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第七話 ウツギの花とマグド・レイブルス

 領主館に着いた次の日の昼。洗濯物を干して掃除を終わらせて長くない自由時間を迎えたあたしは優雅に紅茶を嗜んでた。いや、優雅に出来てるかは分からないけど。向かいにはあたしと同じで紅茶を嗜むマグドさんの姿。


「ごめん。遅くなったね。」


「こうやっていろいろ教えてくれる時間を作ってくれるだけでもありがたいですよ。」


 ここはマグドさんの部屋。あたしの部屋と違って、執務室と寝室に別れてる。人を迎え入れる可能性があるからかな。そんなマグドさん。ずっとここにいたおかげで仕事が溜まったりしてないから、こうして午後は暇な時間があるみたい。その貴重な時間をあたしの為に割いてくれるなんて、まぁありがたい。実際の所は、暇つぶし半分、あたしもいろいろ知ってた方が多少は魔霊との戦いの役にも立つっていうのが半分ってとこかな?


「さて。今日は何について知りたいのかな?」


 そんなことを考えてることを知ってか知らずか。マグドさんはそう言ってカップに軽く口を付ける。


「今のところ知りたいのは、領主館でやってることについてですかね。時間があれば魔法についての話も聞きたいけど、今は後回しで。」


 少し記憶を掘り返してから、「モズさんのやってる仕事ならざっくりとした部分だけは知ってますけど。」って付け加えた。確かモズさんが来る前日にシロエさんから聞いたんだっけ。


 そんなあたしの言葉を聞いたマグドさんがカップをソーサーに乗せる。それと同時に、カチャっていう軽い音が部屋に響いて。それが消えないうちにマグドさんは話を始めた。


 曰く。マグドさんの仕事は、シロエさんの領地の税金や戸籍の管理をしてる部署のリーダーらしい。所謂、日本で言うお役所仕事ってやつだね。部署自体は第1-1大陸本土域ってとこにある王家にあって、マグドさん以外の人員もそっちにいるらしい。

 だったら、マグドさんもそっちにいた方が楽じゃない?って思ったけど、そこまで単純じゃないみたい。シロエさんが持ってた腕輪の魔道具もそう簡単に量産出来るものじゃないから、領民は元の書類を人力で運ぶ。だからその書類は、王家じゃなくて領主館に届けられる。それを受け取るのはただの下っ端じゃなくて、マグドさん本人である必要がある。そうしないと、その下っ端が資料を改竄する可能性があるからね。


 で、次にシロエさんの仕事。基本的には、領主館の顔。そして、領地にいる人々の魔法を使わなきゃ解決出来ないことを解決すること。個人的な用を解決してたらキリがないけど、痩せた土地を作物がよく育つ土地に戻すとか、大雨のせいで氾濫した川のせいで荒れた周辺の地域を元通りにするとか。そういった多人数に関わることを解決するのが仕事らしい。ちなみに、葬式の神父みたいなことしてたけど、あれは領主館の人を含めた大人数が亡くなったが故のイレギュラーみたい。本来は各葬儀場に勤める人が神父を務めてるとのこと。よくよく考えてみれば全部シロエさんがやってたら毎日葬儀場を回る生活になっちゃうから、当たり前っちゃ当たり前か。


 もうちょっと時間があれば魔法の話も聞きたかったけど、干してた洗濯物を取り込む時間になったし、それが畳み終わったら夜ご飯の用意もしなきゃだし、そっちの話を聞く時間は無いかな。まぁ、お互い明日も同じ時間空いてるから、どうしても今日聞かなきゃって訳じゃ無いけど。そんなことを考えながらあたしは庭に向かうのでした。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 はい。異常事態発生。伝達によると、想定より魔力障害の起きた場所の魔力の流れが安定してきてるみたい。良いことに聞こえるけど、魔力の流れが安定してるってことは魔霊の魔力体が完成に近づいてるってこと。本来ならあれだけの規模の魔力障害だったから、異常な量の魔力が滞留してるはず。その魔力を使って魔力体を作ろうとすると、かなりの時間をかけて強力な魔力体を作るはず。だからこんなに早いのは明らかにおかしいみたい。


「そのような訳で、あなたの処遇を今決める必要が出ました。判断材料として、あなたの魔力を調べさせて下さい。」


「分かりました。」


 夜ご飯が食べ終わったからゆっくりしようと思ってたけど、トラブルばっかりだなぁ。あたしはモズさんについて行く。辿り着いたのはモズさんの部屋。モズさんは部屋の鍵を開けてからパネルにタッチする。そう。こっちの世界で鍵として使われるあのパネルじゃない、物理的な鍵。掃除してたときから気になってたけど、何故かモズさんの部屋だけにある。


「こっちにも、魔法じゃない、物理的な鍵ってあるんですね。」


「えぇ。セキュリティを厚くして損はありませんから。」


 …シロエさんでもマグドさんでもなく、モズさんの部屋が一番厳重、ねぇ。怪しいけど、立ち止まったら話は進まない。入るしかないか。


「失礼します。」


 中に入ったら、部屋の作りはほぼほぼマグドさんの部屋と同じ。ただ、マグドさんの部屋と比べて飾り気が無い。シンプルな家具ばっかりで、使ってる人の趣味とかが見えない。そんな中で、古びた時計だけが異彩を放ってる。


「ここに。」


 モズさんが部屋の中心にある椅子を指差して寝室の方に行く。窓の外を見てたら、モズさんは割とすぐに出てきた。手には木と鉄が絡まってるみたいな輪っか。


「腕をこちらに。」


 言われた通りにすると、その輪っかを腕に通される。その輪っかから、レーザーみたいな真っ直ぐな光。それがあたしの手をスキャンするみたいに動いて、消えて。少ししたら、木が白く強く光った。


「これは…また面倒な…」


 ギリギリ聞こえる程度の声。多分、あたしに聞かせるつもりはなかったんだろうけど。


「この結果を二人にも共有して、あなたの処遇を決定します。それが決定して呼びに来るまでここで待っていなさい。」


「分かりました。」


 三人の多数決で決めるなら、モズさん以外の二人は採用するって言ってくれそうだけど、モズさんは一番下の立場のはずなのに謎の権力みたいなのがある気がする。この、今調べた魔法の才能がモズさんにとってどう作用するか。

 あたしはそっと首輪を触る。どこかひんやりとした感覚が指先を走って。さて、この首輪はあたしの枷になるのか、命綱になるのか…いっそあのとき死んでおけば良かったって思うようなことには、ならないといいな。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 数分後。モズさんに呼ばれて一階のダイニングに戻った。指先は冷たいまま。今にも腰から力が抜けそう。あぁ、そっか。あたし、見捨てられるっていうのが怖いんだね。


「お待たせしました。」


「いえ。そんなことありませんよ。どうぞ。お座り下さい。」


 あたしはゆっくりと音を立てないように椅子を引いて、座る。


「単刀直入に。私達は、あなたを使用人として雇用させて頂きたいと考えています。」


 …こんなに、あっさり。いや、ここまでいろいろやってきたし、むしろスタートラインに立っただけ。だけど、なんていうか。


「ありがとうございます。」


 結局、それしか思いつかなかった。思い付くより先に口が動いてた。自分がその言葉を言ったことを認識したときに、向かいにいるシロエさんが微笑んだ。


「ハザマさん、私と出会ってから初めて笑ってくださりましたね。年相応の表情が見れて、安心いたしました。」


「年相応って。シロエさんとそこまで年齢変わらないですよ。」


「いえ。今までがずっと、大人びた皮を作って一つの壁のようなものを作られていたように感じていて。それが無くなったような気がして、少しは信じていただけたのかもと思ったら嬉しくなったんです。」


 なんだ。思ったよりバレバレなんだ。それにしても、少しは信じる、ね。完全に信じるのは無理だけど、少しぐらいなら。


「何はともあれ、あなたは正式な使用人として働くことになったのです。領主の使用人としての自覚を持ち、勤労に励みなさい。」


「分かりました。これから末長く、よろしくお願いします。」


 …モズさんはさぁ。この人と分かり合えるのは当分先なんだろうなって思ったのと同時に、今日のところはお開きになった。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 あたしがさっきの会(?)の片付けをしている中で、モズさんだけが考え込むみたいに部屋に残ってた。


「明日はきっと、忙しいですよ。寝なくて良いんですか?」


「えぇ。もう少し、考え事をしてから眠ろうと思います。」


「そうですか。夜更かしはしないで下さいね。」


 あたしは空になったカップを持ってキッチンに向かう。カップを洗って部屋に戻ろうとしたら、まだ考え事をしてるモズさん。


「何をそんなに考えてるんですか?」


「あなたのことですよ。あなたを雇用したのが正解だったのか間違いだったのか、今でも分からないのです。」


「それ、あたしの前ではっきり言います?」


「聞いたのはあなたでしょう?」


 まぁ、それはそうだけど。なんていうか、もっと他に言い方とかあるじゃん。っと、いけないいけない。いま感情を表に出しても良いこと無いよね。集めれる情報を集めないと。


「そう言いながら、結局は私を採用してくれましたよね。何でですか?」


「一番大きな理由は、単純に多数決で負けたからです。それでも私が頑なに拒否すれば、あの二人ならば折れたかもしれませんが。」


「頑なに拒否しなかった理由は何なんです?」


「あなたの持つ魔法の才が、異様だったからです…私が言うのも難ですが、明日は早いです。魔力車の中で、秘書長にでも聞きなさい。」


 そう言い残してモズさんはダイニングを出ていった。にしても、二人きりのときだと大分口調を取り繕わなくなったなぁ、モズさん。そんなモズさんの後ろ姿を見届けてから、あたしは自分の部屋に向かった。

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