第八話 迷宮を彷徨く
あたし達は魔力障害の現場付近の、あの空き家にいた。開戦の時は近いみたい。近いっていうか、もう数時間で魔霊が現れそうだとか。戦いに備えてみんなはそれぞれの武器を手入れしてる。シロエさんは木で出来た大剣を。マグドさんは札を。モズさんは杖を。そんな中、あたしは何をしてるでしょう?はい、あたしは魔力車の運転をする練習をしてました。
この空き家に戻って来るまでの移動時間中に、モズさんがあたしを採用するって決めた理由を聞いた。あたしは魔法の力が歪で、魔力はたくさん持ってるくせに、それを魔法として使う才能は一切無いんだとか。これは基本的に努力しても変わらないみたい。だから戦力にはならないと割り切って、こうやって有り余った魔力を躊躇なく魔道具に使える。
それに、本来なら本島にある「レイブルス第1-1地区大陸中心部」から戦闘の出来る部下数人に来て貰う予定だったけど、この急な魔霊襲来でそれは間に合わないってなったらしい。だから、少数で魔霊を倒さなきゃいけない領主陣営としては一人でも人手が欲しかった。だからこそ、あたしを受け入れざるを得なかった。
多分モズさん辺りは、自分にとって都合が良すぎて困っただろうなー。追い出そうにもよっぽど大きい追い出す理由を見つけなきゃな状況になっちゃったし。まぁこれまでが散々だったし、こんぐらい良いことも無いとね。
その他にもずっと聞きたくても聞くタイミングを逃し続けてた魔法の種類に関する話も入り口みたいなところは聞かせて貰った。この世界の魔法は火、水、風、妖、氷、雷、光、闇の8属性に分類されること。それから、魔法は有機物に定着しやすい性質があるみたい。だから金属にはあんまり定着しない。こっちの世界に木製の建物が多いのは、魔法で丈夫な建物を作りやすいかららしい。丈夫なだけじゃなくて、魔法による強化のおかげで木製にも関わらず地球の建物と比べて火事にもなりにくいらしい。
話を戻そっか。そんなわけであたしは魔力車の運転をする練習をしてるんだけど、これが想像以上に難しい。運転中のモズさんの口数が一気に減るわけだ。疲れて魔力車の練習を中断して伸びをしたら、視界の端に銀色の光。魔力車のドアを開けたら、その隙間からその光が入ってきて、あたしの肩に止まる。その光の正体は鳥。ブレスレットの遠隔電信魔法とやらの、あの鳥。あたしは連絡手段として、生前バッシュさんの使ってたブレスレットを使うことになった。正直、亡くなった人のお下がりってのもあんま良い気分じゃないけどね。
くちばしを叩いて紙飛行機に戻してあげて、内容を確認する。そろそろ魔霊が現れそうとのこと。なんとか運転をものにしたあたしは、魔力車を運転して空き家に戻った。
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なんとか無事故で目的地に到着した。これでも初心者にしては良い方だったみたい。あたし達の目に映るのは、あの日の魔力障害が起きた現場。あたしとシロエさんが出会った場所も、この近くにあるはず。
「確実にこの座標に現れるとは限りません。二手に分かれて動いてはいかがでしょう。」
なんかモズさんが不穏なことを言い出した。正直な話、嫌な予感しかしない。マグドさんに視線を送って助けを…駄目だ。我関せずを貫きたいらしい。視線を逸らしてくる。そんなにモズさんと事を構えたくないの?まぁ、気持ちは分かるけど。
「ですがモズさん。二手にって言っても、どう分けるんです?」
「あなたとマグド、私と使用人。この班分けが良いかと。」
あからさまに嫌な予感がするんだけど。悪意しか感じないんだけど。こんな状況になってもマグドさんは助け舟を出す気は無いらしい。何事も起こらないのを期待するしか無い。ただ、これだけはしておかないと。
「あ、ちょっと質問良いですか?」
「何ですか?」
「その班分けにした理由が知りたくて。教えてくれますか?」
「簡単な話です。領主とマグドは、瞬間火力は高い反面持久戦にはあまり向かない。戦闘能力の無いあなたと組ませてしまえば、私達が発見の連絡を受け取って救援に向かうまでに落とされる可能性がある。その点、先程私が言った組み合わせにすれば。私が足止めに専念すればあなたが領主達に救援申請し、二人と合流するまでの時間を稼げる。領主側に現れた場合、私が援護する間も無く力技で押し切れるかもしれません。」
なるほど。ちゃんと理由はあるんだ。知識が足りないあたしでも理由としてしっかりしてるし、どうにか欠点を搾り出して反論しても何にもならなそうかな。
「うーん。流石にシロエさんと僕で押し切れるっていうのは楽観視し過ぎじゃないかな?それに、僕の魔法ならユウリさんを駒として腐らせずに済むはずだよ。」
「それをしたら、あなたの戦力も落ちるでしょう。それから領主とあなたで押し切れると判断したのは、魔力障害後の魔力の乱れが直ぐに直ったから、通常の魔霊より弱い可能性が高いと判断しただけのことです。」
「まぁ、それもそうだね。」
あたしにきちんと助け舟を出そうとしたっていうポーズをとりつつ、モズさんにそれとなく追加の説明をするきっかけを作ってる。やっぱりこの人が一番底知れないなぁ。まぁ、誰かさんと違って危害を与えてこようとしないだけマシか。
「分かりました。では、基本的にはモズさんの考えた方針で。何かあったらすぐに連絡を。」
「分かりました。」
「かしこまりました。」
モズさんと二人きりなのは不安だけど、こんな状況になったからにはよっぽどのことがない限り手を出してくることはないはず。そう考えながら、あたし達は魔霊の捜索を始めた。
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あたしとモズさんは、魔霊を探して歩き続けてた。そんな中、見覚えのある場所が見えてきた。その場所に一歩ずつ近付いて行って、そして通り過ぎようとする。早く魔霊を見つけた方が良いことは分かってる。今回の件を上手く終わらせれば、いつでも見れることも分かってる。それでも、その場所が気になって…あぁ、あのときの跡、薄くなってる。
「どうかしたのですか?」
頭では分かっていても、何故かこの場所で足を止めてたあたしに声をかけるモズさん。そっか。モズさんは細かい場所までは知らなかったのか。
「ここが、あたしとシロエさんの会った場所なんです。」
あのときの血に濡れた花は風にさらわれて無くなってるけど。地面にうっすらと残る衝撃波の跡と微かに黒く残る血の跡が、ここがその場所だってことを教えてくれる。
「ならば、この場所を中心に探しましょう。」
あたしが付いて来るのも確認せずに進むモズさん。仕方なくそれに付いて行く。少し立ち止まって、首輪に触れながら振り返る。視線を戻すと、相変わらず待ってくれなかったモズさんとの距離が開いてた。それを埋める為に早足で歩いた。この人といると、心も体も疲れるよ…
にしても急ぎ過ぎじゃないかと周囲に注意しながら歩く。空間の魔力の安定度合いとしてはそろそろ魔霊が出現しててもおかしくない。知能が低い魔霊が現れたっていう状況にしては静か過ぎる。前聞いた魔霊の情報と照らし合わせると…あぁ、そういうことか。
「随分と静かですね。」
「だから急いでいるのです。あなたも私の歩く速さに合わせなさい。」
ビンゴ。これは随分と面倒なことになりそうかなぁ。モズさんのもはや走ってるレベルの速さで魔霊を探していると、前方から物音。警戒しながら立ち止まり、その物音が離れていくか近づいて来るかを確認。少しずつ近付いて来てるってことが分かったモズさんは杖を構えて戦闘態勢に。杖の先から黒くて鋭いオーラが出てて、杖というよりは槍みたいに見える。
物音が大きくなるにつれて、目の前に一人の女の人が現れる。色白な肌色。茶色に近い赤髪をショートカットに。その髪色に合わない灰色の瞳。身長はあたしより少し高いぐらい。あたしが大体153cmだから、ざっと157cmぐらいかな?
「あの…道に迷ってしまったんですけど…」
話しかけて来た。
「あたし達ちょっと取り込み中で。詳しく道案内してる時間は無いんですよ。とりあえず、この森から出る案内をすれば良いですか?」
「それだけでもありがたいです。」
「という訳なので、モズさんは魔霊を追って下さい。」
「あなたに指示されるのは不愉快ですが…まぁ良いでしょう。」
あたしは女の人の手を掴んで元来た道に向かう。
「ちょっと、いきなり…」
「ごめんなさいねー、急いでるんで。」
数歩進むと、背後から鋭い音。隣の人が足を早めようとするのを、手を強く掴んで止める。その直後。急に周りの空気が密度を増したみたいな気怠さに襲われて。隣を見ると、きちんと道連れに出来たみたい。
「ハアァッ‼︎」
低くて重い、お腹から出した気合いが響く。発したのは、槍を構えたモズさん。モズさんの槍が女の人を貫こうとしたとき。光の壁みたいなのが女の人とモズさんの間に出てきて、槍のオーラを打ち消してただの杖に戻した。杖で殴られた女の人と、女の人を掴んでいたあたしはモズさんから離れるように吹き飛ばされる。背中から着地したあたしは衝撃で手の力を緩めたみたいで、さっきまで掴んでた女の人を離しちゃっていた。
「いきなり何をするんですか⁉︎」
いや、今の不意打ちを防いどいて、まだ誤魔化せると思ってるの?
「知らなかったのですか?この一帯は街の自警団により封鎖中。一般人が迷い込むはずなどないのです。故にあなたはただの迷い込んだ存在ではない。」
「…もう、気付いちゃったかぁ…両方。」
まぁ、あたしも気付いたからこそ掴んでたからね。
「バレているなら、名乗らせてもらおっか。僕は君達がトレイトジェルゴと呼ぶ魔霊だ。」
そんな、分かりきった前口上が森に響いた。