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Ex.02 無垢色の少女はゼラニウム

 これは、モズと悠里が盗賊騒動を解決した数日後の物語。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「あっ‼︎お前、また勝手に…」


 うげ、ガレル‼︎なんでこんなとこに⁉︎…思ったより早くバレちゃった…魔力船に忍び込んだまでは良かったんだけどなぁ…


「良いじゃん別に‼︎ついてきちゃいけない理由ってなんなの‼︎…離せぇ‼︎船からつまみだそうとするなぁ‼︎」


「つまみ出そうにも、もう海のど真ん中ですよ。勝手な行動を取らないように、監視下に置いた方が賢明です。」


 いつの間にかアレクまで合流してるよ。厄介だなぁ…


「むぅ、それもそうだな…大人しくしてろよ。グレイル。」


「理不尽だぁ‼︎」


「どこがだ‼︎待機だって命令だったのに勝手についてくるお前が悪いんだろう‼︎」


「待機命令を出す方が悪いんです〜‼︎」


 まったく‼︎わたしはただ、これも王様に仕える上での勉強になると思ったからついて来たかっただけなのに‼︎なんで頑なについてくるなって‼︎この島に「あの女」の娘がいるから?


「お前は、本島に戻るまで絶対に船から降ろさないからな。反省文も書かせる。アレク。お前も居残りな。グレイルを監視しとけ。目ぇ離すなよ。」


 げぇ、よりによってアレクかぁ。一番逃げにくいのをぶつけてきたなぁ…もうわたしのこと睨んでるよ…こ〜わ…


「監視役、承りました。ガレル隊長。」


 うーわ、これから面倒なことになるよ…


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 ガレルに見つかった次の日の夜。一際大きい揺れを感じて寝袋から這い出すと…あぁ…みんな行っちゃう…そろり…そろり…ぐぇっ‼︎アレク‼︎襟は反則…‼︎


「こーさんっ‼︎降参だから‼︎」


「全く。大人しくしていろよ。」


 くっ、アレクめ。か弱い乙女になんてことを…そうこうしている内に、みんな船から降りちゃったよ…


「少しぐらい良いじゃん…」


「良い訳が無いだろう。お前は王の側近候補。規則を守り、他の模範となるべき存在。それなのに言いつけを破ってこんなところまで…」


 少しグチを言っただけで説教が始まったよ…そのままアレクはわたしを連行して、魔力船の奥の執務室に。あぁ。昨日ガレルが書かせるって言ってた反省文か。正直忘れてたし、アレクも忘れてると思ってた。しょーがない。思い出されたからには、ちゃんと書かなきゃ。


「グレイル。」


「何?」


「そもそもお前は、何故言いつけを破ったんだ?」


「勉強になることは何でもしたかったからだよ。」


 その言葉に何の嘘も無い。艦隊を組んだ魔力船での航海。大規模な罪人の移送。他人に見つからないような隠密行動(これは言いつけを破ったからしなくちゃいけなくなっただけなんだけど)。どれも、王様に仕えるうえで役に立つはず。


「なるほど。お前の事情は分かった。ただ、悪意があってお前をこの任務から外した訳じゃない…と、俺は思うぞ。いろんなことを学ぶにしても段階ってものがあるしな。例えば、足し算も完璧に出来ないのに複雑な方程式を勉強しても意味が無いだろう?」


「要は、わたしはまだ今回の件に関わるだけの段階にいないってこと?経験が足りて無いってこと?」


 アレクは、そっと横を向いた。図星だったんだね。まぁ良いや。今は反省文に集中しよ。内容はどうしよう。隠密能力が足りなかったことと、王様の役に立ちたいって気持ちが大き過ぎて空回りしたことを謝れば良いのかな。


「グレイル。お前は王の側近になったら、何がしたいんだ?」


「うーん。やりたいこと、ねぇ。出来れば、王様の邪魔者を倒したいかな‼︎」


 わたしは頭が良い訳じゃないから、それぐらいでしか王様を支えられない。でも、王様に逆らおうとする人達なんて、全然いなくて…いや、良いことなんだけどね?物足りなさは感じるなぁ…


「…そうか。」


 わたしの答えを聞いたアレクは、どこか不満そうな表情で…わたし、何か間違えた…?


「いや、分かってるよ⁉︎王様の邪魔者なんて、ほとんどいないから叶いっこない理想だって‼︎それともちょっと不謹慎だったかな⁉︎邪魔者がたくさん現れますようにって意味に聞こえた?だったら本当にごめん‼︎」


 慌てちゃって、まくしたてるみたいな口調になっちゃった。俯いて、表情を見せないままアレクはわたしの書いた反省文の用紙を取った。


「アレク…?」


「…反省文。これで良い。普段なら書き直しだが、今日はこれで許す。」


 そう言って用紙をポケットにしまって、これ以上は話しかけるなってオーラを出して監視を再開した。うぅ、気まずいよぉ…ん?でも…なんかわたしに怒ってるわけじゃないっぽい…?何も分からない‼︎モヤモヤする〜‼︎


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「おい。グレイルの反省文。なんでこの内容で許した?」


 あれから…反省文を回収してから数時間後。船に戻ってきたガレル隊長が、反省文に目を通しながら俺に問いかける。


「…何が正しいか、分からなくなったからです。」


「…それは、王への不満か?」


 不満…いや、不満では無い。王家の管理下にあるこのレイブルスは平和だ。今回のような盗賊騒動は稀にあれど、犯罪も年に50も無い。それでも俺は…


「不満はありません。が、疑念なら、少しあるかもしれません。」


「…馬鹿正直な奴め。聞いてるのが俺じゃ無かったら不敬罪で処罰されてもおかしくないぞ?」


「グレイルはまだ11歳の少女ですよ?そんな幼い少女が、王を守る為に戦いたいと言っている。まだ何も知らない幼子のような朧気な理想じゃない。きちんとそのことの意味を理解した上でだ。こんなのは…もはや洗脳だ…」


 グレイルの目を思い出す。年に見合った無邪気さと、年に見合わない強い意志を宿した若葉色の瞳を。


「…それは、グレイルに対する冒涜じゃないのか?」


「…は?」


「グレイルはまだ幼い。それは認める。だが、お前が言った通り物事を理解出来る年齢だ。そんなアイツが、自分の意思で決めたことだ。それを洗脳だと言うのは、あいつへの冒涜ではないのか?」


 理屈は分かる。それでも、どうしても納得がいかない。


「隊長が、本当にそう思うなら…俺を不敬罪で告発しては?」


 俺がこんな当て付けのようなことを言ってしまうのも、きっと未熟さ故なんだろう。そのまま部屋に戻ろうとする俺を隊長が止めないのは、俺と違ってこの程度で怒る未熟者じゃないからか、それとも心の奥底では俺と同じように疑問を持っていたからか。俺には全く分からなかった。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「で、一番警戒すべきガレルとアレクが反省文に気を取られている内になんとか2番艦に潜り込んでね?牢屋にいた盗賊達とお話出来たんだ。最後までバレなかったから油断してたら、盗賊がバラしちゃったみたいでさ…口止めが足りなかったよねぇ。また反省文だったよ。」


「何回も反省文書いてるね。そろそろ反省文を纏めた本を出版出来るんじゃない?」


「うるさいなぁ…」


 あれから数日後。魔力船での遠征が終わって、ここは王城の地下の牢獄の前。わたしは、一際広い牢獄を一人で独占する女性の囚人と話してた。


「それで、どうだった?楽しかった?」


「そんな旅行みたいに…でもそうだね。ちょっとは楽しかったかな。城から出たのは久しぶりだったし。もちろん、それ以上に勉強になったよ。旅の中で見れたガレルの指揮とかは、参考にしたいよね…」


「グレイルは本当に真面目な子だね。」


「急に理解者面するじゃん。また久しぶりに、あの笑えない冗談でも言うつもり?」


「…グレイルが嫌なら、言わないよ。」


「そう。なんか萎えたや。そろそろ行くね。じゃ。」


 わたしは巡回の監視にバレないうちにこっそりこの場を後にしようとする。そんな中、檻の中の彼女はあたしに問いかけた。


「シロエに、会いたかったの?」


 振り返ると、その女は何かを期待するような目をしていた。松明の光でたまに黄金色にも見えるような、緑色の瞳を。


「…そんな、公私混同はしないよ。興味があったのは、事実だけどね。」


 そう言い残して、わたしは牢獄を後にした。

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