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第二十四話 魔樹に向かって

 魔力車の中。シロエさんの案内に従ってダムのある村へと向かう。それと一緒に、魔樹についての話も。魔樹ってのは、大量の魔力を取り込んで変質した木のこと。変質した木は、周囲の魔力や養分を吸って成長の邪魔をする。成長に限度も無くて、放っておけば村にまで侵食してくる可能性もある。処理しようにも他の木より硬くて、魔力で強化した斧でも少ししか傷付かないから本当に迷惑。だからといっても、悪いことだらけじゃない。魔樹は、長い時間をかけて大量の魔力を注ぎ込むことで強力な魔道具になる。それが唯一のメリットにして、魔樹を処理する唯一の方法。魔樹と適合する魔力を注ぎ込めばそこまで大量の魔力は必要ないし時間もかからないっていう豆知識があったりしたけど、今は後回し。まずはシロエさんをダムが崩壊した村に送り届ける。それで、シロエさんがダムを直しているうちにあたしは魔樹の元へ向かって、魔樹の対処。事務的な会話だからか、思ってたより気まずさは感じない…って思ってたのはあたしだけみたい。その証拠に、シロエさんはあからさまにこっちを見ない。まぁ、しょうがないか。こっちもあんまり見ないようにしよう。どちらにせよ、運転に集中したかったしね。そういう事務的な会話が終わると、魔力車の中は静まり返る。まぁ、あたしが運転する魔力車が賑やかだったことなんて無いんだけど…


「着きました。」


「あの…ハザマさん…‼︎」


「魔樹の処理が終わったら、すぐ来ますから。」


 あたしはシロエさんの方を見ず、前を向いたまま言う。少ししてから、シロエさんは魔力車から降りた。前を向いてたから分からないけど、また苦しそうな表情してたんだろうな。そのままあたしは、魔力車を走らせる。別れる前はあんなに気まずかったくせに、一人になると静かさが寂しくて。その寂しさを紛らわすように本気で魔力車を走らせたら、20分も経たずに魔力障害の起きた村に着いた。魔樹は、魔力障害の現場付近、あたしが現れた場所の近くにある。案内なんてなくても、魔樹を見つけられるはず。モズさんが両方同時に対応しろって言うのにも、何らかの理由があるはず。だから、寄り道なんてせずに魔樹の元に向かうべき。なのに、あたしの足はあの空き家に向かっていた。魔力錠に触れる。何も起こらない。そっか。ここから領主館に戻ったときに、鍵の設定は元に戻したんだったね。


「本当に、何をやってんだか。」


 あたしは、空き家の壁に背を預ける。目を閉じて大きく息を吐く。頭に浮かぶのはシロエさんと過ごした時間。あたしは、何がしたいの?首輪に触れる。軽く引っ張る。本気で外そうとしても外れない首輪。外す気も無い力じゃ、そんな簡単に外れる訳も無くて。背中が下に、お尻が前にズルズルと滑って、首だけが壁にもたれてる状態になる。何であたしここに来たんだろ。


「あぁ。そっか。あたしは…」


 やっと分かった。生きる希望なんて無かったのに、見ず知らずだったシロエさんに縋ってでも生きようとした。首輪の無い状態で地球に戻れるかもしれないチャンスを棒に振ってまでシロエさんを選んだ。


「………が、欲しかったんだ…」


 ただ、それだけのことだったんだ。分かってみれば、単純かつ幼稚で。それでも、心はちょっとスッキリした。起き上がったあたしは、服に付いた汚れを払いもせずに魔力障害の現場まで全力で走った。久しぶりの全力疾走。息がキツイし、喉の奥と脇腹が痛い。それでも、顔に当たる冷たい風が、ふわりと髪が揺れる感覚が、少し気持ち良かった。

 魔力障害の現場に着く頃には、足はガクガクで汗もダラダラだった。普通に魔力車で来れば良かった。あたしもまだまだ子供だね…


「で?魔樹は…」


 辺りを見渡す。魔力障害やジェルゴ戦の跡はもうほとんど残ってないように見える。そんな中であたしは魔樹を見つけた。見た目が他の木と違うわけじゃない。なのに、どこか違和感を感じたから。よく見ると、他の木は風で葉を揺らしてるのに、その木だけはまるで写真の中に閉じ込められてるように動かない。魔樹に向かって、転ばないようにゆっくり歩く。近付くごとに、力が吸われていくような感覚。こんな話、聞いてないんだけど…シロエさんが知らなかっただけ?それとも、あたしが地球人だからこうなってるの?分かんないけど…ここで下がるわけにはいかない。なんとか魔樹に辿り着き、そっと触れてみる。と、身体ごと吸い込まれる感覚…って、何これ⁉︎肌が透明になって、魔樹に飲み込まれてる⁉︎


「何で⁉︎やだ、やだ‼︎」


 それでも、身体も魔力も魔樹に飲み込まれていく。魔力を止めようと思っても、止まらない。酷い立ち眩み。全身に力も入らない。せっかく…自分を少し、見つけられたのに‼︎

 そんなあたしの悔しさに応えるみたく、魔樹が激しく輝く。その光に視界を奪われてる内に、魔力を奪われる感覚が止まる。白く染まっていた視界が戻るにつれて、身体の感覚も戻ってくる。


「ん…」


 頭はボーっとしたまんまだけど、ぼやけた視界の中、状況を確認する。肌は少し透けたまま。でも、魔樹に飲み込まれてたときよりはマシに見える。とりあえず、地面に寝転がって休む。肌が透けてるだけで、自由に動かせないわけじゃないみたいだってことを確認して、目を瞑る。そのまましばらくの間ウトウトしていたら、手首に軽い感覚。見ると、鳥があたしの手首を…厳密には、手首の連絡用の魔道具を突いていた。あぁ、何にも連絡してなかった。てか、身体が透明になったからそれどころじゃなくなって、魔樹がどうなったかも見てなかったや。あたしは魔樹のあった場所を見る。何も…無い?いや、あった。最初は見つけれなかったけど、近づいてみたら確かにある。魔樹があった場所に、剣らしき何かが刺さっていた。刀身が刺さってて、持ち手しか見えなかったから遠くからじゃ分からなかったみたい。魔道具らしきそれを引き抜く。刀身は持ち手と同じく、掌ぐらいの長さ。短剣だね。


「…っ‼︎」


 頭に直接、使い方が流れてくる。なるほどね。そーいう魔道具か。便利そうな魔道具だね。それを理解すると同時に、持ち手の刀身が無い側から鎖が出て来て、手首に巻きつく。それを確認すると、あたしは鳥のくちばしを叩いた。送り主はモズさん。内容としては、シロエさんと連絡がつかないから、魔道具の生成を急げとのこと。ちょうど完成したところだから、すぐ向かうって連絡をして魔力車の元に急ぐ。青春ごっこなんてするんじゃなかった…‼︎


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 あたしは必死に魔力車を走らせた。途中、苦しくなって魔力車を止める。事故を起こすのが一番のタイムロスだから。


「また…これ…」


 マナロディアを使ったときに似た目眩。目を瞑って深呼吸をする。収まるまで1分ぐらいかかったけど…運転出来るぐらいまでは回復した。魔樹に魔力を持って行かれた状態でこんなスピードを出したのが良く無かったかな…全速力より少し魔力を抑えて魔力車を走らせる。隣の席に置いた、魔道具と一緒に途中で拾ったものを見る。なんか気になって拾ったけど、時間の無駄だったかな?

って、よそ見してる場合じゃない‼︎今は運転に集中しなきゃ‼︎

 そうして運転し続けてなんとか村に到着すると、明らかに様子がおかしい。人が見当たらない。夕暮れどきとはいえ、全員が家にいるような時間じゃないし、何より家の窓から中を覗いても誰もいない。あまり魔力を使いたくないけど、今は仕方ない。

 新しい魔道具のチカラのお披露目。短剣の魔道具を構える。あたしの手首に鎖が巻きつく。お願い…あたしを、シロエさんの元に導いて…‼︎願いながら短剣を投げる。短剣が意思を持ったように、投げた方向とは別の方向に向かって飛ぶ。そっちか…‼︎短剣の向かう方向に向かって走る。これがこの魔道具の能力の一つ。魔力と想いを込めて投げると、目的のものに向けて飛び続ける。世界で一番大きいもの、とか、自分で明確にイメージ出来ないものは対象外だから、あたしの一番欲しいものの在処は教えてくれないのが皮肉だよね。つまり、今はシロエさんの居場所を伝えてくれてるってこと。

 魔道具の案内に従って走り続けると、物音。きっとこの物音の先に、シロエさんが…‼︎

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