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第五話 モズ・レイブルスと菊の花

「初めまして。境界悠里です。あなたがモズさんですか?」


 その人が現れたのは、シロエさんの予想した通り四日目の昼だった。扉の前にいたのは、明るめな茶髪で、あたしに負けないぐらい目つきが鋭い、眼鏡をかけた女の人。


「話は、領主から聞いているようですね。私がモズ・レイブルス。あなたが仕えようとしている、シロエ・レイブルス領主の副秘書長を勤めています。以後、お見知りおきを。」


 これがモズさんか。何か怖そうな人だな。そういえば、確かモズさんは「副」秘書長なんだよね。あたし、シロエさんの秘書長のことは全く知らないや。まぁそれは後からシロエさんに聞けば良いし、上手くいけば毎日会うようになるから自分で知っていけばいいか。とりあえず今はモズさん。立たせておくのもダメだし、家の中に上がってもらう。


「私がここに来た理由は二つ。一つ目は、領主に今後の日程を伝える為。もう一つは…」


「あたしがあるじ様の使用人に相応しいか確認する為、ですか?」


「ほう。頭は悪くないようですね。」


「そうですかね?」


 なんか、怪しまれてる気がする。証拠も何も無いけど、あたしには分かる。きっと、あたしとこの人は根本的な部分が似てるんだと思う。だから、この人のことを嫌だなって思うのは、同族嫌悪ってヤツ。さて、これからどうしよっかな。シロエさん、早く戻って来ないかな。


「お茶淹れますね。」


「えぇ、お願いします。」


 モズさんがあたしのことをどう思ってるのかが気になり過ぎて、お茶を淹れるのにも集中出来ないや。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 彼女を見たとき、私は嫌悪感を覚えた。彼女の視線に発言。それに、私が彼女を疑っているということを分かっていた。いいえ。領主の使用人を希望した時点で疑われることを察していたというべきかもしれない。いずれにせよ、厄介な人物ということに変わりはない。この使用人希望者を使用人にして、シロエ・レイブルスが変な考えを抱いても迷惑。


 ひとまず、家事の能力、人物像(主にシロエ・レイブルスとの関係)。そこに大きな問題が無いと判断したら一度領主館に連れて行き、魔法の才能を調べる。この三つを総合的に見て、採用するか否かを決めるとしましょう。


 領主が帰り着くまで、彼女との関係は分からない。今は家事という観点から彼女を見てみましょう。どうやら、茶を淹れる腕は悪くないようですね。この家は長らく使われておらず、埃が被っていたはず。しかし、それを感じさせ無いほど掃除が行き届いている。窓から外を見れば、干されている洗濯物も見える。門外漢なので断言は出来ませんが、素人目で見れば問題が無いように見える。今のところは、家事という面では問題は無いようですね。人格面は要注意ですが。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 シロエさんが戻って来た。モズさんの視線が怖かったから、正直助かる。ちなみにモズさんは昼ごはんを食べてなかったらしいから、簡単な料理を作った。本当は凝った料理にしたかったけど、食べ過ぎて夜ご飯がお腹に入らないってことになるのも面倒だからね。


「おかえりなさーい。」


「おかえりなさい。無事で何よりです。」


「ただいま帰りました。モズさんも無事に着いたようで何よりです。外に魔力車が停まっているのを見ましたよ。お疲れでしょうし、ゆっくりして下さい。」


「お言葉ですが、彼女にもてなして貰い、充分休憩はしました。あなたさえ良ければ、計画通り日程の打ち合わせに入りたいのですが…」


「分かりました。」


 毎度恒例、食事しながらの情報開示。今回の魔力障害の被害者(シロエさんの従者と商人)の葬式は明日の夜。明後日の朝には、この空き家を出て領主館に向かうらしい。この空き家を使う時間、思ったより短かったなぁ。


「今日までで近隣地域には一通り警戒令を出しました。」


「じゃあ、明日はシロエさんもその葬式までゆっくり出来るんですか?」


「そうですね。掃除などの邪魔になるというのなら出かけますが…」


「邪魔になんかなりませんよ。」


「それなら良いですけど…」


 うわぁ。モズさんの視線が怖い。警戒されてるなぁ。それでもあたしには、やらなきゃいけないことがある。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 風呂から上がったあたしは、ドアをノックした。中から「誰ですか?」って声。それに答えてあたしが「あたしですよ。悠里です。ちょっと入って良いですか?」って言ったら、部屋の主は…シロエさんはドアを開けてくれた。


「どうしたんですか?」


「何かあった訳じゃないけど、ちょっとお話したいなって思っただけですよ。」


 あたしはなんとなく向かい合って話したくない気分だったから、向かい合うように置いてあった椅子を、シロエさんに背中を向けるような向きにして座った。そんなあたしに気を遣ってか、ガタっていう物音。肩越しに見たら、シロエさんもあたしに背を向けるように座ってくれたみたい。


「あたし達、今日までいろんな話をしましたよね。まぁ、話したってより、教えてもらったって言った方が良いかもしれないけど。そうやってレイブルスのことを教えて貰ってただけで、お互いの話は何にもしてこなかったなって。」


 あぁ。今更気付いた。あたしがシロエさんと向き合って話したくなかった理由。顔を、見られたくなかった。あたしは、今の自分がどんな顔をしてるかが分からない。こんなことを言っておきながら、今日は自分の話をする気なんて少しも無い。そんなあたしは、どんな顔でこの話を始めたんだろ。シロエさんに見られたく無いし、シロエさんの瞳に映る自分の顔を見たくなんて無い。


「思い返してみれば、そうですね。ハザマさんは、何の話がしたいですか?」


「そーですねー。」


 あたしは悩んだフリをする。最初から話すことを決めてるくせに。


「そうだ。前の従者の人の話とか、聞きてみたいかも。」


「…ジャックさん達の話、ですか。」


 ジャックさん。二日目の朝に、寝ぼけたシロエさんがチラッと名前を言ってたっけ。


「そうそう。そのジャックさんの話です。」


 シロエさんは答えてくれない。困って、戸惑ってるんだろうな。あたしがいきなりこんなこと言い出したから。


「それは、今するべき話でしょうか?」


「今日を逃したら、きっと当分の間はこんな話出来ませんよ。葬式の後、用事がたくさんあるんですよね?」


「だからといって、今日も…」


「明日、あるじ様は夜の葬式まで時間あるんですよね。少しぐらい夜ふかししても問題無いですよ。」


 それを聞いたシロエさんは、また黙る。失った辛さってのは、正直時間で多少薄れる。だけど、見ないフリをしてたら絶対に後から後悔する。荒療治でも、余計なお世話でも。あたしはシロエさんが従者の今回亡くなった二人の従者と向き合うきっかけになりたい。それが、あたしなりの使用人としての第一歩。


「ジャックさんとバッシュさんは、私が領主になるのと同時に領主館に配属されたんです。」


「バッシュさん?」


「私の護衛をしてくれていました。氷の魔法が得意で、氷の矢を使った射撃が得意だったそうです。幸か不幸か、護衛が働かなければいけないような状況に陥ったことは一度も無かったので、実際氷の矢を放つところも見たことはありませんが。その分、ジャックさんのお手伝いをすることもあって。お二人は、とても。仲が良かったんです。」


 シロエさんの声が、涙まじりに聞こえて。それも、そのまま二人との思い出を話していく内に普通の声に戻っていって。最終的にはあんまり夜ふかししないで、シロエさんは寝落ちしちゃったけど。でも、寝る前には明るい声で二人の話をしてた。だから、これで良かったはず。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「ずっと、ここであたし達の話を聞いてたんですか?」


「えぇ。まだ、あなたのことを信用した訳ではないので。」


 シロエさんの部屋を出たら、ドアの近くにモズさんが立ってた。


「下手なことしたら、痛い目見るのはあたし。だから、あるじ様の邪魔になるようなことはしませんよ。」


 それを聞いたモズさんは、一回足元に視線を見てから、またこっちを向く。


「確かに。あなたの首に隷従の首輪が付いている以上、あなたは領主と一方的な運命共同体です。しかし、だからと言って手放しにあなたを信用するわけにはいきません。」


 うーん。モズさんとあたし、なんか根本的に相性が悪そうだなぁ。


「別に、それで良いですよ。あたしのことが信用出来るまで、好きなだけ監視してて下さい。あたしは、正式に従者にさえなれればそれで良いので。」


 ちょっとイラついたから、吐き捨てるみたいな言い方になっちゃった。まぁ良いや。そのまま寝ようとすると、服の袖をモズさんに摘まれた。


「…何ですか?」


「最後に一つだけ。聞かせて下さい。あなたは何故、このようなことを?」


「このようなことって?」


「とぼけないで下さい。領主と二人で話したことです。」


 めんどくさい質問だなぁ。あんまり答えたくないけど、ごまかしてもバレるよね。


「今回のことに関しては、純粋にあるじ様の為ですよ。誰かがいなくなった悲しみは、時間と共に薄れていきます。けど、完全に消えることは無いんです。だから、思い出すときは出来るだけ笑顔で思い出せるように。」


 だから、今のうちに楽しい思い出を印象付けておく必要があった。シロエさんが二人のことを思い出すときは、二人の笑顔を思い出せるように。


「領主が死に後ろ向きだったせいで足元を掬われたら、あなたの命も危ういからですか?」


「そーいう考えも、なきにしもあらずって感じですかね。」


 そう。優しさだけでこんなことをした訳じゃない。そんなあたしの発言を聞いたモズさんは見定めようとするみたいにじっとこっちを見つめてくる。


「あなたの考えは理解しました。ですが…」


「はい、そこまで。これ以上うるさくしてあるじ様が起きたらかわいそうです。もし話を続けたいなら場所を変えましょ。」


「分かりました。今日の話はここまでにしましょう。では、最後に一言だけ。あなたの有り様は、とても歪に見えます。故に、私はあなたを監視する。それを努努、忘れなきよう。」


「分かりました。さっき言った通り、好きに監視してどーぞ。じゃ、おやすみなさい。」


 そんなピリピリした空気のまま、波乱の四日目は終わった。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 ちょっと時間を飛ばして、五日目の夕方。魔力障害の被害者の葬式まで残り10分ぐらい。手続きが長引いたってのは、被害者の身元を判明させるのに時間がかかったかららしい。その努力の甲斐あって、今あたし達の目の前には被害者全員の名前が書かれた位牌みたいな札。


「では、行きますね。」


「はい。気負わず頑張って下さいね。」


「分かりました。」


 シロエさんは控え室に行った。あたしとモズさんは、式場の後ろの方に用意された席に座った。こんなとき、スマホがあればなぁ。まぁ、仮にあったとしても遺族の人達から見たら明らかに不謹慎だから使わないだろうけど。

 そんなことを考えながら、あたしは会場を見る。今回の魔力障害の被害者は、ジャックさんにバッシュさん、商人二人の合計四人。その合同の葬儀となると、相当な数の人が集まっていた。


「そうだ。葬儀中にあたし達がやらなきゃいけないこととかってあります?」


「特別なことはありません。ただ、『こちら』に来たばかりのあなたには、作法は分からないはずです。その点に関しては、見様見真似で構いません。」


「要は、周りをよく見ろってことですね。分かりました。」


 そんな話をしてると、一人の険しい表情をした女の人がモズさんに会釈をしてから式場に入っていった。何だろ?


「今のは、元使用人であるジャック・コンパンの姉です。」


 元使用人、か。何か冷たいっていうか、他人行儀な言い方に聞こえる。


「そのジャックさんのお姉さんが、何でモズさんに会釈を?」


「ジャック・コンパン。彼女は、私が使用人として推薦した人物だったからです。私が彼女を推薦しなければ、彼女が死ぬことは無かった。故に、きっと私のことを恨んでいるでしょうね。あの会釈は社交辞令のようなものかと。」


 そんな風に関係を語るモズさんの目が微かに揺れた気がして。モズさんが、初めてあたしに感情らしいものを見せた気がした。


「そのことに対して、モズさんは…」


 そこであたしは口を閉じる。いつも通り感情を隠した目があたしを射抜く。


「私は、何ですか?」


「いや、やっぱりやめときます。」


「そうですか。」


 あたしから視線を前に移す。まぁ、さっきのは聞かなくて良かった。あんな質問で、それもこのタイミングで。モズさんの人柄を探ろうなんて、流石にどうかしてる。


「ただ、おそらく今質問を止めたのは正解でしょうね。」


「え?」


「前を見て下さい。」


 あたしの意図がバレたのかと一瞬だけ思ったけど、そうじゃないみたい。モズさんの言葉に従って前を見たら、見てない内に控え室にいたはずのシロエさんが位牌みたいな札の近くまで移動してた。白くてウェーブがかった髪を、細かく編み込んで後ろに纏めてる。緑色の瞳は、会場の光で宝石みたいに煌めいて見える。服装は、白いシンプルなワンピース。あたしが直したやつだけど、問題は無さげだね。シロエさんが札に一礼。それに合わせて参列してた人も一礼。あたしも急いで一礼。コンマ数秒しか遅れなかったし、目立たなかったと思う。

 そんな中、式場の横の扉から入って来たスタッフが小さい箱を持って参列してる人達の前を歩き始めた。遠くてよく見えないけど、持ってる箱に参列者の人達から何か集めてる。何やってんだろ。シロエさんも何かぼんやりとだけど光ってるし。例のスタッフが少しずつこっちに向かって来てるおかげで箱の中身が見えた。中身は…髪?あ、モズさんも来たときにスムーズに渡せるように髪の毛を抜いた。あたしも抜かなきゃダメっぽいね。ピッと一本抜くと、一瞬だけチクッとした痛み。それが痒く感じるようになって掻きたくなってきたけど、今は我慢かな。

 そうやって頭を掻くのを我慢してたら、例のスタッフが最後列まで、要はあたし達のところまで来た。モズさんがあらかじめ抜いてた髪を箱に入れる。次はあたしの番。箱の中身が見えた。狂気的に見えてゾッとしたっていう率直な感想は、きっと墓場まで持ってくんだろーなぁ。

 そんなことを考えながらあたしが髪を箱に入れる。これで全員分の髪が集まった訳だけど、何に使うんだろ?あたし達の髪の入った箱を持った人が札の方にゆっくりと歩いて行く。札の前にいるシロエさんの近くに着くと、膝をついて箱を捧げた。シロエさんがそれを右手で受け取る。受け取った小箱を持って、会場側を向くシロエさん。


「今回の件の被害者の方の、皆様の思いが、きっと結ばれますよう。領主、シロエ・レイブルスが祈ります。」


 箱から髪の毛が飛び出て宙を舞う。最初は気持ち悪いって思ったけど、その後に全く予想してなかったことが起きた。宙に舞っていた髪の毛が、光の粒になって解けていったの。その光の粒が札の下、被害者の遺体の方に向かって行く。粒が棺の中に入ると、棺の中から眩い光が溢れ出る。その光は式場を白く染め上げ、あたしを含めた参列者達はその輝きに目を細める。光が収まったらシロエさんがこっちを向いて、また一礼。それに合わせて、あたし達も一礼。数秒黙祷したら、シロエさんは式場横の出入り口から出ていった。


「皆様。本日は御参列頂き、ありがとうございました。式場後方の方から、ぶつからないようゆっくりご退場下さい。」


 さっき髪を集めてたスタッフが言ったら、後ろの方の席の参列者の人達が立ち始めた。あたしたちが最後尾だから、一番最初に出た方が良いかもと思って隣のモズさんを見る。けど、立つ素振りが全く無い。ここでシロエさんと合流する感じなのかな?あたし達が出ないと分かった後ろの方にいた人達が、式場の後ろの方の出入り口から出て行く。その足取りは、揃って重くて。もしも。あたしがいなくなったら、こうやって悲しんでくれる人はどれぐらいいるのかな?「あっち」では、今のあたしは多分行方不明扱い。それを悲しんでる人はどれぐらいいるのかな?それとも、邪魔者がいなくなったって喜んでるかな?同居人の「あの人」は、どうしてるのかな?そんな、縁起でも無いことを考えちゃう。あたしは無意識にぎゅっと手を握りしめてた。それに気付いたあたしが手を開いてみたら、切り忘れてた爪が掌に跡を作ってて。あぁ、本ッ当にバカみたい。あたしは、その跡を消すみたいに掌を揉む。


「さぁ、行きますよ。」


 掌を揉みながらぼーっと参列者の人達の流れを見てたら、いつの間にか立ち上がってたモズさんに声をかけられた。式場にいた人達は、みんな帰ったみたい。思ったより短かったなぁ。それとも、今回は合同だったからこんな感じだっただけ?いや、合同だから長くなるなら分かるけど、合同だから短くなるのは変か。そんなことを考えながらあたしも立つ。式場の横にある扉に向かうモズさんを追いかける。モズさんが扉を叩くと、普段着に着替えたシロエさんが出てきた。さっきまでのワンピース、似合ってたんだけどなぁ。髪型も何かわしゃわしゃ。式場のスタッフさんに結んで貰ったは良かったけど、それを急いで解いたせいでこんなことになったんだろーなぁ。せっかくの美人と綺麗な髪が勿体ない。


「モズさん。出発って、急ぎですか?」


「早く着くに越したことはありませんが、一刻を争う状況ではありません。」


「分かりました。じゃ、あるじ様。こっち来て下さい。」


「えっ?」


 あたしは華奢なシロエさんの手首を軽く握って、シロエさんが出てきた部屋の中に。部屋の中には、あたしが予想した通り鏡と洗面台があった。洗面台から櫛を取り出して、シロエさんの髪をとかす。


「えっと…ハザマさん?何故?」


「あるじ様って、割と自分のことに無頓着ですよね。無駄にあたしのことを気にかける割に、こうやって自分の見た目には拘らない。」


「式中ならともかく、移動中はお二人しか私のことを見ませんし。」


「あるじ様は領主なんだから、いつ見られても良い状態を保たなきゃいけないんです。それにいつもの髪型。後ろで緩く纏めるのは似合ってますけど、いつも纏める位置がバラバラです。これからは、あたしが朝起こしたときにセットしますからね。」


 …言った後にこんなこと言うのもアレかもしれないけど。もしかしてあたし、今相当恥ずかしいこと言った?やらかした。穴があったら入りたい。「まぁ、まだ使用人に決定した訳じゃないから、こんな偉そうなこと言えないんですけどね。」って言って誤魔化したけど、手遅れだよね。明らかに。


「…わかりました。」


 鏡がある。きっと、シロエさんはあたしの表情が見えてる。でも、シロエさんの表情を見る気にはならなくて。とかした白い髪を、リボンで纏めてあげる。簡単なポニーテールの完成。


「用は済みましたか?」


「はい。ばっちりです。」


 モズさんがこうやって急かすのも、今は都合が良い。


「じゃ、行きますよ。」


 あたしは座ってるシロエさんの手をとる。シロエさんは、どこか子供みたいに微笑んであたしの手を握って立ち上がる。さぁ、こっからどーなるかな。

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