それは河西さんの御主人も同じことを言っていたと下屋敷刑事に説明したのだが、父さんは、河西なんて奴は知らんと言う。俺も驚いたが、それをメモしながら聞いていた下屋敷刑事も驚き、しまいには下屋敷刑事そっちのけで夫婦喧嘩を始め、それが何日も続いている。くだらないし、相手にもしたくない。こんな家、早く出たい。

 俺は姉ちゃんにも電話を掛け聞いてみた。本当に河西さんのこと知らないのか記憶を手繰ってくれと。


「断じて知らない。あんたが5~6歳だったんでしょ? なら私10歳か11歳だよ。近所に居てあんたとしょっちゅう遊んでた女の子なら絶対に覚えてる。河西……早苗だっけ? そんな子知らないし、河西なんて苗字の人は近所にいなかった。しっかしさ~~また喧嘩してんだ。あの二人って根本的に合わないんだよね。なんで何十年も夫婦やってるかな~。近いうちに実家に顔出そうかって思ってたけど止めるわ。ところであんた……美人の子とまだ続いてるの? ……あ~そうなんだ、へ~~、女の子泣かせたらダメなんだからね」



 下屋敷刑事は俺に自分の携帯番号を教え、そして俺の携帯番号を登録した。俺はどうでもよかった。仮に下屋敷刑事から電話が掛かってきても面倒なら出なければいい。だが、ある日の夜10時過ぎに掛かってきて捜査情報を俺に告げようとした。なぜ殺人事件が絡む捜査中の情報を俺に漏らすのかを聞くと、


「春山君、あなたのこと色々と調べさせてもらいました。かわった中学生ですね~~。いや……中学生らしくないと言った方がいいのかな~。剣道初段の腕前なんですよね。どうです、将来は道警に入っては? ………あはははは、あなたが小学生の頃に通っていた剣道クラブ……大人に混じって教えるところだったんですね~。そこの師範が春山君のこと覚えてました。小学6年生で明らかに有段の腕前だったと。中学でも続けていれば道内では敵なしになった可能性すらあったって言ってましたよ。今はバスケットなんですね~。ある中学校のバスケット部の顧問に聞いてみると、やっぱり春山君のこと知ってましてね~~、その顧問が言うには、あの子のは中学生のバスケットじゃない、激し過ぎるって言うんですよ。だから高校や大学、社会人のバスケットではファールにならないプレイでも中学生ではファールになってしまうから気の毒ではあるって言ってました。春山君は自分が退場王って呼ばれてるの知ってましたか? あははははは……それと実は私しばらくの間あなたを観察してまして、双眼鏡なんか使ってね……あはははははは。ハブられるって言葉初めて知りました。仲間外れれにされるって意味なんですね~。昔も仲間外れってのはありましたけど今とは違いますね。どこにでもガキ大将ってのがいて、そいつは乱暴なんだけど、何ていうのか……運動神経が鈍い子や泣き虫の子、貧乏な家の子、金持ちの子であっても仲間に入れるよう仕切っていて、みんなで一緒に遊んだもんです。まぁドラエモンに出てくるジャイアンみたいなもんですね。のび太って鈍くて泣き虫なんだけど仲間外れになってないでしょう。古き良き昭和のお話ですよね……今の子供たちは……残酷です。一旦ハブられたら誰も助けてくれない。だから絶えず誰かと一緒に居るようにして……必死にハブられないようにしてる。それって疲れないんでしょうかね~。その点春山君って……なんなんですか? 全然ハブられるってこと気にする素振りがない。まぁ最近はあの子……佐藤静香さんとずいぶんと仲がいいみたいですが、あなた……1人でいること全く気にしないでしょ? 恥ずかしいとも思ってない。そうなんですよ、今の中学生や高校生は男の子も女の子も一人で通学するのさえ嫌がり、独りが恥ずかしいと思ってる。話が長くなりましたが、あなたのそういったものが影響したんだと思いますが……口が固い。そして噂話に興味を示さない。だからなんです、あなたに捜査情報を漏らすのわ。……当然なんらかの見返りは期待してますがね。あははははははは……春山君、あたなはとにかく子供らしくない。だからです。直ぐにとはいいませんが、私のこと信用してみませんか?」


 しかし退場王ってなによ? ふざけんな。確かにラフプレイ仕掛けられたら倍にして返すし、リバウンド取りにいったら2人は床に転がってて……だけど大国照子の方がもっと凄いぞ! なんで俺が……

 そんなことを考えながら話を聞いていたら、随分と長い前置きに続いて捜査情報の話になった。


 河西さん一家が住んでいた家から採取した指紋の中から、俺が見せられた首吊り遺体の指紋と一致するものが出たこと。それは家の中に落ちていた毛髪と遺体を検分した結果、同一のDNAだと認定されたこともあり、学校で首を吊ったのは河西早苗と同居していた中年男性に間違いがないということ。但し、その男性が河西早苗の父親であるという確証はないどころか、ほかに落ちていた毛髪を検分した結果、その男と親子関係のある毛髪は無かった。それと家宅捜査の結果、その男性が何処に勤めていたのか、若しくは何の商売をしていたのかを示す物は何も出てこなかった。大家である沼田さんに聞くと不動産業者を介していたので詳しいことは解らないというが、その不動産業者は先月に廃業していて事務所があったテナントビルの一室には何もなく、家賃は沼田さんの口座に敷金・礼金の他、12カ月分の家賃が振り込まれていたのだが、実際に住んでいた家には家財道具一式がそのままになっており、大家の沼田さんは、河西さんが引っ越していったことすら知らなかった。

 それともう1点、驚くべき指紋と毛髪が採取された。その指紋と毛髪というのは、橋の下で発見された死体ーー絞殺された男性のものと一致したのだ。それは赤の会の猪俣吉郎によって殺害された男は、河西早苗と一緒に暮らしていた可能性が高いということだ。

 それと河西早苗と首を吊った男性が、この家に越してくる前はどこに居て、何をやっていたのか全く掴めていない。それは住民票や戸籍謄本、中学校に提出した転校手続きの書類全てが、偽造された物ではなく本物ではあるものの、記載されている内容が事実ではない、という極めて奇妙なもののせいでもあった。



 俺はそんな下屋敷刑事が教えてくれたことを思い出しながら、ぼんやりと窓の外を流れて行く景色を見ていた。

 アイツ……下屋敷の野郎……・俺をつけてたのか? だから神取の兄貴の件や北旺の奴らの件知ってやがったんだ。ならあの公園で俺と佐藤さんがキスしたのも見てたってことか? あのままもっと色んなことやっちまってたら……北旺の奴らに感謝だな。


 俺は汽車であの街に向かっていた。映画館があって6つも高校がある地方都市に。

 昨日ーー金曜日の夜に村上さんから電話がきたのだ。彼女は泣いていた。


「春山君……お願い……真奈美を連れ戻して、田川真奈美を。私が悪いの……このまま放っておいたら真奈美……」


 村上さんは電話口でベソベソベソベソ泣いていて何を言っているのかサッパリで、俺はこういうの正直苦手で、だからといって冷たくあしらうことも出来ない性格で、ただ泣き止むを待っていた。携帯電話を耳に当てながら。だが、しばらく経っても村上さんの話はとっ散らかっていて、聞いてる俺が整理をしなければならず、物凄く面倒だった。かんべんしてくれ……

 用件はこうだ。


 例のことがあってーー佐藤さんの部屋で俺と村上さんと田川さんと佐藤さんの4人が集まった時のことがあって、田川さんとの仲がぎこちなくなった。それは俺のせいでもあるらしい。それは田川さんが今でも俺に好意を寄せていて、その俺が佐藤さんと付き合ってるのが面白くないからだと。ただ村上さんもあの時の田川さんの態度ーー佐藤さんに対しての態度にカチンときていて、それがあって田川さんとは微妙な距離となったらしい。佐藤さんはと言えば、いっつも俺にくっついているようになり、以前のように田川・村上・佐藤といった3人仲良しグループの一員ではなくなり、村上さんもそんな佐藤さんと一緒に俺の傍にいることが多くなった。うん、確かに俺の近くにいる時多いな、村上さん。そうすると意図した訳ではないが結果として田川さんがハブられることなってしまい、今では田川さんは3年G組の城地ルミ、秋田谷楓子、丹波ユキの3人組と行動を共にしているという。この3人はN町出身らしく、俺は名前も顔も知らなかった。

 だが3年G組は生徒会長の神取美香と同じクラスで、村上さんに言わせると神取美香の影響もあって、G組にはセックス経験がある女子が何人もいて、その最たる者がこの3人組だという。


 ようやっと泣き止んだ村上さん、


「女の人の初体験の年齢ってね……雑誌に載ってたんだけど、全体の10%くらいが中学生の時みたい。ウチの学校ってひと学年に女子が約150人いるでしょ、だから15人は中学卒業前に経験しちゃうってことよね。ウチのクラスには今のところいないけど…………うん見たら分るって……だって経験した女子って変わるもん。きっと静香が最初の女子になるね……ふふふふ……でもG組は酷い。特にあの3人はお股が緩い。真奈美って大人ぶって、はたから見るとイケイケみたいに思われてるけど、全然そうじゃないの。なのにあんなヤツらとツルんで……春山君と静香のこと意識して、そうとうに無理してる。あいつらいっつもあの街で遊んでて、高校生や大学生、それに社会人から声かけられるの待ってる。真奈美、昨日も今日も学校来なかった。きっとアイツらと一緒だと思う。明日、土曜日だから絶対にあの街に行ってる。お願い……真奈美連れ戻してきて。そんなの春山君しか出来ないもん。男子のみんな北旺学園の生徒怖がっててあの街に行こうとしないし……女子だって……去年の3年生乱暴されたっていうし……」

「聞いたの? 北旺と少し揉めたの…」

「うん、静香から……でも静香言ってたよ、春山君カッコ良かったって」

「はぁ~~……」


 溜息しか出ない。


「でも、この話は静香に内緒だから。言ったら静香すごく気にして自分もついてくってきっと言うだろうし」


 要件を言い終えた村上さんがまだ何かを言いたそうな感じで、なかなか電話を切ろうとしない。


「まだ何か言いたいみたいだけど、ハッキリ言いなよ」

「あははは、分かっちゃった? うん…… あのさ~榎本君ってさ~……好きな人いるのかな~」


 榎本君はクラスで1番背が高く180ちょっとあってバスケット部に入っている。だが背の高い奴にありがちなタイプで、あまり飛ばないし、細いから当たりも弱い。男子に混じって練習している大国照子なんかは、なんでアイツはあんなに弱っちいんだ? やっぱ男はハルみたにガツンと来なきゃ、としょっちゅう言ってる。


「村上さん、榎本君のこと好きなの?」

「え…………うん……好きって言うか………ちょっといいかな~って………修学旅行も近いし………榎本君とだったら付き合ってもいいかな~」

「ええええ? なにそれ? 修学旅行のために彼氏作るの?」

「みんなそうだよ! そりゃ~春山君と静香みたいなカップルもいるけど、修学旅行の時に彼氏いた方がいいに決まってるじゃん。だからこの時期ってばんばんカップル増えてるの知らないの?」


 それってちょっと仲のいい異性の友達と何が違うんだろう。まぁいいや、どうでもいいし。


「春山君、榎本君に聞いてみて」


 俺そういうの苦手なんだけど、断る理由が見つからない。こういうのって頼んだら勝ちなんだ。


 電話を切った後、田川さんのことが気になり、小学5~6年の時には同じクラスだったことを思い出し卒業アルバムを引っ張り出した。

 ひと学年4クラスしかなく俺は6年4組だった。個人別に写された写真を見ると篠原さんがいた。今みたいに侍ヘヤーじゃないし子供っぽい顔だ。やっぱり中学生になってから急に綺麗になったんだ。別のクラスのを見ると、あっ、佐藤さんだ。まだ幼い顔してるけどけっこう可愛い。6年3組だったんだ。しばらく3組のを見ていると大国照子がいた。セーターを着ていた。セラー服よりずっといい。

 6年4組のに戻って、女子のを見て行くと……うわ、村上さんとも同じクラスだよ。あんまり変わってないかも。あっ、いたいた田川真奈美。へ~~なんか大人っぽくって目立つ子だな~。

 イベント事の写真があった。そうだよ校庭でキャンプやったんだ。修学旅行より面白かったの思い出した。男女でペアになっての肝試し。それも夜の校舎の中を懐中電灯持って。今でも夜の学校に一人で行くのなんか絶対に嫌だな。それなのによくやったよな。ひと組づつ順番で行かなければならないのに皆んな怖がっちゃって、先に行った篠原さんに待っててもらって何組も固まって行った奴らいたな~。お寺の娘なんだからオバケだろうがヘッチャラだって思われて。俺はいいカッコしいだったから篠原さんにくっついては行かなかったんだけど、ペアになった女子が泣き出しちゃって………あれ? その女子って誰だっけ? ん……? あああああ! 思い出した! 田川真奈美だ! そうだよ田川さんとペアになったんだ。きっかなくて強がりで負けず嫌いで、肝試しなんて全然へっちゃみたいな顔してたくせに、俺の手ぇギッチリ握ってた。確か体育館の奥に前もって置いておいた何かを持って帰って来るルールで、その体育館に入ったら風で窓がガタガタガタってなっちゃって、そしたら田川さんしゃがみ込んでわんわん泣き出しちゃって、俺おぶって帰って来たんだ。あの頃から田川さんって結構発育良くって、背中に押し付けられたオッパイが凄く気になって、そして恥ずかしくって、俺最後までおぶってあげなかった。まだメソメソ泣いてたのに、ゴール地点で待ってる皆んなから見えないとこで降ろしちゃったんだ。



 うとうと居眠りをしていた俺は乗っていた汽車のブレーキに気が付き目が覚めた。もう着くんだ。どうやって探そう? 蛇の道は蛇っていうし、北旺の不良っぽい奴に聞いたら何か解るかもしれないな。権藤さんが言ったように佐舞久留中学だって言えば揉めなくて済むのか? まぁ揉めたら揉めたでいいや。


 汽車を降り改札を出て駅構内を歩いていると早々に居た。3人でなにやら喋っている。その一人が俺に気づいたみたいだ。あれ? アイツ……この前の奴じゃないのか? ちょうどいいや、しょっちゅう強引なナンパしてるらしいし。

 俺が近づいて行くとなんだか微妙な顔をしている。


「ちょっと聞きたいこと……」

「もうアンタのこと探してなんかいねぇって……だから勘弁してくれよ……謝るから…一緒にいた女の子にも言ってくれよ、謝ってたって。だから……権藤彩音さんにはアンタの方から……その~……うまいこと……取りなしてくれたら……なっ、なっ……頼むって」


 あの時俺が「あの歩き方は柔道だ」って思った奴だ。随分と卑屈になってるというより必死だ。そんなに権藤さんからの手紙が恐ろしいのか? そもそも権藤さんってこの街でそんなに有名なの? それを言いうと、


「知らん奴いねぇって……アンタが住んでる町の権藤さん、大国さん、篠原さん……誰も関わりなくねぇ三家だって。それなのに去年その三家の中の大国さんと篠原さんの娘が、よりによってウチの学校に殴り込みにきちまって……元凶つくっちまった当時の3年の2人……弓でやられたのなんて関係なしに学校辞めてどっか行っちまった………だいたい弓なんか持ってくるか? あの大国さんの娘なら素手でだって誰も敵わねぇだろ……とにかく関わりたくねぇんだって……アンタ最初っから言ってくれよな、佐舞久留中の人間だって……だってよ~アンタどう見ても中学生に見えねぇし……マジなのか? 中学生って……2~3年食ってんじゃ? それに……思い出したくねぇんだけど……権藤彩音さんからの手紙……次の日の朝だぜ……俺達3人の家のポストに突っ込まれてたの。それも…切手も貼ってねぇし消印だってねぇ手紙って……誰かが直接持ってきたってことだろ! なんでそんなこと出来んのよ? 俺らの名前と住所秒殺で調べ上げて……普通じゃねぇだろそんなの……おまけに文面がアレだし……頼むって……もう勘弁してくれって」


 そいつは涙目になってそれこそ土下座でもするような勢いだ。


「いや……そんなことはいいから……ええ? 良くないって? わかったって、ちゃんと権藤さんに言っとくって。だけど俺の用事はさ、アンタらに教えて欲しいことあるんだってこと。ウチの学校の女子探してんだけど、なんか心当たり……」

「はぁあああああ?! その女も佐舞久留中なのか?! まさかそれ隠してこの街で遊んでんじゃ……冗談じゃねぇって……いや~~マジ勘弁だってよ……あのさ~名札でも付けてくんねぇかな、佐舞久留中って書いたヤツ、マジで」


 それでもソイツは心当たりをかたっぱしから電話を掛けまくってくれた。いや、とにかく早いとこ佐舞久留中の案件から逃げたい一心なんだろう。


「きっとこれだな……南部の連中がここんとこ見たこと無ぇ女2~3人連れて遊んでるらしいわ。その女この街じゃあんまし見かけん女で、JCじゃねぇのかって噂だ。この時間ならシャープってカラオケにいるんじゃねぇかって…………え? 場所分からんって? マジかよ……わかったって、連れてくよ、連れてくから……権藤さんには上手いこと言ってくれよな」


 そいつは連れてってくれる間中ずっと喋り続けていた。この手の連中って雄弁らしい。


「え? 南部って南部高校のとこだって………進学校? あ~確かに南部は進学校だけどよ~あっこは空手だのレスリングだの格闘技系の部がけっこうあってよ……そんな部なんざ上品な訳ねぇだろ。俺らと結構揉めたりしてんだよな。JCにも手ぇ出してるみたいだしよ~……ところでアンタってマジ中坊なのか? あり得ねぇ雰囲気醸し出してんな……なんかよ~2人やそこら殺ってんじゃねぇかって雰囲気。あん時だって……俺こうみえて柔道黒帯よ。だから見えるんだよな、殺気ってやつ。あんときのアンタ……そうとうヤバイもん発散してたけど、あれって殺気だよな……アンタって三家の娘どもと……まさかマブダチでそっち系の人間ってことか? ……え? 違うって? ならあの娘らとどういう関係よ? まさか3人の内のどれかが彼女ってことは…………はぁあ? なによ普通の関係って……まぁいいや。あのよ~~あの3人ってどこの高校行くのよ? 地元の高校だよな? まさかこっちの高校なんかに来ねぇよな? え? 知らんって? 俺よ~アンタと同い年の弟いるんだよな。来年高校よ~。あの3人娘と同じ高校だったら地獄だぞ。な~知ってんなら教えてくれって………あ…ここだ、ここがシャープってカラオケ……わかったって、俺が部屋まで案内すりゃ~いんだろ」


 そいつは受付で、人探してるだけだから見つけたらすぐ帰る、と言って通って行った。そしてひと部屋ひと部屋窓から覗き込んで行く。


「いたいた、ここだ」


 そう言った途端、ノックもせずにドワを開け放った。

 歌ってた奴も手拍子をしてる奴も男は全員が立ち上がり、


「なんだデメェーーー!」


 男が3人と女も3人いた。そしてその女の1人が、


「あ……春山……君」


 俺のことを知ってるらしい。こいつらが村上さんが言っていたG組のお股の緩い3人組なのだろう。


「おいおいおい、別にお前らに因縁つけにきたんじゃねぇよ。だからそんなに息巻くなって。この皮ジャケットのお兄さんがな、同級生の女探してるって言うから、親切に案内してやっただけだから。どうやらドンピシャって感じらしいしな。ああ、ついでに言っとくけど、このお兄さんまだ中坊だから、デカイけど。そんでもってわざわざ遠くからおいでくださったもんで案内してあげたんだけと……佐舞久留中らしいぜ、その女3人も」

「なっ……なにいいいいいいいいいいい! うっ、嘘つくんじゃねえええええええええええ! ちっ…違うよな……あんな気味の悪い中学じゃ……ないよな…おい…なんとか言え!!」

「悪かったね! 気味の悪い中学で……そうだって、アタシら全員佐舞久留中の3年だって、だから何! っざけんなよ、カッコばっかりつけやがって、ヘタレ高校のボンクラが! 楓子、ユキ、帰るよ……せっかく楽しんでたのに……春山君、あんたのせいだからね!」


 そう言ったのがリーダー格のようだ。こいつが2人を呼んだ名前からすると城地ルミなんだろう。


「あんたが城地ルミか?」

「へ~~アタシの名前知ってたんだ。ヤリたいんならそう言って、考えてやってもいいよ」

「悪い、タイプじゃないわ」

「チッ……」

「田川真奈美探してる。知ってるよな?」


 俺がそう言うと、城地ルミは俺のつま先から頭の天辺までを舐めるように見て、そして仰け反って笑い始めた。


「へーーーそういう事か。どうりで、変だな~って思ってはいたんだよね。あんた佐藤静香とセックスしてるんだろ? 別にそんなのどうだっていいけどさ~、でも真奈美のこと探しに来たんだ。それって今更なんでって感じなんだよな。アタシも不思議だったんだ。なんで急に真奈美がウチらのグループに近づいてきたのか。やっと分かったわ。でもアンタは知ってたんだろ? 真奈美があんたに惚れてっるってこと。それ知ってて、真奈美のダチだった佐藤静香とヤってんだよね? なんで来のさ? 真奈美見つけてどうすんのさ? 放っておけばいいんだって。真奈美が誰と付き合って誰と寝ようがアンタなんかに関係ないだろ。ハハハ……今頃はもうヤラれてるだろうけどね」


 そうなのか、確かに俺は鈍い。田川さんのことなんかまるで気にしていなかった。


「お前の言う通りだ。俺が田川さん追い詰めたのかもしれん。だけど……田川真奈美はバージンなんだって。こんなクソ野郎とヤっちまっていい訳ねぇだろーーーが!」


 俺は突っ立ていた南部高校の名前も知らない誰かを蹴り飛ばしていた。


「テメーーも田川真奈美のこと狙ってやがったのか! クソ野郎が!」


 もう一人の南部を殴り、更に残りの南部には飛び蹴りを食らわした。


「ちっ……皮ジャケットの兄さん、しゃーねーから加勢するぞ!」

「やっ、止めろ、止めてくれ……俺達知らなかったんだ……女が佐舞久留中だったなんて……アンタが探してる女…真奈美って女は……聡が連れてった。きっと近くのラブホ行ったんだと…」


 俺はその店を飛び出した。近くのラブホって言うんだから近いんだろ。走っていると、


「違う! 逆だ逆! ラブホはこっちだ!」


 ここまで案内してくれた北旺の人が指をさして叫んでいた。そっちに向かって走りに走った。

 俺は見つけてどうする? さっき城地ルミが言ってた通りなんじゃないのか? 田川さんが誰と付き合って誰と寝ようがそれは田川さんの意志だ。そこに俺が行って何を言うんだ? 俺はいったい何をしたい?




「いやだ……いやだって……私……そんなんじゃない……違う…違うの……お願いだから止めて…」




 見つけた。あれだ。よく解らないが男と揉めているのが田川真奈美だ。揉めてる理由なんかどうだっていい。後から聞けばいい。


「田川真奈美!! こっちに来い!!」



「ぇ……春山君……なんで……」




 薄いピンク色で随分と短いワンピーを着て、ヒールの高い靴を履き、赤い唇で上を向いた睫毛がいつも以上に多い田川真奈美。そんな格好を見られたくないのか、それともラブホの前で男といるところを見られたくなかったのか、その場にしゃがみこんでしまった。だけどどうだっていい。とにかく連れて帰る。


 近づいて来る俺を見て、男が後ずさりを始めた。


「あっ…あんたの女なのか? おっ、俺…なんもやってないから……だっ…だから……」


 振り返って一気に逃げて行った。


「春山君って言うんだ。悪いけどよ~~春山君はどこの高校行くのか教えてくれないか? あんたヤバイわ。普通じゃねぇよ。出来ればこっちの高校来ないでくれる? ああ…邪魔だね…俺。行くわ」


 道路にペタンと座り込んだ田川さんは手で顔を覆い泣いていた。ヒールの高い靴の片っぽが傍に転がっていて、膝を擦りむいていた。


「ほら帰るぞ、おぶされ」

「ぇ…………」


 一瞬こっちを向いたが下を向いてしまった田川真奈美。舗装道路にポタポタと涙が落ちていた。


「いいからおぶされ」

「………うん」


 まだ人通りの多い時間帯のあまり知らない街。行き交う人の目が注がれる中、田川さんは俺の首にギッチリと腕を回し、そして背中に顔をうずめて泣いていた。


「覚えてる? 6年生の時のキャンプで肝試しやったろ。あん時は最後までおぶってやんなくてゴメンな」

「うん……」



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