第18話 女子トークと或る検査
どうして俺は笑っているのだろう。そうだ、神取に前蹴り食らわした時も笑ってる自分に気づいたんだ。あれ…前にもあったような気がする……剣道の試合の時だ。審判から不謹慎だって注意されたことがあった。
権藤さんに蹴られて蹲ってる奴に残りの5人が駆け寄って行くのが見える。どいつからヤろうか。あ、目が合った。アイツに決めた。へ~~、自分が標的にされたの分かるんだ。あれ…上段に振りかぶった。少しは経験あるんだ。けど遅い。そんなんじゃ左に踏み込む俺についてこれない。
俺は左足を大きく踏み込み、そいつの右手側に回り込んだ。一歩目。
バギッ
振りかぶっていたそいつの右手首に小手が入った。鈍い音がした。こいつきっと倒れ込む。邪魔になる。そいつが倒れ込む前に右足で蹴り飛ばすと、その後ろから次の奴が走ってきていた。バカみたいに木刀を振り回して。
俺の木刀は切先が地面を指してる。どうしようかな…振りかぶり直すとワンテンポ遅くなる。木刀を返そう。右足はまだ浮いていた。左足を軸に頭を地面スレスレに下げ左手を木刀から離した。右手で持った木刀がそいつの右手首を下から払い上げた。
バギッ
後ろから別の奴が来ているのは知っていた。やるじゃん。いい判断だけど次の俺の動きに対処できるの? むやみに突っ込むのは相手見てから決めたほうがいい。
払い上げた右手の勢いを借り、俺は振り返りながら飛んだ。そいつの驚いた顔が見えた。もう遅い。俺の間合いに入ってる。着地と同時にそいつの左手首に小手が入った。二歩目と三歩目。
バギッ
三歩で3人倒した。あはははは…
俺は声を上げて笑った。
後ろから別の奴が叫びながら走ってくるようだ。無言で来いよ。振り向きざまの抜き胴から振りかぶっての小手って決めてたのに……
俺が振り向くと同時だった。大国照子のショルダータックルがそいつに決まり、そいつがぶっ飛んで行った。
「いつ来た……」
大国照子が近づいていたのが解らなかった。こいつ気配消してきやがった。
「ハル……凄すぎだ。朱海が茶道勧める意味が分った」
そう言って、大国照子は呆然と突っ立ている金髪野郎の方に歩いて行った。
「お前、アタシを犯すんだろ。やれよ、ほら、犯してみろっつてんだ!」
大国照子の強烈な右フックが炸裂し、金髪野郎は1mは飛んだ。
「春山君、笑いながら剣ふるってた。なんで?」
権藤さんだった。
「ああ、楽しかったんだ」
「叩きのめすのが?」
「いや……そうじゃない。まだこんなに剣が扱えて、それと…相手の動きが読めて、見えるのが…嬉しくて……楽しかった。それ確かめたくて、やる前からワクワクしてた」
「ふ~ん、凄いな。でも春山君のは剣道の動きに見えない」
「そっか……バスケの動きが混ざってるのかも」
「ハル、携帯で写真撮ってくれ」
見ると、素っ裸の金髪野郎を大国照子が引きずって来ていた。
「あああ!」
そう叫んだのは権藤さんだ。両手で顔を覆い、横を向いてしまった。
「偉っそうに回すだの犯すだのほざいといて、なんだコイツ? 弟とかわらん小っこさだ。おまけにホーケーときた。高3でもこうなのか? ハルはどうよ?」
「どっ、どうって……そんなもん……お前……」
顔を手で隠してる権藤さんが指の隙間から俺を見てるのに気が付いた。そして俺と目が合った途端慌てては斜め上を見始めた。
「そっ、そんなことより、テル……そいつを撮れっていうのか?」
「ああ、そうだ」
冗談じゃない。俺の携帯には佐藤さんのお宝画像が入ってんだからな。
「いや…ちょっと……俺の携帯にそんな写真……嫌だ」
「だったら彩音…何やってんだ? 顔隠して……こっち来て撮ってくれ」
「ムリ」
「もういい、アタシが撮る」
大国照子って携帯持ってたんだ。意外だ。そったらもん必要ない、ってタイプだと思ってた。うわ…バッチバチ撮ってるよ、手で隠したら引っ叩いたりして。コイツすげ~~な。
「お前、神取なんだってな。アタシは大国照子だ。今度アタシらの前に現れたら、この写真街中にバラまくぞ。そういうのヤられたいって変態いるって聞くけど、お前はどうよ? 変態なのか?」
「やっ、やめて……ください……もう絶対あなた達の前に来ません……変態じゃありませんから……その写真……消して」
「ムシャクシャした時、これ見て大笑いする。だから消さん」
グランピーは倒れて呻いてる5人を懸命に介抱していた。なんだろう、前もそうだったけど、妙な罪悪感みたいなものが残っちまた。
土曜日の午後。佐藤さんの家だ。
「ところでさ~、赤の会の……なんてったっけ? 首吊った人………あ~そうそう猪俣吉郎って信者。どの教室で首吊ったんだろう? 誰か知ってる?」
そう言ったのは村上さんで、その場には佐藤さんと田川んと俺がいた。なんだか居心地が悪い。
佐藤さんから携帯で連絡があったのだ。
「弟も遊びに行っちゃったし一人なの。うちに来ない?」
自転車立ち乗りして猛ダッシュで行ったら、佐藤さんの家の前で田川さんと村上さんと鉢合わせした。
「あ、春山君……もしかして…静香とデート?」
「いっ、いや……デートじゃ……ないと」
「なら一緒に遊ぼう! 私たちさ~暇してたから静香誘ってどっか行こうかって来たんだけど、春山君いるんなら、静香の家でいいよね」
「うん、いい、いい」
いや、俺の都合って全然聞いてくれない。でも聞かれても、そうだね、って言いそうな俺。
ドアを開けてくれた佐藤さんが俺たち3人を見て、
「ぇ…ええ? どうして?」
へ~~これが佐藤さんの部屋か~~かわいい……へ~~モモ電やってるんだ。あっ…ベットだ。村上さんと田川さん、平気でベットに座っちゃったけど俺にはムリだ。突っ立ってるのも変だし、どこに座ったらいいんだろう。佐藤さんはジュースとかお菓子取りに行ったみたいだし。とりあえず勉強机の椅子に座ろう。
ぎこちない俺はきっとこの椅子から動けなくなる、そんな気がする。
佐藤さんがポテチとジュースのペットボトル、それとグラスを4っつ抱えて戻って来た。それを無造作に床に並べると俺の隣に座った。それを見てニヤニヤしている二人。俺は自分がロボットのように動きが固くなってるのが分かってはいたが、どうにもできない。案の定、座った椅子から動けなくなった。そんな俺の事など知ってか知らずか、三人の女子は喋るわ喋るわ。凄いね。
話がひと段落ついたのか、村上さんが首を吊った赤の会の信者の件に話を振った。
本当に教室で首吊ったんだろうか? 警察の記者会見ではそう言ってたけど、そもそも何でウチ学校に来て首吊るのよ? 全然関係ないだろ。でも紅蓮大寿っが言ったように殺されたんなら……
すると田川さんが、
「先生達って知ってんだろうけどさ、箝口令敷かれてるっぽいよね。だってさ~私聞いたんだよね、近藤先生に。どのクラスで首吊ったんですか、って。そしたらさ~、あの近藤先生が……ホームルームでオナニーで我慢なさいって言っちゃった近藤先生がだよ、顔色変わっちゃって、そして一言、知らないって言って逃げるみたいに行っちゃったんだよ」
「マジ? でもあんときの近藤先生凄かったよね。オナニーってずばり言っちゃうんだもん」
これはダメだ。絶対会話に入れない。佐藤さんんもオナニーって言うんだ。やっぱ女って男とは別の生き物なんだ。
「でも噂は聞いた」
え…噂ってなんの噂? まさかエッチな噂じゃないよな? 話がポンポン変わっちゃって全然付いていけない。
「あくまでも噂よ、う・わ・さ……春山君、女子バスケの2年に京極麗奈っているよね?」
おおおビックリした。急に振るなよ。
「え……女子バスケって……大国照子しか名前知らない……あ…そう言えば大国照子が言ってなかったっけ? あら……あん時……アイツ来たろ……アタシも混ぜろや、って」
「あ~あ~あ~、春山君と大国さんで神取浩に焼き入れた時でしょ。うん、言ってた言ってた。身体も根性もないくせに変に色気づいて、自分が神取浩の彼女なんだから女子バスケ仕切るって言い出した女。そうだよ、京極麗奈って言ってたわ。大国さんにアソコ蹴られたらしいもんね。チョーうけたから覚えてる。っでその京極麗奈がなんかあるの?」
「あの日……保護者説明会があった日から学校休んでるって聞いた。2年C組らしい。春山君、バスケの方はどうなの?」
まただよ、急に振るなって。大国照子と2年C組にあいさつ回りに行った時のこと思い出してたんだから。あの時はいなかったはずだ。いたら大国照子が黙ってるはずない。
「バスケの方って……その京極って2年生がバスケの練習に来てるかってこと? いや、俺、女子バスケって、さっきも言ったけど大国照子しか知らんから……」
「春山君ってさ~、女子の名前と顔って全然一致してないんでしょ。私のこと誰だか知ってる? よかったね~静香、静香以外の女には興味ないみたいで」
そう言った田川さんがテレビのスイッチを入れた。
「なんか面白いのやってないかな~……あれ……え……ええええええええええ!」
「真奈美どうした? なに……あああああ……これって……神取美香?!」
テレビに映っていたのはウチの学校の生徒会長 神取美香だ。セーラー服着てるからきっと間違いない。その神取美香がアップでテレビに出てた。マイクを手で持って。なんなんだ? なにか喋るのか?
「私、処女です。大人のみなさんが疑うのなら処女膜検査受けます」
なにがどうしたのか全然解らないけど、処女だそうだ。だけど検査ってなに? 田川さんも村上さんも呆然とそんな神取美香を見ていた。それは佐藤さんも同じだっだ。




