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第16話 第三の事件と第四の事件

「小学の時に剣道を習っていたと、そう聞いた覚えがあります。さすがに正座はキチンと出来るみたいですね。でも黙想はどうです? もう出来ないのでは? 今試します?」


 黙想か……なつかしいな。やってやろうじゃないか。正座して…右手の甲を下、その上に左手の甲を置く。目は半眼。そして心の乱れを鎮めるために……無心……無心……無心……あれ? 無心ってどうやるんだっけ? 無心だ無心…え? 無心って……なんだっけ? 考えるな。考えるからダメなんだ。なにも考えるな……くっそ~佐藤さんのアノ写真がチラついてきた。どうなってんだ? なんで出来ない?


「春山義仁さん、顔がどんどん赤くなってきましたけど、いったい何を想像しているのですか?」


 そう冷ややかに言っているのは篠原朱海だ。




 今日から全ての部活動が再開となった。昨日のホームルームでそう説明があり歓声が上がった。俺はバスケ、佐藤さんは陸上。バスケの練習が終わったらグランドに迎えに行くから、と佐藤さんと約束している。


「あ…春山君、ちょっと待って」


 教室から飛び出して行こうとする俺を近藤先生が呼び止めた。何だ?


「あなた今日から茶道部員ね」

「サドウブイン?」

「うん、そう。茶道部の部員。だけど心配しないで、バスケと掛け持ちだから。まずは30分くらい茶道やって、それからバスケ。大丈夫、バスケの顧問には話しつけてあるから」


 意味が解らない。なんで俺が…お茶?


「理由はそのうち君自信でも解るはず。嫌なの? ふ~~~ん……そうなんだ」


 そう言った近藤先生は、急に俺の首に腕を回してきた。


「私見ちゃったんだ~~春山君の携帯。あの時、保健室で。そしたらさ~佐藤静香さんの水着の写真……あった。あれは~俗に言う~~フフフ……オカズってやつよね。ヒャッヒャッヒャ……エッチ。やるでしょ? 茶道」


 なっ、なにを言ってるんだこの先生は? まじまじと近藤先生の顔を見た。凄く距離が近い。


「あら赤くなっちゃって……でも大丈夫、私そういうの平気だから。みんなやってることだしね。あ、心配しないで、私以外誰も春山君の携帯なんか見てないから。もちろん佐藤さん本人も…ふふふ…エッチ」


 とんでもね~~

 ……とんでもないとしか言いようがない。なんども俺のことエッチって……あんたの方がエッチだ。でも言えない。くっそ~……悔しいけど図星だ。そうです、俺はエッチです。佐藤さんをオカズにしてます。もちろん佐藤さんには内緒だ……悪かったな。だいたいウチの学校に茶道部なんてあったか? それを言うと。


「うん出来たの、今日。……え? 部室? あ~~視聴覚室って3つあったでしょ。図書室の隣の視聴覚室って使ってないから、今日から茶道部の部室になったみたい。行ってみて……ふふふ…‥エッチ」


 人質取られた。

 近藤先生って女だよな? 29歳だっけ? けっこう美人だと思うんだけど、30近くなったらみんなあんな風になるのかな? いや、ウチの姉ちゃんはまだ19だけどもっと酷い。それに大国照子なんて14か15だ。バンバン触ってくる。女ってみんなそうなのか? 男とは違う生き物だ。もしかしたら佐藤さんもそうだったりして。そう言えばさっき近藤先生に肩組まれた時、大国照子みたいに触って来るかと思った。ヤバイな。あんまり近づかないようにしよう。ところで茶道部って誰がいるんだろう? 知らん人ばっかだったら嫌だな。俺って人見知りなんだよな。そう言えば母さんが言ってた。俺が小さい頃って凄く人見知りが強くって、何度も会ったことある人にさえ全然なつかなくって、「春山さんとこのボクは絶対に誘拐されないね」な~んて言われてたらしい。あ…ここが茶道部の部室だ。ちゃんと張り紙がある。「部員急募、君も茶道を体験し、日本文化に触れてみよう!!」だって。いや、別に俺、日本文化に触れなくてもいいし、すっぽかそうかな……近藤先生のエッチな笑顔が思い出され、すっぽかす気が失せた。


 戸を開けるとイグサの匂い。あっ、懐かしい。見ると視聴覚室の1/4くらいに畳が敷かれていた。いつの間に準備したんだろう? 

 畳の上には2人の女子が正座をしていた。そして釜の傍にいるのは、


「え?! 篠原さん……なんで?」

「なんでは失礼ね。私が茶道部の部長です。近藤先生から聞いてませんか? 茶道部の顧問になってもらったのですが……」

「まじ?」

「まじです」


 近藤先生が顧問って……やってくれるわ。でも篠原さんが部長なんだ。知らん人ばっかよりはマシだよな、と思いながら篠原さんの正面に座ってる人を見ると、こっちに背中を向けたままで振り返ろうとはしない。誰だろう? 歩いて行くと、


「え……権藤さん……」


 そう口にしたのに、その権藤さんは視線を斜め上に向けたままだ。

 あれからーー辺見友里恵事件があったのが先週だ。あれから何度か廊下ですれ違い、その度に「よう!」ってこっちが挨拶してるのに、いっつも顔を真っ赤にして斜めを上を見たまんまですれ違う。いったいなんなんだ、って思っていたのだが、ここでもかよ。だから偶然なんだって、触っちまったのわ。いつまで恥ずかしがったら気がすむんだ?


「アヤちゃんは裏千家なんですよ。私は表千家ですので流派は違いますが、ここでは作法を教えるのではなく、茶会というものを中心に、参加者が気楽にお茶を楽しむための場としていこうと考えてます」

「アヤ……ちゃん? 権藤さんが?」

「だっ、だから、ちゃんはダメ!」


 ようやっと権藤さんの声が聴けたと思ったら、よけい真っ赤になった。


「あら、どうして? アヤちゃんも私のことウニって呼んでいるでしょう」

「ウニ???」

「そう、ウニ。私の名前は朱海と書いてアケウミと読むのは知ってますよね? 普通ならアケミと読むのでしょうが。私とアヤちゃんは小学校は違いますが幼い頃からの知り合いなのです。知りませんでしたか? 幼い子にはアケウミは言い難く、私の事をウミ、ウミと呼んでいたつもりだったのでしょう。でも舌が回らなかったのでしょうね、ウニ、ウニと聞こえておりまして、でもその内にハッキリと、ウニ、と言うようになりまして、人前では恥ずかしいのかアケウミと呼んでいるようですが」

「いいから彩音って呼べ」

「呼び慣れたものでなければ舌を噛んでしまいそうで、嫌です」


 でもあの時は権藤彩音さんって言っていたような気がする。それを言うと。


「ええ、あれほど大変なときでしたのに、アヤちゃんが、人前でのちゃん付けは止めろとクドクドと言いますから気を使いまして、そのせいで案の定舌を噛みました」


 面白い二人だな。

 権藤さんを見ると俺を見ていてちょっとの間目が合っていたのだが、俺と目が合ていることに気が付いたのか、慌てて目を逸らし、その目は明らかに泳いでいた。ちょっとカワイイかも。


「顧問の近藤先生から春山義仁さんを茶道部に入れて欲しいと頼まれました。あなたが茶道を少しでもかじる事に私は大賛成です。小学の時に剣道を習っていたと、そう聞いた覚えがあります。さすがに正座はキチンと出来るみたいですね。でも黙想はどうです? もう出来ないのでは? 今試します?」


 そう言われ、黙想をしてみたが全くダメだった。挙句の果てには佐藤さんのアノ写真がチラつく始末。なんでだろう? 剣道やってた時は出来たのに。なにも考えないってこんなに難しいかったっけ?


「近藤先生は空手道をたしなんでいるようですので、おそらくは解るのでしょう。剣道、柔道、相撲道、空手道、そして茶道。道とつくものには共通するものがあります。心です。この前のことで、あなたの心の奥が少しですが分かった気がします。茶道はきっと春山義仁さんのためになります」


 俺の心の奥? ドキっとした。俺がエッチだってこと? まさかそんなこと解るはずない……と思う。

 隣に座る権藤さんは誰もいない壁の方に顔を向けていた。そうだ、権藤さんだって結構エッチだと俺は睨んでる。なら黙想なんてきっと無理だ。


「権藤さん出来る? 黙想」

「……当たり前」

「ふ~ん、ならやってみせてよ」

「………」


 いきなり始めたようだ。だが俯いてる。それってなんだかズルい気がする。そんな権藤さんの顔を下から覗き込むと、薄目の奥にある黒目が素早く動いた。


「今こっち見たろ!」

「ちっ、ちがう! 見てなんかない!」


 そんな俺と権藤さんのやりとりなど全く相手にしない篠原さんは涼しい顔でお茶を点ていた。そしてそのお茶を勧められ、飲み干した後に聞いてみた。まさか茶道部がここにいるだけって事はないだろうから。


「ところで茶道部って、他に誰いるの?」

「今日が発足日ですから、まだ3人です。でもこれからどんどん増えますよ。春山義仁さんが部員なんですのも。あなた女子に人気ありますから。私とアヤちゃんの二人が、春山義仁さんとお茶でもしませんか~ っていっぱい宣伝します。凄い人気の部になるはずです。でも下級生は無理ね。アヤちゃん怖がられてますから。それと私も……どうして私までアヤちゃんと一緒に怖がられてるのでしょう?」


 いや…ツッコミどころいっぱいあって、なんて返せばいいのか解らないから黙ってたけど、独鈷杵なんてもの俺は初めて見たぞ。あれって武器だよな? そんなもん絶えず持ち歩いてる女子って十分怖いから。それに篠原さんって変わった。小学の頃はなんとなく新井さんに似てて、従姉妹だって聞いた時なんて、あ~なるほどなぁって思ったけど、久々に見たら随分と綺麗になっててビックリ。でも、なんだろう……キリっとしすぎちゃって、氷の美少女って感じ。髪型のせいかな? あれってポニーテール? 後ろで一つに纏めてるからそうなんだろうけど、普通はゴムやリボンで縛ってるんじゃないのか? でも篠原さんのって黒っぽい紐でグルグルに巻いて、その部分が5センチくらい棒状で立ってるから、チョンマゲ? 総髪の侍のようだ。だけどそれが妙に似合ってるから宝塚の男役にも見えるけど、ちょっと見は怖い。

 そんなことを考えていると隣に座ってる権藤さんがチラっと俺を見て、そして慌てて別の方を見たのを俺は見逃さなかった。どうやら自分も篠原さんと一緒に、春山君と~ なんて宣伝活動するのが嫌なんだろう。だけど俺だってダシに使われるの嫌だから。ただ顧問の近藤先生が人質取ってエッチな顔して脅してくるし。



 茶道部を途中で抜け、バスケに行くと当たり前のように大国照子が男子に混じっていて、誰よりもデカく、誰よりも激しい当たりで、なんだかいつもの日常に戻った感じがして嬉しかった。


「ハル、曲がってる」


 3年になっても全然変わってなく、嬉しくない。


 部活の帰り、佐藤さんがちょっと気になる事を言っていた。


「知ってる? 赤の会って」

「テレビのニュースでやってたの見たことあるけど、あれって西日本じゃなかった?」

「うん、そうなんだけど。急に北に向かって移動を始めたって。それでね、これは噂なんだけど、北海道に向かってるんじゃないかって。あれってさ~不気味っていうか……ちょっと怖いよね」


 そんな佐藤さんの話もあり、家に帰った俺は晩飯の後も2階に上がらず、テレビニュースを見ていた。



 児童買春容疑で逮捕拘留されていた佐舞久留中学校の岡田清教諭が嫌疑不十分で釈放された模様です。又、当時の捜査関係者への取材で明らかにされていた、同町で発生した主婦殺害事件への関与をほのめかしていたとの情報については、警察からのコメントは一切ありません。岡田教諭の弁護士は、違法な捜査に基づく誤認逮捕であり、更にはありもしない殺人容疑をでっち上げた警察を激しく非難しており、改めて記者会見を開き、岡田氏の名誉を回復するよう訴える意向を示しております。これによって同町で発生した主婦殺人事件の捜査は振り出しに戻ったと言えるでしょう。繰り返します……


 なんだこれ? 岡田帰ってくるのか? そういえば権藤さん言ってたな。神取一族の岡田を児童買春なんかじゃ絶対に有罪にできないって。それにアイツが殺人なんて出来っこないって。

 一緒にテレビを見ていた父さんと母さんもビックリして、俺を見ている。


「お前のクラスの副担任だったよな……」

「ああ、そうだけど……」

「こいつ…犯人じゃないのか?」

「犯人って…どっちの?」

「どっちって……お前…殺人の方に決まってるだろ」

「釈放されたんだから、そうなんじゃ……」

「だったら、まだ殺人犯がこの街うろつてるってことか?」


 それからが大騒ぎだった。母さんは家の固定電話で、父さんは自分の携帯で、誰かとずーーーっと喋っては、また違う誰かとの繰り返しを延々とやっている。

 俺はというと、先ずは新井さんから携帯に電話があった。2階に上がりながら電話に出ると。


「見た?!」


 相手が誰かなんて確認もしないで、いきなりそれだった。そして俺に喋らせるつもりがないのか、一方的にずっと喋り続けている。その内、新井さんの声に被さったツー・ツーという音。携帯を見ると佐藤さんからの電話のようだ。


「悪い、いったん切る」

「え……」

「後でかけなおす」


 これってどうやればいいんだ? よく解らん。あら、切れた、全部。慌てて佐藤さんに掛けなおした。


「ごめん、間違って切っちゃった」

「そんなのいいけど、見た?」

「ああ、見た」

「殺人犯まだ捕まってないってことだよね?」

「そうなるよな。佐藤さん、不用意に家から出たらダメだぞ、いいな」


 街中がパニックになるような気がした。なんせ殺人事件なんて起きた事がない街だ。そんな街で起きた殺人事件。容疑者さえハッキリしていないなんて、誰もがどうしたらよいのか解らない事態だ。なんとなくだけど怨恨ならまだいいような気がする。それが都会の方で起きた事件みたいに、誰かを殺してみたかった、なんて訳の分からない動機の犯人だったら……


 夜中の1時頃まで佐藤さんと喋っていた。そしてその後に新井さんに電話してみると直ぐに出た。


「どうやら明日…もう今日だね、臨時休校に決まったみたい」


 何処からそんな情報を得てるんだろうって考えながら新井さんの話を聞いていたら、部屋の扉がノックされ、母さんが、


「起きてる?………起きてるみたいだね。明日臨時休校って連絡きたから」



 朝のニュースでは新たな情報はなく、昨日の晩と同じ内容を繰り返していた。


 父さんは仕事に行き、母さんはパートを休んだ。というのも急遽、学校で保護者向けの説明会が開かれることになったからだ。朝の9時から。


 平日の昼間、一人で家に居ても暇だった。そうだ、自転車で佐藤さん迎えに行って家に連れてこようかな。それっていいかも。でも母さん帰ってきたらマズイな。俺が佐藤さんの家に行っても同じだよな。保護者会って何時ごろまであるんだろう? 長いんなら長いって言って欲しい。そうだ、二人で映画にでも行けば……いや、それって結局は同じことだ。信長の野望でも久々にやろうかな。でも、やり始めたら止まんなくなって何度も酷い目に遭ったのを思い出した。あと1ターンでやめよう、やっぱりもう1ターン、うわ攻められた、くっそーーって結局朝までやっちまうのが俺なんだよな。だから封印してたんだ。結局は何もできなくて腹が立ってきた。


 また新井さんからの電話がきた。ちょっとイラつていたこともあり、どうせ新井さんも暇を持て余して電話してきたのだろうからと放置していたら、いつまでも鳴りやまない。


 仕方ないので通話ボタンを押すと、いきなり物凄い早口でーー


「やっと出た。なんなの! こんな時間からオナニー?」

「なっ……そっ……そんなの……おっ、おまえ…なにいって……」

「そんなのいいからテレビ見てる? 見てないなら直ぐに見て! 大変なことになってるから」


 テレビを点けると臨時の記者会見が行われていた。警察の。


「どの局でも同じだから」



 本日、佐舞久留中学校の教室内で男性が首を吊っているのが発見され、その男性の死亡が確認されております。死因は首を吊るために使用したロープによる縊死。又、遺体付近に遺書らしきノートがあり、そのノートには、佐舞久留町で発生した主婦殺人事件の犯人の遺体は〇〇橋の下にあります。私が犯人を見つけ、神の代理としてロープで首を絞めて殺し、橋の下の投げ捨てました。とあり、〇〇橋に捜査員を向かわせたところ、遺体を発見いたしましたが、身元を確認できるものが無く、現在、調査中であります。更に、その遺書らしきノートには、佐舞久留中学校で起きた女子児童の転落死についても、同じ犯人による佐舞久留中学校屋上からの突き落としによるものと記載されており、この点についても捜査中であります。


 なに?! 犯人を殺した? 神の代理? 女子児童の転落死って……ミヤコって3年の吹奏楽の…俺が見た…あの女か? 突き落とされた? 同じ犯人? 頭が整理できない。え? なんだって? その神の代理ってヤツも死んだのか? 首吊ったってのが神の代理か? 神の代理って誰よ? この街の人間か?


「もしもし! もしもし! 聞こえる? ちょっとーーーー!」


 新井さんの声が聞こえるが、頭が働かない。それでもテレビから目を離せなくなっていた。多くの記者が手を挙げ、質問をしていた。


「首を吊って死亡が確認された男性の身元は?」

「捜査中です」

「橋の下に放置されていた遺体の死因は?」

「現段階ではノーコメント」

「2体の遺体が発見されたということですね? それぞれの死亡推定日時は?」

「橋の下に放置されていた遺体の死亡推定時刻は、昨日の17時から21時の間。首を吊った遺体の死亡推定時刻は、22時から26時の間」

「女子児童の転落死は、そのノートにあるように殺人だと警察は考えているんですか?」

「捜査中です」

「首吊り遺体の第一発見者は? それとその首吊りの現場となった佐舞久留中学校では、先週、オカルトめいた騒ぎがあったと聞きましたが、その騒ぎとの関係は?」

「第一発見者については佐舞久留中学校に通う生徒の母親。騒ぎとの関係は捜査中です」


 オカルトめいた騒ぎって…あれだよな。

 そんな事を考えながら観ていると記者たちが騒めき始めたのがテレビ越しにも解った。会見をしている警察の人も怪訝な顔で記者席を見ている。どうしたんだろう? 警察の人が騒めく記者たちに何かを言おうとした時だ。会見をしている警察の人に誰かが足早に近づいて来てメモを渡した。


「なに……どういうことだ」


 それは警察の人が思わず発してしまった言葉のようだが、そんな声までがマイクに拾われてしまったと気がついたらしく、慌ててマイクのスイッチを切っていた。だが記者の誰一人、そんな警察の失言など気にしていないどころか、彼らは皆、携帯電話で誰かと喋っていた。


 テレビの場面が変わりスタジオからの女性アナウンサーが映された。おい、どうした? なんで…


 警察による記者会見の途中ですが、臨時ニュースをお伝えします。

 宗教団体 赤の会の教祖 紅蓮大寿氏が記者会見を開いたとのことです。…………え?! 中継が繋がる? ほんと? ………失礼しました。この時間は宗教団体赤の会教祖 紅蓮大寿氏による記者会見のもようをお伝えします。




 佐舞久留中学校で首を吊った状態で死亡が確認された男性は赤の会の信者 猪俣吉郎である。警察はなにゆえ信者猪俣吉郎の名を伏せるのか。信者 猪俣吉郎は佐舞久留町に潜む悪魔の手先を神の啓示によって知り、そして神の代理として、その悪魔の手先を死に至らしめた勇敢なる信者であり、その名は広く褒め称えるべきものである。警察はなにゆえ勇敢なる信者の名を伏せるのか。又、自らの手で己の肉体を死に至らしめる行為は神の意志に反する重罪であり、敬虔なる信者であった猪俣吉郎が神の意思に異を唱えた行動を取るはずもなく、これは偽装された殺人であることを神の名に置いてわたくし紅蓮大寿がここに宣言する。


 それっきり黙り、カメラを睨みつける男。異様な眼力の持ち主だとは解るが、いったいなんなんだ? 新井さんの声が聞こえた。


「まだテレビ見てる?」

「ああ……見てる」

「このオヤジが赤の会の教祖なんだ……」

「ああ…そうらしいな」

「ちょっと基地外じみてない?」

「ああ…そうだな」


 この記者会見にも何人かの記者がいるようで質問をしようと手を挙げたが、それを指名する司会者的な人がいないらしい。紅蓮大寿は手を挙げた記者の方を見もしない。


「あの……質問しても……よろしいのでしょうか?」


 大きく頷いた紅蓮大寿。


「猪俣吉郎なる人物は……代理で殺人を犯したという説明でしたが、それは……殺人教唆では?」

「愚か者! 神の意志を人間ごときが裁くとでも言うのか!」

「すっ、すみませんでした! もう一つ質問が……佐舞久留町に潜んでいた悪魔の手先というのは、これでもういなくなったという……」

「ちがーーーう!! あの町は……佐舞久留という町は、別の世界と繋がってしまった。それを知った悪魔の手先が入り込んできたのだ。繋がってしまったこの世界の切れ目から。まだ来る……切れ目がある限り邪悪な奴らが……来る」

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