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第三話 レイブルス樹立物語

 軽い金属音で、あたしは目を覚ました。窓の外を見ると、まだ薄暗い空に馴染んだものじゃない景色。どこ?ここ。あぁ、そっか。あたし異世界に来たんだっけ。こっちの世界にも目覚まし時計とかはあるらしいけど、今は手元に無い。だからあたしは、簡易目覚まし時計で起きることにした。作り方は簡単。商人の袋を解体して長い縄にして、その先端に鉄の重りを付けるだけ。それを大きめの皿の上に置いて、重りが付いていない側に火を付けるだけで、時間と共に少しずつ短くなって、最終的には重りが皿に落ちて音が鳴るっていう仕掛け。古代中国かなんかの時計みたいなやつを参考にしてみた。果たして、シロエさんの住む領主邸への本採用が決まるまで縄が足りるかどうか。いや、まだ不採用って可能性もあるんだけどね?

 そんなことを考えながら、リビングと昨日掃除しなかった箇所の掃除を終わらせてからちょっと裁縫をする。服すらこっちの世界に持ち込めなかったから、簡易的な服だけど。これがなきゃ買い物にすら行けないからね。あー。朝にやることが多いから仕方ないとはいえ、目覚まし早くセットし過ぎたかな?まだ頭がぼーっとする。仮の服作りもキリついたし、シロエさんが起きる前に朝ご飯作ろ。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「あるじ様。ご飯ですよ。」


 あるじ様ことシロエさんは、呼んだけどなかなか来ない。中に入っちゃおうかな?ただ、疲れてるかもしれないし。それにシロエさんは昨日、大事な人を二人も亡くしちゃったんだし、寝付けなくってもおかしくない。人がいなくなる辛さは…うん。分かるよ。


「あーあ、こっちの世界にサランラップがあればなぁ。」


 そうだ。昨日疲れてお風呂入らなかったし、シロエさん朝風呂入るかも。用意した方が良いかな?それもシロエさんが起きてから聞いた方が良いかな?とりあえず、先に服作りの続きやろうかな。そうやって作業を続けてもうすぐ完成って時に、少し早い足音。シロエさんが起きたみたい。


「あるじ様。おは…」


「もう‼︎ジャックさん‼︎どーして起こしてくれなかったんですか‼︎…あ、ごめんなさい︎。以前の従者の方と、混同してしまいました…」


「えーっと、状況がよく分かんないですけど。とりあえず、時間がもったいないし食べながら話しましょう。朝ご飯は冷めちゃったけど。」


 シロエさんと席について、昨日習った祝詞を唱えてから朝ご飯を食べ始める。もちろん、あたしから先に。うん。冷めてる。レンジがあればなぁ。


「えっと、先程はごめんなさい。少し混乱してしまっていて。以前の従者に対してと同じように話しかけてしまいました。」


 そう言われちゃうと怒れないなぁ。どっちにしろ、従者であり奴隷であるあたしが怒る側になるってのもおかしな話だけど。


「その辺は気にしなくて良いですよ。にしてもあるじ様。慣れた人の前だと、あんな子供っぽい感じになるんですね。」


「からかわないで下さい‼︎ただ寝起きで、少し頭が回ってなかっただけです。」


 よし。これでシロエさんの元気も少しは戻ったかな。


「それで、今日はあるじ様、何か用事が?」


「えぇ。昼どきまで、周辺地域に警戒令を出しに行きます。詳しい事情は、いずれ話します。なので、今日のお昼ご飯は要りません。」


「分かりました。じゃあ私はその内に、買い物とかしておきましょうかね。お金、頂いても良いですか?」


 昨日のうちに、二つの馬車に積んであった荷物の大半は回収した。その中にちゃんとお金もあったはずだけど。


「分かりました。食費などの管理などはハザマさんにお任せしますね。」


 そう言って財布を渡してくれたけど、会ってまだ1日もたってないあたしのことをこんなに信用して大丈夫かな?誰かにすぐ騙されちゃいそうで心配だな。シロエさんが死んじゃったらあたしも道連れで死んじゃうし。そんなことを考えてるってバレないように笑顔で財布を受け取る。


「そういえば、あるじ様の服も全部ボロボロですけど。新しいのを買いますか?」


「いえ。お金も有限ですので。」


 だからといって領主がこんなボロボロの服ってのはありえないよね。補修に使えそうな生地だけ買って、時間を見つけて直そうかな。素人だから見た目を誤魔化すぐらいしか出来ないけど。そんなことを考えてたら、「ですが、ハザマさんの服はきちんと買った方が良いと思いますよ。」とのこと。普通、優先順位逆だと思うけど。そんなことを思いながらもあたしは昨日シロエさんが言ってた町に向かった。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 町に着いた。言われた通り道なりに歩けば良かったから、迷うことは無かった。そもそも、今あたし達が使ってるあの家は、何であんな場所にポツンと建ってるんだろう。町からも離れてて不便だし。曰く付きのものにしか思えないんだよね。無かったら詰んでるから使わざるを得ないんだけどさ。

 今はそんなこと考えてる暇無いか。買い物に集中しよ。いつもなら食材は持てるだけ買っておきたいところだけど、今日はここ2日か3日分ぐらいの量だけにした方が良いかな。ちゃんとした地球レベルの冷蔵庫も無いし、いつ領主館で暮らすようになるか分からないから。ざっと品物を見ていくと…うん。シロエさんの言ってた通り、野菜は見知った野菜しか無い。文字は読めないけど意味はぼんやり頭に入ってくるし、数字はアラビア数字だ。これならなんとか買い物も出来るかな。そういや気にして無かったけど、異世界だから言語が違うはずなのにシロエさんとかと話せる理由とかも分からないや。

 その話は一旦置いておいて。今は話題を買い物に戻そっか。値段を見比べて、どの食材がどの店で安いのかを確認したいところだけど、そんなことしてたら他の人に取られて売り切れちゃう。だから、残りの個数が少なかったら安いんだとアタリをつけて買っていく。ある程度買ったら作れそうな料理を考えて、足りない食材を買い足していく。

 一通り食品を買った後、シロエさんの服を直す為の生地を買って、自分用の服も売られてたからとりあえず店の中でなるべく安いものを買った。相場が分からないから高いのか安いのかよく分からないけど。いろんな店を見たかったけど、食材が駄目になったらいけないからしょうがない。少し早足であたしはあの空き家に戻った。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「お、あるじ様。おかえりなさい。」


「はい。ただ今戻りました。」


 シロエさんは、あたしが掃除を済ませて、シロエさんの服を直し終わったぐらいのタイミングで家に戻ってきた。夜ご飯とかにはまだちょっと早いかな?


「それは、私の服ですよね?」


「はい。あたしみたいなただの素人の作業だから高が知れてますけど、出来るだけ直してみました。」


「いえ、よく出来ていると思います。」


 直し終わった服を持って近くで見るシロエさん。そんな近くで見られるとアラがあるのがバレそうで嫌なんだけどなぁ。恥ずかしいし。このまま服の話をするのもなんか嫌だし、話題を変えたいな。そうだ。


「そう言えば今日街を出歩いたときに思ったんですけど。このレイブルスで日本語が通じるのはなんでですか?レイブルスの言葉も日本語に聞こえるし。」


「このレイブルスに、お互いの意思疎通を補助する魔法がかかっているんです。」


「それがお互いの言葉を翻訳してくれるってことですか?」


「えぇ。」


 そういえば、昨日あたしがクビって言葉を使ったけど、その意味が分かったのもシロエさんに分かるように翻訳されたからだったのかも。

 そんなことを考えながらもシロエさんから聞いたところによると、このレイブルスに四つ、地球でいう電波塔みたいなのがあるらしい。それがレイブルス全体を覆うように翻訳魔法をかけてるんだとか。わざわざ四つも作ったのは、どれかに異常が起きても他の三つで対応出来るようになんだとか。

 この翻訳魔法のことを聞いてたら、あたしはだんだんいろいろ話を聞きたくなってきた。


「そもそも、このレイブルスってどんな歴史があるんです?」


「レイブルスの歴史について残されている文献はそう多くありませんが、私の分かる限り解説させていただきますね。」


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 シロエさん曰く。正確な記録が残っているより昔の、大体2000年ぐらい前の時代。それより前は、魔法を使える動物達「魔獣」によって蹂躙されてたらしい。けど、その約2000年ぐらい前に一つ目の転換点。一人の少年が、人間にも使える魔法を見つけたっていうその転換点によって、人間は一方的だった状況に少しずつ反旗を翻し始めた。その少年は人間にも使える魔法を体系化し、人々に伝えた。これが今の王家ってやつに繋がってるらしい。王家ってのは、そのままレイブルスを統治してる王様ね。

 二つ目の大きな転換点は、昨日もちらっと聞いた野菜の話。強くなった人間に対抗するように魔獣が強くなっていった時代が、約1000年前。その頃、異常なほどの魔法の素養を得た女の人が出てきたらしい。その人は大魔女って呼ばれてて、その人が生きてる間にあたしみたいに地球からレイブルスに来た人がいたらしい。大魔女って人がその人の記憶を解析して、魔法でレイブルスの食用じゃなかった植物を変質させて地球の野菜を再現、量産したみたい。この辺は昨日触りの部分は聞いたね。大魔女は後に起きるもう一つの騒動にも関わってるらしいけど、今のあたしにはあんまり関係無いからまた今度。

 三つ目の転換点。それは、約500年前に起きた出来事の、魔獣の絶滅。人間に害がある魔獣がいなくなったってのは、一見すると良いことに見える。けど、世界はそんなに簡単なものじゃない。魔法を使う生物の魔法を使う力は、他の魔法を使う生物を食べることで強くなるらしい。これは人間も例外じゃない。そんな仕組みなのに、魔獣が絶滅。要は、人間の魔法の能力が上がらなくなる。それどころか、魔法の能力は多少遺伝するっていう性質の影響で、どんどん人々の魔法能力の水準が下がっていく。この水準云々ってのも、昨日シロエさんがチラッと言ってたっけ。シロエさんが領主になったのも、魔法の能力が高かったからみたい。その話をしてるときのシロエさんの目を見てると、少し裏がありそうな気もするけど、深追いはしない。

 この他にも、レイブルスの歴史には「魔霊」っていう大事な要素が関わってるらしいんだけど、今はさっき言った三つの要素さえ押さえておけばいいとのこと。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 そんな話を聞いている内に、今日の夜ご飯が完成した。昨日覚えたこっちの作法を復習しつつ、あたしは考える。この世界では、魔法が絶対。上手く使用人になれればシロエさんに守って貰えるけど、なれなかったら…使用人になれなかったら詰むってことは分かってたけど、今まで思ってた以上に危ない状況っぽい。気を引き締めないと。


「どうかされましたか?表情が優れないようですが…」


「気にしないで下さい。さっきまでの話を思い出してただけなので。」


「それなら良いのですが…」


 出来るだけ怪しまれたくないし、誤魔化すしか無いよね。そんな、緊張した空気の中で2日目の夜ご飯を食べ終えて。あたしは今日の疲れを癒すために、お風呂に入ってから寝た。

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